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367 『ワケありドッペルゲンガー①』

 日本でサラリーマンをやってた頃の話。

 会社の忘年会の後、たまたま同じタイミングで店を出た女の子に「駅まで送るよ」って言ったら「いいです」と断られたことがある。夜道を女の子が一人歩くのは心細かろうと思っただけで……いや、まあちょっと格好つけたいと思わなかったワケじゃ無いけど……だけども、おれだって電車で帰るつもりだったから、仕方なく遠回りして彼女とは別ルートで駅まで歩いたとさ……そんな苦い思い出。 

 


 やれやれ、なんだかイヤなこと思い出しちゃったよ……あ、おれ、”もう一人のヤマダ”こと、ヤマギワだけど?

 

 それで、なんで今そんな過去話かこばなを? ってことだけど、今まさにそんな気分だからって事に他ならない。


 というのも、昨夜おれは金貸しベネットさんの所を訪ね、パン屋の借金700万Gを完済してきた。

 なので今朝、何気なく……本当に何でも無いって感じでその事をウルラリィさんに伝えたんだけど――。



「――え?」



「あ、だから昨日、金貸しベネットさんの所へ行って、借金700万Gを全額返済しておきました。ホラこれ、領収書です」


「はア!? 何でですか!?」



「……? ああ、利息も含めて700万Gだそうですけど?」


「そうじゃなぐって! なんでそんなごとヤマギワさんがするのがってことだで!?」

 


「そ、それはその……行き場も無く、素っ裸で途方に暮れてたおれに着る物とか食べ物とか……いろいろお世話になったせめてものお礼ってだけで……」


「だがら、何でですか!? 何でそれが700万Gになるんですか!? いったい何が目的ですか!? お金ばあるんなら、さっさと出てっでくれたらいいでしょ!? ……もう、本当にキモチワ――」


「おねえちゃん、どうしただ? ――ケンカけ?」


 ちょうどトイレから戻って来たドリィさんが間に入って、その場はそれっきりになった。

 ……でも明らかに「キモチワルイ」って言いかけてたね、ウルラリィさん。

 

 過去話と今回の共通点は、”良かれと思ってしたことがかえって相手を不快にさせてしまった”ということだ。どちらの事案も、おれが長身イケメン非童貞だったら避けられてたすれ違いに違いない。

 ……最近、ユーシーさんとかマデリンちゃんといい感じになったりしてたもんだから、すっかり自分を見失っていた。そういえばおれって、そこそこキモイおっさんだったよ。とほほ……。





 王都の西門を出て大迷宮へと向かう大勢の冒険者達。

 その雑踏の中におれとドリィさんもいた。


 

「旦那、なんだか元気ないでな? おねえちゃんになんか言われたのけ?」


「いや、おれが調子に乗ってたせいで、ウルラリィさんをイヤな気分にさせちゃったみたいでさ……ドリィさんから、おれが反省してたって伝えといてよ」



「それはいいけんどもー、旦那が自分で言ったらいいべ? 夕飯の時にでもさ」


「それはまあ、そうなんだけど……」


 おれは今夜から宿屋に住まいを移すつもりだが、ドリィさんにはまだ言ってない。

 今話して、ウルラリィさんに怒られたから出て行くみたいな感じになってもややこしいので、ひと仕事終わってからさりげなく伝えればいいかなと思っている。


 

 大迷宮を囲む大壁のそばまで来ると、何やら人が集まっているのが見えた。

 王国軍正規兵とネムジア教会神殿騎士がなにやら大勢で右往左往している。……何か事件かな?

