346 目覚めの時
大浴場前の休憩所から逃げるように去って行くラダさま。
あからさまに、何かをごまかしてるっぽい。
ラダさまが、こっちの世界に二年間留まらなければならない理由って何だ?
……ただまあ、無理に追いすがって聞き出すのも難しいだろう、ラダさまには返しきれない恩もあるし。
……でもナカジマは、そんなん関係なく追いすがるよ?
「待ってくださいリーダー、まだ話は終わってませんよ!」
迷いなく、ラダさまに追いすがるナカジマ。
しかしちょうどその時、到着したエレベーターの扉が開き、溢れ出た浴衣のおばちゃん達の群れに飲み込まれるナカジマ。
――!? 消えた!? ばかな、ナカジマのヤツ、人前で【空間転移】したのか!?
……と思ったら、何があったのか床にしゃがみ込んでいた。
「あら、どうしたのお兄さん、大丈夫?」
「まあ、たいへん!」
「どこか苦しいの? ここ? それともここ?」
「あらあら……まあ……!]
「お兄さん、ほら横になって?」
「いえ、大丈夫ですんで……アッ……本当に、大丈夫ですから……アッ……や、止めてくださ……アッ……!」
――と、ここぞとばかりに身体をまさぐられるナカジマ。どんまい!
――数分後。
うずくまり肩をふるわせるナカジマの姿があった。
……泣いてんの? ど、どんまい!?
「ヤマダさん、たいへんだ……!!」
おれが声をかけようとした時、ナカジマが叫んだ。
……笑っている? いや、やっぱり泣いているのか?
「……なにが?」
「ど、どうかした~、ナカジマ氏ー?」
「立った……」
「……!?」
「……!?」
「クララが立った……!!」
――えっ!? この期に及んで、ナカジマのクララが立った……!?
「……もしや、今のおばちゃん達の手厚い看病で……!?」
「あー、ナカジマ氏、年上好きだしねー」
「いや……油断しただけだ……、さっきタナカ氏にもらった栄養ドリンクが思った以上に……いや、そんなことより――ヤマダさん、頼む【超次元三角】を開いてくれ、今夜のチャンスを逃したくないんだ! ――タナカ氏すまない、早急にもう一部屋押さえてもらえないか? 私とアウロラさんのために!!」
「お、おう、まかしとけ」
「かしこまりー」
ナカジマは、おれの作った異世界へ通じる窓【超次元三角】を抜けて【空間転移】すると、数分後にはアウロラさんをお姫様抱っこして戻ってきた。
アウロラさんはぽかんとしてよく状況を飲み込めていない様子だが……、クララが……ナカジマのクララはビンビンだ! ……タナカ、ナカジマ氏に一体何を飲ませたんだ?
そして……、夕食の席に、ナカジマもアウロラさんも姿を現さなかった。
どうやら、ナカジマに先を越されてしまったらしい。
ちょっと悔しい気もするが、よかったなナカジマ。
***
――その夜、おれは夢を見た。
ラダさまの夢だ。
少し緊張した面持ちでラダさまは、ゆっくりと着ていた浴衣を脱ぎ捨て、おれに素肌を晒した。
……!!!! やったぜ、エッチな夢だ!!!!
ちょっと昔のおれ――ラダさま大好きの「消えてしまったもう一人のおれ」だったら、きっと乳首が見えた時点で発射してしまったに違いない。
よ、ようし……、おれの夢だからあまり細かい再現率は期待できないが、ファンタジーな部分はファンタジーとしてここは、行けるところまで行くしかない……!!
このチャンスを逃がすものか! とばかりに、目の前の裸体にむしゃぶりつくおれ。
……うほっ!! こりゃ、たまらん……!!
でもその時、念のためラダさまの反応を見ようと、改めて表情を見直したのは童貞故の心の弱さか。
――ん? ラダさまじゃないぞ? 誰だこの子?
いつの間にか、腕の中の美少女は別人に変わっていた。……でも、この子、なんか見覚えが……?
まあ別にこの子でもいいか、かわいいし。むしろ、こっちの子の方がおっぱいは大きいみたいだし……って、この子、地味巨乳のセンちゃんじゃねーか!? いつか、エッチなお店「夢幻館」の似顔絵で見た……。
そ、そうか。プロなら安心! 初心者のおれを、きっと正しくエロく導いてくれるに違いない……!! ありがとう、地味巨乳のセンちゃん!!
――き……、きーもちイイイイイイっ!!!!
無我夢中でぶちまける、おれ。……素敵な夢をありがとう、地味巨乳のセンちゃん!!
