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354 『迷宮のドッペルゲンガー①』

「旦那、それどうしただ!? すっげー!!」


「イカスでしょ? 前に注文しといたやつを受け取ってきた」


 新品のスケイルアーマーを身に着けたおれ。

 昨日、スキル【飛翔】で「ニジの街」までひとっ飛び! ドワーフ親父をだまくらかして手に入れた。……いやまあ、ほら、半分はおれの物みたいなもんだろ?



 ――あ。おれ、”もう一人のヤマダ”改め、”ソロ冒険者のヤマギワ”。

 本編あっちのストーリーには極力関わらないと決めたばかりだったけど……、しょぼい装備でソロ大迷宮はやっぱ心細いなーなんて? まあヤマダのことだ、あっちはあっちでなんとかするだろ?


 ――で、この飛竜素材のスケイルアーマー、その名も『竜鱗りゅうりん具足ぐそく』! 高い防御性能もさることながら――ほら、こうして兜を被りバイザーを下ろすと、謎のダークヒーローっぽい感じで、うっかり知り合いに出くわしても、人違いでは? とかごまかせるってわけ。

 

 だっておれは複製コピー、日の当たる場所では生きられない運命さだめなのだぜ? フッ……。

 てか、”勇者見習い(サラリーマン)”とかもうこりごりだぜ!





 そんな”裏の世界を生きるハードボイルドなソロ冒険者おれ”なのだが、今朝はなぜか犬耳少女ドリィさんと一緒に王都の西門を出る。



「……えっとドリィさん、お店の手伝いは? あと、清掃のバイトだって」


「バイトは日雇いだで。そんなことよりオイラ、前から冒険者になりたかったんよ! ほれ、ライセンスだって手に入れてきたさ」



「へー、ずは薬草摘みから始めるのがいいですよ?」


「……む。そんなこと言っていいんかな~!? 居候いそうろうしてる旦那が、オイラをないがしろにしていいんかな~!? おねぇちゃんも悲しむな~天国のお父ちゃんも呪うって言ってる――」


 ――はいはいはいはい……。

 ハードボイルドなソロ冒険者終了のお知らせ。





 早朝の「王都の大迷宮」前は通勤ラッシュのような大混雑。「荷物持ち」や「迷宮案内」を生業なりわいとする者が自分たちを売り込む声、「階層MAP」や「回復アイテム」「お弁当」を売る商人の声などが飛び交ってとても賑やかだ。

 ……てかお弁当、すごい勢いで売れてるな。ちょっと興味あるけど、おれ等にはウルラリィさんが作ってくれたサンドイッチがあるからな。


 そんな雑踏をかき分けて、身なりのいい男女がチラシを配っている。

 ……むむ? 女の子の肖像画みたいだ。さてはお店の宣伝のチラシか? そういうお店の宣伝だな!? 正直すごい興味あるけど……くっそ、ドリィさんに感づかれないようにさりげなく彼等に近づいてチラシを受け取るにはコースが悪いようだ。残念……。


 人混みではぐれないように、ドリィさんはおれの手を引っ張って大迷宮入り口の急勾配をずんずん下っていく。


 勾配が緩やかになると、少しだけ人がばらけるので、大声を出さなくても会話ができるようになってくる。



「ドリィさん、魔物とかと戦ったことは?」


「お父ちゃんやおねえちゃんと一緒に獲ったオークの味は格別だったさ!」


 慌てたように繋いでいた手を離すドリィさん。



「へー、レベルは?」


「……それはまだ13だけんども」


 ドリィさんは恥ずかしそうに言うが、思ってたよりもだいぶ高い。

 だって、おれもつい最近までそんなもんだったし――。


 聞けば、スキルは【疲労耐性】を持っているとのこと。

 重い物を持ったり長距離を走ったりしてもあまり疲れないし、三日おきぐらいにしか眠くならないそうな。


 ――なるほど合点がいった。夜中トイレに起きた時、廊下で目を爛々(らんらん)と輝かせたドリィさんに出くわしてうなられたけど、あれはそういうわけだったかー。



「あれは、旦那がおねえちゃんに悪さしねえがって見張ってたさ」


 ……ああうん。だよね。





 それにしても今朝はいつも以上に混んでるな大迷宮? 年末だっていうのに勤勉かよ王都の冒険者、『護国祭』はもう飽きたのか?



