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366 『ヒロイン達の事情~出会って5分で即全裸~』

 64階層、大迷宮最深階層への到達から七日、『黒金の勇者』シマムラ・スーザンと三人の少年少女――アンディ、マイ、ジェフは地上を目指し10階層まで戻って来ていた。


 潜る時はがむしゃらに深層を目指した彼等だったが、冷静になってみれば周囲は強力な魔物ばかりで、生きて深層にたどり着けたのは紙一重の幸運だったとほどなくして思い知らされる。 

 幸いマイのスキル【携帯ハウス】――5LDK保冷倉庫付きの「窓の無いレンガの家」を出現させたり消したりできる――によって、大迷宮深層にあっても居住性と安全性は確保できたので、ゆっくり慎重に上の階層を目指すことができた。

 


「やっとここまで戻って来られましたね、なんとか年をまたがずに脱出できそうです」


「ヤマダのおっさんは三日で戻るとか言ってましたけど、間に合ったのかな決闘?」


「そんなの無理に決まってるしー、わたし達四人だって七日もかかったんだから」


「でもさ、飛んでなかった? あの人。ヤマダさんがいなかったら64階層到達も無理だったと思うし、実は結構スゴイ人だったんじゃないかなー?」


 真っ黒い『クラムボンの鎧』で身を固めた『黒金の勇者』シマムラ・スーザンを先頭に、アンディ、マイ、ジェフが続く四人パーティ。

 さすがに10階層まで戻って来れば彼女等が手を焼く魔物も出現しないし、道中に掲示された案内標識さえ見逃さなければ道に迷うこともない。このまま何事も無ければ、今日中に地上へたどり着けるだろう。



「――さあどうでしょう? ヤマダさんは時々スゴイですが、失敗も多いですからね。だけど、ああしてみっともなく不格好に生きることで開ける道もあるのだなと私は学びました。……あ、いえ、若いみんながヤマダさんを見習う必要は全くないですよ?」


「俺は、あんなのはごめんだ。テリーの兄貴みたいに、いさぎよくクールに生きて死にたい!」


「死んじゃうのは……もしも、アンディ君が死んじゃったらわたし悲しいよ? だったら……」


「僕もマイちゃんと同じだよ。死ぬぐらいならヤマダさんを見習って、不格好でも生きたいかなー」





「……地上に戻ったら、テリーの遺体をちゃんととむらってあげないと」


「そ、そうか俺達のせいでまだ……スーザン様の【空間収納】の中ですか?」


「テリー兄ぃの遺体なら、今は【携帯ハウス】の保冷倉庫で預かってるけどー?」


「お墓建てようよ、ティクニーの家の近くにさ? ネムジア神殿の共同墓地より、テリーのアニキなら喜ぶと思うんだよね」


 順調に10階層を通り抜け、9階層への階段を上る。

 四人とも地上を目前にして少し気を抜いていたと言えなくも無い。しかし、気を抜いていなかったからといって、この先で出くわす不幸を回避できたかというとはなはだ疑問である。





 9階層、階段前にその男は居た。

 長い槍をたずさえた、上半身裸の大男。



「やあやあ我こそは、その名も高きキマリ傭兵団団長ガンバル・ギルギルガンなりー!! その黒光りする鎧は『黒金の勇者』シマムラ・スーザン殿とお見受けいたす!! ゆえあって……いや、我が野望のためその命ちょうだいしたい!! いざ――、いざ尋常に勝負ーーー!!」




 ***




 馬車を手に入れた日の翌日、S級冒険者ガンバル・ギルギルガンは馬車に乗らずに大迷宮へ向かった。

 昨日大迷宮を走らせてみて判ったのだが、やはり階段の上り下りが難しかったのだ。

 グランギニョル侯爵こうしゃくは階段にさしかかると馬車を浮かせていたらしいが、それはどうやら護衛の四天王か侯爵本人のスキルでやっていたらしい。


 大迷宮前の広場までやって来ると、ガンバルは辺りを見まわした。

 別に約束したわけではないが、ヤマギワとイヌっ子ドリィを探す。

 しかし時刻は既に朝9時をまわっている。おそらく、二人はもう大迷宮の中だろう。

 昨夜は遊び過ぎたかと頭をかくガンバルだった。


 迷宮探索も一人よりは三人の方が楽しいが、一人の方が都合のいい場合もある。

 例えば、冒険者ギルドからS級冒険者への極秘指名依頼がそれだ。

 公募で行われるという「勇者選考会」で強敵となり得る人物を開催前にできるだけ”対処”し参加できないようにしろというもので、対処者のリストが添えられていた。

 ”対処”とは要するに”殺せ”ということだろう。一人につき一千万Gという高額な報酬だったが、そんな暗殺者のようなマネは気が進まないと、ガンバルはその依頼を放っておくことに決めていた。

 

 しかし昨日、ガンバルと同じS級冒険者である忍者マスター・サトルがまんまと『聖剣ギンガイザー』を手に入れるのを見た。

 『聖剣ギンガイザー』を装備した忍者マスター・サトルに自分は勝てるのだろうか? 対処者リストの者達が所持する強力な装備が、他のS級冒険者の手に渡ることは脅威であるとガンバルは感じた。「勇者選考会」で自分の前に立ちはだかるのは同じS級冒険者であるかもしれないのだ。


