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351 小春日和のこんな気持ちのいい日ならちょっと歩くのも悪くない

 スキル【超次元三角】で切り取った「次元の窓」を通り抜けて、手を繋いだおれ達八人が降り立った場所は、少し開けた森の中だった。

  

 付近のゴブリンどもが大慌てで逃げていく気配を、おれのスキルが感知する。

 久しぶりのレベルアップでちょっとテンションが上がっているナタリアちゃんの覇気に気圧されたらしい。


 ほっ……ともかく、おれ達の知るあの異世界に無事帰ってこられたようだ。

 

 ――あれ? でもここって、なんだか見覚えがあるような、ないような……?



「どうやら、『ニジの街』の近辺だな。確か、『ミサキの森』と言ったか?」


 ナカジマがスキル【詳細地図しょうさいちず】で現在地を確認する。

 ――やっぱりそうか。この辺、日本と繋がり易かったりするのか?


 「ニジの街」からおよそ1kmぐらい。おれがレベル一桁だった頃、ゴブリンやらウサギやらを追いかけて、よくこの辺をウロウロしていた。





 ならば私はここで――と「ニジの街」住みのアウロラさんが言い出すと、「送っていくよ」とナカジマ。


 だったら――と、「私も救護所に顔を出したい」とかオルフェさんが申し出る。


 そうなると、ロッドさんまで「せっかくだから、名物の異世界調女神ネムジア像を見物して帰りたいなぁ」とか主張しだすものだから、どうせならみんなで昼食でも食べようということになり――、結局全員で「ニジの街」へと立ち寄ることになった。



「そういえば、注文した防具がそろそろできている頃かもしれんな?」


「あー、確かに一ヶ月ぐらい経つねー」


 ――おお! 「飛竜」素材のやつか、すっかり忘れてたっつーの!

 ドワーフ親父、店に戻ってるかな?





 暖かな光さす森の小道を、ぞろぞろと行くおれ達。

 ナカジマの【空間転移】なら一瞬だが、小春日和こはるびよりのこんな気持ちのいい日ならちょっと歩くのも悪くない。


 ほら、「たのしー!!」とか絶叫に近い声を上げて駆けて行くシーラさまも本気で楽しそうだ。


 でも気をつけて、あんまり遠くに行くとゴブリンに出くわすぞ~……なんつって、本当のところ、おれの感知できる範囲に魔物の気配は全くない――はずなのだが?



 「む、なんだこれは!?」と【詳細地図】を見ていたナカジマが声を上げるのと、「あーっ!!」とシーラさまがそれを見つけて声を上げたのは、ほぼ同時だった。 



 ――まあこんなのどかな森で出くわすとしても、せいぜい青姦カップルぐらいなもんだろ?

 ……って、青姦カップル!?



 シーラさまの指さす草むらに、折り重なった男女の裸体が見えた。

 ――ダメー! 見ちゃダメ、シーラさま! それはお子様の教育に良くないやつー!!

 




「なんか、動いてなくなーい?」


 草むらを無遠慮にのぞき込んだタナカが言った。



「……死んでいる。――女は手島テシマ今井イマイ、私の元教え子だ。そして男は、元教頭の川島カワシマ

 

 死体から目を逸らし、スキル【詳細地図】に表示されたデータだけを見てナカジマは言った。


 ナカジマが彼等を異世界に放り出したのはまだ昨日のことだったが、たった一晩でその命は失われてしまったようだ。



 ――さて、ナカジマの「ざまぁ」は、彼等を異世界に放り出すことで既に完結していたと言える。元同僚や元生徒23名がその後どうなったかなどということは、ナカジマにとってはもうどうでもいい後日談でしかないはずだ、一番の懸案けんあんだったED(インポ)も既に解消されているわけだし。


 当然、異世界に放り出された彼等がこの三人のような末路をたどることも容易に予想し得る展開ではあったが、それはおれ達の知らないどこかでひっそりと行われるものと信じていた。


