370 『ワケありドッペルゲンガー④』
おれとドリィさんは逃げるように大迷宮を出た。
次にアントニアさんと出くわしたら、きっと問答無用で命を狙われるに違いない。……まいったな、明日からどうしよう?
今後のことを思い、頭を抱えるおれ。
いっそ、王都を出ようか……?
ん? おっと、案外いい考えかもしれない。
レベル16になるまではドリィさんの面倒を見てあげようとか偉そうなこと考えてたけど、後のことはガンバリ入道に任せればいいんじゃね? 何しろ、あの人あれでS級冒険者だっていうし。
よっし、今夜早速頼みに行ってみるか。どうせ『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』に行けば居るだろ? 常連っぽかったし。
――そして偶然、まったく自然な流れで、往年の美人女優木ノ花ルルさんの若い頃にそっくりな娼婦のルルさんと再会してしまうおれ。誘われるままおれは……よしキタ、コレだ! 完璧だ!
とはいえ、お世話になったドリィさんと、このままサヨナラってのもさみしいよな。
それに、彼女だってアントニアさんに顔を見られてるわけだから、ガンバリ入道に丸投げってのも無責任か。
そんなワケでおれは、ドリィさんと王都の大通り沿いの商店街に来ている。
アントニアさんはチンチコール家のお嬢様なわけだから、「勇者選考会」が終われば実家の領地に帰るだろう。それまでの期間、顔とか見た目をごまかせるような装備があれば安心じゃないかな?
幸い今おれ、結構懐が温かいし、餞別によさそうなのをプレゼントしちゃおう。
「ドリィさん、装備を調えようぜ? ダンジョンでは魔物以外にも危ないのが出たりするからさ」
「……旦那すまねえ。オイラ、あん時すくみ上がっちまって……なんでが、スケルトンの頭カチ割るのとは勝手が違ったで……」
人間相手なんだからそれが普通だって、ドリィさん。
むしろ、同じ人間相手に「命をもって償え!」とか言って、簡単に剣を向けるヤツの方が頭おかしいんだって。
王都の商店街は何でもある。店舗数も多くて、高級店からリサイクルショップまで選び放題だ。
せっかくだし高級店から順番に見ていこうかと最初は思ったが、よく見れば出入りする客層でなんとなくその店の傾向が判別できた。……高レベルっぽい冒険者が多く出入りしているのは、明らかにリサイクルショップの方だな、理由はよく解らんけど。
なるほどね。品揃えを見て判ったのは、使い込まれたオーダーメイドっぽい物が多いということ。捜せば掘り出し物とかもありそうだ。
――よし。この中からドリィさんに似合いそうなビキニアーマーを捜そう! あと、顔を隠すなんかもね。
……いやしかしまてよ、いきなりビキニアーマーってどうだろう? いくらドリィさんでも、「オイラそんなん恥ずかしくって着れねえだ!」って言うかも。それどころか「着てもいいか、おねえちゃんに相談してみるべ」とかなったら最悪だ。
そもそも、お子様用ビキニアーマーなんてあるのか?
「どうかな旦那、似合うけ……?」
試着室から出てきたドリィさんが、女の子みたいにもじもじしながら聞いてくる。女の子なのは知ってるけど。
ビキニアーマーではないが、その一歩か二歩手前みたいな装備を見つけたのでそれを試着してもらった。
ヘソ出し、ミニスカ、きめの細かい網タイツっぽい鎖帷子――要するに、リアルじゃない方、エロ時代劇に出てくる方の”くノ一”みたいな装備だ。長いマフラーとかを合わせれば、顔も隠せるしエロかっこいい!
サイズも問題なさそうだし、「いいね、似合うよ!」と言いかけた時だった――。
「へーかわいらしいですねー! お色気はまだまだですけど、かわいらしいですー!」
「カワイイ服っす」
――!! マデリンちゃんとシャオさんが突然店内に現れた。
てか、今、おれの影の中から出てきたように見えたけど……?
