345 ラスボスの影
――ってなことがあったんだよね。と、おれは回想シーンを締めくくった。
「過去改変って~、や~ばばばいいいよよよよね~~~」
「あのゲームっぽい世界はそういうことだったか、どうりでな」
温泉から上がったおれ、タナカ、ナカジマの三人。今は、大浴場前の休憩所でくつろいでいる。
「でも~ぼくは~~、身体40でも~気にしししななないいいから、顔80のモモモガリア様派かな~?」
マッサージチェアーで贅肉をぷるぷる揺らしているタナカ。
……コラ! おれは言ってないぞ? モガリアさんの身体が40なんて、一言も言ってないぞ?
「……『天国ネット異世界通信』シリーズの作者がモガリア様だったとはな。当時、少年三人組の一人アシヤを真似て、キャップを目深に被ってヤレヤレ……みたいなムーブかましてたのは、私の黒歴史の一つだ」
窓際にもたれて、栄養ドリンクを飲んでいるナカジマ。
……ナカジマはアシヤ派か。あいつ後半ホモっぽいムーブかますから、おれは当時少年ながら「ふぇ!?」となったけどな……、ナカジマらしいっちゃらしいが。
「ループのことを考えると、おれ達がRPG『モガリア・ファンタジー』に惹かれたから異世界に呼ばれたのか、異世界に行きたいからあのRPGに惹かれたのかって感じになるだろ?」
「~? ヤ~マダさん、な~に言ってんののののの……?」
「つまり、モガリア様が作ったゲームが乙女ゲーとかだったら、私達が異世界に呼ばれることも無かったかもしれないって話じゃないか? その辺の改変がないのは、あっちの世界で私達がそれなりにやれてると自惚れてもいいのでは?」
「まあ、妖精の魔石を手に入れたこと、第二王子の反乱を退けモガリア教会を救ったこと、スキル【肉体共有】を持ってたベリアス様をショタにして弱体化させたこととかは褒められたよ、モガリアさんに」
「あれれ~? でもさ~、ヤ~マダさんとモ~ガリア様が墓地で会えたのははは、ループだからでしししょ? この先もももっと未来で過去改変んんがあったったったってことじゃないいい~?」
「なるほど、タナカ氏の言うとおりだ。この先近い未来に、何かとんでもない事件が起きるということだろうか? ヤマダさん、モガリア様は何か言ってなかったのか?」
……とても言えない。
それなりにヒットしたRPG『モガリア・ファンタジー』。――あれから8年、満を持し発売した続編『モガリア・ファンタジー2』だったが、ヒロインだと思われていたキャラクターがNTR途中退場する奇抜な展開でレビューが大荒れ、商業的に大爆死したものだから【時間遡行】過去改変を繰り返している……とは、とても言えない。
「……政治的な、なんかおれ達には難しいアレかもな? 知らんけど……あーでも、『神獣クラムボン』を倒したのはやり過ぎだったみたいだ」
「あ~あ、やっちゃちゃちゃったたねねねね……」
「神獣はその神域でもって、魔族領から魔族の侵入を防ぐ防壁の役目を果たしていたわけだからな。――しかしまてよ、確かその場にネムジアの大司教様も居合わせたんじゃなかったか?」
……それよ。
千年前にも神域が他者に奪われる事件があった。
王国と魔族領を隔てる「境界の山脈」。その中央に位置するネムジア教会の「聖地ネムノス」は、元々は「蛇神ムシャウジサマ」の神域だった。
「聖地ネムノス」から始まったネムジア教会は、対魔族の最前線を長年担う傍ら、魔族領との交易を独占することで徐々に勢力を広げ、千年をかけて大陸からモガリア教会をほぼ駆逐したのだ。
そして女神ネムジアの正体は、顔40身体80の天才魔族! 彼女の意識は、ネムジア教会の大司教が代々継承する「大妖精の魔石」にダウンロードされるという。
だから、ネムジア教会の大司教――おれの好きなユーシーさんの正体は……。
「そのことでしたら心配しなくていいですよ?」
――と、声をかけてきたのは、風呂上がりで浴衣姿の我らがリーダー、ラダさまだった。
「そのことなら心配しなくていいですわよ?」
――と、なにやら言い直すラダさま。
「そのことは心配せんでもええで?」
「……日本語お上手ですねラダさま。それで……?」
「ユーシーは昔からあんな感じですから、ヤマダ様が心配するようなことにはなっていないと思いますよ、たぶん?」
日本語を褒められて満足したのか、おれにとって嬉しい情報を教えてくれるラダさま。
ユーシーさんが「大妖精の魔石」を継承したのはおよそ一年前のはずだ。ユーシーさんの昔を知るラダさまがそう言うなら、きっと昔からあんな感じだったのだろう。
……まだダウンロード前ということだろうか?
