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358 『迷宮のドッペルゲンガー⑤』

 

 おれ達は、ガンバリ入道から十分距離をとり、7階層へ上る階段の手前で一旦着地した。黒フードどもから奪った戦利品を、ドリィさんの【空間収納】に放り込む前に確認しておきたい。



「旦那、この剣は高く売れそうだで、さやもあるし!」


「ほんとだ――って、『神殿騎士の剣』じゃねえの! やったぜ、一本はおれが使っちゃおっと。ドリィさんはどうする?」



「オイラ、剣よりこの斧と同じヤツがもう一本欲しいな」


 おっと、ドリィさん、両手に斧装備か! 高火力アタッカー獣戦士っぽいぞ。

 そういえばナカジマが、『紳士同盟』に前衛がもう一人二人欲しいとか言ってたな。

 

 ……おっと、本編あっちのことは、おれにはもう関係ない事だった。いかんいかん。

 それにしても「鉄の斧」か。いい子だなドリィさん、安上がりで。



「ドリィさん、その斧ちょっと貸して?」


 ――スキル【世界創造ワールドクリエイト】限定解除! ドリィさんの「鉄の斧」を『複製』! 素材は、おれが今日さんざん使い潰した「ロングソード」だ。



「すげぇ!! 旦那、すげぇ!! そんなこともできるのけ!?」


 おれの手の中で二本に増えた「鉄の斧」を受け取って歓声を上げるドリィさん。

 結構重い「鉄の斧」を両手に装備して、ぐいんぐいんと振り回す。とってもワイルド系少女だ。


 そうだな、ドリィさんには今度ビキニアーマーでも薦めてみるか? 獣戦士といえば露出の高い装備よな、まだまだぺったんこ発展途上ボディではあるけど。



「旦那のそのスキル、おねえちゃんのスキルに似てるで。何でも増やせるのけ?」


「どうだろう? 素材があれば、いけるのかな? ……ウルラリィさんのスキルって?」



「おねえちゃんのスキル【増殖ぞうしょく】は、ポケットの中でアメ玉とか増やせるさ」


「え、素材とかいらないの? すごくない?」 


 何の制約もなく無から有を生み出せるスキルだとしたら、チート過ぎる。あっという間に大金持ちじゃね? でも、タナカの【肉体治療】だって無くなった腕を生やしたりできるし、そういうのもあり得るのか。



「うーん、そうでもないさ? アメ玉一個増やすのにだいたい二時間ぐらいかかるって言ってたし。昔、1万G硬貨を【増殖】しようとしたら、丸一日かかってやっと一枚、その後三日も寝込んだで」


 なるほど。増やそうとする物によって時間がかかったり、肉体的に消耗したりするわけか。

 よっぽど高価な宝石とかなら元が取れたりするのかな?





 収納するべき物を【空間収納】して再び飛び立とうとしていたところ、大迷宮の階段を下りてくる集団の気配があった。

 ……? なんとなく不穏ふおんな雰囲気をスキル【危機感知】が感知していたので、脇道に待機して通り過ぎるのを待つことにするおれ達。


 

 ――てか、馬!?

 幅の広い急階段を下りてきたのは、馬四頭に引かれた頑丈そうな馬車だった。その周囲には白銀の鎧で身を固めた護衛の戦士が四人付き従う。

 今朝見かけた、なんとかニョル侯爵こうしゃくってお貴族様の馬車で間違いない。

 

 よく見たら、車輪がちょっと浮いている。

 へー、階段をどうやって下るのかと思ってたけど、馬車の機能なのか誰かのスキルなのか?

 馬車は平らな場所まで来ると静かに着地し、車輪はゆっくりと回り始めた。 



 ――ドゴーーーン!!!!

 炎と土煙と轟音がフロアを満たす。突然の【爆発】に、ヒヒンといななく四頭の馬達。



「やったか!?」

「いや、防がれた!!」

「くそっ!!」


 襲撃者の放った攻撃は、何十枚も連なった”浮遊する盾”に防がれていた。

 武装した若者達およそ三十名が、お貴族様の馬車を取り囲む。



「出てこい、ナベルド・グランギニョル!!」

「我らが主君の恨み、はらさでおくものか!!」

「わずかな護衛で大迷宮に潜った迂闊うかつさを呪うがいい!!」

 

 うっかり遭遇してしまったお貴族様襲撃事件に、おれとドリィさんは通路の陰で身を縮める。

 あーコワ、巻き込まれたら敵わんし、どっちかに味方する気にもなれん。

 事情はよく判らんが、お貴族様がなんかやらかして恨みを買ったって感じみたいだし……まあでも、お貴族様――グランギニョル侯爵とかが実は美少女だったりしたらちょっと考えないでも――。



「よくぞ! 退屈な我が舞台に上がってくれた若きシュトラール騎士団の諸君! マイネリーベ子爵ししゃくよ、あの世とやらでこの悲しき喜劇をご笑覧しょうらんあれー!」


 馬車の中から姿を現したのは、おかっぱと口ひげの気取ったおっさんだった。

 芸術家風、それも変態チックな方――どう見ても、なんかやらかしてる悪いお貴族様に違いない。



「おのれ、れ者が!!」

「抜刀!! 四天王には構うな、狙うはナベルドの首一つ!!」

「シュトラール騎士団の名の下に!! 覚悟しろ、ナベルド・グランギニョル!!」


 あわわ……始まっちゃったよ! 階段の真ん前でやられては、争いをすり抜けて上の階層へ通り抜けることも難しそうだ。

 おれはドリィさんの手を引き、通路の奥へと身を潜める。

 ……そういえば、彼はどこだ? あの弁当を運んでいた使用人風の青年。



「ふうむ、いくぶん演出が地味かなぁ? フライドよ、楽器をもて! せめてこのドラマに音楽のいろどりを添えようではないか!」


 ――楽器!?