 

 背伸びしてよく見ると、神殿騎士達に混じって長身メガネの美女――聖女アイダ様が現場指揮をしているのが見えた。

 そういえば、高レベルの王国正規兵や神殿騎士やらが【エナジードレイン】されてレベル1にされてしまう事件が王都で多発してるってアイダ様言ってたっけ。


 それにしても、ここでヤマダの知り合いに見つかるのはマズい気がする。おれは慌てて兜のバイザーを下げ、顔を隠そうとした――のだが……。



「あーっ!! ヤマダさん!! ヤマダさん!! ヤマダさーん!! どこに行ってたんですかー!!?」


 もじゃもじゃ頭の聖女マデリンちゃんに見つかった。

 地面から、ひょっこりネコ耳のシャオさんも顔を出す。



「……やあ、おはようマデリンちゃん、シャオさんも。何かあったの?」


「ななんと、身元不明の首なし死体が見つかったのです! ここだけの話! ここだけの話なのですが、昨日グランギニョル侯爵こうしゃくが暗殺されるという大事件がありまして、その死体も首がなかったものですから、もしかすると、もしかして同一犯の仕業ではないかと――ただ、わたし達ネムジア教会が追っていた『連続エナジードレイン事件』や『中毒性のある粉薬』との関係は今のところぜんぜんでして!」


 ……おおう、マデリンちゃんよくしゃべるね。聞いといてなんだけど、部外者のおれにそこまで話していいの?

 てか「中毒性のある粉薬」って、日本からの転移者ゴトウ達が持ってたアレのことかな? そういえば、ヤツらからぶんどった「クスリ袋」の件、アイダ様に丸投げしたのすっかり忘れてたぜ。



「おいコラ、聖女マデリン! でかい声で部外者に何を話している――って、ヤマダか!?」


「あ、どうもアイダ様、おはようございます」


 イカン、アイダ様にも見つかってしまった。

 ……なんか朝から機嫌悪そうだにぇ?



「ヤマダお前、決闘の後どこに行っていた!? なぜユーシーの所に顔を出さない!? もしやグレイス様やセリオラ様と昼も夜ものべつまくなしだったのか!? ユーシーは……大司教様はお怒りだぞ!?」


「……グレイス様とセリオラ様? ――ん? え、あ……ああっ!!」


 そそそうか、おれはベリアス様との決闘に勝ったらしい。

 勝ったってことは、当初のルールなら、グレイス様とセリオラ様の純潔的なやつをNTRしていいという約束だった。

 そういえば、王都の中央神殿担当聖女はグレイス様だったはず。なんでアイダ様やマデリンちゃんが現場に出てるんだ?



「あの決闘の日以来姿を消したグレイス様とセリオラ様は、お前と一緒ではないのか!?」


「そうです、そうです! なんで、なんでマデリンを置いてどっか行っちゃったんですか!?」

 

 ややこしくなるから後にして! とかアイダ様に言われてしゅんとなるマデリンちゃん。おお、いとおしい!

 しかし、グレイス様やセリオラ様が姿を消していたとは……マジかヤマダ? とうとうやったのか!?



「……少なくとも、おれと一緒ではないです。なんとなく、居場所に心当たりがないこともないですけど」


「まあ、あんなことがあった後だ、二人が身を隠したい気持ちも判らないではない。私としては、仕事のしわ寄せが来ていい迷惑なのだがな? ――ただヤマダ、お前は一度ユーシーの所に顔を出せ! あんなユーシーは、友人として見てられん」


「わたしだって! わたしの所にも顔を出すべきです! なんだかんだケリがついたら、甘い物でも食べに行くって約束です! ヤマダさんのおごりなんです! わたし、ぜんぜん忘れてませんから!」



「……ですよね」


 てか、ヤマダのやつ、なんでユーシーさんやマデリンちゃんの所に顔を出してねーんだ?

 まさか本当に、グレイス様とセリオラ様を取っ替え引っ替えのべつまくなしなのか?





