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333 理不尽な結末

 おれの失われていた最後の記憶、今からだいたい四ヶ月前に「魔族領」であった出来事によると、おれは魔族の美人姉妹のハニートラップ的な罠にはまって、せっかく40まで上げたレベルを1に戻されてしまったのは間違いなさそうだ。

 ……おまけにその肝心な、ハニーな部分について寝てたから全然憶えていないという痛恨の極み!


 でも待てよ? おれ達を仲間に引き入れようとするなら、レベルを下げてどうする? 記憶だけ奪った方が役に立つと思うけど……、ミズキさんが王弟ジーナスにされたみたいに。


 あるいは、おれ達を無力化させるのが目的だったのか? 確かに、おれがレベル40で取得したスキル【次元切断】はかなり危険なスキルだった。うっかり関係ない人達まで巻き込んで大量虐殺してしまいかねない、使い所にいちいち悩むスキルだ。……正直、無くなってホッとしているまである。



 でもまあそのことはさておき、おれ達はあの夜、ナカジマの【空間転移】で美人姉妹の屋敷から脱出した。

 ……そう、【空間転移】である。


 タナカはおれ同様にがっつり経験値を吸われてレベル1に戻っていたようだが、ナカジマはあの時点で【空間転移】を使用していた。

 ヤツがあのスキルを取得したのはレベル16だったはずだから、おそらくナカジマはほとんど経験値を失うこと無く罠を脱したに違いない。


 そしてあの時までは、おれもタナカも記憶はまったく失っていなかった。

 要するに、おれとタナカのレベルを奪ったのは魔族のハニートラップだったが、記憶を奪ったのはその後に起きたまた別の事件だったというわけだ。


 ナカジマの【空間転移】で森に逃げたおれ達は、明け方もう一度別の場所に【空間転移】した。

 正直、おれは寝ぼけていてその辺の記憶は曖昧あいまいなのだけど、あの場所は確か『人形の勇者』イノハラと『本の勇者』アマミヤが拠点にしている古い砦だったように思う……。



 次に目覚めた時、おれ達は全裸で最初の森の中に居た。

 記憶もレベルも失い、あたかも初めて異世界にやって来たかの様に、暖かな日差しとさわやかな風の中でただただ途方に暮れていた。



 そして今夜、ナカジマがおれに仕掛けてきたのは、おれの記憶が完全に戻ったことを悟ったからだろう。

 ――と、なれば答えは一つだ。





「ナカジマさん、おれとタナカ氏の記憶を奪ったのは、あんたと『勇者互助会』の仕業だよな!? こっちに来てから8年間のおれ達の記憶を奪い、全裸であの森に放置して人為的なループをたくらんだ! そうだよな!?」


 おれは目の前に居るゴトウと戦いながら、その後ろに居るナカジマに問いかける。



「ああそうだ。アマミヤさんに頼んで、【エナジードレイン】を使ってもらった。断りも無くそんなことをしたことは謝罪する」


「自分だけは、記憶もレベルも元のままだったってことかよ!? 一体何がしたいんだよ、あんたは!?」



「……私は、ヤマダさんのスキルが欲しかったんだ」


「――!? スキルだと? それがなんで、記憶を奪って再スタート――人為的ループになるんだよ!?」



「ヤマダさんは『魔族領』でレベルを失った。せっかく手に入れたスキルも全て失ってしまったんだ。……まったく迂闊うかつで間抜けな話だ」


「ほっとけ!」



「知ってのとおり、取得するスキルは様々な条件に影響される。私は、ヤマダさんにもう一度あのスキルを所得してもらう為に、できる限り一周目と同じ冒険をしてもらう必要があった」


「うそだろ……、そこまでするか!?」



「それだけ貴重なスキルだったんだよ、スキル【次元切断】は! 伝説って呼ばれるぐらいには、取得の難しいスキルだった! 【次元切断】のために、私自身もレベルを1に戻して慎重に事を運んだつもりだったのに……」


「……あんな危険なスキルで、あんたは何をする気だ!?」


 それは……と、ナカジマが応えようとした時、ゴトウがいらついた様子で口を挟む。



「……おい、いつまで俺を無視する気だ……!? ぼやぼやしてると、一瞬で心臓えぐっちまうぞ?」

 

