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352 昼下がりの事情

 およそ一ヶ月ぶりの「ニジの街」に帰ってきた。

 そんな思い入れがあるわけでもないが、やはり帰ってきた感がある。RPG的に言えば、最初の街だしな。



 ナカジマがスキル【詳細地図しょうさいちず】を開いた。

 この街には今、危険な殺人鬼が潜んでいる可能性がある。



「居た? イケメン教師コイズミ」


「ヤツは今ダンジョンの中だ。女性ばかりのパーティに同行しているらしい。昨日の今日で、どこまでも要領のいい男だ」


 ――な!? イケメン教師コイズミ、ムカつく……! 「スキルの欠片」を独り占めして、元上司と元教え子を殺害した、身勝手な殺人鬼のくせに!



「どうするの、ナカジマ氏~?」


「いや……、ここまでにしておく。正直今、コイズミと顔を合わせたからといって、どうしていいか私には判らないのだ」


 そう言って、ナカジマはスキル【詳細地図】を閉じた。

 ……まあ、確かにな。





 道中余計なことで時間を食ったせいで、いい感じで腹も減ってきた。

 少し遅いがランチタイムとしゃれこもうじゃない? 良さそうなお店を探して、商業区画を歩くおれ達八人。



 ――むむ!?

 あれに見えるは、奴隷美少年のミロ君とカミュ君じゃないか? 相変わらず、乳首の寒そうな格好をしている。

 ……まさか、これからダンジョンか? てか、そんな装備で大丈夫か?


 彼等が引率している武器をたずさえた派手な少女が五人。

 不健康そうなゴスロリはフラニーさんで見間違えようもないが、残りのヒップホップ教室帰りみたいな四人は誰だ?



「あっ……、シリアス王女様達じゃなーい?」


 おお、言われてみれば! タナカの言うとおり、シリアス王女様御一行じゃねーの!?

 四人全員、若返りに成功してたのか……!?



「ふむ。王女様にはサキュバスの魔石をお譲りしたんだが、使わずに済んだならそれにこしたことは――ん?」


 ――あ。よく見るとロリシリアス王女様、パーティーグッズみたいな”コウモリの羽根”と”矢印っぽい尻尾”が付いてるぞ!?

 その辺の経緯、おれはよく知らんのだが――?



「使ったっぽいねー、サキュバスの魔石」


「……魔石を埋め込んだ後で、若返り薬が手に入ったというわけか。魔石の使用はあくまでも自己責任、私に責はないはずだが……難癖をつけられても面倒だし、顔を合わせたくないな、できれば二度と」





「じゃあ、おれの知ってる店でいい?」


 ロリシリアス王女様御一行が絶対に来ないであろう、歓楽街のそこそこ健全なお店『クレイドール』に皆を案内する。 

 この時間、リグレットちゃんはいないだろうな……いや、そもそも辞めたんだっけ?







 いらしゃいませ~! とおれ達を迎えたのは、やはり見知らぬ給仕係のおねえさんだった。

 ……のはずだが、おれの顔を見て警戒心を露わにするおねえさん。


 ――え? おれ、なんかしたっけ?



「へ~、舞台があるんだ~! あの子が脱ぐの~?」

「お、おいヤマダさん、ここは子どもを連れてきてもいい店なのか?」


「いや、まあ……、グレイス様のお下劣な宴会芸に比べたらね? 踊るのはプロのおねえさんだ、残念ながら脱衣はない」



 注文を済ませて待つことしばらく、店内の音楽が変わり、待ちに待った踊り子さんの登場だ! ――やったぜ!



 ……ん!? 

 ……え? ええっ!? ……リグレットちゃん?


 てか、リグレットちゃん!!?


 ――ややややったぜ!!

 きわどいビキニアーマーのリグレットちゃんが、踊り子として登場だーーー!!

 

 ――やったぜ!! やったぜーーー!!



 くっ……しかし、なんてこった! スキルを駆使したリグレットちゃんの【ダンス】が神業過ぎて、エロに集中できねぇ!!


 それはまさに、血祭りの舞! ――見えるぞ!? 群がるゴブリン達が両手ナイフで次々と切り裂かれる様が、おれにも見える……!! 



「――天才って……いるものね」


 さっきの給仕係のおねえさんが悔しそうに爪を噛む。

 ――あ。よく見たら、以前マンツーマンで踊ってくれた踊り子のおねえさんじゃないの……!?



「――あれに対抗するには、もっと肌を出すしかアタシにはもう……」


 ……えっ!? いや……くそ、気が散る……しかし、おれは負けない!!

