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媚薬を飲ませた魔女の話と、飲んだ師匠から避難した弟子の話

「シンディ!」

煩い男が来た、そして来るのが早いというか遅いというか何もうまくいかなかったことだけ察する。

「何てことしてくれたんだ弟子が家出したじゃないか!」

「何よヘタレ」

「ヘタレ……」

がっくりと肩を落とす。

「とりあえず薬の効果はどのくらいか教えてくれ、必要に応じて解毒薬をくれ」

大魔法使いが悄然と項垂れているのはなかなかの見ものだ。

「え?ないよ?私が毒薬と解毒薬を同時に作る魔女に見える?」

「いやそんなところ見たことがない」

「でしょー?」

「笑い事じゃないぞこのまま帰ってこなかったらどうするんだ師匠が弟子をそんな目で見てたなんて彼女は大きなショックを受けているに違いないぞどう責任取ってくれるんだ」

「え、なんで口説けないの?」

「ぐ……」

「口説いて同意のもとでヤっちゃえば良いのに」

じゃないと大変なことになる。

「せっかくヘタレのあんたに勇気を出すチャンスをやったっていうのに。どうすんのよ、このままだと国王命令であたしとあんたが結婚する羽目になるでしょそれこそそうなったらどう責任取ってくれんのあたしには心に決めた美少年の成長を待つっていう大きな使命があるのよ」

魔導士自体が少ない国で、魔力が遺伝するとなれば国がどう考えるかは自ずと知れてくるというものだ。魔導士同士で結婚させて子供を複数作らせればいい。

そして目の前にいるのは、お互い冗談じゃないと思う相手だ。

「絶対嫌だ、僕はアデレードじゃないと嫌だ。でも彼女は、王立研究院の筆頭魔導士なんて偉い人はちょっと会いたくない……とか言ってたんだどうするんだ僕を失脚させてくれよ!」

「失脚とかさせたら今度はあたしに回ってくるでしょ嫌よ!」

違うのは年齢と性別くらいで、魔力量も実力もほぼ同等の二人はこれまでにもいろんなことを押し付けあってきて、何事にも興味を持たない彼が最終的にはほぼ引き受けてくれていたのだ。

「いいこと?女一人口説けないで、何が筆頭魔導士よ、身分差くらいなんてことないでしょ、別に障害があるわけじゃなし、魔導士か貴族であればいいんだから弟子はピッタリでしょ」

「同業者同士で不便をかけてしまうのも申し訳ないし貴族なんて堅苦しい女性は僕には向いてないし弟子は将来有望な魔導士だが彼女が出世すれば自ずと僕の立ち位置がばれてしまうしもし彼女となんとかなってしまってもばれてしまうだろうその前に失脚を、陛下でも暗殺したら失脚するか……」

「失脚どころか死刑でしょ!うまくいった後にばらしたらいいじゃないの」

「捨てられたらどうするんだ生きていけない……!」

想像だけで絶望して頭を抱えている。

「とにかくもうあんたは弟子にしか反応しないんだから全力で口説くしかないの、お分かり?」

「嘘だろ全力で解毒薬作る」

「そんなことしてる間に家出した弟子はほかの男とくっつくかもよ」

「それは困る、迎えに行かないと」

よろよろと出て行った、チョロい。だからヘタレと言われるのだ。




「アデレード?」

実家に帰ると早々に見つかってしまった。

自室に戻って身綺麗にした直後だ。

「おかえり、もう修行はおしまいかい?」

兄だ。超溺愛されている。

「いえ、お顔を見に帰ってきただけで、またすぐに出立いたします、お兄様」

多忙な兄がどうしてこうもタイミングよく現れるのか。

「兄に会いたいあまり修行から戻ってきたのか、可愛いな」

「はい」

よしよしと頭を撫でられる。

「お兄様、子ども扱いはやめてくださいませ」

「師匠は元気にしているかい?」

「……お兄様、お茶でもいかがですか?」

「いただこうか」

侍女にお茶の準備をさせ、二人でテーブルに着く。

「それにしてもお兄様、わたくしが戻ったこと、よくおわかりになりましたわね?」

水を向けると嬉々として頷いた。

「そうなんだ、うちの筆頭魔導士が優秀でね、この部屋に主が戻ったらわかる仕掛けを作ってくれたんだよ。おかげで飛んでこれた、そう、飛んでくる仕掛けも彼が」

まただ、筆頭魔導士、余計なことばかりしてくれる。

いつもいつも、昔から、兄は【筆頭魔導士】が筆頭になる前から仲が良く、様々な魔力で動くおもちゃやら仕掛けやらを作ってもらっているらしい。そしてその主な被害者が妹である自分だ。ストーカーのごとく妹を監視する兄。