 グランギニョル侯爵の口上に思わず振り向くと、馬車の中から小さなギターの様な楽器を持って出てくるあの使用人風の青年の姿が目に入った。

 フライドって呼ばれてたかな? 彼は四人の護衛達の誰よりも強そうなのに、こんな切迫した場面でも雑用に従事するだけか。

 

 おもむろに、じゃんがじゃんがとギターっぽい楽器――マンドリンかな? を、かき鳴らすグランギニョル侯爵。

 それに併せて、馬車を操っていた老人が笛を吹き、フライド青年が太鼓を叩いてリズムをとる。……なんじゃこりゃ!?

 

 彼等の奏でるBGMが、およそ三十名の襲撃者”シュトラール騎士団”と四名の護衛”四天王”との対決を悪趣味に盛り上げる。


 護衛の一人が振り下ろした剣先から三日月状の赤い光の斬撃が飛び、シュトラール騎士団のイケメン達を三人まとめてなぎ払った。さすが四天王、強い!



「もしかして、あれが『聖剣』ってやつかな?」


「違うのう、あれはせいぜい『魔剣』ではないかな?」


 ――!? おれのつぶやきに背後から答えたのは、10階層に置き去りにしたはずのガンバリ入道だった。もう追いついてきたのか、脅かしやがって!



「たまげたなー、団長さん足早いで」


「また会ったの、イヌっ子」


「むー! オイラはドリィ、”イヌっ子”呼びは差別だど!」

「……おれ達の居る場所がよく解りましたね?」


「おおそうか、スマンスマン! イヌっ子のドリィじゃな? ――ワシのスキル【敏感肌びんかんはだ】が争いの気配を感じての、念のため回り込んだ通路にたまたまヤマギワ殿が潜んでおったというわけじゃ、引き合う運命かのう?」


 ――と、ドリィさんの抗議を適当に流しつつガンバリ入道。

 ……【敏感肌】? 冗談は止めて欲しい。

 それにしても”争いの気配”ね、そういうのに構わず突っ込んでいく脳筋の人なのかと思ったけど。 



「あの馬車の人は侯爵様だそうですよ、ほっとくんですか?」


「それこそいらぬ世話だの。あの笛の老人には見覚えがある。忍者マスター・サトル、S級冒険者じゃ。あの若造どもが束になったところでどうにもなるまい。それに――」



「忍者け!?」

「……S級冒険者!?」


「――あのグランギニョル侯爵には、あまりいいウワサを聞かん。かといってマイネリーベ子爵の仇討ちに、いたずらに肩入れするのものう? まあ、正式に傭兵団として雇われれば話は別だがの」





「っぐっ……どうなっている、身体が重い!?」

「くそっ、回復をくれ! ……早く!!」


「おかしい、さっきから魔法が……」

「いや、魔法だけじゃない……これはいったい?」


「……バカな、スキルが使えない……封じられているのか!?」

「スキルが無くとも、今日まで鍛え上げた剣技で……うぐぉっ!!?」



 ――!? シュトラール騎士団の様子がおかしい。

 てか、おれの【危機感知】も使えなくなってる。それどころか、ステータスさえ確認できない。……スキルが封じられた?


 ――おっとっと!? 急にもたれかかってきたドリィさんを慌てて抱きとめるおれ。

 目を閉じてぐったりしたドリィさんに焦るが、やがてカワイイいびきが聞こえてくる。

 寝てる? そうか、ドリィさんのスキルは【疲労耐性】だっけ。……本当は結構疲れ溜まってたんだな。小っこいのに無茶しやがって……ぐすん。



「……まずいのう。ワシとて、スキルなしで忍者マスター・サトルの相手はちとキツイ」


「おれ達はもう少し距離をとろうと思いますが、ガンバルさんは?」


 おれはドリィさんを抱き上げて通路の奥へと後退する。「ワシもそうするかの」と付いてくるガンバリ入道。





 馬車からおよそ100m離れた辺りで、おれのスキル【危機感知】が復活して働きだした。

 どうやら、効果範囲を抜けたらしい。



「……だからといって、ワシが忍者マスター・サトルより弱いというわけではないぞ?」


 あーはいはい。そんなことより――。



「――今のは何ですかね? 誰かのスキルですか」


「ふむ、ヤマギワ殿は知らぬか? あれがグランギニョル家の『聖剣ギンガイザー』、周囲のスキルを全て使用不能にする効果『超常スマッシュ!』よ。使用者本人のスキルまで封じてしまうゆえ、代々達人のみがふるうことを許されるそうな」



「じゃあ、忍者マスター・サトルがその『聖剣』を?」


「それは違うの。忍者マスター・サトルなら申し分ない達人ではあろうが、一族の中から『勇者』を輩出することが三大侯爵家の悲願なれば、グランギニョル家が一族以外の者に『聖剣ギンガイザー』を継承させるとは思えん」


 ほどなくして、遠くから聞こえていた場違いな演奏が止んだ。

 おそらく、戦いの決着がついたのだろう。

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