「……えっと、いつからいたの?」
「そんなことより、かわいらしいですね? ね? プレゼントですか? プレゼントですね? いいなー! ちらっちらっ……?」
「ちらっちらっ?」
ちらっちらっ……と、物欲しそうにおれを見るマデリンちゃんとシャオさん。
結局、おれの前に三人のエロ時代劇くノ一が並ぶことになった。
犬耳ちびっ子くノ一、ネコ耳ゾンビくノ一、もじゃもじゃボインくノ一と濃い面々が、決めポーズをあーでもないこーでもないと相談している。
……まあ、三人とも気に入ってくれたようでなによりだ。
お会計は、一着40万Gの装備3着に別売りのマフラーを付けて、計100万Gとかなりまけてもらった。店主との交渉は終始マデリンちゃん主導によるもの。
しかし、よくこんなマニアックなデザインの装備が3着もあったな? と思って店主に聞いてみたら、なんでも没落したブルボーン伯爵とかいうお貴族様のお庭番が揃いの装束を身に着けた美女軍団だったそうで……へぇー。
「ドリィさんの家はパン屋さんなんですかー。でもでも、冒険者になろうとヤマダさんに弟子入りしたとー」
「おねえちゃんのフルーツサンドは王都一だで。ぜひ一度、聖女様にも食べて欲しいさ」
「それはそれは興味がありますねー! あ、わたしのことは『マデリンちゃん』でいいですよ? そっちの子は『シャオさん』です」
「自分、シャオっす」
と、なんだか仲良くなってしまったくノ一三人娘。
おれ、そろそろ今夜の宿の方に行ってガンバリ入道に会わないとなんだけど……、言い出せないままパン屋に向かって歩いている。これは困った。
そうこうしている内にパン屋まで来てしまったが、なんだか様子がおかしい。
店内が荒らされており、床にクモの糸でぐるぐる巻きにされた筋肉質の女性が転がっていた。
「ロミオさん、何があっただ!? おねえちゃんはどうしただ!?」
「すまない……ウチとしたことが、ウルラリィがアンバーとかいうごろつきどもに連れて行かれた。必死に守ろうとしたんだが、このザマさ」
ああ確かパン屋の常連、肉屋のロミオさん。話には聞いていたけど、女性だったのか。
それにしてもアンバーさんめ、どういうつもりだ? 借金は返したのに。
……まてよ、ベネットさんが昨夜亡くなったから、アンバーさんまで話がうまく伝わってないのか?
まいったな……。
「旦那ぁ……」
「ああうん、急いで迎えに行こう」
「ヤマダさん、事件ですか!? 事件ですよね!? もちろんこのマデリンもひと肌脱ぎますよ!」
「脱ぐっす、脱ぐっす」
ロミオさんを助け起こして、クモの糸を切り回復魔法をかけるマデリンちゃんとシャオさん。……頼りになるぜ!
「ウルラリィさんがどこへ連れて行かれたか判りますか?」
「ごろつきどものたまり場ならウチが案内するよ! だけど、こんな人数で大丈夫かい!? なんなら、裏町商店街の若いヤツらに声をかけるぜ!?」
「多分……」
「大丈夫です! ね、ヤマダさん? それに急がないと、エッチな、エッチなことをされちゃうかも!」
マデリンちゃんが自信満々で言ってから、おれの方を見てニッコリする。
そんな期待の目で見られてもアレなんだが、急ぐのはおれも同感だ。
「何か、あったのか……?」
店を出たところで、犬耳の青年に話しかけられた。
あっ、いつか見かけた長身ハンサム。ウルラリィさんの彼氏っぽい冒険者だ。
いつもの差し入れにウルラリィさんが現れないので、店まで訪ねてきたといったところか?
「おねえちゃんがさらわれたさ! パンが欲しいなら、勝手に持ってってけろ!」
いらついた様子でドリィさんが言い放つ。「けろ!」なんて言うの初めて聞いたから、きっと相当いらついているに違いない。
ロミオさんの後に続いて走り出すおれ達。
ふと見ると、犬耳の青年も少し考えた後、おれ達の後を追って走り出した。




