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九州大学文藝部・書き出し会

それでもやはり釈然としない

作者: 常夜

 引っ越しの準備をしていたら思いがけないものが出てきた。半日ほど続けた部屋の整理を終えた後で、まだ手を付けていなかった押し入れから出てきたそれは、なぜかドラえもんの形をしたもので、かなり重かった。

「これは何だ…?」

 思わず声に出てしまう程、俺は困惑していた。こんな変なものを持っていた覚えはない。いつ手に入れたのだろう、こんなもの。仕方なくそれを調べると、どうやら箱になっているようでドラえもんの絵が描いてある方が蓋になっていた。ますます訳が分からなくなってきた。これが俺の考えている通りの物なら、この箱の中身は秘密道具のはずだ。確かそんな話が漫画の中にあった。のび太がそれを使ってスネ夫やジャイアンに仕返しする話だったと思う。そんな知識が今俺の役に立つとはどうも思えなかったが。

「とりあえず、開けるか。」

 ここで悩んでいても何も始まらないので、俺は思い切って開けることにした。中に何が入っているかわからないが、まあそこはどうにかなるだろう。本家の方は確か使う人に今必要なものが出てくるという設定だから、変なものは出てこないはずだ。

「よいしょ。」

 蓋をゆっくり開けると、中には液体が詰まった大きいフラスコがあった。液体は透明で小さな泡が数多く付着していた。どこからどう見ても炭酸だった。

「…大丈夫か、これ?」

 最近の記憶をたどっても、こんな箱を持って帰った覚えはない。つまり、この液体が「まともな」飲み物であるとしたら、賞味期限を軽く超えているだろう。そんなものを飲めば絶対に腹を下す。

 でも、「まともじゃない」ものだとしたら?俺の中の好奇心が頭をもたげ始めた。少しぐらいなら、そうだ、少し飲んでみればいい。もし味が変だったら吐き出せばいいだけだ。少しずつそんな考えが頭の中を占めていく。捨てるべきか、飲むべきか。なまじ本家の設定を知っているせいでより考え込んでしまう。そんな思考の果てで一つの決断をした。

「飲むか!」

 はい、好奇心に負けた。負けてしまった。まあ、どうにかなるだろう。念のためにすぐ病院に電話できるようにスマホを手元に置いておく。そして、フラスコの栓を抜いて中身を飲んだ。舌が少しピリピリする感覚、少し甘い味、爽快な口当たり。炭酸だった。特に変な力が湧いてくるわけでも、体の形が変化するというわけでもなかった。本当にごく「まともな」炭酸だった。もしかしたらと思い、嘘をついてみたが特に何も起きなかった。狐につままれているような感じだった。いや、この場合は狸につままれたような感じか。何か足りないと思い、他に箱には何か入っていないかを確認した。箱底をひっくり返すと一枚の紙が落ちた。

『炭酸水 飲めば気分がさわやかになる。気分転換にはピッタリ!』

 ああ、そういえばのび太があの箱から秘密道具を取り出した時、説明書のようなものを読んでいるシーンがあった。ということは…。

「はぁ、なるほど。」

 どうやら全てを無駄にしてしまったらしい。

 こうして、期待は消え去って、疑問だけが残った。

「なんで、こんなものが俺の家にあるんだよ。」

 疑問の答えはきっと出ないだろう。

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