332 限定解除
――「限定解除」? 何それカッケー!?
(スキル【世界創造】はオレサマの管理下にあるじゃん?)
……いや、初耳なんだが。
オナモミ妖精はそう言うが――、そうなの?
でもまだ、【世界創造】はアップデート中だったはず……確か、残り17年だっけ?
(チッチッチッ、よく見な~? 残り16年だろ? アップデートは順調に進んでるってワケよ~!)
あっれホントだ、いつの間に1年も――! 通信環境が改善されたとか?
(答えはカンタン! この静止した時間「走馬灯モード」の中でも、どういうわけかアップデートが進行中だからだぜ~!)
へーまじか、そんなんで1年も進むもんかね……ん? てか、1年間!? それってまさか……?
(そーそー! 今日の決闘でベリアスにぶっとばされてヤマダが意識を失ってた時だな~!)
おいおい……あれ、マジだったの!? マジで1年間も「走馬灯モード」してたのあの時!?
確か、おれの砂を噛む様な人生を一通り振り返って観たとか言ってたっけ? ……物好きだな。
(まあそう言うなって! 「もう一人のヤマダ」だって、ココロの準備ってやつがあっただろうさ~!)
……心の準備?
(消える前のな~? 後半、こっちの世界に来てからの記憶は泣きながら見てたゼ~!)
…………。
そりゃそうか。
あっけらかんとしてたけど、あいつ……。
(まあそのおかげで、アップデートが進んだから、スキル【世界創造】のステップ1と2が「限定解除」できるようになったってワケじゃんよ!)
要するに、【世界創造】の効果の一部を使用できるってコトだな? えーっと、ステップ1と2ってか?
(スキル【世界創造】限定解除――ステップ1【複製】! ステップ2【修復】! だゼ~!)
おおお、なんかスゲェ! お宝的なモノとかレアな武器を【複製】して大儲けできちゃったり!?
(「素材」がないと「廃棄妖精」どもを消費するけどな~? でもまー、食うには困らんかもナ、あいつらほっとけば勝手に増えるし~?)
ひやっほう、オナモミちゃ~ん! これからも仲良くしようぜ!
冒険者とか勇者見習いとか危ない仕事からは足を洗ってやる! おれを慕ってくれる女の子達と田舎でのんびりスローライフしちゃうぜ~!
(オイオイオイオイ、周囲をゴブリンに囲まれて、頭上からはでっかいクラムボンの死骸が落ちてきてるってのに、気ぃ抜いてんじゃね~ぞ!?)
そうだな今は、仕掛けてきているナカジマとおそらくはもう一人、ヤツらをとっちめてやらなきゃ始まらんな。
おれの目の前には、一本の「神殿騎士の剣」がある。
手に取ってみるには「走馬灯モード」を抜けなければならないが、見た感じは実物っぽい。
……どうやったんだコレ? 記憶にある剣の造形を【複製】で実体化したとか?
(いいや、【修復】の方だゼ~? なんでか知らんケド、ごく最近誰かが捨てたっぽい折れた剣がすぐそこに落っこちてたからよ~、ステップ2【修復】で元どおりに直してみたってワケよ!)
へー、落っこちてたのか。
まあ確かに、この谷底って人知れず決闘とかするにはいい場所かもな?
ともかく、突然の襲撃に武器なしは心許なかったからな、ホント助かる。
ありがたく使わせてもらうぜ……!
「走馬灯モード」を抜けると同時に、スキル【遅滞】発動!! おれを中心にゆっくりと流れ始めた時間の中で、目の前の「神殿騎士の剣」を掴んだ。……ふむ、確かな手応え。
スキル【飛翔】の羽根を広げて、周囲に群がるゴブリン達をすれ違いざまに斬り捨てながら低空飛行ですり抜ける!!
――ズゴゴゴゴォォォォン!!!!
背後で、スキル【遅滞】の範囲から外れたクラムボンの巨大な死骸が、ゴブリンどもを押し潰して谷底に落下した。
谷間を満たす土砂と土煙に背中を押されるように、崖上を目指し【飛翔】するおれ。
……居やがった!
