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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第七章 3紳士、都会で名をあげるⅡ 僕が先に好きだったのに編 【推奨レベル16~23】
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288 『はんじゅく3兄弟! ダンジョン攻略はじめました~オレ達の戦いはこれからだ!~⑤』

 気がつくと、ジェフは見知らぬ荒野に立っていた。

 いつもより視線が高く、手足も長い。なぜか、大人の身体だ。


 ジェフの視線の数メートル先に幼い幼女が座り込んでいる。



「絶対にそこを動くな!!」


 ジェフは、酷く焦った様子で幼い妹に呼びかける。

 ――妹? ジェフに血の繋がった妹はいないが、視線の先で地面に座り込んだ幼女を、ジェフは妹だと認識していた。


 その場に這いつくばったジェフは、地面をこすりながら、じりじりと妹に近づいていく。



 その荒野には、地雷が埋まっている。





「よく我慢できた、偉いぞ」


 妹の元にたどり着いたジェフは、泣いている妹を抱き上げた。

 

 抱き上げた瞬間――、カチャと無機質な音がした。

 そして、パン! という乾いた破裂音が二人を弾き飛ばす。


 妹の尻の下で地雷が弾けた音だった。





 妹はその場で死に、ジェフも左手首から先を失った。


 それは、ジェフが知り得ないはずの前世の記憶。




 ***




 往来に面した格子の向こうから、道行く男達がマイを見ている。


 着せられた着物は綺麗だけど、こんな場所に飾られて無遠慮な視線に値踏みされるのはとても嫌だった。


 生まれる前、別の世界で遊女をしていたマイの記憶。




 ***




 アンディは見知らぬ家族と食卓を囲んでいた。



「あの……、どちら様でしたか……?」


「いやぁねぇ、おじいちゃんたら」

「じいちゃん、ぼけたの?」

「こら! そういうこと言わないの」



(……おじいちゃんとは、俺のことか?)





 食卓を立ったアンディは、洗面所の鏡の前に立つ。

 見知らぬ老人がアンディを見つめ返す。



(誰だ……? 俺は、誰だ……?)


 不安と恐怖にかられたアンディは、記憶をたぐり寄せるように自身の名前をつぶやく。



「……俺は、――――」


 しかしそれは、アンディの知らない、前世の名前だった。




 ***




 大迷宮60階層は「黒い霧」に覆われ、ライトの灯りも意味をなさない。


 スーザンは、アンディ、マイ、ジェフの三人とはぐれないように、スキル【チェーンデスマッチ】の「鎖」で全員を繋いだ。


 イガラシという奇妙な男が見せてくれた60階層の地図を、アンディが【記憶】している。

 先頭を歩き「鎖」を引くアンディが、パーティを次の階層へと導くはずである。


 互いの顔も見えない「黒い霧」の中で、少し前から誰も口をきかなくなった。

 スーザンの心に、言い知れぬ不安が募っていく。



「ヤマダさん……」


 うっかり口をついて出たのが、そのスケベで貧相な男の名前だったことは、スーザン本人にとっても驚きであり、痛恨の極みでもあった。


 


 ***




 ヤマダは、裸婦の石像が立ち並ぶ通路をぬけて、円形の広間に出た。

 そこだけは、床がぼんやりと明るい。


 円形の部屋の壁際で特別にライトアップされたかのように立ち並ぶ美女達の石像13体――彼女達は、イガラシの元パーティメンバーだという。



(……てか、ハーレムパーティだったのかよ!?)


 白くて長い髪とヒゲをたらした猿のような見た目のイガラシがハーレムパーティを率いていたことに、ヤマダは少なからぬ衝撃と羨望せんぼうを感じた。



 広間の奥には、白い鳥居がある。

 そして、その先が60階層へと続いている。


 ぼんやりと光る床の隅に、黒いゴミ袋のような物体があった。



(――って、ゴトウ!? こんな所に……) 

 

 手足が切断されたゴトウが、うつ伏せに倒れていた。

 よく見れば、引きずられた血の跡が通路の方から続いている。

 ……死んでいるのだろうか?


