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375 『ワケありドッペルゲンガー⑨』

 おれはルルさんを抱えて地下大空洞を飛ぶ。

 下からオーガ男やテッドの野郎の罵詈雑言ばりぞうごんが聞こえてくるけど、うるせー知るか!

 こちとら少年マンガやってんじゃねーんだよ、いちいち戦ってられっかってーの!


 ――ダダーーーン!!!!

 おおっと、危ない……! オーガ男の投石が、おれの羽根をかすめ、背後の壁に突き刺さって弾ける! まるで、銃弾だ。

 

 一気に加速したおれは、研究所の陰に回り込んで着地した。

 ここなら投石も届くまい。

 ヤツらに追いつかれる前に、さっさと建物内に侵入してしまおう。



「ヤマダさんヤマダさん、おっぱいの子と戦わないんですか~?」


「……戦いませんが」



「戦って、てごめにしないんですか~?」


「……しません」

 

 ……ルルさんのウザがらみにイラつく。

 ちょっと好きになってしまいそうな自分にイラつく。

 おっさんだと思って、チョロいと思うなよ?

 さっき「生理的にムリ」と言われた件をまだ根に持っているおれ。



「も、もしかして、少女ねらいですか……!?」


「ちゃうわい!!」


 おれは『不浄の剣』を抜き放ち、切り払った。

 ルルさんの背後、何もない空間に鮮血がほとばしる!


 ぎゃっ!? という悲鳴とともに、鋭い爪の手首から先がぼとりと落ちた。

 ネコ耳の美少年が全裸で姿を現す。――てか、それ尻尾!? 尻尾だよね!?

 

 ……異世界サイズ。どうやら、彼の右胸には「巨根きょこんミラージュキャットの魔石」が埋め込まれているらしい。



「よ……よくも僕の右手を――だがっ、この先へは行かせないぞっ!! 御前様のために、僕達は命を捨てる覚悟だってあるのさっ!!」


 スキル【危機感知】反応! まだやる気か!? 美少年のくせに太くて長くて、根性もある……!



 おれが思わず彼の前尻尾に気を取られていたら、ルルさんが一歩前へ出た。

 ――ゴスッッ!! 力強い踏み込みから、腰の座った重そうな掌底しょうていをネコ耳美少年の胸に叩き込む!





「いいモノ、もらっちゃいました~」


 気を失って倒れたネコ耳美少年の前尻尾をつま先でもてあそぶルルさん。その手には、緑色の魔石があった。

 ――それは、「巨根ミラージュキャットの魔石」! さっき掌底を打った時にえぐり取ったのか? ……いいなぁ、それ。



 思わぬ伏兵に時間を食ってしまった。

 ネコ耳の彼は、敵ながらいい仕事しやがったと思う。


 突然、袋でも被せられたかのように目の前が真っ暗になった。

 この感覚には憶えがある。インテリ風イケメン、ギルバートさんが使ってたのと同じスキルだ。……まあ、おれにはスキル【危機感知】と【暗視】があるんで、意味ないんだけどね。


 ――!? おれとルルさんの頭上に火の玉が灯った。

 しかし、攻撃魔法ではない。

 暗闇の中、スポットライトのように、ただおれ等をオレンジ色に照らし出す。

 

 ……そうか、そういうことか。暗闇の中で敵からはこっちが丸見え。おまけに、明るい場所では【暗視】が使えないと。

 頭上に浮かんだ火の玉は、おれとルルさんの動きに合わせて追尾してくる。



 シラカミ部長さんは言っていた――。



「御前様は……あの方はスキルを奪う。欠片かけらとして結晶化し、そのスキルは持ち主のステータスから消える。……私も、長年使い込んだスキルをすべて持っていかれた」



「……いや、違う。御前様がスキルを奪うには、必ず相手の同意が必要だ。同意なくして、他人のスキルは奪えない。つまり……」



「……つまり私は、クスリ欲しさに自分からすべてを差し出してしまった……【暗闇】、【狐火きつねび】、【動物変化】、【隠密おんみつ】、そして――」

  

 

 

 

 【暗闇】で身を隠し、【狐火】で敵を照らし出す。

 【動物変化】で小動物に化けて闇に潜み、【隠密】で背後に忍び寄る。


 そして【飛刃ひじん】、真空の刃!



 ――ショキィィィィン!!!!

 ルルさんの首が、見えない刃に切断されて飛んだ!!



 ……!!? そ、そんな!? 『不浄の剣』で切り払ったつもりだったが、すり抜けてしまった。

 事前にシラカミ部長さんから聞いていたというのに、取り返しのつかない失態。


 ルルさん、ごめん……。



 昔のおれだったら、迷わず、身体をはってかばってただろ?

 タナカの【肉体治療】があったからってのもあるけど、結構無茶してた。

 

 でもいざという時、女の子のためとっさに動けるって、それだけが小さな誇りだったのに……。


 おれ、決闘の時一度消えかかってビビったのか……? 

 いや、もしかすると……さっき「生理的にムリ」って言われたから、無意識に手を抜いてたんじゃ……。



 ――おれは……くそだ。

 地面に膝をつき、肩を落とす。

 今更、身体が震える。

 

 浅い考えで、美男美女なら死ぬわけないと、こんなわけの解らない争いに巻き込んでしまった。

 せいぜいエッチな負けイベントがあるくらいだと高をくくっていた。

 まさか、こんなことになるなんて……。

 


「……ごめん、ルルさん。おれはくそ野郎で、短足で……高齢童貞だ」


「それはそれは~、きっと姫サマはオシッコらして喜びますネ? うふふっ」


 ――は?