 しかしそんな思惑とは裏腹に、現実はすぐ目の前に生々しく積み重なっている。



 ……ここは、おれやタナカが口出しすることではないだろう。

 ナカジマ自身が、これをどうするのか決めるべきことだと思うので、おれは黙ってナカジマの答えを待った。





「ヤマダさん、ここで何があったのか知りたい。――頼めるか?」


 ナカジマは、おれのスキル【空間記憶再生くうかんきおくさいせい】を要求してきた。

 空間に残った過去の記憶を再生することで、三人がどうやって命を落としたかその状況を立体映像として再現することができるわけだが……。



「……いいけど、そこまで知りたいか、それ? 本当に? 魔物にやられたか盗賊にやられたか、どっちにしろ胸クソ悪いだけじゃねーの?」


「もう一人居たはずなんだ」



「……!?」


「私は昨日、彼等23名を三、四人毎の組に分けて大陸の各地にばらまいた。『ニジの街』付近には四人、元生徒の手島と今井、元教頭の川島、それからもう一人……当時、隣のクラスの担任でイケメン教師として人気だった小泉コイズミが居たはずなんだ」


 ……なるほど、それは確かに気になるな。

 一人逃げたのか、骨も残さず食われてしまったのか? はたまた――。







 森の中に、ナカジマと四人の日本人が【空間転移】で突然出現する。


 おれのスキル【空間記憶再生】で再生する、昨日この場所であった出来事だ。


 残念ながら音声は付いていないが、映像からでもナカジマが四人から激しく詰め寄られている様子がうかがえる。


 しかしナカジマはどこ吹く風、スキル【空間転移】で距離をとると、四人に向かって小石状の粒を一個ずつ投げ渡す。おれ達にはおなじみの「スキルの欠片」なのだが、彼等はまだその重要性に気づいていないだろう。



 説明するべき事を説明し終わると、ナカジマは【空間転移】で消えた。去り際に何か言い残したようだが――「ここから少し道なりに下ると街があるので、日が暮れないうちに向かうことをおすすめします」と言ったそうな。





 ナカジマが去った後、途方に暮れた様子で何事か話し合っている四人。

 おそらくまだ、本当にここが異世界なのかどうか疑っているのだろう。おれ達だって始めは、どっかの田舎の森の中かも? とか思っていた。



 ――ん!? 何があったのか、突然パニックに陥る四人。

 身を寄せ合い、女性二人は恐怖の悲鳴を上げている――ように見える。


 どうやら、ゴブリンを目撃したらしいのだが、女性二人の悲鳴で逆に驚き、すぐに逃げていったようだ。……そんなこともあるんだな。





 それまで半信半疑だったとおぼしき四人だが、ゴブリン目撃後は目に見えて焦りはじめる。

 よっぽど恐ろしかったのか、女性二人――テシマとイマイはイケメン教師コイズミにべったり寄り添って離れない。


 そうなると、なんとなく元教頭カワシマがグループの中で孤立しているような形になっていたようだ。

 若い三人に詰め寄られて、ナカジマが一人に一つずつ配った「スキルの欠片」を、カワシマが最初に試してみることになったらしい。


 他の三人が見守る中、小石状の粒を恐る恐る飲み込むカワシマ。





 やにわに、カワシマは付近に生えていた木に向かって拳を叩きつけた。

 樹皮は大きくえぐれたが痛かったらしく、ハンカチを拳に巻いてから再び木を殴りはじめる。

 拳を打ち付ける度に大きく弾けて、数回繰り返した後――、遂にその木は折れて倒れた!