「それはともかく、ヤマダ、ちょっと力を貸せ」


「……?」


 アイダ様の要請は、おれのスキル【空間記憶再生】で、事件現場の空間に残った記憶を立体映像として再生し犯人を特定して見せろということだった。

 

 しかし、おれは本物のヤマダではない。ヤマダのコピー、ヤマギワなのだ。

 できるだけヤマダのストーリーには関わりたくないんだが、どうしたものか? ……さっきから、おれが「ヤマダ」と呼ばれる度に、ドリィさんが怪訝けげんそうな顔をしているしな。



「なに? グランギニョル侯爵を暗殺した犯人を見ただと?」


「犯人はS級冒険者の忍者マスターとかって人です。おれとドリィさんともう一人、自称S級冒険者のガンバルさんって人も一緒に目撃してましたから、彼の方から冒険者ギルドへ報告は行ってるものだと思ってましたが……?」



「ほう。S級冒険者に冒険者ギルドか、どうやら見えてきたな……」


 ……? なんのこっちゃ? だが突っ込んだら負けだ。

 考え込んでいるアイダ様の隙を見て、おれは静かにその場を離れ――っとな!?

 

 一歩踏み出したおれの足首は、地面からのびた手にがっちりと掴まれていた。

 スキル【亜空間歩行】で地面の下にひそんでいるシャオさんの手だ。



「……どっか行くなら、自分も連れて行って欲しいっす」


「あ~っ、ずるいです! ずるいですシャオさんばっかり! わたしだってヤマダさんと冒険したいです!」


「聖女マデリン、遊びに行くのは仕事が終わってからだ! さあヤマダ、現場はこっちだ」


 ……やんわり断ったつもりだったが、若い子はこっちの事情なんかいちいちくみ取ってくれない。意見はスルーされ、たいてい勢いで押し切られてしまう、人権の無い低身長おじさんあるあるである。

 観念したおれは、アイダ様に促されるまま後に続いた。





 王都西門の方から高い木から木へと飛び移り高速で移動してきた”クモの魔物にまたがった男”は、大迷宮入口前広場を囲む大壁の下に着地した。


 男は背後ばかりを気にしていたが、いつの間にか正面に現れた”白いマントの追っ手”に気がつき、目に見えてうろたえる。


 追っ手の剣が閃き、男の生首が地面に転がった。

 続く一撃が、クモの魔物を葬る。


 ”白いマントの追っ手”は、男の生首を無造作に拾い上げると、適当な雑木林に向かって遠投した。





 おれは、スキル【空間記憶再生】で再生中の立体映像「昨夜この場であった出来事」を『一時停止』した。

 少し『巻き戻し』て、”白いマントの追っ手”が男の首を拾い上げた所で再度、映像を『一時停止』する。

 犯行時間は昨夜遅く。大迷宮入口前広場を囲む大壁の内側は、かがり火や魔法【浮灯うきあかり】で夜通し昼間のように明るいが、外側はほとんど真っ暗だ。

 なので、被害者の顔も犯人の顔も今一つはっきりしない。

 

 でも待てよ……クモの魔物にまたがってたこの男、最近どっかで見たような……?



「ヤマダ、消せ!!」


 アイダ様に言われるまま、おれは立体映像を消す。



「忍者マスターじゃなかったみたいですね犯人……てかあの白マントって、なんかネムジア教会の――」


「ヤマダ、このことは他言無用だ! マデリンもだ、いいな?」


 アイダ様の言葉に、慌てたように口を手で押さえるマデリンちゃん。多分、何かを言いかけていたのだろう。

 映像は暗すぎて犯人の顔まではよく判らなかったが、細い身体と腰まである長い黒髪から女性であるように見えた。彼女の白いマントは、ネムジア教会の神殿騎士とかがよく装備しているものに似ている。

 ……アイダ様とマデリンちゃんの態度からして、さては教会関係者だな?





 その後の捜索で、現場から遠く離れた雑木林の中から被害者の生首が発見された。

 

 案の定、被害者は金貸しベネットさんだった。

 

 

 ……お、おれのせいじゃないよな? どきどき……。

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