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342 女神は二度死ぬ

「ハイ、キマシタワー!! ヤマダさんの新しいハーレム要員、キマシタワー!!」


 タナカの叫びが、回想シーンを、旅館『玉月』の温泉に浸かるおれ達の元に再び引き戻す。



「待て、タナカ氏。そうと決まったわけでもないぞ? ヤマダさん、その森永もりながアリアという女性は、自らをモガリアと称したのか? それはまさか……」


「そう……女神モガリアな」



「はぁ? めがみぃー?」


「タナカ氏、あんたは仮にも教祖だろ? 女神モガリアを知らんとは言うまいな?」 


「死と再生を司るでおなじみの女神モガリア、ナタリアちゃんのママでもある」



「あっ! 確か、アメリカに拉致らちされたとかって、ナタリアちゃんが言ってたね」


「ナタリアさんは、母親救出のために”異世界に行けるスキル”を探して、娼館でバイトまでしていたんだったな」


「そんなモガリアさんがどういうわけか、日本のお寺でお墓参りをしていたんだよね。……で、なぜかおれの名前を知ってたり」


 そして彼女はこうも言った、今日ここに来れば会えると思ってたんですよね――と。




 ***




「今日、ここに来れば会えると思ってたんですよね」


「……おれにですか?」


 ジーパン姿の女性はモガリアと名乗った。本物だろうか? ……でも、こうして話してみるとすごく本物っぽい。



「あっちの世界のこととか、やっぱり気になると言いますか、ぜひ両方の世界を知る人に事情を知って欲しかったというか」


「……ナタリアさんが心配してますよ? アメリカに無理矢理連れて行かれたんじゃないかって」



「あっ、そっか……いけないいけない。そういえば、何も言ってませんでした。私も、一緒に来たエルフ仲間達もみんな元気にやってるって、ヤマダさんのほうから伝えておいていただけませんか?」


「いや……、直接話してくださいよ? 合わせる顔がないって気持ちは解らないでもないですけど、……この後ファミレスとかどうです?」



「え、ええーっ!? あの子、こっちに来てるんですか?」

    

「……? おれがここに来るのは知ってたみたいですけど、そいうスキルじゃないんですか?」



「あの子が――ナタリアちゃんがヤマダさんと一緒に日本に来るってルートは、今回が初めてですねー」


「……!?」



「ループものって知ってますか? ゲームとかアニメで一時期流行ったんですけど。実は、私が制作に関わったRPG、『モガリア・ファンタジー』もループものだったんですよー」


 ……そのゲーム、おれら並んだけど買えてない。てか、あんたが作ったんかい!


 それはそれとして、要するにモガリアさんは何らかの理由でループを繰り返していて、他のルートでもこの墓地でおれに会ったことがあるってことかな?



「ところでモガリアさんは、この墓地で誰のお墓参りだったんですか?」


「あ、ええ。すぐそこに私の……森永アリアのお墓があるんです」







 おれはモガリアさんと一緒に、近所のファミリーレストランへ入った。

 ほどなくして、ナタリアちゃんとシーラさまも合流。



「あ、ママ!?」


「あ、久しぶり、ナタリアちゃん。なんかごめんね?」



「……いいよ、薄々そんな気もしてたし」


 …………。

 ――えっ!? ……それだけ?


 ナタリアちゃんとモガリアさんの再会は、思っていたよりもずいぶんあっさりしたものだった。

 シーラさまに『だれー?』と聞かれたが、『女神モガリア様だよ』と言うのはなんだかややこしい気がしたので、『ナタリアさんの母様だよ』とだけ通訳しておいた。





 ボックス席に収まったおれ達四人。

 パフェとバイキング形式のドリンクの注文を済ませた。



「これから話すことは、ナタリアちゃんにも話したことなかったんですけど――」


 ティーポットから注いだ紅茶を一口飲むと、モガリアさんはゆっくりと話し出す。



「――今からだいたい20年前まで、私はこっちで児童向けの本とかを書く仕事をしてました。聞いたことないですか、『天国ネット異世界通信』シリーズとか? けっこう売れっ子だったと思うんですけどー」


 えっ、知ってる! 『天国ネット異世界通信』シリーズ! 学校の図書館にあったわ。

 確か小学生男子三人組が、ファンタジーな異世界と日本を行ったり来たりして大活躍する話だった気がする。


 ……20年前? 女神モガリアの降臨は確か千年前で、アメリカの異世界転移実験は16年前だったはず。ついでに、娘のナタリアちゃんは???(さんけた)歳。……なんだかまたややこしいことに?



