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373 『ワケありドッペルゲンガー⑦』

 屋根の上から、シャオさんのスキル【亜空間歩行】でスルスルと建物内を一気にすり抜けて、地下牢獄の更に床下へとこっそり移動した。


 スキル【共感覚】でおれと視覚を共有したオナモミ妖精が牢獄内を見渡す。


 全裸で拘束されたルルさんに群がっている男達は六人。

 その内一人が、「とぷん」と落下するように亜空間へ消えた。



 亜空間で待ち構えていたおれは、『不浄の剣』から赤い光の刃を伸長させ男の手足をプスリプスリと刺し貫く! 

 ――剣の効果【マジックコーティング】は、自身の魔力を光の刃に変える。込める魔力量によって、光の刃は長く鋭く伸長する! ……うん、『不浄の剣』イケる!



「シャオさん、残りの五人も適当にお願い」


 とぷん、とぷん……と、続けざまに亜空間に男達が落ちてくるので、おれは残り五人の手足もプスリプスリと貫いていった。

 状況がよく解らないので、動けなくする程度で勘弁しといてやる。





 彼等のことをシャオさんに任せて、亜空間から出たおれは――ちらっちらっ……全裸のルルさんの――ちらっちらっ……拘束を解いた――ちらっちらっ……じー。



「……あへ? ヤマダさんじゃないですか~? こんなところで股間をふくらませて、どうしたんですか~?」


 ……どうしたんですか~? は、こっちのセリフなんだが?


 聞けば、いつものように『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』で馴染なじみの客を待っていたルルさんだったが、初見の女性客に有無を言わさず野外プレイに連れ出されたかと思いきや、あれよあれよという間にこの地下牢獄に連れてこられて、ずいぶん長いこと――どうやら昨夜から入れ替わり立ち替わり複数の男達にあの手この手で責められ続けていたらしい。


 

「なんだかおかしいとは思ってたんですよね~、同じ事ばっかり聞いてくるし、妙に長いし? ですけど、お客さん達がせっかく雰囲気出してるのに、私がシラけた態度をとるのはプロとしてどうかな~と思ったもので――」


 ――迫真のアヘ顔でサービスしていたとのこと。

 プロ根性に頭が下がる。



「同じ事ばかりというと、ラダ様はどこにいる!? ってやつですかね」


「先日の~ヤマダさんの決闘の時、『鎧の人』と一緒に戦ったのを見ていた人がいたんでしょうね~」


 そういうことか。あの重そうな鎧、見る人が見ればラダ様の鎧ってバレバレだったわけだね。

 しかし、ルルさんにこんなことまでして失踪したラダ様を捜してるここの人達は何なんだろう? ……ラダ様の熱烈なファンとか?



「ところでルルさん、お身体の方は大丈夫ですか? クスリとかなんかほら……ごくり」


「あら、ヤマダさんったらやさしいですね? 私には人間用のクスリとか無意味ですから、ぜんぜんへいきですよ~。……でも~、そちらの方はちょっと大変そうで心配なんですけど~?」



「……!?」


 ルルさんに言われて気付いたけど、牢獄の隅で丸まっている薄汚れた物体は裸の女性だった。元々は美人だったと辛うじてうかがい知れるが、病的に目を光らせてカタカタ震えている今の彼女を、さすがのおれでもエロい目で見る気にはなれない。

 どうやら結構長い期間、ここで酷い目に遭わされ続けていたらしい。多分、クスリとかキメられてるんじゃないかな?


 ……さっきの男ども、手足をプスプスするだけじゃ甘かったかもな、あの程度の傷なら回復魔法で簡単に治せてしまうだろうし。


 そんなおれの心境を知ってか知らずか、ぽいぽいぽい――と亜空間から吐き出されてくる六人の男達。

 ――!? 見れば、男達のズボンは彼等の血で真っ赤に染まっていた。

 六人とも股間が……イチモツがざっくりえぐり取られてるんじゃね?


