表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/175

371 『ワケありドッペルゲンガー⑤』

 肉屋のロミオさんの案内でやって来たのは歓楽街の裏通り、ガラの悪い連中がたむろする酒場だった。

 いつものおれだったら、この店の前を歩くのも遠慮したい感じの場所だ。

 

 迷わず入店するロミオさんにおれ達も続く。


 店内はまだよいの口だというのに、酔っ払った冒険者くずれみたいな連中で賑わっていた。

 タバコなのか何なのか、にごった空気が充満していてなんとなく息苦しい。



「アンバーってヤツはいるか!? ウルラリィをどこへやった!?」


 ロミオさんは元傭兵だそうで、尖ったケモミミは右胸に埋め込んだワーウルフの魔石によるものだとか。ガラの悪い連中に向かって、少しもひるむことなく問いかける。



「おぅ、誰かと思えばロミオじゃねぇか、なんか頼み事ならオレちゃんが聞いてやんぜぇ? 先ずは、こっち来て座んなよぉ~? へっへっへっ……へげぇっっ!!?」


 いやらしく笑いながら近づいてきた大男の股間を一本の太い槍が串刺しにした。

 奇声を発してうずくまった大男の姿に、店内の仲間達が一斉に席を立つ。



「どうした!? ……おぐぉっ!!?」

「この女、何しやがった……ふぐぉ!!?」

「まて、なんか変だ……アッ――!!」

「下だ!! 床下になんかいや……がっっ!!?」

「ま、待って……ほぁっっ!!?」


 立ち上がった男達の股間を次々と刺し貫く床から生えた太い槍。

 くノ一(くのいち)忍法、前立腺殺し! とでも名付けようか、どうでもいいが。

 

 ネコ耳ゾンビくノ一シャオさんと、もじゃもじゃボインくノ一マデリンちゃんによる、スキル【亜空間歩行】を使った死角からの不意打ちである。



 やがて立ち上がる者のいなくなった店内に、ロミオさんがもう一度問いかける。



「ウルラリィはどこだ!? 知ってるヤツはすぐに言え! パン屋のウルラリィだ!」


 股下の緊張に耐えかねた誰かが口を開く。



「……こ、ここにはいねぇ、見りゃ判るだろ? アンバーさんは迎えの馬車に乗ってった、女も一緒だ」


「迎えの馬車だと? どこへ向かった!?」



「知らねぇよ、知らねぇが……」


 男が言いよどむと、ロミオさんは「ガルル……」と喉を鳴らして威嚇いかくした。

 慌てた彼は早口に続ける。



「ひっ……た、たぶん、神殿区画の方だ! だって、迎えに来たヤツらも、アンバーさんも腰に『神殿騎士の剣』をぶら下げてっからさ! どうせ隠す気もねぇのさ! オレ達はいつだって見て見ぬふりしてたし、そこはつっこまないのがお互い暗黙のルールってやつだったからよぉ……!!」


 ――え? アンバーさんが教会関係者!? ネムジア教会がウルラリィさんに何の用だよ? まさか、夜のお店へ嬢として派遣じゃないよな?

 借金は返したわけだし、穏便おんびんに話し合いですめばいいんだけど、なんだかイヤな予感しかしない。





「ロミオさん、ドリィさんを連れてパン屋に戻っててもらってもいいですか? 神殿区画にはおれが行きますんで」


「そんな、旦那! オイラもアンバーのヤロウをとっちめに行くで!」


「まあ待ちなよドリィちゃん、そっちの兄さんは?」


 ロミオさんが犬耳のハンサムに問いかける。



「名乗ってなかったな……、ジェイ(ディー)・バックだ。俺も神殿区画へ向かおう」


「――! 百人斬りのジェイD・バックかい? ならウチの出る幕じゃないね。ドリィちゃんと大人しく留守番してるよ」


 百人斬りとは物騒ぶっそうな二つ名だけど、長身イケメンの彼にはある意味似合いと言えなくもない。あと、ドリィさんが”D”と聞いて「!」という顔でこっちを見るけど、たぶん誰も知らない世界の秘密とか関係ないから落ち着いて。



「ドリィさん、実のところパン屋の借金は昨日の内に全額ベネットさんに返済してあるんだよね、だからウルラリィさんが連れてかれたのはちょっとした行き違いじゃないかと思うんだ」


「ホ、ホントけ!?」


 もしかしたら、ウルラリィさんはあっさり解放されてひょっこり帰って来るかもしれない。その時、パン屋にドリィさんが待ってないとウルラリィさんを心配させてしまう――とかなんとか言いくるめる。


 ……だけど、ベネットさんを殺害した犯人も教会関係者っぽかったんよな。この場でそれは言わないでおくけど、やっぱりイヤな予感しかしない。





「アンタこそ、行くのか?」


 この期に及んでなぜか、犬耳ハンサムのジェイDさんが問いかけてくる。



「……そのつもりですけど?」


「そうか。ヤマギワというのはアンタだろ? 俺がパン屋を訪ねたのは、ウルラリィに頼まれたからなんだがな、家に居座っているアンタをなんとかして欲しいと」



「……!!」


 へ、へぇー。元々今日出て行くつもりだったけど、ウルラリィさんがそんな強硬手段に出るつもりだったとはショックが大きい。……てか、それ今言うことか? ああ、心が折れそう。


