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344 ラスボスの気配

 モガリアさんの思い描いた異世界ファンタジー。彼女の思うままに改変された世界こそが、おれ達の知るあの異世界だったと言うわけだ。

 そんな壮大な世界創世秘話が、実家の近所のファミレスで、モガリアさん本人の口から語られる。


 千年前に【時間遡行じかんそこう】した場面で一旦話を切ると、モガリアさんは少し冷めた紅茶に口をつけた。



「……えっと、それって……、モガリアさんが過去改変する度に、結構な人数が消えてますよね?」



「――あ、気がついちゃいました? 実はその通りです……。過去が変わり、誰かと誰かが出会わなかったり、うっかり命を落としたりしてしまえば、その人達から連なる幾万の子孫達はそもそも産まれなかったことになってしまう……」


「…………」



「……言い訳をさせてもらえるのでしたら、スキル【肉体共有】で乗り移る時、その死体の記憶に影響を受けやすいということです。私が長いこと乗り回していた死体――スキル【時間遡行】を持つアメリアは、目的の為なら手段を選ばない! みたいな、過激な女性だったようでして……」


「…………」


 理想のファンタジー異世界を創造するというモガリアさんの個人的な目的で、平和に生活していた人々をその世界ごと消してしまったという、取り返しのつかない事実に言葉を失うおれ。





「あまーい! おいしー!」

「うん、最高に美味だね。コレを作ったシェフを呼ぼう!」


 シーラさまとナタリアちゃんはパフェに夢中だ。

 ……それ作ったのバイトのおばちゃんかもだから、呼ぶのは止めたげて? 





 ……でも、そうだよな。だとしても――。



「――だとしても、出会うはずの二人が出会わなくても別の人と巡り会ったりして、結果的に新しく増えた人達だっているでしょうし……」


 例え取り返しのつかない行為であったとしてもおれは、モガリアさんの作ったあの世界が気に入っているから、どうしても擁護ようごせずにはいられない。

 目の前でパフェを食べるシーラさまとナタリアちゃんをはじめ、異世界で出会った大切な人達があんなふうに存在するのは、結局モガリアさんのおかげだったりする訳だから。



「……よかった、ヤマダさんが私と同じ考えで。一時は、あの世界を元に戻すべきかと悩んだりもしたのですが、それはそれで、今あの世界に生きている人達が無かったことになってしまう」


 やれやれだ。こんな話、他所よそじゃちょっと話せない。

 ……てか、今あの世界で生きる人達が、おれも含めて、”世界を元に戻す”なんて望むはずもない。





「じゃあなんで、ママはこっちに来たの?」


 パフェを平らげたナタリアちゃんが口を開いた。……どうでもいいが、口元にチョコが付いている。


 あ、そこに気がつくとは、さすがナタリアちゃん――と、前置きしつつ、モガリアさんが語り出す。



「実は、私のやっていること……過去改変に気付く人が現れだしたんですよね――」


 ――!?

 過去が変われば世界が変わる。普通は気付けるはずのない世界の改変に気付く者が現れだしたそうな……。

 最初は伝説やおとぎ話のような形で世界ににじみ出て、更に、それに触れた者が知るはずのない過去を夢に見たりする曖昧あいまいなものでしかなかったそうだが、中にはわずかな手がかりを頼りに原因であるモガリアさんにたどり着く者まで現れだしたという。


 そして彼等は願ったそうな、「どうしても変えて欲しい過去がある」――とかなんとか。 



「――私は、私にまでたどり着いたご褒美として、彼等の望むままに過去の失敗を改変してあげました。当然、そのことが新たな世界改変を生むことは判っていましたけれど、私は彼等に対して負い目がありましたし、願いを叶えることで彼等は思い出したことをすっかり忘れてしまいましたから、口封じの意味もあったわけです」


 とはいえそんなことはごくまれで、数十年に一度あるかないかといった出来事だったし、そんなモガリアさんを脅威に感じて排除しようとする者がいたとしても、過去を変えてしまえば為す術もない――そのはずだったが……?



