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356 『迷宮のドッペルゲンガー③』


 動く骨の魔物スケルトンは、ここ「王都の大迷宮」の8~9階層辺りに多く出現する。

 おそらくは、かつて命を落とした冒険者達のなれの果てだろう。

 他の魔物と違い、倒しても「魔石」や「素材」が手に入ることはまずないが、代わりに彼等が生前使っていたであろう「武具」や「装飾品」を落とすことがある。

 それらは大抵劣化が激しく苦労に見合うような値打ち物に当たることは滅多にないので、慣れた冒険者なら8~9階層はさっさと通り抜けてしまうことが多い。



 ――スッコーン!!

 ――スッコーン!! 

 ――スパコーン!!

 おれの剣が、三体のスケルトンの首を続けざまに切り飛ばした。


 そして、転がった”しゃれこうべ”をドリィさんが次々と踏み潰していく。

 同時に、スケルトンの残った胴体も力を失いバラバラに崩れ落ちた。


 よっし、戦闘終了だ。



「ナイスファイト、ドリィさん! おつかれー」


「軽い軽い、任してくれろー!」


 この第8階層に人が少ないのは、単純に元々人だったものと戦いたくないというのもあるんじゃないかな? 明日は我が身かもしれないわけだし。

 ……その点、ドリィさんは容赦ないな。頭蓋骨ずがいこつを踏み潰すとか、見てるだけですごく気持ち悪いんだが……まあ、キャーキャー女の子みたいな反応されるよりはましか。


 さて、戦利品の確認だ。

 

 ロングソード×1、幅広の曲剣×1、鉄の斧×1、ラウンドシールド×1 ――以上。

 どれも錆びたり刃こぼれしたりで、劣化がいちじるしい。


 こんなおんぼろ、売れるのけ? と、ドリィさん。

 くっくっく……まあ見てなって。おい、オナモミ妖精、いけるか?



(あいよー)


 ――スキル【世界創造ワールドクリエイト】限定解除、『修復』!

 劣化戦利品の欠けたりすり減ったりした刃、大小の傷跡、浮き上がった錆や汚れを、「極小の黒い粒子」が時に補い、時に分解し、あるべき姿へと再構築していく!

 それら「極小の黒い粒子」――通称「廃棄はいき妖精」を統率するのは、おれの頭の上に座っている伸長20㎝の相棒”オナモミ妖精”だ。ちなみに、強力な【認識阻害】で他人の目にとまることはない。


 ――またたく間に、ぼろぼろだった戦利品が新品同様の輝きを取り戻す。



「す、すっげー!! 旦那、すっげー!!」


 あえてこの階層で戦う意味が、今やっとドリィさんにも理解してもらえたようだ。 

 こうして、手に入れた劣化武器や防具を『修復』していくことで、どれも結構な値段で売れるってわけさ!

 くっくっく……見たか? この錬金術を!


 でもそうだな、この『ロングソード』と『ラウンドシールド』はおれが使うとしよう。ゴブリンからぶんどった剣よりだいぶよさげだ。


 ドリィさんは『鉄の斧』が気に入ったらしい。かなり重そうだけど、片手でブンブン振り回している。


 よっし、この調子でガンガンいくぜー!!







 ――と、調子に乗ってスケルトンやらゾンビやらを30体以上倒しまくったのだが……その時になって大変な問題に思い至った。

 

 ……重い。

 いつの間にか、手に入れた戦利品の重量が大変な事になってしまっていた。

 力持ちのドリィさんに荷物持ちをお願いしていたのでうっかりしていたが、よく考えたら帰り道もおれがドリィさんを抱っこして飛ばなければならないのだ。


 いかにレベルアップしたおれでも、この重量を持って飛ぶのは無理。

 ……半分ぐらい捨てるしかないか。ああ、もったいない。



「ドリィさん、今日はここまでにしようか」


 高く売れそうな物だけを選んで持ち帰ろう。

 そうだ、もしかすると「休憩所」に置いておけば、明日回収できるかもしれない。なにしろ、あまり人の来ない階層だから。





「……あの旦那、秘密だで?」


 ぎゅうぎゅうに膨らんだドリィさんのリュックが、空間にぽっかり空いた穴の中に吸い込まれるように消えた。

 ――えっ!? もしかして【空間収納】?