 

 ――スキル【遅滞ちたい】発動、周囲の時間の流れを遅くする!


 からの……今だ!! 時間よ止まれ「走馬灯モード」!!



 ――な!?

 「走馬灯モード」に入る直前、目の前にナタリアちゃんが忽然こつぜんと現れておれの視界を塞いだ……!?


 ……やられた! スキル【時間召喚じかんしょうかん】、ナタリアちゃんが数秒未来の自分自身をおれの目の前に召喚したのだ。

 

 てか、そこまでしなくても……いや、おれがスキル【遅滞】を使ったせいでナタリアちゃんを本気まじにさせてしまったか。

 最初から「走馬灯モード」に入っておけば気付かれなかっただろうに……、しくじった。





「ヤマダ、いらっしゃい! ……ナタリアさんも」


 一曲踊り終えたリグレットちゃんが声をかけてくる、おれに正面から抱きついているナタリアちゃんに困惑しつつ。



「ナイスダンス、リグレットちゃん! 踊り子はじめたんだね?」


「エヘヘ、がらじゃないんだけど。シドニィねえさんが、一人じゃキツイって言うもんだから」



「ア……アタシは、まだまだ舞えるんだからっ! 一晩寝れば【自然回復】するし、引退なんて考えてないんだからっ……!」


 ――と、給仕係のシドニィねえさん。今は、リグレットちゃんと昼夜交替で踊り子をしているそうな。

 ぜひとも、夜の部も見に来たいところだが、それはさておき――。


 

「えーっと……、ウィリーのやつとは仲良くやってるの?」


「……うん、まあ、そこにいるけど」


 ――!?

 なんと、むこうの席で酔い潰れている大男はウィリーだった。

 昼間っから酒だと!? なにやってんだアイツ、リグレットちゃんに踊らせておいて!!? ムカムカ……。





「よ~、おっさんじゃねーか。王都から戻ってたのか~?」


「……よう、ウィリー。サキュバスにヤられたところはもういいのかい?」



「うぐっ……、思い出させんじゃねーよ……!」


「ちょっと、こんなとこで寝てないで、ヒマなら洗濯でもしておいてよ!」


 もうやったよ~と、ウィリー。


 ウィリーとリグレットちゃん、二人は一緒に暮らしているらしい。

 ……ちっ。



 ギルド専属冒険者となったウィリーは、正月休みとのこと。

 まあ、二人が幸せそうなら……いいか。


 



 



 ――昼食後、アウロラさんが家に帰る。



「みんなを送り届けたら、夜には帰るよ」


 昼間から甘い雰囲気のナカジマとアウロラさんである。





「救護所の皆さんにお土産みやげを配ってきます」


 ――と、オルフェさん。

 みんなによろしく~と、タナカが手を振る。

 後で冒険者ギルド前で合流する予定。

 




「それじゃあボクもここで」


 ――と、ナタリアちゃん。

 ちょっと、『夢幻館おみせ』辞めてくる――とのこと。


 あっちの世界に行って母親であるモガリアさんの安否あんぴを確認するという目的を果たした以上、もうナタリアちゃんに娼館でバイトする理由はない。


 ただ、予約待ちのお客さんをそのままにしては、世話になったお店に義理がたたないとのことで、数日でまとめて一気に消化するつもりのようだ。



「……はあ。がんばってください……?」


「ボク、こわれちゃうかも……でも、待っててね、ヤマダ? 次会う時は、身も心もキレイなボクだから」


 身も心も――は、ちょっと無理がある気もするが、そこはあえて流しておくのが紳士としての振る舞いだよな?

 ……あと、ちょと興奮する。





 続いて――、この街で一番大きな建物、ネムジア神殿にやって来たおれ、タナカ、ナカジマ、ロッドさん、シーラさまの五人。



「ほほう、これはなかなか……聞きしに勝る、卑猥ひわいな乳首ですな!! いやぁ、すばら! すばら!」


 誰でも立ち入りできる礼拝堂で、ニジの街神殿名物の異世界調ネムジア像に興味芯々のロッドさんである。

 ……他所よその女神様を卑猥とか大きな声で言うんじゃねーよ!



「――”異世界調”という作風も、今の僕なら完璧に理解できますとも! 惜しむらくは、聖地アキバで数々の名品を見る前であったなら、僕はこの場でひざまずきネムジア教に改宗していたやもしれません、惜しむらくは!」


 とか言いながら伸ばした手はむなしくすり抜ける。


 ……あ、それ、おれのスキル【空間記憶再生】で再生中の「在りし日の女神ネムジア像」だから、お触りは禁止で。


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