次のターゲット
"では、会議を始める!"
かつて新宿ダンジョンがあった場所の近くに、根岸家はビルを持っている。元々ウチの父親が活動拠点としていた所をビルごと買い取ったらしい。今日はそのビルの一部屋で九賀を交え、次のターゲットを決める会議だ。
"私は血尿をする小便小僧を推す"
「却下だ」
"何故だ! 理由を言え"
「いや、掲示板でも書かれていただろ。あれはただの赤錆だ」
"その赤錆の原因が神憑きかもしれないだろ! 【酸化】のスキルを持った神憑きだ!"
「そんな地味なことするか?」
"九賀! どう思う?"
「流石に地味過ぎますね」
"うおおぉぉー! 神の意を無視する人間どもめぇええ"
直立したネズミが腕を振り回して怒っているが、無視だ。
「九賀は何か気になる都市伝説があったか?」
「ちょっとこれを見てくれる?」
出されたスマホの画面を見る。
「消える音○?」
「そう。消える○姫。トイレ用擬音装置の音がしなくなるらしいの」
「故障ではなくてか?」
「ええ。何度確かめても装置自体には問題ないって」
この都市伝説の背後にいるのは変態だな。
「それは何処で発生している?」
「品川区の図書館よ」
しんとした図書館に小便の音が響くのか。
"今日は小便ネタばかりだな! ついでにハジメがお漏らししてしまった時の話をして──"
「黙れ!」
「神様、詳しく!」
"あれはハジメが小学2年生のことだった"
「やめろ!」
"家族で車に乗ってる時に、高速道路の渋滞にはまってしまったのだ"
「うんうん」
こいつ、本当に性格が悪いな。そろそろお仕置きが必要だ。
"ジュースをたっぷり飲んでいた根岸少年は──"
「性悪の神様にこの"唐揚げちゃん激辛ハバネロ味"を捧げる」
バッグの中に隠し持っていた"唐揚げちゃん激辛ハバネロ味"が消えている。ちゃんと"性悪の"の腹に入ったようだ。
"ふん! そんなもの食べた……ぐらい……で……"
「どうした」
"……か、辛っらああああー!!"
「はっはっはっ! 人の不幸をネタにするからだ!」
俺の肩の上で"性悪の"は腹を押さえて蹲っている。腹で辛味を感じるのだから、神様の化身ってのは不可思議な存在だ。
"わ、悪かった! 頼むから水をくれ!"
「生憎、水を持ち合わせていなくてな」
"なんでもいい! この辛いのをなんとかしてくれ!"
「仕方ないな。性悪の神様にこの"徳永ミルク10倍濃縮練乳"を捧げる」
"……"
「どうだ?」
"……あっまままママママッ!"
「くっはははは! 甘味に悶えるがいい」
"た、頼む! この甘いのをなんとかしてくれ!"
「仕方ない──」
この後、辛い甘いの往復を3回ほど繰り返した。