「旦那、知らんのけ? なんでも今度、九人の『勇者』様を改めて選び直すってもっぱらのウワサなんよ! 参加費さえ払えば誰だって選考会に出られるって話だで、国中から腕自慢がどんどん王都に集まって来てるんさ」


「あーそれでか」



「旦那は出ないのけ、選考会?」


「出ないよぉー。おれなんか、ムリムリ」


 旦那けっこう強いのにな~、出ないんか~~と、残念そうなドリィさん。

 ――ご冗談。よくよく周囲をスキル【危機感知】で探ってみれば、レベル40クラスの危険人物がゴロゴロ……やってらんね! その選考会、きっとヤマダ達『紳士同盟』は出ざるを得ないだろうし、鉢合わせになったらややこしいってのもある。





 ――って、馬車!?

 魔物みたいなでかい馬四頭が繋がれた頑丈そうな馬車が、通路のど真ん中に停車していた。そして、使用人らしき青年が大量のお弁当を馬車に運び込んでいる。……大迷宮を馬車で行くのかよ、まじか!?



「有りなの、あれ?」


「さあ? お貴族様のやることだで」


 ――なるほど、お貴族様か。

 まあ確かに、大迷宮は通路も広いし天井も高いから馬車でもぜんぜん行ける。頭イイな、さすがはお貴族様。てか、「送迎そうげい馬車」みたいな商売始めたら案外儲かるかも……。



「おい、なんだよあの馬車!? どこの田舎いなか貴族だ? 知らねぇのか、王家の定めた『大迷宮の禁止事項』をよ!?」  


 ――と、見知らぬ冒険者の声。

 ……そうか、やっぱルール違反なのか。どうりで誰もやってないわけだ「送迎馬車」。



「おい、止めとけよ。ありゃあ、グランギニョル家の馬車だぜ」


「グランギニョルだって? あの、三大侯爵家の!?」


「三大侯爵家……『聖剣』を代々受け継ぐっていう? なんで大迷宮に……」


「そら、『勇者選考会』だろうさ。他所から来てる冒険者やつらと同じさ、大迷宮で肩慣らしってとこだろな」


「三大侯爵家は元をたどれば『勇者』の家系だろ? 一族から『勇者』をもう一度って気持ちも解るぜ」


「じゃあ他の侯爵家も王都に……」


「もしかしたら『勇者選考会』では『聖剣使い』同士の対決が見られるかもしれねぇぜ」





 ――なるほど、勇者の末裔まつえいが貴族やってるのか。確かに馬車の中の人、結構強そうだ。

 でも、馬車の周囲を固めてる四人の護衛はもっと強いな。……で、その四人より強いのが――。


 その時、さっき弁当を運んでいた使用人風の青年と目が合う。

 ニッコリとさわやかに笑う彼に、思わず目を逸らすおれ。……たぶんあいつが一番強い。なんかチート主人公っぽい感じがプンプンする。



「どうかしたさ、旦那?」


「……いや、『聖剣』だってさ。ロマンだよね」



「? そういえば旦那、ヨロイはかっこいいのに武器は……アレだでな?」


 うぐぅ、しょうがないんだよー。

 これ、ゴブリンからぶんどった『錆びた剣』を【修復】したもんなんよ。


 そんなわけだから、今日からはスケルトンとかゾンビを倒したいと思っている。

 あいつらたまに結構いい武器持ってたりするし、大量に出てきても倒しきれると思うし――。



「待たれよ、そこなごじん!」


 ――大迷宮だと、スケルトンとかゾンビって確か8~9階層ぐらいに出てきたはず。

 飛べば日帰りでなんとか行って帰ってこれる距離なんだけど、問題は――ドリィさんなんだよな……どうしよ?