 夜空を見上げてにじんだ星を数えていると、ドリィさんが背中をつつく。

 差し出した手には一振りの剣があった。

 グランギニョル侯爵の護衛が使っていた魔剣『不浄の剣』だ。そういえばおれの剣、アントニアさんに折られてそのまんまだっけ。


 くじけそうなおれの背中を押すように、暖かい清浄な光が降り注ぐ。

 マデリンちゃんの魔法【大回復】が酒場全体を包み込み、男達のすさんだ心と傷ついた股間を癒やす。心なしか、店内のにごった空気も晴れたよう。

 ひと肌脱ぐとか脱がないとか、初めからついて来る気まんまんのマデリンちゃんとシャオさん。二人の原動力は正義感によるものが大きいだろうけど、おれの為という部分もあるんじゃないかな? そう考えると少しだけ勇気も湧いてくる。



「これ、念のため持ってくといいで?」


 おれは、ドリィさんから『不浄の剣』を受け取り、腰に下げていた剣と交換した。

 ……そうさ、みんなに好かれる必要なんてない。おれを認めてくれるこの子達の為に、おれはおれの人生を使うのだ。





 王都の表通りには街灯が立ち並び、すっかり陽が落ちた今でも十分明るい。

 ドリィさん達と別れ、おれ、マデリンちゃん、シャオさん、ジェイDさんの四人で神殿区画へと走る。

 

 ――スキル【空間記憶再生】発動! ウルラリィさんが馬車に乗せられるシーンを立体映像で再生した。

 初見のジェイDさんが「ほう!」とかイケメンな驚き方をしているが、マデリンちゃんとシャオさんにはもうお馴染みだろう。


 このまま立体映像の再生を続ければ馬車の行き先が判るというわけだが、この時間はまだ人通りや馬車の行き来があるのでその辺配慮しつつ、映像を消したり出したり、早送りしたりしながらその後を追いかける。



 王都の東側、神殿区画はネムジア教会中央神殿を始めとした教会関係施設や、役所など公共施設が多く立ち並ぶオフィス街みたいな場所だ。

 ちょうど一日の業務を終えて退勤するお役人風の人達と多くすれ違う。

 

 賑やかな大通りを抜けて、馬車の立体映像はなおも進み、ネムジア教会中央神殿の広大な共同墓地にさしかかるとすっかり人影も途絶える。

 共同墓地を回り込み、中央神殿の裏側に位置する高い塀に囲まれた建物前で、ようやく馬車は停まる。


 馬車を下りるアンバーさんとウルラリィさんの姿を確認して、おれは【空間記憶再生】の立体映像を消した。

 ……なんだこの建物は? まるで刑務所みたいだけど。



「ここは、私とかシャオさんにはなんだか、なんとも思い出深いネムジア教会諜報部(ちょうほうぶ)です!」


「そっか、二人は先輩後輩だったっけ、諜報部とかの――しかし、けっこうでかいね」



「諜報員養成所でもありますから、訓練施設やグラウンド、寄宿舎きしゅくしゃなんかも敷地内にあるんです! あとここだけの、ここだけの話、ネムジア教会が表向き禁止している、魔石を人体に埋め込む実験を秘密で続けている研究施設が地下にあるんです! 秘密ですよ!?」


「自分も地下で実験されたっす。秘密っす」


 ……秘密って!?

 シャオさんのネコ耳は、ジェイDさんとかの犬耳と違って生まれつきではなく、右胸に埋め込まれた魔物の魔石によって変容した物だ。おれの触覚や羽根と同じだね。





「『魔力特化部隊』の研究施設か……多少上層部が入れ替わったところで、やっていることには大差ないようだ。つまるところ、アンタ達も教会関係者ということで間違いないか?」


 と、なにやらご立腹なジェイDさん。おれのスキル【危機感知】がビリビリ反応している。

 ……そりゃそうか、ウルラリィさんを連れ去ったのは、どう考えても教会関係者なわけだから。



「確かに人体実験のようなことも行われていますが、今は安全第一なのです! かなりの高確率で強力なスキルを無償で得られるわけですし、その後もネムジア教会への就職が確約されているわけですから、貧しい少年少女達にとって、その後の人生を一変させるまたとない好機なんです!」 


「好機だと!? ものの分別も選択権さえもない子ども達を洗脳し、いったいどんな汚れ仕事をさせている!?」



「でもでも、暗殺とか性接待は何十年も昔のことで、えっとえっと……」


「だいたい知っているのか!? 今でこそ魔物の魔石を使うその人体実験も、かつての『魔力特化部隊』が使用していたのは俺達のような魔族の胸からくり抜いた魔石だった!」



「あのあの、えっと……」


 ジェイDさんが大変だ。なんだか深刻な昔話を始めて、マデリンちゃんが涙目だ。


 この場は大人なおれが間に入って、えっとえっと……ダメだ。まったく言葉が出てこない。おれってやつは、無駄に齢だけ重ねちまって、とほほ……。





「自分、ゴハンと寝る場所があっただけで本当に――」


 その人体実験をされちゃったというネコ耳のシャオさんが、ぽつりとつぶやく。

 本当に――から続く言葉はない。ゾンビであるシャオさんが単純な思考から絞り出した言葉は、それでも、熱くなりすぎたジェイDさんを少しだけ冷静にさせる効果はあったようだ。



「……そのぐらいにしておいてくださいよジェイDさん、この二人はウルラリィさん救出に、ただの善意で協力してくれているんですから」


「……そうだな。すまない、言い過ぎた」 

   

 やれやれ、クールな印象だったけど、ジェイDさんもなんかワケありなのかな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