338 『夕闇のドッペルゲンガー③』
――スキル【世界創造】発動!! 限定解除、【修復】!!
…………。
……おい? ……ほれ? ……オナモミ妖精?
…………オナモミ妖精クン?
(な~んだよ~?)
――【修復】だよ、【修復】! 協力しろよ!
オマエだってパン食っただろ!?
このお優しい犬耳の少年に、せめてもの恩返しだよ!
わーったよ――と、腹がふくれて眠そうなオナモミ妖精。
……スキルの「限定解除」が承認されたようだ。
――おっけー! おれは、観客席の壊れたベンチをスキル【世界創造】で【修復】してまわる。
「ダンナのスキルけ!? すげぇな」
……まじすげぇな。
このスキルは使える。いろいろ夢がふくらむぜ~。
この際危ない仕事からは足を洗って、田舎でのんびりスローライフとかも有りなんじゃないの~?
ともあれ、犬耳の少年も喜んでくれてるようでよかった。
これで清掃の仕事もはかどるんじゃねぇかな?
……さて、義理も果たしたし帰ろうか。
……どこへ?
思いついたのは大迷宮の休憩所だが、素手で行けるかな……?
ゴブリンとかをぶっ飛ばしつつ、棍棒とか素槍からハックアンドスラッシュかな?
――とか考えてたら、犬耳の少年に引き止められた。
***
おれは犬耳の少年誘われるまま、彼の家までついて行くことにした。
というのも、少年の亡くなった父親の衣服を恵んでもらえるとのことで、全裸で一文無しのおれはありがたくその申し出を受けることにした。
犬耳の少年は、ドリィと名乗った。
いろいろ世話を焼いてくれる恩人に、おれもそろそろ名乗らなければならないが、そうだな――。
(ケケケ……! なんだそりゃ? オマエ、改名すんのかよ~?)
頭の上に乗っかったオナモミ妖精の問いかけに、おれは小さくうなずく。
……ここから先は、おれだけの冒険だ。
本物のヤマダの物語には極力関わらないと、たった今決めた。
一緒に冒険したニセモノのラダさま……今は、『氷柱の勇者』ヘルガさんかな? ――の事とか多少の未練は残るけど、それらはすべて本物のヤマダに任せてきたから、振り返るのはもう止そうと思う。
(ラダさまとセックス、あきらめるのかよ~!?)
…………。
……それよりさ、往年の美人女優、木ノ花ルルの若い頃にそっくりのルルさんのいるエッチなお店『ハニー・ハート・メスイヌ』王都本店、興味ないか? はっきり言って、おれはある。
(エロ紳士歓迎~! ってヤツだな~。そういえば、オマエは寝てたから知らんだろうけど、オレサマは見たぜ? その秘技の一端をな~、その名も『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』!!)
――な、なにぃ……!? 『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』だとぉ……!? おれの寝ている間にそんなことが……!?
(口ではとても説明できないが~、とにかくすごかったぜ『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』!! ケケケ……!)
――くっそ、おれってヤツは肝心な時にいつも……。
だが、おかげで迷いが晴れたぜ。
――新しいおれの当面の目標は、お金を貯めて、ルルさんのいる『ハニー・ハート・メスイヌ』王都本店に乗り込むぜ! で、今度こそは有無を言わさず、完膚なきまでに童貞卒業だ!!
