331 ナカジマの策略
気がつくと空の上だった。
突然月の明るい夜空の真っ只中に放り出されたおれ。
どうやらナカジマに【空間転移】させられたらしい。
地上から数十メートル、このまま自由落下するだけで確実に死ねる高さだ。
この戦法、きっとオーガやミノタウロス程度になら無双できるんじゃねえかな?
だがおれには無意味だぞ、ナカジマ? ――スキル【飛翔】! 光の羽根を広げてゆっくりと滑空するおれ。
……てか、どこだここは? 横に断崖絶壁、眼下に流れる渓流、見知らぬ谷底に着地する。
「これってなんの余興だよ、ナカジマ?」
そう言って振り向いたおれの目の前に居たのは、ナカジマではなく1体のゴブリンだった。
……はぁ?
1体ではなかった。おれの周囲に次々と【空間転移】してくるゴブリン、ひい、ふう……10体以上。いや、まだ増え続けている。
まてまて、おれ今手ぶらなんだが!? たかがゴブリンといえども、素手でこの数を相手するのはキツイ。
逃げよう。
そう判断したおれは、もう一度スキル【飛翔】の羽根を広げる。
――!!?
月明かりを影が遮る。
飛び立とうと見上げた空いっぱいに、真っ黒い巨大な物体があった。
およそ60m×30mの二枚貝――って、「神獣クラムボン」の死骸じゃねーか!!
――や、やり過ぎだ!! ナカジマのやつ、やり過ぎだぞふざけやがって!!
おれは、慌てて頭上に三角を描く。
――スキル【超次元三角】、次元の外へ開く三角の窓!! ……ここは一旦、次元の隙間に逃げ込むぜ!!
間一髪、開いた異次元に向かって飛び立つおれ。
――みょん……!!
あれ……!?
あれれ!!? 何かに引っかかる? 何かが邪魔をして、【超次元三角】に飛び込めないんだが!!?
よく見れば、おれが開いた【超次元三角】の窓を塞ぐ様に、別の亜空間が丸く口を開けていた。……げっ、これは【空間収納】!? いや、【アイテムボックス】か!!?
くそっ、どっちにしろ生物は収納不可だったっけ!? やりやがったな、ナカジマめ……!!
――まあ、そんなわけで「走馬灯モード」だ。
静止した時間の中で思考を巡らせ、次なる行動を模索する。
…………。
今までだったら、「もう一人のヤマダ」がなんだかんだゆるい感じで相談相手になってくれたもんだけど……、あいつはもういない。
(ケケケ……! オレサマは居るけどなー!?)
おう、オナモミ妖精、調子はどうだよ?
(オレサマはいつだってゴキゲンさ~! あいつはどっか行っちまったけど、頼りたかったらオレサマに頼ったっていいんだぜ~!)
そりゃ頼もしいね。――そしたら、そこからナカジマがどこに居るか見えるか?
静止した時間の中でおれは思考を巡らせるばかりで動けない。視界はどうしても限られてしまうのだ。
(ナカジマのデクノボーなら、崖の上から見下ろしてるぜ~)
そう言ってオナモミ妖精が、スキル【共感覚】で視覚を共有する。
――おお、いたいたデクノボー! おれの【超次元三角】を塞ぐようにピンポイントで【アイテムボックス】を開いたやり口からして、案外近くで見ているに違いないとは思っていた。
(そんなことより、今のこの状況はどうすんだよ? もう一回【超次元三角】を開き直すヒマあんのか~?)
うーん、その手もあるけど、多分そっちは大丈夫だ。
それより、ナカジマの他には誰かその辺に居ないか?
(……? とりあえず、見える場所にはいないっぽいケド~? ……つーか、本当に間に合うのかよ~、ぺっちゃんこはゴメンだぜ~?)
ああまあ、心配すんなって。
おれもついさっき気がついたんだが、まあ見てくれよ? おれの今のステータス。
>名前 山田 八郎太
>称号 安全オジタンnew!
>レベル 24
>HP 1200/1200
>MP 2166/2200
>スキル 【危機感知】一定範囲の危険を感知する
【空間記憶再生】空間に残存する記憶映像を投影する
【環境適応】環境に適応する
【勇気百倍】勇気を百倍にする
【自然回復】傷を少しずつ癒やす
【超次元三角】次元の外へ開く三角の窓(3MP~)
【劣化】触れた物を劣化させるnew!
【遅滞】一定範囲内の対象の動きを遅らせるnew!
【暗視】夜目がきくnew!
【疫病耐性】疫病を予防するnew!
>妖精スキル 【共感覚】思いが伝わる
【浮遊】浮き上がる
【認識阻害】認識を阻害する
×【世界創造】世界を創造する
(アップデート中あと811,203件 残り16年と2ヶ月……)
【飛翔】空を飛ぶ
>魔法スキル 魔法【身体強化】全ステータスと全耐性が微上昇(24MP)
>装備 ネムジア神官生協トランクス【防御+5】、【防臭】
モガリア道場の浴衣【防御+3】new!
モガリア道場の下駄【防御+2】new!
(――!? なんかスキルがやたら増えてるじゃねーか、安全オジタン! どうなってんだコレ~?)
な? レベルアップしたわけじゃないんだが、コレって消えちまったヤマダが持ってたスキルだよな。
記憶が戻ったことで、レベルは戻らなかったけど失ってたスキルは戻ってきたみたいだ。
まあ、レベル24までに取得してたスキルまでだけど。
ちなみに、【暗視】と【疫病耐性】は魔物の魔石由来のスキルだ。
無防備に水浴びするラダさまを覗こうとして、こっそり取得した【暗視】。
それから【疫病耐性】だけど――、こっちに来たばっかりの頃、「異世界には未知の病原菌がうじゃうじゃいるに違いない!」とかナカジマのヤツが言いだしたもんだから三人で取得したんだよな……。
(そっかそっか、要はスキル【遅滞】ってのがあるから余裕で避けられるってワケだな? ケケケ……、ナルホドネ~!)
そういうこと! 後はまあ、何か武器さえあればヤツらをとっちめてやれるのにな。
(ヤツら~? でもまあ、武器な。武器ならオレサマが適当にミツクロッテやらんでもないぜ~?)
――!!?
次の瞬間、おれの目の前に一本の剣が現れた。……これって『神殿騎士の剣』? どっから出てきた?
――スキル【遅滞】発動!!
おれを中心にゆっくりと流れる時間の中で、おれは群がるゴブリン達の隙間をすり抜ける!!
――ズゴゴゴゴォォォォン!!!!
おれの背後で、神獣クラムボンの死骸が谷底に落下し大量の土砂を巻き上げた。
憐れゴブリン達はぺっちゃんこ! ナカジマのやつめ、残酷なことしやがる。
そのまま【飛翔】し舞い上がったおれは、崖の上から見下ろすナカジマの背後に回り込んだ。……覚悟しやがれ! 死なない程度に、痛めつけてやる!




