実録、卒業式の手で作るアーチで異世界に放り込まれる卒業生!
日本の当たり前の文化に秘められた謎。それは……
私立穴沢高校、桜の散る中の卒業式。
部活の先輩後輩が最後の別れを惜しんでいた。ここを出ればもう他人。同じ学び舎で学ぶ事はもう無いのだ。
「先輩、卒業おめでとう御座います!」
「ありがとう」
「もう二度と会えなくなるなんで残念です!」
「はは、たまに遊びに来るよ」
ピタリと止む祝いの声。
「またお会いできたら嬉しいです!」
「第14ボタン下さい!」
「来年ぼくたちが卒業した後に会えるかもですね!」
一瞬の静寂を隠すかのように陽気に騒ぐ後輩達。
「ああ、うん」
後輩達の不自然な言葉に不穏なものを感じる物の、追究すること無く流してしまう卒業生の阿頼耶。
「疑問はすぐに解決する」「違和感は勘では無い、積み上げた知識からくる言語化できないアラート」そんな事をこの高校生活で学んだはずだった。しかし卒業だからと油断していた。
そう、儀式というモノには必ず発端となった何かがあり、再現するためのルーチンがパターン化されている可能性を見逃すべきでは無かった。
「先輩ー!」
後輩達の喚ぶ声に振り向くと、そこには向かい合って手を合わせた後輩達の作るアーチ。微笑みながらアーチをくぐる阿頼耶に紙吹雪が舞う。
他の卒業生がアーチを潜っていない事。紙吹雪に細かく書き込まれた文字により魔術符になっている事。アーチの先の校門の向こう側は見たことの無い草原である事。校長の唱える謎の詠唱。
疑う切っ掛けはいくつでもあった。
「ありがとう!みんなありがとう!」
微笑みながらアーチを抜け、阿頼耶の姿は光に包まれて消えていった。
「これで来年まで抑えられるな」
「先輩、誰かが犠牲になる必要があったんです」
「贄」
「贄」
「供物を受け取り給え」
真顔になった後輩達は先輩の無事を心から祈った。
来年には自分たちの誰かがあそこに赴くのだ。