「リ~ダ~、こっちに残るそそうでですねねね?」
「ええ、英語のスタディも始めました。マサチューセッツ州のMTカレッジで、わたくしのパツキン勇者様がウェイトしているのです!」
日本に滞在すること四日、明日には異世界に帰還する今日になって、思い出したようにこちらにステイすると言いだしたのは、ラダさまだった。……どうも、始めからそのつもりだったみたいだ。
スキル【同時通訳】を持ってるわけでもないのに、ラダさまは日本語をそこそこ修得していた。……睡眠学習のようなものだと本人は言うが、だとしてもなにげに優秀な我らがリーダー。
とはいえ、英語はまだまだ心許ないので、しばらくはアメリカ在住のモガリアさんの世話になることになった。ネムジア教会の元聖女が、女神モガリアを頼るというのも奇妙な話だが、ラダさまもモガリアさんもたいしてこだわらないようだ。
「私達が召喚されてから8年、次の勇者が補充で召喚されるわけか。……リーダー、スキル【神託】とは、大学とかパツキンとかそんなことまで判るものなのですか?」
「わたくしのは、【神託】の進化形【大神託】なのです。より遠い未来を詳細に見たりすることもあるのです。――出会って一目で恋に落ちた二人が、数年後異世界で再会する! なんてロマンチック!」
「……おれは、二年後に迎えに来ればいいんでしたか?」
ちょっとめんどくさい気もするけど、ショタベリアス様達の様子もたまには見に来ないと心配だしな。
実家には……まあ、行けたら行く……かも?
「あれれ~? でもさ~、そのパツキン君は~、あ~と数ヶ月であ~っちに召喚されるんでしょ~? ……二年後ごごごで、いいいいの~?」
「……そそ、それは、そうなんですけど……、ヤマダ様のお手間をそんなしょ……しょっ中とらせるのもナンですし、ワタクシもこちらの世界のことが気になるというか、もっと見て回りたいっていうか~? だだだ、だいたい、二年ぐぐぐらい~おほほ?」
……なんだかあからさまに怪しい挙動だが、ラダさまもあれで若い女の子だ、デリケートでセンシティブな事情かもしれないし、紳士としてあまり突っ込んで聞くべきじゃないよな。
「ヤマダさんの手間はそれほどでもないだろう? 何か間違いがあってからでは遅い、二年間こちらに居なければならない理由があるならば言っておいてもらえないだろうか、リーダー?」
……おれは聞かないけど、ナカジマは聞くよ? そこの所どうなの、ラダさま?
「べ、別に理由なんて……イヤデスワー、ナカジマ様ったら何をおっしゃるやら、イヤデスワー、ホントにマッタク!」
――とか、なおもごまかそうとするラダさま。往生際が悪い。
ちょうどその時、女風呂から浴衣姿のナタリアちゃんとシーラさまが出てくる。
「タナカ、なにそれー!? シーラもやりたーい!!」
シーラさまがマッサージチェアーに食いついた。タナカがブルンブルンしてるのが面白そうに見えたらしい。
「ヤマダー、ボクは準備バッチリだワよーん? お尻の穴までキレイにしたしー」
……ほ、ほほう? と、無駄にエッチなナタリアちゃん、まだ夕食前だというのに――!
そんなどさくさに紛れて、そそくさと去って行くラダさま。
……ますます怪しい。