(賛成するぜ~ケケケ……! オマエ、ちょっと変わったなヤマダ……いや――)
「おれの名前はヤマギワ、単独行動の冒険者だ」
おれは少しだけ考えて、そう名乗った。
王都西門近く、メインストリートから少し奥まった所にある小さなパン屋がドリィさんの家だ。
昨年父親が亡くなり、今は姉のウルラリィさんが一人で店を続けているという。
幸い、ウルラリィさんの焼くパンの評判は上々で、地元住民や学院生、大迷宮に通う冒険者などに広く愛されているのだが、どうしても手が足りず経営規模を縮小せざるをえなくなっている状況。
昼間は店を手伝ったりしていたドリィさんも、少しでも姉の助けになればと、夕方から清掃のアルバイトなど始めてみたというわけらしい。
「若いのにえらいなぁ、ドリィさんは」
「えらいのはおねぇちゃんだで。早起きしてパンを焼いたり、めんどうな客の相手したり、オイラの面倒みたりでよ」
「パン屋さんだよね? お客さん、めんどうなんですか?」
「冒険者も学院生も、近所のおっさんもどいつもこいつも、ニンゲンはいっつも発情してっから」
「ほほう。ナルホドー」
「……言っとくけどダンナ、おねぇちゃんになんかしたら……噛みちぎるど?」
「――噛みっ!? いや、おれ、紳士だし、なにもしませんよ? ……こう見えて」
「……見た目は、仕方ないでな」
紳士らしからぬ、手ぬぐいを腰に巻いただけの半裸おれ。
夜とはいえまだ人通りの絶えない道すがら、スキル【認識阻害】を使用してはいるが、オナモミ妖精やユーシーさんのように姿を隠せるほどの効果はないのだ。とほほ……。
「おねぇちゃん、ただいま!」
「あ、おかえりなさ――ヒィィィィ!!!!?」
ドリィさんに続いてパン屋に入店したおれの姿を見て、犬耳の美女が甲高い悲鳴を上げた。
彼女がドリィさんの姉、ウルラリィさんに間違いないだろう。
おれはパン屋の二階の部屋で、ドリィさんが用意してくれた服を身に着ける。
元々は、ドリィさん達の亡くなったお父さんのものだという。……ありがたい。
これで身も心も紳士なんじゃないの? ――とばかりに部屋を出ようとして、階下から聞こえてくる声にふと足を止める。
「――よく知らない男の人を家に連れて来るなんて、もし悪い人だったらどうするの!?」
「だけんど、服まで盗られちゃってかわいそうだで……それに、ヤマギワは悪いヤツってニオイじゃねぇし……」
「まあ確かに、童貞っぽいニオイだけんど……」
「おねぇちゃん……!?」
「あ、いえ……そうじゃなくって、ドリィちゃん勘違いしてるでしょ? あの人の触覚や背中の羽根は私達の”耳”とは違うの。魔族の血を引いてる同じような境遇の人って思ったんでしょ?」
「え!?」
「あれは多分、胸に魔石を埋め込んだ副作用ね。後先考えない冒険者とか、罪人がよくやるの。お肉屋のロミオさんとかも”尖った耳”が付いてるけど、昔傭兵をやってた時にワーウルフの魔石を埋め込んだんですって、知ってた?」
「……そっか、違うのか。なんとなく、世の中に馴染んでないニオイだったけんども……違うのか」
「とにかく、男の人には気をつけなさい? ドリィちゃんも年頃の女の子なんだから」
「オイラは別に……、おねぇちゃんの方こそ――」
「邪魔するぜ、ウルラリィ~!!」
――おっと、二人の会話に思わず聞き耳を立ててしまったが、どうやらお客さんが来たようだ。会話を打ち切り、「いらっしゃいませ」と客に応じるウルラリィさん。
完全に出て行くタイミングを逸してしまったようだ。
それにしても、ドリィさんが女の子だったとは驚いた。
オイラとか言ってるからそんなこと思ってもみなかったけど、確かに整った容姿をしているし、あと数年もしたらウルラリィさんに負けない美人に成長するかもしれない。
うっかりボディタッチとかして、キャー! みたいなことにならなくてよかった。
「キャーッ……な、なにをするだ……!?」
――あれ!? 今のはウルラリィさんの悲鳴か? 何やら下でもめているようだ。
ドリィさんが言ってた、めんどうな客ってやつだろうか?
「おい!! おねぇちゃんに触るんでねぇ!! 手ぇ離すだ!!」
「やれやれ、キミたち暴力は止めなさい? ただ私は貸した金を返してもらえればそれでいいんですから?」
うわぁ……借金取りが、子分を連れてやって来たってところかな?
こんな時は、いいところを見せて姉妹にアピールしたいところだけど、節度を守った取り立てをされているうちは、おれの出る幕じゃないかな?
下手に手を出して、かえって大事になったら目も当てられない。
……ビビってるわけじゃないぞ!?