感情の読み取れないメガネで崖下を見下ろすナカジマの背後に回り込む。
事情は知らんが仕掛けてきたのはヤツの方だ、とりあえずぶん殴る!
おれは一気に距離を詰めると、「神殿騎士の剣」をナカジマの後頭部めがけて振り下ろした!
――ギィィン!! ギリリィィン!!
おれのスキル【危機感知】が反応し、間に割り込んでくるもう一人の姿を予見した。
ナカジマをぶん殴ろうと寝かせていた刃を縦に戻して相手の剣と切り結ぶ。
――ギィン!
――ギィィン!!
……!? なんでコイツが出てくるんだ?
ナカジマを守る様に立ち塞がったのは、なぜかゴトウだった。
大迷宮で出会った18年前にクラス転移で「魔族領」に召喚されたという性根の曲がった日本人パーティ五人組の一人。確か、スキル【魔法反射】、【物理吸収】、【状態異常無効】とか持ってるチート野郎って聞いてたけど、『巌の勇者』イガラシさんにコテンパンにやられて死にかけてたはず……。
そういえば、帰り際に59階層を通った時にはもう居なくなってたっけ?
「あんた、生きてたのかよ!? てか、なんでナカジマ氏と……?」
「……ふっ、ヤマダっていったか? てめぇも『オーラ』ってのを使うんだってな」
……どうやら質問にいちいち答えてくれるタイプじゃなさそうだ。
それにしても予想外だ。てっきり「勇者互助会」の誰かが出てくると思っていたのに……。
一旦距離をとったおれは、ゴトウの後ろのナカジマに向かって問いかける。
「おい、ナカジマ氏! 先ずは説明をしろよ!! 一体何がしたいんだ、あんたは!? ギルドから何か依頼されてるのか!? それとも、『魔王』にでもなりたくなったのか!?」
「……なるほど『魔王』か、当たらずといえども遠からずだな」
むっか~、なんなんだよアイツ、すかしやがって……!
直接ぶん殴ってやりたいところだが、ゴトウがおれの行く手を阻む。
――ギィン!
――ギィィン!!
ゴトウの剣撃を繰り返し受け流すおれ。
ええい邪魔くさい――だったら、スキル【勇気百倍】!! 輝け!! 勇気、モチモチの剣!!
ゴトウのスキル【物理吸収】も、「勇者のオーラ」には無意味とイガラシさんが証明してくれた。そして「勇者のオーラ」は、武器や防具の「耐久値」さえ【無視】する……!!
――ガッイィィン!!
……あれっ!!? おれの攻撃は、ゴトウの小盾にあっさり弾かれてしまった。
そんな……、「モチモチの剣」が効かない!? まさか、ゴトウも「勇者のオーラ」を使ったのか?
――ギィン!
――ギィィン!!
ゴトウの攻撃を「モチモチの剣」で繰り返し受け止めるが、刀身を斬ることはできない。
「くそっ……!!」
「……アマミヤの言ってたとおりか、天魚素材の武器なら『オーラ』とやり合える」
――!! そういうことか。ゴトウの使ってる地味な剣盾、ああ見えて天魚素材の高級武器だったってわけね。確か、「勇者のオーラ」と同じで「天魚」はこの世界のルールから外れた存在であるとかどうとか……。
そして……。
「ゴトウ、あんたを送り込んだのはアマミヤさんってことか?」
「……俺は一度死んだ。『人形の勇者』のスキルで『屍人』ってやつになったらしい。この時間の止まった身体はもう朽ちることもなければ成長することもない。……だが、アマミヤに貰ったこの装備なら『オーラ』とやり合えることが解った。俺はまだまだ強くなれる。……一度はあきらめかけたあの猿ジジイへの復讐も、コイツがあればやれるってことだ」
「イガラシさんなら、まだ王都の大迷宮だと思うけど?」
「……対『オーラ』の練習台にちょうどいいって、アマミヤの紹介でよ。……それに、ヨシザワやヤグチ、ヤスダをやったのはてめぇだろ?」
元から知り合いだったのかどうかは解らないけれど、「屍人」となって復活したゴトウは「勇者互助会」から派遣されてナカジマを補佐しているってことで間違いなさそうだ。