「――はい。そこまでです」
声に振り返ると、そこには服を着たラダさまが居た。
胸の前で腕を組み、視線を決して合わせない。
「え!? 第2ラウンドですか? おれ、ぜんぜん行けます!!」
「……いえ、だからそこまでですってば!」
「……?」
「先ほどはああ言いましたが、やはり何か間違いがあってからでは遅いので、ヤマダ様にだけ話しておくことにしました」
――? 「先ほど」というと、大浴場前の休憩所で聞きそびれた「こっちに二年間留まる理由」についてだろうか?
「――わたくしが【大神託】で見た未来、そこに居たのは召喚された長身パツキンのイケメン勇者様! ……だけではなく、彼と一緒に戦うヤマダ様をはじめとした異世界勇者の皆さんの姿。――そして、60年ぶりに王国に姿を現す『魔王』が、そんな皆さんを禍々しい異空間に引きずり込む光景でした」
「……!? 要するに、二年以内に『魔王』が出現するって話ですか?」
「その通りですけど、勘違いしないでくださいよ? 別に『魔王』が怖いからこっちに避難ってことじゃないですよ? わたくしの鎧『銀のセラフィム』は対魔王鎧。今こそ、その真価の問われる時!! だったはず……なのですが――」
……別に、「怖くてこっちに逃げた」だっていいと思うけど、女の子なんだし? いや、おっさんだって、「明日厄介な客が来るから、すっとぼけて有給とっちゃお」とか、普通にあるあるなんだが?
「――時に、わたくしのスキルはどうでしたか?」
「スキル? ……って、もしかして今の夢が!? ……エッチな夢を見せるスキル!? ……って、まるで淫魔じゃないですか!? エッチですねラダさま」
「……わたくしのスキルは、こうして眠っている人に好きな夢を見せることができるのです。ただ、わたくしがエッチなのは否定しません。パラディンを辞めて聖女になれと言われた時には、素直に聖女になるか娼婦に転職しようか悩んだものです……」
――ええっ!!? マジで!!?
「……まあ、それは冗談ですが。だって聖女って、なんかちょっとエッチですし。……ですが、そんなわたくしの不健全な心が、このスキル【魔界/夢で逢えたら】を生んだのかも知れません……」
……ちっ、冗談かよ。てか、【魔界】!?
「王国に、スキル【魔界】を持つ者が何人いるかは判りませんが、【魔界】を持つ者が『魔王』になりやすいというのは、ネムジア教会の元聖女として、知っててあたりまえの常識なのです」
……なるほど、そういうことか。
ラダさまが危惧しているのは、自身が「魔王」になってしまうことだったようだ。
「……もしかして、石化してたのも?」
「石化解除されたのが予定より二年早いと知った時には、愕然としたものです」
……あの時はいかにも被害者面してたくせに、自演だったとはよく言う。
そこまでやるとは、スキル【魔界】を持つ者が『魔王』になりやすいっていうのは、結構信憑性のある話なのかもしれない。
「事情は判りました。少なくとも、『魔王』出現までは迎えに来ないことにします。……ですが、『魔王』出現後は是非、ラダさまと対魔王鎧の力をお貸しください」
「ヤマダ様には、お手間をおかけします。……できたら、新たに召喚される勇者様達のことも気にかけてあげてください」
……長身パツキンのイケメンというのはちょっと気にくわないが、おれとて紳士の端くれ、相手の態度次第では多少面倒を見てやらないこともないかな。
……あ、そうそう、スキル【魔界】といえば――、
「――おれ一人、スキル【魔界】持ってる子知ってるんですけど、こっちに来てもらった方がいいですかね?」
「それって、モランシー・クロソックスのことですよね? 彼女のことはユーシーが考えてるようですので、聞いてみたらどうです? どうやら、神獣クラムボンの神域だったイーハ湖の畔に屋敷を購入したようですし――」
……は?
「――大司教を引退したら、妹と旦那を連れてそこに引っ込むつもりのようですよ? ……聞いてませんか? 『境界の山脈』の欠けた神域に、妹――モランシー・クロソックスの【魔界】を据えようという狙いですね」
……神獣クラムボンを倒した時点で、ユーシーさんがそんなことを画策していたなんてな。
まあ、モランシーちゃんのためというなら、それも有りか。
シレンタ村で、ヨメ達に囲まれてスローライフも悪くない。
それではお休みなさい、いい夢を――と言い残し、ラダさまはおれの夢の中から去って行った。
***
――深夜。目覚めたおれは、パンツの中の違和感に気がついた。
……あちゃ~、暴発してしまったか。
おれは、両隣で眠るシーラさまとナタリアちゃんを起こさないように布団から出ると、洗面所でこっそりパンツを洗った。