 ……エグい! おれはそこまでやってないので、シャオさんの仕業に違いない。



「知った顔だったっす」


 亜空間から出てきたシャオさんが、言い訳するように言った。

 ゾンビになってからはあまり見せなかっためずらしい表情だ。

 血まみれの両手に握っているのは、もしかして……。


 シャオさんは、両手のその真っ赤な肉棒を中空に放り投げると、しゅばばっと鋭い爪で細かく切り裂いた。

 ぽろん……六本の内一本が、爪を逃れて床に落ちて転がる。ミスったらしい。


 その一本を目指して、六人の男達がいっせいに床をう。

 回復魔法で失ったモノを生やすことはできないが、繋ぐことはできる。残った一本が元々誰のモノだったかは判らないが、彼等にとってその一本が最後の希望と言えなくもない。



 いち早くその一本を拾ったのは意外なことに、さっきまで膝を抱えて震えていた女性だった。

 ――あ、シラカミ部長さん? と、シャオさんがつぶやくのを聞いた。


 シラカミ諜報部長は拾った一本を自らの口の中に放り込むと、もしゃもしゃとかみ砕いて飲み込んだ。

 ああああぁ……と、絶望の声を上げる男達。


 部長はそんなに飢えていたのだろうか? ……たぶん違うだろう。


 おれがシラカミ部長を拘束していた足の鎖を切断すると、彼女はすっくと立ち上がり、おれの『不浄の剣』を奪い取った。

 思わぬ行動に――え? え? となっているおれの前で、床に這いつくばっている男達をザクザク無造作に突き刺し息の根を止めていくシラカミ部長。





「ありがとう……少し、気が晴れたよ……」 

 

 シラカミ部長は力なく微笑み、『不浄の剣』をおれに返す。

 不幸系長身美人、推定三十代後半……レイプ目と。

 ……彼女をエロい目で見る気にはなれないとさっきは思ったが、あれはウソだ。

 残虐行為を目にして縮み上がっていた相棒が再び元気を取り戻す。だって全裸だし。



「シャオさん、二人になんか着る物ない?」

 

 シャオさんが【空間収納】から取り出した服を二人に配る。

 シラカミ部長には、シャオさんがいつも着ていた白いワンピース。

 ルルさんには、いつかシレンタ村で着ていたお祭りのはっぴ。

 てか、ルルさんのはっぴ……下半身が丸出しなんだが? でもそれしかないんじゃ仕方ないよね……ふぅ。


 しかし、シャオさんは少し悩んだ後、スカートの下のパンツを脱いでルルさんに差し出した。

 ……!! なんと、まるで飢えたちびっ子に自らの顔面をちぎって差し出すヒーローのごときとうとい行為! ()()ツだけにー!



「ところで、キミたちは何だ? そちらのお嬢さんを助けに来たというわけでもないようだが……もしや、大司教様の手の者か?」

 

「え~、私を助けに来てくれた王子様じゃないんですか~なんちゃって!」


「……お二人にはなんか悪いんですけど、おれ達が追ってきたのはウルラリィさんという犬耳の女性でして――見てませんか?」



「ここには来ていないが、犬耳か――もしや、『魔力特化部隊』の……?」


「ウルラリィさんは獣人ですよ。で、パン屋です。ああ、こちらのシャオさんは元諜報部ですけど」


「シャオっす。ヤマダさんのくノ一(くのいち)っす」


「ルルで~す! 娼婦です!」 

 

 ここぞとばかりに自己紹介が始まる。

 ついでにおれも名乗っておこうか。



「ヤマギ……ヤマダです。冒険者です」


「あ、ああ。助けてもらっておいて、失礼した。私はここの……諜報部の部長フーカ・シラカミだ。王都の富裕層に蔓延まんえんしつつあった『中毒性のある粉薬』について追っていたのだが、その出所が身内の……ネムジア教会内部であることを掴んだ矢先にこんなことになってしまった――」


 今日まで生かされたのは、クスリで寝返ると思われていたんだろうな……と、屈辱に顔をゆがめるシラカミ部長。

 彼女は続ける――。



「――キミ達の力になりたいところだが、スキルもレベルも奪われた無力な私ではな……こんな卑屈な真似しかできん」

 

 それな。おれは、無残に横たわる男達の死体をチラ見した。

 できるだけ穏便おんびんにとか思っていた数分前の自分がむなしい。

 こうなっては、ウルラリィさんを取り返してめでたしめでたしってわけにもいかないだろう。



「そしたらシャオさん、二人を連れて先に脱出してください、中央神殿のユーシーさんかアイダ様の所へ」


「すまない、世話をかける……」



「できれば応援とか出して欲しいんですけど、シラカミ部長さんから偉い人にお願いしてもらえますか?」


「……そ、そうだな。できる限りのことはしよう」


 部長さんは非力かもですが無力ではないのです。シャオさんやルルさんにはちょっと頼みにくい重要な役割なんで、張り切ってどうぞ。

 




「おっとっと~私は元気なんで、ヤマダさんと一緒に行きますよ~? 私、戦ったらけっこう強いですし!」

 

 え!? ルルさん?

 正直心細かったんで嬉しいけど、大丈夫かな? パンツ丸出しだけど。

ドルDさんの名前がジェイDさんに変わりました。これからもジェイDさんをよろしくお願いします。

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