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329 『中島博士の黒いつぶやき【異世界編】③』

+8/7/3

 王都から北へ3日、私達一行はネムジア教の聖地と呼ばれる『ネムノス』へ到着した。

 その昔、女神ネムジアが降臨したという伝説が残る、ネムジア教徒にとっては特別な場所である。


 魔族領と王国を隔てる「境界の山脈」のふもとから頂上へと続く巨大宗教施設は、教会関係者数千人が日々の生活を営む一つの街でもあるが、万が一魔族領からの侵攻があった場合に対処するため、そこで暮らす者の約半数は神官戦士や神殿騎士であるという。


 頂上には巨大な門があり、その行き来は厳重に制限されている。

 月に一度、魔族領から輸入される「魔法スキル入りの魔石」の搬入時にのみ解放されるそうな。


 なんでも、ネムジア教会が専売している「魔法スキルの欠片」の原料は、魔族領からの輸入に頼っているらしい。

 魔族の体内にある魔石にしか「魔法スキル」は宿らないという。そういえば確かに、これまで戦った魔物の魔石から「魔法スキル」が出ることはなかった。



 到着早々、タナカ氏がエルフの美少女に殺されかける。

 凄い剣幕で「ボクは男だ!」とのことだったが、体型を見る限りどう見ても美少女なので、タナカ氏が一方的に悪いとも思えない。


 そんな粗暴な美少女こそ、この神殿で最強のパラディン№1ヴィクトリアさんだと教えられた。

 いざというときに王国防衛の要となるため、大司教直属のパラディン№1から№5までがこの『ネムノス』に常駐していると聞いたが、あまり関わり合いにならない方がよさそうだ。





+8/7/4

 早朝、とんでもないことを知らされた。

 昨夜の内に、ラダ様が国境の門を超えて魔族領に入ったという。

 どうやら、空を飛んでいったらしい。ラダ様が飛べるとは、初耳である。


 一体、何をトチ狂ったのか?

 ヤマダさんの様子がおかしかったので問い詰めたが要領を得ない。

 タナカ氏が、「さてはヤマダさん、ラダさまに過激なスキンシップとかしちゃったんじゃないの~?」とか言っていたが、反論もなかったので、それに近いことをしたのかもしれない。


 ヤマダさんが、とにかく追いかけようと泣きつくので仕方なく私達も魔族領に向かうこととする。

 ――が、国境の門はどうしても開けてもらえなかったので、私のスキル【空間転移】で国境を超えた。


 門の向こう側は、見渡す限りの樹海が広がっていた。

 境界の山脈を下り、森の中で夜を明かす。





+8/7/5

 樹海の中を行く私達一行。

 一度【空間転移】で王国に戻ることを主張したが、ヤマダさんに却下された。


 しばらく樹海をさまよい、この森が普通でないことを知る。

 私のスキル【周辺地図】が、途中途中で細かく途切れるのだ。

 どうやら、RPGでありがちな「別マップ」のような区画が連なって樹海を構成しているらしい。そして、マップごとにボスのような20m~30m級の巨大ゴーレムが配置されている。

 王国側に『ネムノス』がありパラディンが常駐しているように、この樹海が魔族領側の第一防衛ラインなのかもしれない。


 とはいえ、私達も今やレベル38を超える勇者である。

 愚鈍なゴーレムなど本気モードのヤマダさんの敵ではなく、ただ面倒なだけの作業でしかない。


 夕食の時に、あの日にあったことをヤマダさんがやっと語った。

 ただ普通に結婚を申し込んだだけとのこと。


 タナカ氏が、「結婚が重たかったんじゃないの~?」と言っていた。私も同感だが、果たしてそれだけのことで逃げ出したりするだろうか?





+8/7/6

 頭痛が酷い。

 どうやら、魔族領は「魔力含有気体まりょくがんゆうきたい」の濃度がかなり高いようだ。

 こんなに濃いのは、王都の大迷宮50階層以来だろうか?


 ヤマダさんに、一度王国側に【空間転移】で引き返そうと主張したが、自分は残るという。そう言われてしまっては、放ってはおけない。

 


 

 

+8/7/7

 ヤマダさんが遂にレベル40に達した。

 ボスゴーレムは案外経験値が高かったらしい。

 

 そしてとんでもない新スキルを手に入れた。

 その名も【次元切断】! 文字通り次元を切り裂くかなり危険なスキルだ。


 ヤマダさんが樹海を横薙ぎにすると、その一薙ぎで目の前が開ける。

 樹海を超えたはるか先にあった砦の城壁がゆっくり崩れていくのが見えた。

 

 これは、魔族にケンカを売ったことにならないだろうか?