逃げ出したくなって当然だと思う。兄のことは大好きだが、行き過ぎたことをするようになってしまった原因の筆頭魔導士は嫌い、会ったこともないけど。

「それで?師匠は元気かい?」

「とても元気でいらっしゃいます」

直近では主に下半身が。

「そうか、それはよかった。それでその師匠にはいつ会わせてくれるのかな?兄として挨拶をしておかないといけないとずっと言っているだろう?」

にこにこにこ。

「……ですが師匠はその、あまり貴族といった階級の人々がお得意ではないようで……」

『貴族なんて我儘で傲慢で自分勝手で何でも自分の思い通りにいくと思ってて実際うまくいくんだから気に入らない』などとことあるごとに言っていたから、兄のような人物に会わせたらどうなるか。

「アデレードを可愛がる者同士話が合うと思うのだけれどね」

苦笑するような表情の兄。

「貴族が苦手とは、アデレードは自分のことを何も話していないんだね」

「苦手と言われるとなかなか……話し辛くて」

よくないとは思っているが、打ち明けた後に拒絶されてしまったらと考えるとやはり今はまだ難しい。

いつまでも兄に対しても師匠に対してもこのままではいけないと、わかってはいるが。

とりあえず今は貞操の危機だからしばらく戻らないし、もし危機が続くなら二度と戻れないのだろう。

自分の立場は理解している、事故で貞操を奪われるわけにはいかないのだ。

何か言わなくてはと口を開こうとした時だ。

「陛下!」

誰かが部屋に飛び込んできた。

「僕の弟子の気配がここにするんですけどどうしてですか!……え?」

「え?」

闖入者と目が合って、目を疑った。

「ああ、ちょうどよかった、アデレード、うちの筆頭魔導士のトラヴィスだよ」

「え、えええ?筆頭魔導士……私のプライバシーを侵害し続けてきた張本人……?」

「トラヴィス、こちらは私の最愛の妹、アデレードだ、美しく可愛らしいだろう?」

「……弟子が、貴族どころか王族……?え、王女殿下は遊学中って」

「ああ、遊学中だ、魔導士修行をしているんだよ」

「ぅ、あああああ」

師匠が頭を抱えて座り込んだ。




兄が腹を抱えて笑い尽くしてから部屋から出て行き、なぜか二人で取り残されている。

「……トラヴィス殿」

「え、弟子がそんな話し方……あ、いや、失礼しました」

身分的に今までと逆の接し方をしなくてはならないけれど……。

「無理、師匠どういうことですか!あんなに貴族を悪く言ってたのに筆頭魔導士?」

「だって陛下は昔から僕をこき使って妹をストーカーする道具を無理やり作らせてたんだよ権力を笠に着て!いやにもなるだろう!?」

「うわ、私をストーカーしてたの実質師匠ですか!一生懸命普通の女の子の研究をして魔導士修行してたのに筆頭魔導士だったなんてひどい裏切り!」

「君こそ、王女殿下だなんて今まで一言も言わなかったじゃないか、君が筆頭魔導士だなんて偉い人は苦手だっていうから僕は言い出せなかったんだ」

「……待ってください、私はストーカーされてるから筆頭魔導士が嫌いで、師匠はストーカーさせられてるから貴族が嫌いなんですよね」

「そうだね」

二人で視線を合わせる。

「元凶は陛下だね」

「兄ですね」

うん、と頷いた。

知っていたに決まっているのだ何もかも。

でなければ筆頭魔導士に自由な時間を取らせるはずもない、可愛い妹を師匠と言えど他人の男に任せるはずがない。物わかりのいい主や兄であるはずがないのだ。

一国の主になんと言えるわけもないが。


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