 

「言っておくけど、正当防衛だから。オレは悪くない」


 イガラシが言った。



「引きずったようなあとがありますけど?」


「よく見たら日本人っぽかったから、治療してやろうと思ったのさ。別に、下の階層に捨てようと思ったわけじゃないよ」



「こいつと、その仲間達はろくでもないやつらで――。まあ日本から無理矢理連れてこられて、魔族領で苦労したってところは同情できなくもないんですが……」 


「そうかい。どのみちもうそう長くないよ。どうやらクスリをやってたらしくてね、禁断症状も出始めてる」


 ゴトウは、【魔法反射】、【物理吸収】、【状態異常無効】などの厄介なスキルを所持していた。

 イガラシが戦ってくれたことで直接戦わずに済み、ヤマダは正直ほっとしていた。 


 

「彼のスキルは厄介じゃありませんでしたか?」


「異世界から来たオレの『オーラ』は、この世界のことわりの外だからね。『反射』、『吸収』、『無効』を【無視】したのさ」



「――!? その『オーラ』っていうのは、いわゆる『勇者のオーラ』ってやつですか?」


「……そうだよ? オレ達は異世界から召喚された時に、レベル1からスタートする。だからって、元の世界でつちかった経験や技能が消えてしまうわけじゃない。ステータスに現れなくても、ある物はあるさ」




 ***




 絶対にそこを動くな! と、ジェフが叫んだ。

 見ないで、見ないで――と、マイが繰り返す。

 アンディは、「オレは誰だ……!?」とつぶやいた後、立ち止まった。

 互いの顔も見えない暗闇の中で、いよいよ三人の様子がおかしい。


 声をかけようとするスーザンだったが、気がつけばスーザンの隣に死んだはずのテリーが立っていた。

 暗闇の中だというのに、はっきりと見える。

 そうなっては、スーザン自身も自らの異常を自覚せざるを得ない。



「私の祖父は気むずかしい人だった……」


 スーザンが語り出す。

 精神をむしばむ「黒い霧」の中で、イガラシは「オーラ」を全身にまとって正気を保ったという。



「祖父は、この母譲りの黒い髪と目を嫌っていた。私を残して父のもとを去った母に、差別的な言葉をぶつけることもあった」

 

 転移者であるスーザンの、元の世界での経験こそがその力の源。

 だから彼女は、ここぞと言うときにはいつも「幼い日の祖父との思い出」を語る。

 それは「勇者のオーラ」発動のためのルーティーン。


 スーザンは、【チェーンデスマッチ】の「鎖」をたぐり、立ち尽くすアンディ達三人の肩に触れる。

 触れると同時に「勇者のオーラ」を流し込む。



「みんな気をしっかり! 立ち止まらずに、歩き続けましょ!!」


「あ!」

「え?」

「俺は……!?」


 正気を取り戻し、再び歩き始めるアンディ達とスーザン。

 しかし、スーザンの目にはまだテリーの姿がはっきりと見えていた。




 ***




 ヤマダは、イガラシの言葉に何かが腑に落ち、少し興奮していた。



(そ、そうか! そういうことか! 元の世界での経験値が『オーラ』となって、世界のルールを超えた補正を……!)


 ヤマダはイガラシに問いかけた。

 


「――てことは、おれにも使えますかね、『オーラ』……!?」


「……どうも話がかみ合わないな? さっきからその剣にまとわせてるのは『オーラ』じゃなきゃなんなのさ?」



「いやこれは、なけなしの勇気を光らせてるだけで」


「こっちの世界で勇気っていったら、勇者のオーラだったりするじゃない? 知らなかったの?」


 ヤマダにとって、それは初耳だった。



(聞いていないよ! じゃあ、おれのスキル【勇気百倍】は、実は【勇気オーラ百倍】ってこと?)


 だが、ヤマダ自身、確かに思い当たることもあった。レディQの【エナジードレイン】やヘルガの【石化】を無効化したこと、ミチシゲの【金縛かなしばり】が効かなかったことなども。


 

(てか、ヘルガさんはずばりそう言ってたな、【勇気百倍】の効果だって)


 以前、ヘルガがならず者を蹴散らした時に、スキルや魔法を使わずにわざわざ敵の武器を切断してみせたのは、「オーラ」を使った戦い方の手本を見せてくれてのではなかったか? ――と、ヤマダは今更思い至った。



(ヘルガさん……口下手にもほどがあるよ……。でも、なんて優しい……! もしかして、おれに気があるんじゃねーの? なーんちって! なーんちってー!)

