媚薬を飲んだ師匠が何とかなった話
目を合わせたからか、また師匠の体に火が付いたようだ。顔が赤い。
落ち着きなくちらちらとこちらを見て、テーブルの上の拳をぐっと強く握り締めている。
「えーっと、わかりますよね?あまり気軽なことを私に言ってはだめですよ?」
「う……はい。あの、王女殿下とは知らず数々の無礼をしたような気がするので先に謝罪をしておきます」
「それは良いけれど何か他に言うことはないのですか?いつも町娘の格好をしていた弟子が綺麗なドレスを着て綺麗に化粧をしているんですけど」
「美しい、です」
伏し目がちに言ってすぐに目を上げた師匠。
素直に嬉しい、と思った。
「君に嫌われただろうか、筆頭魔導士は、やはり嫌いか?」
「師匠こそ、貴族どころか王族です私」
「王族で嫌いなのは陛下だけだから、君は好きだ」
「……身分を明かしたら嫌われて見捨てられてしまうのだと思っていました」
「僕も」
「ほんとは、最初に受け入れてくれた時から好きでした」
もじもじしながら師匠が問いかけてきた。
「え、じゃあ、もしかしたらちゃんと言ってたら振り払わないでくれたんだろうか」
「いえ、それとこれとは話が違います、私は結婚するまで清らかでいないといけないので、いつであろうとお断りです」
「ぇぇぇ……」
しょんぼりしている。
そりゃそうだろう、と思う。王女が市井で純潔を散らされて帰ってきたのが露見したらどんな恐ろしいことになっていたか。
「そもそもそんなことしてお兄様に知られないわけがないじゃないですか、いくら師匠でも死刑ですよ」
「結局死刑か!」
「え?」
「いやこっちの話」
ごほんと咳払いする師匠。
「と、とにかく、僕の気持ちはもうわかっていると思う、君は?君の好きは陛下への好きと同じ?」
珍しくはっきりしたことを言った。
「好き、ではありますけれど、こんなことになるとは思っていなかったので正直なところはよく……」
「好きなんだねありがとう!結婚しよう!」
「は?」
「知っての通り僕は君じゃないとだめだ、そして僕はこの間魔導士か貴族と結婚しろと言われたんだ君しかいない」
「急展開すぎます」
「僕では嫌かい?」
「いやではないのですが」
「ありがとう陛下に報告してくるね!」
一瞬で師匠が消えた。
人の話も聞かず最低すぎる。
「……」
けれど、まあ、別に、嫌いでもないし、いずれ政略結婚しないといけないと思っていたし、兄を待たせているのだと思っていたし、それならまあ、兄に信頼されている師匠なら文句もないだろうし、知らない爺とかに嫁がされるくらいならよほどマシだし。
師匠を止めずにいたらあれよあれよと結婚の許可が出て、式の準備はなぜかすでに取り掛かられていて、何もかも段取りだけは組まれていてあとはゴーサイン待ちの状態だったようで。
「ぜんぶ、おにいさまの、てのひらのうえ!だった!!」
やり場のない思いをどうにもできず叫ぶしかない。
筆頭魔導士を魔導士か貴族と結婚させることができる、かつ、妹王女を国内に地位があって信頼できる男と結婚させることができる。自由を得たいと思った二人の願いに、国王、兼、兄の思惑が両立してしまっていたのだ。
媚薬の効果は結婚初夜まで続いた、西の魔女の力は絶大なのだ。そして師匠の鋼の精神力もまた尋常ではなかった。
だが効果が切れても結局は継続しているようなもので師匠は私に魔力を注ぎ続け、そして私ははそれを受け止め続けるしかなかった。うん。