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337 『夕闇のドッペルゲンガー②』

 気がつくとおれは全裸だった。

 賑やかだった円形闘技場の観客席にも夕闇が迫り、吹く風は冷たく素肌をさいなむ。

 

 ふと見れば、犬耳の少年が怪訝けげんそうな顔で呼びかけている。



 ……てかなにこれ、どうなってんの!?


 実はおれ、「ヤマダの失われた8年間の記憶からなるもう一人のヤマダ」だったりする。

 昼間の決闘のさなかヤマダがすべての記憶を取り戻したことで、おれという人格は消えてしまったものだと思ったのだけど……もしかして、二つの人格が上手いこと統合されたとか?



 ……まさか、おれの方の人格がヤマダの身体を乗っ取ってしまった……なんてわけじゃないよね?


 よしんばそうだったとしても、円形闘技場には『紳士同盟』の仲間達やユーシーさん、マデリンちゃん達も居たはずで、全員がおれを忘れて帰ってしまうというのはちょっと不自然な気がする。





 とりあえず立ち上がろうとするも、足がもつれてよろけるおれ。


 ――ぐぐ~ぅ!

 腹が鳴る。

 犬耳の少年が小柄な見た目らしからぬ強い力で身体を支えてくれたおかげで転倒は免れたが、その時初めて自分が空腹でふらふらであることに気がついた。


 ……いや、そう言うレベルじゃ無いな。今のおれ、目の前の犬耳にむさぼりつきたくなるほど飢えている。

 けっこう危ない状態なんじゃなかろうか?


 たまらず、会ったばかりの少年に食い物をねだってしまうおれ。とほほ……。



「しょうがない、ちょっと待ってな?」


 そう言い残して背を向ける犬耳の少年。

 ――!? まじか!?

 こんなみすぼらしい全裸のおっさんに、食い物を恵んでくれるってか……!?

 

 やばい、泣きそうだ。世の中、案外捨てたもんじゃないかもしれない……!!



 ――ちょうどその時だった。

 少し離れた場所で盛り上がっている男達の声が、おれの耳にも届いた。





「よし、決めた! 俺は聖女様の残したこのクソを……食う!!」


「お、おお!!」

「勇者か!!」







 おれは思わず、「クソ以外で頼む!」と少年の背中に呼びかけていた。

 だがしかし、正直今ならセリオラ様のクソならまあ食えそうな気がしないでもない。


 ……いやいや、まてまておれ、しっかりしろ! 弱気になるな! クソはダメだろ、人として!





(食わず嫌いは、カンシンせんな~! ケケケ……!)


 ――オナモミ妖精、居たのかよ!?

 

 ……ん? 

 


 ……んん!?

 およそ20㎝ほどの生意気そうな小人が、昆虫のような羽根をブンブンさせなが目の前に現れる。

 おれと同じで実体を持たず、ヤマダの頭の中をブンブンするだけだったはずのオナモミ妖精が、生身の身体で滞空している。

 

 ……ってか、実体!? オマエ、復活したのかよ!?



(ケケケ……! オレサマはもはや自由だ!!)


 ……いったいどうなってんだ? 生身のオナモミ妖精といい、全裸のおれといい……あ、今のおれは要するに「ヤマダの失われた8年間の記憶からなる~」なんだが――。



(判ってるって! 本物のヤマダならたぶん今頃、オンナの所じゃねーか? 追いかけようぜ、セックスしてるかもじゃん?)


 ――本物? そ、そうか……おれがヤマダの身体を乗っ取ったとか、人格が統合されたってわけじゃないんだな?

 ちょっとだけホッとしたぜ。


 …………。

 ……じゃあ、この身体って何なんだ?



 ……って、オナモミ妖精? オマエ、どこ行くの?

 飛んでいくオナモミ妖精を目で追うと、ヤツはセリオラ様のクソの周りで盛り上がっている男達の方へ向かっていく。


 おいおい、見つかったら騒ぎに……いや、見失った。

 なるほど、スキル【認識阻害】を使ってるのか。……しかも無駄に高性能。おれでも、目を凝らさないと見失ってしまいがちだ。



(せっかく手に入れたカラダだしよ、オレサマも味見するぜ~! 聖女様のセイオブツってやつ~?)