「――ですが、長い歴史の中でたった二人、私のやっていることに気付いたうえで過去改変に対処した天才が現れました。一人はペリーヌというエルフの賢者、もう一人は魔族の少女ネムジア」


「ネムジア!? もしかして、ネムジア教会の女神ネムジア!? ……美と豊穣ほうじょうの女神でおなじみの!?」



「そういえば、ヤマダさんはネムジア教会の専属でしたね。ですけど、各地の神殿にある女神像は信用しない方がいいですよ? 本物のネムジアは、顔40身体80な女でしたから」


「……はあ」



「顔のことはともかく、まだ千年先の未来にいた私の存在を察知し、『境界の山脈』から蛇神ムシャウジサマを排除することで直接対決を挑んできた本物の……天才です。まあ、私の敵ではありませんでしたが」


 顔40でも身体80ならいけそうな気がする38歳おれ。仮に……あくまでも仮にだが、顔80身体40の女神様がいたとしたら、どっちを選ぶか悩ましいところではある。

 おっと、いかんいかん……。



「――しかし、あのブス……ネムジアが滅びたわけではないのです。彼女は自身の意識を”時間の影響を受けない次元”に保存することで、過去改変で世界が変わったとしても、その度に改変後の世界で生きる人物に意識をダウンロードする仕組みを構築しました。……あのブスは、まだあの世界にこびりついているのです」


「……え!? じゃあ、もしかしてネムジア教会にいたりして?」



「ダウンロード先は『大妖精の魔石』。――知ってますよね? ネムジア教会の大司教が代々継承している物です。つまり、王に次ぐ権力と最強のパラディン達を護衛に持つ大司教こそがネムジア本人なのだ――と、いつか自慢げに話していましたよ、本人が」


 ――大司教!? ネムジア教会の大司教様といえばユーシーさん!? 耳が泣いちゃうでおなじみの!?

 ……ユーシーさんの中に女神ネムジアが!? とてもそんなふうには見えなかったんだが……いや、おれの知るあのユーシーさんこそが、女神ネムジアだったってこと!?



「――ふむ。ママは、ネムジアから逃げてこっちに来たと」


「ナタリアちゃん、それは断じて違いますよ? それに、どちらかと言えば、私を目の敵にしていたのはエルフの賢者ペリーヌの方。――彼女の過去改変対策はおそらく単純です。過去が変わり自身が消滅する瞬間に、影響を受けない別人に人格を移すというやり方……だと思います」


「それだと、今はどこの誰が賢者ペリーヌか判らないってことですか?」



「いえ、知ってますよ? 今のペリーヌは、50年以上前から王弟ジーナスの中に」


「え、ジーナス君? 女の子だったの?」


「確かに天才って呼ばれてたらしいですけど、会った感じ、ただのスケベな爺さんでしたよ? ……あ、でもこの前死にましたけど?」



「ペリーヌのやり方は人格を乗っ取るわけではないのでしょうね。とはいえ、彼女がそう簡単に滅びるとは思えないのですが?」


「死んだジーナス君は赤茶色の目をしていたそうだよ、犯人から聞いたけど。たぶんニセモノだね」


 ……そういえばベリアス様も、「あの親父がそう簡単にくたばるとは……」みたいなことちょろっと口走ってたっけな?

 王弟ジーナスは、賢者ペリーヌの意識を受け継いではいるものの、それとは関係なく自分自身の目的とか野望を持って、今もどこかではかりごとをめぐらせてるってことか。


 ……じゃあ、賢者ペリーヌは? ジーナスの中でただ大人しく見守ってるだけってことはないよね?



「ペリーヌは渡り歩いた者達の人格を無理に乗っ取ろうとはせず、そのことで自身の人格も他者から影響を受けずに純粋なまま数千年保ち続けているのだと思います。――ゆえに、彼女の目的は最初からずっと、()()によって知らぬ間に改変されてしまった”世界を元に戻す”なのです」


 ここで言う邪神とは、要するにモガリアさんのことだろう、あながち……だね。


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