 彼もまた、『勇者』の座を狙う一人であった。

 

 

「S級冒険者にして『勇者』! これまで以上にモテてしまうに違いない! そして、入団希望者が殺到する! 『キマリ傭兵団』の栄光えいこうを再び!」


 それは「確かな予感」――”今日、この大迷宮で対処者リストに名のある誰かに出会うだろう”という「確かな予感」を感じつつ、ガンバル・ギルギルガンは意気揚々と大迷宮へ侵入する。




 ***




 『黒金の勇者』シマムラ・スーザンは敗れた。

 上半身裸の大男、ガンバル・ギルギルガンの足下にいつくばり、頭を地面に擦り付けて命乞いをしている。


 戦いは一方的だった。





 ――1分。

 マイがスキル【鑑定】で、ガンバルのレベルは41、所持する一番危険そうなスキルは【大炎上】であると看破かんぱした。


 アンディはガンバルのスキル【大炎上】を【スキル封印】で封じると、【短距離転移】で背後に跳んだ。


 しかし、ガンバルは【敏感肌】で背後のアンディを察知し、攻撃コンボに入りかけた所を槍で無造作に横薙ぎにした。

 吹き飛び、ダンジョンの壁へと叩きつけられたアンディは一瞬意識が遠のく。


 スーザンの振り下ろした大剣を槍で逸らしたガンバルは、隙だらけのボディを蹴り上げる。

 『クラムボンの鎧』越しでも内臓へといたるダメージに、嘔吐おうとし膝を着くスーザン。



 ――2分。

 ジェフの仕掛けた罠スキル【爆裂炎上床】を”偶然”にも飛び越えて接近したガンバルの槍の一撃は、少年の意識を易々と刈り取った。まだ命までは取らない。


 おびえて後ずさるマイを追い詰め容赦なく槍を振りかぶったガンバルの背中に、スーザンの『リスピーナの短剣』から【マジックコーティング】の渦巻く赤い光のドリルが放たれた! ヤマダ直伝、必殺の【サン・セット・ブレイク】である。



 ――3分。

 ガンバルを貫いたかに見えた赤い光のドリルだったが、その時”偶然”にもガンバルの背後に【短距離転移】で現れたアンディの背中を深くえぐっていた。

 

 スーザン痛恨の同士討ち――即死には到らなかったアンディだが、直ぐに回復魔法を施さなければその命は長く保たないだろう。



 それは、わずか5分に満たない攻防、『黒金の勇者』シマムラ・スーザンは戦意喪失した。





「――ふむ。ワシとて、少年少女の命までとっては寝覚めが悪い。とはいえ、知らぬ間に随分と”運”を使ってしもうた。若いながらに高いレベルと危険なスキルを所持していると見たが……さて」


「ガンバルさんと言いましたか? どうかアンディ君の回復をさせて欲しい! ……私はどうなっても構わないから!」


 必死に頭を下げるシマムラ・スーザン。

 既に覚悟は決まっていた。





「よかろう――だが、回復の前に『黒金の勇者』殿、全ての所持品と装備をワシに差し出すがよい!」


「……!!」


 ――それは脱げと言うことか? 脱げと言うことだな!? 元々露出癖のあるスーザンにとって、ガンバルの命令はむしろ望むところ。何より、急がなければアンディの命に関わるので、従わざるをえない状況。

 彼女は今、大義名分を得た。

 

 先ずは、『リスピーナの短剣』と『黒い許嫁の盾』を床に放り、続けて【空間収納】から、食料や水筒、着替え、財布などを手早くかき出す。

 

 次に、『クラムボンの鎧』を外すと、ショートカットの黒髪と浅黒い素肌が晒される。

 この時既に、スーザンの高潔な魂は性癖に屈しつつあった。

 

 最後にメガネと下着も足下に落とす。

 ガンバルのよこしまな視線は、そのうるおいを見逃さない。



「……これで全てです」


 全裸のスーザンはガンバルにそう告げると、返答も待たずにアンディ達の回復に走った。

 引き締まった――しかし、なさけない尻を見送るガンバル。





「――ふむ。殺すには惜しいのう?」


 この後の「確かな予感」にほくそ笑みながら、ガンバル・ギルギルガンは感謝した、この広い大迷宮でシマムラ・スーザンという最上級の獲物に出会えた”偶然”に。


 また戦いのさ中、いくつかの”偶然”が彼の味方をしていたことは彼自身でさえ知るよしもない。



 ガンバル・ギルギルガンをS級冒険者たらしめるスキル【大炎上】、【敏感肌】、【気配遮断けはいしゃだん】、【背水はいすいの陣】そして――【蓄運ちくうん】!


 小さな「不幸」を蓄積し任意のタイミングで「幸運」に変換して使用できるスキル【蓄運】こそが、運命に干渉し自分にとって都合のいい偶然を引き寄せる、S級冒険者ガンバル・ギルギルガンの本当の切り札であった。

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