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334 怒れる紳士

 ――先生! 来ちゃった!

 そう言ってナカジマのアパートを訪れた女子生徒小野冬香(おのふゆか)を、ナカジマは困惑しつつも部屋に迎え入れた。

 融通の利かないタイプで容姿もイマイチなナカジマにとって、生徒が部屋を訪ねて来ることなど初めてのことだったので、正直嬉しかったのだという。


 何か相談事でもあるのかと話を聞くが要領を得ず、とりあえず自慢のコーヒーで彼女をもてなす。


 ――苦ーい! 砂糖とミルクください。

 とか言い出す彼女に、少しだけがっかりしたナカジマ。



 ナカジマの持っているゲームはRPGばかりで、冬香の好みには合わなかった。

 そこでナカジマは、彼女をなかば無理矢理誘って、学生時代にはまったテーブルトークRPGを始めた。


 ――えーっと、「井戸に毒を入れる」?

 とか言い出す彼女に、もしかして楽しんでないのかな? と、さすがのナカジマも気がついたそうな。



 夜6時、ナカジマはパスタを茹でた。


 ――なにコレ美味し~! 先生、先生よりパスタ屋の方がむいてるよ~!

 とか言われて、その時は少し気をよくしたナカジマだったが、後で思い出して落ち込んだという。



 夜8時を過ぎても帰ろうとしない冬香に、焦り始めるナカジマ。

 家に連絡をしようとすると泣き出す始末。


 彼女が風呂に入っている隙に、家に連絡をするが留守電になってしまう。

 悩んだナカジマは教頭に連絡をとる。


 既に酔っ払っている教頭から「家まで送りなさい」と言われて、ごもっとも! と思ったそうな。


 

 ちょうどその時だった、ナカジマの部屋に警察が押し寄せたのは。





「……幸い、私の疑いはすぐに晴れたが、私は職場を去ることになった」  


 地面に座り込んだまま、ナカジマがかつて教員を辞めることになったエピソードを語る。




 ***




 魔法【爆発】の直前、おれはスキル【遅滞】を発動した。

 先ずは抱きついているゴトウをなんとかしないとどうにもならない。


 ――スキル【劣化】! 腕を掴み、ゴトウの静止した時間を急激に進める。

 瞬く間に枯れ木の様に朽ち果てたゴトウの腕を振り払って、おれはナカジマに向かって超スピードで【飛翔】した。



 ――ドゴゴォォォォン!!!!

 間一髪、おれは爆風に背中を押されながら、ナカジマの顔面をぶん殴る! ヤツのメガネが壊れて飛んだ。


 尻もちをついたナカジマをその場に残し、おれはヤツの背後の木陰に向かってスピードを上げていく。


 月が明るいのかとばかり思っていたが、どうやらスキル【暗視】が効果を発揮していたようだ。ナカジマの背後の木陰には、たった今魔法【爆発】を放ったばかりの『本の勇者』アマミヤの姿がくっきりはっきり見えていた。


 アマミヤの首に「神殿騎士の剣」を突き付けるおれ。



「こ、降参……、勘弁して」


「……理由を説明して欲しいんだけど?」

 

 

「ぼ、僕のスキル【借用】は知ってるよね? 他人のスキルを【借用】して使用できるわけだけど、その条件として対象の血液200ccが必要なんだよね? つまりはそういうこと。……で、でもすべてはナカジマさんの依頼なんで、詳しくは本人に聞いてもらえますかねー?」


 ナカジマの目的は、失ってしまったレアスキル【次元切断】をおれに再取得させることだ。そのためにわざわざ、人為的ループのような手の込んだことまでやらかした。

 そしておれが【次元切断】をまんまと再取得した時は、そのスキルをナカジマが自由に使うため、アマミヤに【借用】してもらう必要があったということだろう。


 ……つまり、ナカジマのヤツ、おれが嫌がる様な陰惨いんさんなことに【次元切断】を利用しようとしていたってことか?



 おれが首に突き付けていた剣を離すと、アマミヤは一瞬でカラカラに干からびたゴトウのかたわらに【空間転移】する。そして、ゴトウを連れてもう一度【空間転移】して消えた。


 ……どうも胡散臭うさんくさいよな、『本の勇者』アマミヤ。てか、ゴトウ達との関係とか聞きそびれたし。

    



 ***




 おれは壊れたナカジマのメガネを拾った。

 オナモミ妖精に呼びかけると、おれの手の中で元どおり【修復】されるメガネ。スキル【世界創造ワールドクリエイト】限定解除ステップ2の効果だ。


 地面に座り込んだままのナカジマにメガネを手渡す。



「……!? どうやったんだ、今の?」


「おれのことはいいんだよ! それより、スキル【次元切断】で結局何をしようとしてたんだよ!?」



「……早い話が異世界転移さ。要するに、日本への帰還だ」


「はぁ!? だってナカジマ氏、前に帰りたくないって言ってたじゃん?」



「帰還と言っても一時的なものだ。目的が済んだらまたこちらに帰って来られなければ意味が無い」


「……なるほどね。おれが【次元切断】を再取得できれば、日本へ行ってまたこっちに戻ってくることができるってわけね」



「いや。私は、ヤマダさんが取得したスキル【超次元三角】でも同じことができると踏んで今夜仕掛けたんだが……できるだろ?」


 ――え!? ……さあ? そんなことできるのか、【超次元三角】で?

 でもまあ確かに、【超次元三角】で開く次元の外、あの「次元の隙間」のその更に向こう側は地球どこかだったりするのかもしれない。



「試したこと無いから判らんが、仮に【超次元三角】で日本に一時帰郷できたとして、それでどうするんだよ? まさか、ガラス製品とか電卓とか輸入して一儲け……とか考えてないだろうな!? もう一発、ぶん殴るぞ!?」



「バカな……理由は今話したとおりだよ。私をおとしいれた生徒達と私を見捨てた教師達への復讐さ! ……復讐は何も生まないとか、いつまでも復讐に囚われていてはどうとか、ヤマダさんもタナカ氏も言うんだろうな?」


「…………!?」



「――でも私は……私のイチモツは復讐なくして二度と立ち上がることがないだろう! 復讐なくして何も生まない! 復讐なくして幸せにならない! 復讐なくしては一歩も前に進まないと、私と私のイチモツは今なお苦しみ続けている!! きっとヤマダさんやタナカ氏は止めるんだろうが――」


「……別に止めないが?」



「そう言うだろうと……、え?」


「え? ……別に止めないぞ? タナカ氏がどう言うかは知らないけど、おれは別に止めないし、日本までの送迎そうげいもやってやってもいいよ? 手は出さないけどな」





「……私に罠を仕掛けたその女子生徒小野冬香と仲間達だが、その動機が滑稽こっけいなんだ。なんでも隣のクラスの担任が素敵だったからという理由で、私が特別何をしたとか気にくわなかったとかそういうことではなかったらしい…………まったく、他人の人生をいったい何だと思って……くそっ…………くそっ……」


「……理由なんてだいたいで別にいいよ。治るといいな、イチモツ」


 スマナイ……とつぶやいて、ナカジマは鼻水をすすり上げた。


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