 ――と、強気な発言をしているゴトウだが、実は既に身体中ズタズタの満身創痍まんしんそういだったりする。……てか、おれがやりました。

 というのもいかに天魚素材の武器を装備したとはいえ、「モチモチの剣」で【物理吸収】を【無視】できるなら、もはやゴトウはおれの敵じゃあなかったというわけだ。


 スキル【遅滞】を使うまでも無く、攻撃を先読みしつつ隙をついて切り刻む。

 その先読みは、時にスキル【危機感知】が見せる一瞬先の未来を超えて、更に速くおれの初動を促す。……そうか。おれ、ちょっと強くなってる……!


 ゴトウのヤツ一度死んだと言うだけあってほとんど出血していないが、左腕とか首の傷はかなり深く、ちょと強く引っ張ったらとれてしまいそうだ。



「あー、もしナカジマとか『勇者互助会』に言われてやってるなら、この辺にしとかないか? おれ的に、あんたを今更どうこうって気分じゃないっていうか、そんなことよりナカジマの野郎をじっくり問い詰めたいっていうか……まあ、ヨシザワとヤグチをやったのは確かにおれなんだけども」


「……そんなこと俺の知ったことじゃねぇ! 同じ転移者だっていうのに、あんた等ばかりが『オーラ』を使うなんて不公平じゃねぇか?」


 ――なんだコイツ? さっきは、仲間の仇討ちみたいなこと言ってたくせに。

 無口なイメージだったゴトウだが、おれを無視してよくしゃべる。……「屍人しびと」って言ってたっけ? 同じアンデッドでも、意志薄弱で命令されたこと以外は単純な行動を繰り返すばかりの「ゾンビ」とはかなり違った印象を受ける。



「……だが今の話は妙に納得がいったぜ、スキルの取得条件の話さ。チビでひ弱だったあの頃、理不尽な暴力に晒される日々、あのクラスの中で俺ぐらい無敵の身体を欲したヤツはいなかったはずだ。……スキル【物理吸収】、【魔法反射】、【状態異常無効】、【無呼吸】――こっちに来てから背も伸びて、俺にナマ言うヤツはとうとう誰もいなくなった。……それでも、この世に不公平と理不尽はなくならねぇ! もっとだ、俺は望む! 俺は欲す! まだまだ俺は強くなる! すべての不公平と理不尽をこの俺がねじ伏せる! ――スキル【超人化ビルドアップ】!!」


 スキルでステータスを大幅に上昇させた筋肉ムキムキのゴトウが向かってくる。

 ……ダメだこりゃ。彼にとっておれは、彼自身の物語に登場した理不尽な敵でしかないらしい。始めから、話し合いの余地など無かったようだ。


 仕方が無い、首を落として終わりにしよう――と、おれも一歩前に踏み出した。





 ――みょん……!!

 何か柔らかいモノを踏んづけてバランスを崩すおれ。


 ……!? 見れば、足下に【アイテムボックス】が開いていた。

 生物は侵入禁止の亜空間に、おれの踏み出した右足が少しだけ沈んで跳ね返される。……やりやがったな、ナカジマめ!!?


 おっとっと……とバランスを崩したおれに、ゴトウが正面からがっちり抱きついてきた。

 ――げっ、キモい!! そして苦しい……! 【超人化ビルドアップ】した超パワーでおれの身体を絞り上げるゴトウ。



「……撃てぇーーー!! 俺ごと撃てぇぇぇーーー!!!!」


 ――!!? な、何を言ってるんだこの男は!!?

 やめろバカ!! 男と心中なんてゴメンだ、バカ!!


 ……!! いや違うぞ。ゴトウには【魔法反射】がある。


 ……しまった。油断した――スキル【危機感知】反応!?

 おれとゴトウの周囲が範囲魔法の標的に入ったことをスキルが知らせてくる。……バ、バカ!! 止めろ!! 止めろ~~~!!





 ――ドゴゴォォォォン!!!!

 魔法【爆発】の閃光が夜の闇を白く染める。

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