 にょろにょろっと触手が伸びて、ルルさんの胴体と頭が結びついて元に戻る。

 な、なにそれコワい……。

 人間じゃないとはなんとなく聞いていたけど、不定型なそういう感じのやつ!?



「……なんともないんですか!?」


「私は群体ぐんたいなのでちょっとぐらい減っても――って、やだ~ヤマダさん、もしかして泣いてるんですか~? そんなやだ、もしかして私のこと好きなんじゃないですか~? やだ、こまるぅ~!」



「ぐんたい? でも、ちょっと減ったんですね、すいません。次はきっちり止めますんで」


「いえ、次からは気をつけますので、自分の身は自分で――。そんなことより、さっきやり過ごした五人のニオイが近づいてますよ~?」


 はいはい、おれの【危機感知】も反応してますよ。

 クモ男アンバーさん、つまみ食いのテッド、赤いオーガ男、ボインのウロコ嬢それに、羽根頭のちびっ子の五人は既に、およそ半径30mのこの【暗闇】の中に入ったようだ。


 彼等よりも先に、真空の刃【飛刃】を飛ばしてきたヤツを倒したいと思って探しているが、なかなか見つからない。……おそらくは、スキル【隠密】で潜んでいるのだろう。もしかしたら、【動物変化】も使ってるかもしれない。

 さっき攻撃してきた時すぐに反撃しておけば仕留められただろうけど、機会をいっしてしまった。次攻撃してきたら、容赦なく『不浄の剣』をお見舞いしてやる!





「スズカ教官はもう攻撃しないで! 【暗闇】と【狐火】をイジしてください! あちらも、おおよそこちらの位置をハアクしているようですので、一ヶ所にトドまらず、移動し続けてください!」


 甲高い声で指示を出しているのは、どうやらあのちびっ子らしい。まあ、あの五人の中では一番かしこそうではあったけど。

 シラカミ部長のスキルセットを使っているのは、スズカ教官な?

 御前様は欠片にして奪ったスキルを配下に下げ渡したらしい。……いらなかったんかな? こんな話、部長さんが聞いたら泣いちゃうよ。





 ――おっと、撃ってきたぞ。


 おれは、オーガ男の投石を『不浄の剣』で切り払う!


 続けて、テッドの野郎が口から泥団子みたいのを吐きつけてきたので、『竜鱗の具足』の手甲に【ドラゴンスキン】を発生させてたたき落とす! ……なんか汚ねっ。



「ルルさん、おれ、もうちょっと近づかないと射程外でして――」


「でしたら私はおどってますね、せっかくですから~!」


 え? なんで? 

 一緒に移動するのに、手をつないでもいいか聞こうと思ったんだけど、踊るの?





 暗闇の中、揺れる【狐火】のオレンジ色に照らされたルルさんは、ぬるんぬるんと腰を振りながら、着ていたはっぴをゆっくりと脱ぎ捨てた。


 ぼい~ん! ぼい~ん!

 大きいおっぱいが、リズミカルにはずみ踊る。

 むほっ! ……いやしかし、ルルさんが元気そうで本当によかった。

 首が飛んだ時は震えたし全部投げ出してしまいそうになったけど、ああしてお下品に踊る姿に心底ホッとしてる。

 さあ、おれもやるべきことをやろう。あんな思いは二度とごめんだ。



 ……ん? あれ? ルルさんのおっぱい、なんかさっきよりででっかくなってない? 成長した?


 いつの間にか、ルルさんの姿がさっき見たボインのウロコ嬢の姿に変わっていた。

 暗闇の中に潜む五人が明らかに動揺する。



「な……なにをするですかーーー!! アナタ、なにをするですかーーー!!」


「落ち着いてカサリナねえさん! 思うツボだよ、落ち着いて!」


 とりわけ当の本人、勝手に素肌を晒されたウロコ嬢カサリナさんの取り乱し様は気の毒なほど。

 彼女をなだめるちびっ子をあおるように、ルルさんはぶるんぶるんとボインを揺らす。



「バルダーくんもテッドくんも、見てないでさっさと撃つです!! あの不埒ふらちな女を早く撃つですよーーー!!」


「でもよ、よく見て狙わねぇとよ、あそこでぶっ倒れてるマギーのヤツにあてちまいそうでよ? よく見て狙わねぇと」


「だよね! おでも、よく見て狙ってんだ!」



「見んなって言ってんですよーーー!!」


「近づいちゃダメだって、カサリナねえさん! チブサぐらい見られたからってそんな……」


 ルルさんは一切の容赦なく残ったパンツを脱ぎ捨て秘密の部分を開いて晒した。

 

 声にならない悲鳴をあげて走り寄ろうとするカサリナさんを、ちびっ子が必死に引き止める。


 五人の中でカサリナさんはマドンナ的な立ち位置なんじゃないかな、あの美貌とおっぱいだし? 少なくともオーガ男バルダーとテッドの野郎は、攻撃することも忘れてストリップショーに釘付けだ。







 ――草原流、青田刈あおたがり……!!

 すまんね。おれは暗闇の中、バルダーとテッドの膝から下を【マジックコーティング】の赤い刃でまとめて切断した。

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