「待てと言うに!!」


「えっ!?」


 呼び止められて振り返ると、でかい槍を持った大男がおれを見下ろしていた。

 ……な、なんだこの筋肉オヤジ、この季節になんで上半身裸なんだ?



「ワシは、キマリ傭兵団団長ガンバルと申す者じゃ!」


 おれの中で、この人のあだ名が”ガンバリ入道”に決定した瞬間だった。

 てか、傭兵団がおれに何の用かな? 嫌な予感しかしない。



「……ヤマギワですけど、なにか?」



「ヤマギワ殿、お主のその鎧じゃが……、その質感といいおもむきといいなかなかの――いや、二つとない逸品いっぴんとみたが?」


「えっ、はぁ?」



「そこでじゃ、ワシがその鎧を使った方が世のため人のためではないかと思うが、どうか!?」


「…………」



「――いやいや勘違いしてもらっては困る、もちろんタダで譲れとは言わん。そうさの……50万G……いや、100万Gでいかがか!?」

 

「……嫌ですけど」


 やばい……変な人に絡まれてしまった。

 100万Gと聞いてドリィさんが「おっ!?」という顔をしたけど、たぶんこの鎧その倍以上の価値がある。



「まあ待たれよ。見たところヤマギワ殿はそれほどレベルが高くないご様子。そんな者が身の丈に合わない装備をしていればどうなるか? ワシの見たところ、既に何人かの不届き者に目を付けられているようだが、気付いておいでかな?」


 ――! ああ、そうか。てっきりドリィさんを狙ってるロリコンが居るのかと思っていたけど、狙われていたのはおれの装備している鎧『竜鱗の具足』だったか。

 そう言われると、わざわざ買い取り金額を提示してみせるこのガンバリ入道は善良な部類の人なのかもしれない。

 ……でもまあ、その不届き者の中に、対ロリコン以上の警戒を要するヤツはいなさそう。



「どうぞお構いなく」


「あいやしばらく! ならばこうしよう、ワシと勝負してお主が負けたならば、その鎧を潔くワシに譲ることとしよう! それならば文句あるまい!」


 ……なに言ってんだこの人? ちょっと意味が解らない。



「ドリィさん、行こう」


「……? ――ふぇええっ!!?」



「ややっ!? ま、待たれよ!!」


 ――スキル【飛翔】! おれは、ドリィさんを小脇(こわき)に抱えて飛び上がった。

 天井の高い大迷宮の天井近くに滞空し、ガンバリ入道を見下ろす。



「それ、おれが勝ったら、なんかいいことあるんですか?」


「むむっ、勝ったら? ……ああ、うむ。そうであったな、ならば、ヤマギワ殿が勝利したその時は、この『先祖伝来の槍』を進呈しようではないか!」



「あー、いらないです、『先祖伝来の槍』。さようならー!」


「む!? ええい、聞き分けのない!!」


 ……おおっと、あぶね!? スキル【危機感知】反応! 飛び去ろうとしたおれに向かって槍を突いてくるガンバリ入道。

 

 ――スバン!!

 おれは空中で身体をひねりつつ、攻撃を蹴ってはじく!

 その拍子に、つま先に発生した青い光が、槍の穂先の部分を切断した!


 それは、『竜鱗の具足』の効果【ドラゴンスキン】! 魔力を集中させることで、一時的に簡易【ドラゴンフィールド】とも言うべきエネルギー障壁をピンポイントに発生させる。

 ……初めて使ってみたけど、予想以上に【ドラゴンフィールド】だった。

 てか、「先祖伝来の槍」って言ってたな? 壊すつもりはなかったんだけど……。


 心の中では「やべ……」と思いつつも、知らん顔してそのまま大迷宮の奥へと加速するおれ。



「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!?」


 ガンバリ入道の悲痛な叫びを背後に聞いた。

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