 確か時価1千万前後の、超高価な「魔法スキル」のはず……。



「えっと、ドリィさん……それ、どうしたの?」


「レベル8になった時、【空間収納】の魔法も取得したさ。旦那だから教えたけど……秘密だで?」


 ――あ。そうか。

 生まれつき右胸に魔石のある魔族は、レベル8毎に”通常のスキル”と併せて”魔法スキル”を取得するってナカジマ氏が言ってたっけ。

 スキル【空間収納】は、亜空間に荷物を出し入れできる超便利な魔法スキルである。それをレベルアップで体内の魔石に宿したドリィさんは、高価な宝石を常に持ち歩いてるようなものだ。……おれが親でも、他人には黙っとけって言うだろう。


 

「了解した、秘密にするよ。ところで、あとどのくらい入りそう?」


「あのリュックなら、あと3つか4つだなー」


 そんなことで、文字通り重たい問題はあっさりと解決してしまった。

 お昼休憩を挟んで、もう一稼ぎするとしようか。







 午後、第9階層に移動したおれとドリィさんは、引き続きスケルトンやゾンビを狙って狩った。

 およそ40体を倒し、そろそろ切り上げようかと思い始めた時だった。



「ふぎゃっ!?」


 ドリィさんが突然バタリと転倒した。

 平らな場所で転ぶなんて案外ドジっ子だなぁ……なんて思ったのだが、倒れたドリィさんがそのままずるずると引きずられて行くのを見て、彼女の身体に白い糸が絡みついていることに気がついた。


 ――クモの糸!? この階層にクモの魔物は出現しないはず。

 そして、【危機感知】反応! この感じは人間の反応に違いない。

 魔法【光線】の射線が八方向からおれを狙っている。敵は八人……と、奥にもう一人。

 ――合計で九人か。……多くね?

 

 おれはスキル【超次元三角】で大きく三角を描き、その陰に隠れた。

 次の瞬間放たれた【光線】の魔法は、空間に開いた三角窓を抜けて異次元へ飲み込まれて消える。


 通路奥の暗がりから八人の男達が姿を現した。

 ……そろいの黒フード。どう見ても、普通の冒険者って感じじゃない。


 てかまあ、「クモの糸」と言えば、先日、パン屋の借金の件でもめたアンバーさんとその子分達で間違いないだろう。

 あの時は、「後日、話し合いの場をもうけましょう」ってことになったはずなのに……。



 八人の男達はおれを包囲するように散開する。射線の通る位置から再び【光線】を撃つ気だろう。

 スキルで攻撃を受け流すことは容易たやすいが、床に転がっているドリィさんを狙われたらちょっと厄介だ。

 ……前に出るか――と、おれが一歩踏み出そうとした時のこと――。

 


「やあやあ我こそは、その名も高きキマリ傭兵団団長ガンバル・ギルギルガンなりー!! 我が槍の切っ先を恐れぬならば――ぬおおおっ!!? な、なんじゃこりゃぁぁ!!?」


 突然乱入してきたガンバリ入道が、クモの巣に突っ込んで絡まった。

 まさか9階層まで追いかけて来るとは執念深い……でも、おれ達が無法者に狙われていると見て助太刀に入ってくれようとしたのかな? いきなりクモの巣に囚われて動けないようではあるが……。

 

 呆気あっけにとられている八人の男達の隙をついて三角窓の陰から出たおれは、床に転がってるドリィさんに駆け寄り、絡まっている糸を断ち切った。

 

 ――【危機感知】反応! 魔法【光線】の射線を遮るように、もう一度その場に大きな三角を描いた。スキル【超次元三角】異次元へと開く三角の窓!



「ここに居て」


 おれは、ドリィさんを抱き起こして一声掛けると、三角窓の陰から【飛翔】した。

 ――スキル【遅滞】! 八人全員を効果範囲に捉えた。ゆっくりと流れる時間の中で、おれだけが加速していく!


 ――シュパ!! パ!! パ!! パ!!

 ――シュパ!! パ!! パ!! パ!!


 八人全員に一撃ずつ、手首を深々と切り裂いた。

 早く治療しないと死んでしまう傷だ。



 魔法【小回復】を各々自身にほどこしながら後ずさっていく黒フードの男達。八人とも戦意喪失している。

 しかし……全員が【小回復】持ち? 【光線】といい、ネムジア教会は誰にでも「魔法スキル」売りすぎだろ!? 規制しろよ、特に【光線】とか!



「まだやりますか、アンバーさん!?」


 おれは、通路の奥に居ると思われる九人目の男に声をかける。

 ……もちろん、もう帰ってくんね? という意味だ。

   


「ほほーう! なかなか使えるようですな、ヤマギワ殿!」


 阿波踊りのようなポーズでクモの巣に囚われているガンバリ入道から声を掛けられた。

 ……あ、まだこの人がいたっけ。

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