 

 初老の元教頭カワシマは満足そうに汗を拭う。……とても嬉しそうだ。

 呆然と見守っていた若い三人も惜しみない賞賛を送る。


 

 カワシマが手に入れたスキルは【剛力ごうりき】、オークなどが時々持っている冒険者界隈では割とありふれたスキルである。

 ナカジマが用意した「スキルの欠片」の中での希少価値は低いが、即戦力になるという意味で最初のスキルとしては悪くないと思われる。





 ――さて、「スキルの欠片」に効果有りと知った彼等四人。

 次にそれを試すことにしたのは、イケメン教師コイズミだった。

 

 

 しばらくは何も変わらないように思われたが、カワシマが指摘して皆それに気がつく。

 コイズミの顔が緑色に変色していた。いわゆる、森に溶け込む迷彩柄である。


 指をさして爆笑する女子二人。

 こうなってはイケメンも形無し、頭をかいて苦笑いするしかない。



 コイズミが手に入れたスキルは【擬態ぎたい】である。タナカも使っている、身体の色を変える例のアレだ。……以前ミミックスライムを乱獲したときの余りだな。これは、どう考えてもハズレスキルと言わざるを得ない。





 ――何を思ったのか、突然服を脱ぎ出すイケメンコイズミ。上半身裸になるが、その身体も森に溶け込む迷彩色! 少し離れると、森の中にズボンだけが浮かんでいるように見える。


 そして、そのズボンとパンツまで迷わず脱ぎ捨てるイケメンコイズミ。

 大喜びの女子二人だが、引き締まった尻もご立派なイチモツも森に溶け込む迷彩色で、イケメンのイケメンを見失ってしまう。





 ――? 今まで大喜びしていた女子二人の顔から笑みが消えた。

 周囲を見回し、何かを探している雰囲気。……何かなくしたのか?


 

 ――!?

 不意に、カワシマの首が切り裂かれて鮮血が飛んだ。

 しばらくけいれんし、やがて動かなくなるカワシマ。……死んだ。

 

 恐慌に陥った女子二人の首も次々と切り裂かれた。

 どうやら魔法スキル【風刃ふうじん】で至近距離から撃たれたようだ。





 女子二人も動かなくなると、森の風景から浮かび上がるようにコイズミが姿を現した。

 そのイケメンは、今まで見せることのなかった邪悪な笑みでゆがんでいた。 







 おれはスキル【空間記憶再生】を終了した。

 目の前の全裸死体、テシマ、イマイ、カワシマを殺したのはイケメン教師コイズミだった。



「スキル【擬態】を手に入れて間もないというのに、そのスキルを使いこなし、女子二人から『スキルの欠片』を奪った……なんて要領のいい男だ、コイズミめ。奪った『スキルの欠片』二つの内どちらかが魔法スキル【風刃】だったということだろう」


「だからって、急に殺す~? ちょっとこの彼、覚悟決まり過ぎじゃな~い?」


「だな、元からやばいヤツだったんじゃないか?」



「ふむ。職場ではついぞそんなそぶりは見せなかったが…………いや、まさかな」


「ところでさー、なんでこの死体全裸なんだろー?」


「服を売るためだろ? 本当に要領のいいイケメンだな」


 ――で、この死体どうするんだ?

 少し悩んでいるようなナカジマだったが、アウロラさんが寄り添って腰を抱くと、直ぐに心が決まったようだ。



「……タナカ氏、頼めるか?」


「かしこまりー!」


 タナカは、スキル【肉体治療】を発・動! 首の取れそうだった三体の死体をキレイに修復した。

 続けて、スキル【魂の回帰かいき】を発・動! 死せる魂を在るべき場所に帰す。死体に損傷がなければ、一度肉体から離れた魂を元に戻すことができる。……すなわち、死者の蘇生!



「――ヤマダさん、お手数をおかけする」


「いいってことよ」


 おれはスキル【超次元三角】で、空間を三角に切り開く! そして更にもう一度【超次元三角】!!

 次元に開いた三角の窓を二つくぐった向こう側は元の世界――地球だ。


 




 

 復活したテシマ、イマイ、カワシマのその後について、どうでもいいけど少しだけ――。

 

 ナカジマは【空間転移】で彼等を運び、あの死体だらけの漁村に全裸のまま放り出した。

 目を覚ました彼等は、そこが地球だと気付かないまま村で十数年過ごすことになる。 

 その十数年で、わずかに残った村人達と協力し、村の復興に寄与したそうな。

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