「――ある日私は、お話のネタなど考えながら気ままにお散歩などしていたのですが、運悪くそこに一台の暴走トラックが突っ込んできまして……」


「……! まさかそれで、異世界に転生!?」



「――命は取り留めたのですが、全身麻痺の寝たきりに……」


「…………」



『ねー、なんていったのー?』


 モガリアさんは終始日本語で話している。スキル【同時通訳】を持っているナタリアちゃんはいいとして、シーラさまには通訳が必要だな。

 母様は有名な作家さんなんだって――とか、ちびっ子向けに当たり障りのない部分だけ伝えておくとしようか。



「あ、ごめんごめん。――エクストラスキル、コール【女神のギフト】!」


 ……!? エクストラ!?

 てか、【女神のギフト】!? なんか、聞き覚えのある……?





「あーやったー! スキルだー!」


「お嬢ちゃんのスキルボードから、いずれ憶える可能性のあるスキル【同時通訳】を有効化したよ」


 どうやら今ので、シーラさまは【同時通訳】を取得したらしい。

 ……すげー。モガリアさん、マジ女神。


 じゃあ続きを話すね――と、モガリアさんが続ける。



「――全身の感覚もなく、目も見えない、口もきけない。暗闇の中で自分がどこにいるのかも判らず、すべてを呪うだけの終わらない地獄のような日々……恐慌と狂気の狭間で私はしだいに――」


 ……重い。ちびっ子にも容赦のないモガリアさん。邪神かな?



「――そんな絶望の淵にあった私に、ある日突然の奇跡の瞬間が訪れました。なんと、この日本にあって、最初のスキルを取得したのです! その時にはまだスキル名も定まらなかったそれは、要するに『幽体離脱』! 動かない身体から幽体となって抜けだし、私は自由な空へと飛び立ちました!」


「よかったねー」

「よかった」


 ――と、素直な感想をもらすシーラさまとナタリアちゃん。

 おれも、一安心だよ。





「――さて、幽体となり自由を手に入れて、健全な心を取り戻しつつあった私が、アメリカのワシントン州辺りを気ままに飛んでいた時のこと、偶然にもとある興味深い情報を耳にしました。……それは『異世界転移実験』という、ファンタジー世界に憧れて作家にまでなった私が絶対に聞き逃せないワードだったのです!」


「へー」

「アメリカかー」


 ――と、解っているのかいないのか、感心しきりのシーラさまとナタリアちゃん。

 てか、アメリカってけっこう遠いよ? 気ままだな、モガリアさん。



「――秘密の地下実験施設で巨大な機械が轟音と共に異世界へと通じる小さな空間のゆがみを数秒間発生させる! 防護服を身に着けた男女のエージェント四人が、次々とそのゲートと呼ばれる空間のゆがみへと飛び込んで行った! ……で、幽体の私も、彼らを追いかけてゲートをくぐったというわけなのです」


「それが、16年前に始まったというアメリカの『異世界転移実験』ですか?」



「いいえ、それは19年前のこと。なかったことになった、最初の『異世界転移実験』。……なぜなら、あっちに着いた時、四人のエージェントが全員死んでしまったから。理由は多分、濃すぎる『魔力含有気体まりょくがんゆうきたい』のせいだと思う。防護服でも防ぎきることができなかったのね」


 アメリカの異世界転移実験にこっそり便乗して、幽体のモガリアさんは、異世界にちゃっかり一番乗りしてしまったというわけだ。


 そしてどうやらその時に、病院のベッドの上に残された森永アリアさんの肉体はひっそりと息を引き取ったということらしい。

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