 ……あほか! クソだぞ!?

 食わず嫌いとかそういう問題じゃねーんだよ、食い物じゃねえから!?





(ウゲーッ!! なんじゃこりゃ……!!?)


 ほれ、言わんこっちゃない。

 バカだね~…………ん!?

 

 …………!!!!? 

 おれの口の中一杯にやるせない風味が広がる…………これは…………未知の感覚…………てか、これって…………オナモミ妖精のスキル【共感覚】!!?

 オナモミ妖精が今まさに味わっている感覚が、おれの味覚と共感してや……がっ……!!



 ――おぐっ……おうぇぇぇぇぇぇっっ……!!!!







「ねえちゃんの焼いたパンは王都一なんだぜ? まあオイラは毎日食ってるから……って、いいオトナがなにも泣くことないじゃないかよ」


「ぐすん……ありがとう……ありがとう……」


 おれは、犬耳の少年が持ってきたパンの欠片をほおばり涙を流す。

 困惑した様子で彼が差し出した水筒の水がまた嬉しくて涙を流す。

 最近涙もろくていけない。


 オナモミ妖精も、おれの黒焦げ頭の上に乗っかって小さいパンの欠片をかじっているが、どうやら少年には見つかっていないようだ。






 

 それにしても……、「限定解除」だって? 何それ、カッケー!?



(スキル【世界創造ワールドクリエイト】はオレサマの管理下にあるじゃん?)


 ……いや、知らんけど。そうなんか?

 でもまだ、【世界創造ワールドクリエイト】はアップデート中だったよな……確か、17年とか?



(チッチッチッ、よく見な~? 残り16年だろ? アップデートは順調に進んでるってワケよ~!)


 あっれホントだ、いつの間に――! 通信環境が改善されたとか?



(答えはカンタン! 静止した時間「走馬灯モード」の中でも、どういうわけかアップデートが進行してたからだぜ~!)


 ……ああ、あの時か。

 今日の決闘でベリアス様にぶっとばされてヤマダが意識を失ってた時だよな?

 ヤマダが記憶を取り戻すことで、おれの人格が消えてしまうと思ったもんだから、おれは正直相当ビビってて……『走馬灯モード』で時間が静止しているのをいいことに、たっぷり栄光の人生を振り返って観たよな? それこそ、時間も気にせずに。



(そうしてアップデートが進んだおかげで、スキル【世界創造ワールドクリエイト】のステップ1と2が「限定解除」できるようになったってワケよ!)


 要するに、【世界創造ワールドクリエイト】の効果の一部を使用できるってコトだな? えーっと、ステップ1と2ってか?



(スキル【世界創造ワールドクリエイト】限定解除――ステップ1【複製ふくせい】! ステップ2【修復しゅうふく】! だゼ~!)


 ――【複製】!? じゃあまさか、この身体って……【複製】? 生身の人体の!?



(オレサマのこの身体もな~?)


 ……まじか。

 すげぇな……、なんだよそれ? ……そんなスキル、ありなのか?



(「素材」として、「ウナルぴょん」ってヤツと「アビススパイダー」の死骸を使ってるんだぜ~? それでも、ココロとかタマシイまでは【複製】できないからよ~、たまたま今回はオメーのココロとタマシイがあったから上手くいったってわけよ!)


 ……まじか。

 ココロ? タマシイ? ……まじか。



(ココロは、「もう一人のヤマダ」っていう人格で~、タマシイっていうのは、「レベル25から40までの経験値」とか……ってオメー、な~にメソメソ泣いてんだよ~?)





 ……消える覚悟をして、おれはもうてっきり終わりなんだと……思ってて、……正直本当は……すごく怖くて、寂しくて……。

 


 ……でもまだ続きがあるって判ったから……どうしようもなく、泣けて……。嬉しくて、泣けて……。


 

 ……ありがとう、オナモミ妖精。



(……おいおい、犬耳のガキンチョが気味悪がってるぜ~? ケケケ……!)

  






「ぐすん……ありがとう……ありがとう……」


「……そ、それから、こいつで隠すもん隠しなよ」


 おれは、犬耳の少年に手渡された手ぬぐいをありがたく受け取った。

 それで先ずは濡れた頬を拭い、その後腰に巻き付けた。

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