 ただ、どう考えても負ける気がしない。


 しばらく歩いて崩れた砦の前までたどり着くと、魔族の一軍が待ち構えていた。

 しかし、背後に残った砦の残骸をヤマダさんが【次元切断】で切り裂くと、彼等は戦意を喪失した。


 

 魔族の隊長とおぼしき犬耳の大男はグリランドと名乗った。

 ラダ様のことを尋ねると、人間の女のことは知らないが、この砦から西側の「ルクス領」方面に飛び去る女魔のニオイならば、三日前に嗅いだという。


 魔族領は大まかに四つの領域に別れている。

 境界の山脈のふもとに広がる大樹海に接する三つの領域を東から「ベール領」、「バリス領」、「ルクス領」と呼び、それら三つの領域に属さない北側一帯をただ「大深域」と呼んだ。


 中央に位置する「バリス領」は王国と交易を行う程度には友好的であり、犬耳のグリランド達はそこに属する一族であるという。

 私達が「ルクス領」に向かうのであれば、戦う必要がないとホッとしている様子だった。


 幸いにして死人が出なかったこともあり、今夜は彼等の客として遇された。

 砦はぐちゃぐちゃなので、内心どう思っているか解ったものではないが。





+8/7/8

 砦から西へ「ルクス領」を目指して歩き出した私達。

 未だ、頭痛に悩まされている。


 しかし、私は昨夜とある可能性に思い至った。

 もしかすると、ヤマダさんのスキル【次元切断】があればそれができるかも知れない。

 確証はないが、考えれば考えるほど、それしかないように思えてくる。


 問題は、それがどう考えても褒められた行為ではないということだ。

 さて、どう切り出したものだろう。









+8/7/21

 魔族領に入って18日目、私達は街のような場所にたどり着いた。

 その頃には頭痛に悩まされることもなくなっていた。


 人の多い場所に来て気がついたのは、案外人族とおぼしき者も生活しているということだ、ただし貧困層や奴隷のような身分の者が多いようだが。


 これまでフルフェイスヘルメットで顔を隠してきたが、街中でこれではかえって目立ちそうだということで、装備は最小限とすることにした。かなり暑いし。


 ラダ様の情報を探るため酒場で情報を集めようとタナカ氏が提案した。確かにRPGなどでは定番だが、酔っ払いに話しかけるのはどう考えても気が乗らないと三人が三人とも躊躇ちゅうちょした。言いだしたタナカ氏もいざとなると意気地がない。

 

 それならばと、私達は「冒険者ギルド」のような施設に向かう。

 入ってみると案の定、「冒険者ギルド」だった。魔族領にもあったのか。


 受付でラダ様について尋ねる。

 場合によってはお金がかかるかも知れないと思ったのだが――、

 

「ラダ様? 名前は知らないが、黒髪で眠そうな目の人族の女なら、捕まったそうだぜ?」

 

 と、いきなり有力な情報を得ることができた。

 なんでも、数日前からギルドに人捜しの依頼が出ていたのだという。


 私達以外にラダ様を探す者が居るとは考え辛い、別人だろうか? しかし、人族の女が魔族領で捜索されているのは珍しいはずだ。

 どっちにしても、捕まったというのはどういうことだろうか? なにか切羽詰まった状況に陥っているのではないかと、ヤマダさんがわなわなしている。


 そんな私達に、一人の男が声をかけてくる。


「キミたち、もしかして日本人かヨ?」


 その男は、ブルース・ウォレスと名乗った。アメリカ人の特殊工作員だという。

 聞けば、彼等アメリカ人は16年も前からこちらの世界へ独自の技術で到達し、何らかの目的を持って活動しているという。

 そして、今回の人捜しの依頼を出したのも彼だという。


「せっかくユメコを見つけたのにサ、ヤマモトは今王国の方だっていうからサ、手が足りなかったんだヨー!」


 と、なぜか私達がその女性、ミナカミ・ユメコを奪還する手助けをするような話の流れになっている。

 

 私達は、ブルースさんに自分たちが探しているのは別の女性だと説明し、ユメコ奪還に手を貸す代わりにラダ様捜索の手助けをして欲しいと条件を持ちかけた。

 彼は、私達が王国の勇者と知り驚いていたが、条件をのんだ。



 ところで、ミナカミ・ユメコ奪還であるが、私のスキル【空間転移】をもってすれば容易たやすいことであった。


 彼女は確かに黒髪ではあったが白髪の目立つ老女だった。年齢は32歳と聞いていたのだが、本人で間違いないだろうか?

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