 


「……どうしたのさ、急にニヤニヤして? つーか、君は行くのかい、この先に?」


「あーっと……、どんなもんか、少しだけ入ってみます」



「ヒント、いるかい?」


 ――え!? ヤマダは驚いた。

 今まで話した内容からして、イガラシが気に入った女性にしかヒントは出ないものと、思っていたからだ。

 

 もらえるものならもらっておきたいとヤマダは決心し、恐る恐るイガラシに手を差し出す。



「モデルは頼んでないよ!? なんでキミを【立体把握】しなきゃならんのさ!?」


「なんだよかった。じゃあ、ただでヒントを?」



「まあね。つーかオレは、気に入った女子に取引を持ちかけるけど、断られてもヒントは教えてあげてる。もちろん、男子にも」


「えっ!? じゃあ、取引に乗った子は見られ損で晒され損じゃないですか?」



「中には、生きた証を残しておきたいって子も居たよ。墓標に丁度いい――なんてニヒルなセリフを言う子もいた……そして、みんな帰ってこなかった」


 この階層に並んでいる美女の石像は、50体以上はある。

 少なくともそれだけの美女達が、この先の階層で消息を絶っていることになる。


 ああ、なんてもったいない――と、ヤマダは嘆く。




 ***




 暗闇の中を歩くスーザン達だったが、スーザンだけには隣を歩くテリーの幻がはっきりと見えていた。


 テリーが耳元でささやく。



「スーザン様、その鎧脱いでくださいよ」


(な……なぜそんなことを……!?)



「全部脱いだら、きっと気持ちいいですよ?」


(黙って……! テリーは死んだの!!)



「こんな暗闇の中です、誰も気づきませんよ?」


(あ、あり得ません! 近くにアンディ君達だって居るのに……!)



「……でも、その方がスーザン様は興奮しますよね?」


(…………!?)




 ***




 じゃあ最初のヒントはこれだ――と言ってイガラシが広げたのは、60階層の地図だった。

 上りの階段から下りの階段まで、詳細に描かれている。



「――オレのスキル【立体把握】は、別に女性の身体しか把握できないわけじゃないよ?」


 スキル【立体把握】――壁に触れることで、イガラシは60階層の構造を全て把握した。

 そのスキルを持ってしても、イガラシは一年以上迷宮をさまよったという。


 イガラシは語る。

 60階層から先は「黒い霧」が常に立ちこめ、どんな灯りも役に立たない。


 そして、その「黒い霧」は徐々に体内をおかし、精神をむしばんでいくという。

 方向感覚、距離感、そして時間の感覚をも失い、やがて狂気にかられた者は仲間へと襲いかかる。


 その「黒い霧」の正体は不明だが、それを遠退とおのけ正気を保つのに有効なのが「オーラ」である。――それが二つ目のヒント。

 

 そして、最後のヒントは……?




 ***




 60階層の暗闇の中で、それは唐突に始まった。



「動いちゃダメだ! 絶対にそこを動くなって言ってるんだ! やめろ! やめろ! やめろぉぉぉぉ!!!!」

「……嫌だ!! 見ないで!! 見ないで!! 見ないで!! 見ないで!! 見ないでよぉ~!!」


 突然半狂乱になり暴れ出すジェフとマイ。

 互いを繋いでいる「鎖」が引っ張られ、スーザンはバランスを崩す。



「俺は、誰だーーーー!!!!」


 ジェフとマイに感化されたかのように、アンディが叫び、走り出す。――が、「鎖」の長さでつんのめる。



「みんな落ち着いて!! 正気に戻って!!」


 慌てて「鎖」を引き絞り暴れる三人を制しようとするスーザンだったが、そういう彼女も暗闇に紛れていつの間にか腰から下の装備を下着も含めて全て外していた。


 そんな無様な格好で鎖を引き絞るスーザン。


 暴れるジェフとマイを抱き抱え押さえ込む。

 残るもう一本の「鎖」を引き、アンディに手を伸ばすスーザン。


 しかし不意に、その「鎖」から重さが消える。「鎖」の先からアンディが消えていた。どうやら、スキル【短距離転移】を使ったらしい。

 転移先が視認できなければ転移できないはずの【短距離転移】だったが、アンディは何を見てどこに転移したのか?

 


「アンディ君! どこに行ったの!? 返事をして!! アンディ君……!!」


 暗闇に向かって呼びかけるが返事はない。

 

 イガラシから聞いた三つ目のヒントは、「触覚以外の全ての感覚を疑え」だった。

 声が届くのかどうかさえ怪しい。スーザンはアンディの腕を掴むことができなかったことを悔いた。



 アンディのことは心配だが、こうなってしまってはどうしようもない。

 ジェフとマイの精神もそろそろ限界が近いようだ。

 引き返すべきか――と、スーザンは苦しい決断を迫られることとなった。







 その時、誰かがスーザンの生尻をぺろんとでた。



「ひゃ!? こんな時にセクハラは止めてください、ヤマダさん!!」





(……な、なんで判ったんだろ?)

 

 暗闇の中、ヤマダがスーザンの尻をまさぐる。

わんわんわんわん!

レビューいただきました。ありがとうございます。うれしょんです!

  

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤマダ無敵なのでは(笑)
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