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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第七章 3紳士、都会で名をあげるⅡ 僕が先に好きだったのに編 【推奨レベル16~23】
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284 『はんじゅく3兄弟! ダンジョン攻略はじめました~オレ達の戦いはこれからだ!~③』

 ジェフもまたテリーに憧れて冒険者を目指した一人だ。

 『ティクニーの家』卒業まで数年を残していたが、アンディやマイと共に冒険者ギルドに登録を済ませた。


 しかし、ジェフがレベル8になり最初に取得したスキルは【床清掃】だった。

 その頃の『ティクニーの家』はベッドが足らず、幼年部屋では年長だったジェフが床の板の間で寝ることが多かったせいだろう。

 スキル【床清掃】は、まだ13歳になったばかりのジェフに冒険者からの転職を意識させた。



 テリーの遺品の中から魔道具『エナジーポット』を見つけたのはジェフである。


 そして、運命に導かれるようにそれを使用したのも実はジェフだった。




 ***




 アンディは大迷宮56階層で、ライトの明かりを頼りに【短距離転移】を繰り返していた。およそ30mの距離を瞬間移動しては数秒のクールタイムを挟む。


 刺客からの逃走。

 抱きかかえたジェフ、マイ、スーザンの命の重さがアンディの腕にのしかかる。



 ばおん! ――と、後方で爆発が起きる。

 どうやら追跡者が罠を踏んだらしい。




 ***




 ジェフは魔道具『エナジーポット』でレベルアップし、一気にレベル32になった。

 レベル16、24、32で新たなスキルを手に入れる。


 【浮遊床】、【パワースポット】そして、【爆裂炎上床】――踏んだ者に不可避の【爆裂炎上】魔法攻撃を発生させる。

 

 このスキルがあればアンディやマイとまだまだ冒険が続けられると、ジェフは歓喜した。




 ***




 大迷宮56階層の通路を満たす閃光と爆音。


 立ち止まり振り返るアンディ達。

 そこには、ジェフの仕掛けた【爆裂炎上床】を踏み炎上する追跡者が居るはずだったのだが――。



 ばおん!

 ばおん! と繰り返し爆発が起きる。


 アンディ達は、信じられない光景を目にした。

 爆発をものともせず、一直線に駆けて来る追跡者の姿である。


 ばおん! アンディ達が見ている前で、追跡者はまた【爆裂炎上床】を踏んだ。

 離れた場所で見ていたアンディ達でさえ爆風にあおられ後ずさるが、追跡者は一切ぶれることなく走ることを止めない。



「あいつ、どうなってるんだ!? 『ドラゴン種』だってああはいかない」


 連続する爆発の中から焦げ目一つなく姿を現す追跡者――ゴトウ。

 ゴトウのスキル【魔法反射】は、爆炎の衝撃も熱も受け付けない。

 さらに、爆発で飛び散った岩石の破片はその勢いをスキル【物理吸収】で魔力に変換吸収されて床に落ちる。



「……ミチシゲ、先に行く」


 はるか後方から爆発跡をたどって追ってくるミチシゲに一言そう告げると、ゴトウはスキル【超人化】を使用し、全てのステータスを大幅に上昇させた。




 ***




 当初シマムラ・スーザンは立ち止まり刺客を迎え撃つべきと考えていたが、爆発を無視して追跡してくるゴトウの姿を見て考えが変わった。


 置いてきたヤマダのことは気になるが、今は逃走しかないと判断した。



 スキル【水田地帯】――大迷宮56階層の通路一面を泥のぬかるみが覆う。


 スキル【足枷あしかせ】――ゴトウの両足に二つずつ丸いおもり付きの【足枷】が装着される。更に、両腕に二つずつと首に一つ錘がぶら下がる。


 それでもまだ、ゴトウの勢いは止まらない。

 スーザンは次なるカードを切る。



 スキル【電流金網】――本来は自分と相手を取り囲むように設置する6m四方の檻を、ゴトウの進行方向を塞ぐように出現させた。数時間前に使った時のダメージで全体的にひしゃげているが、障害物として使う分には支障ない。


 ――ガガーーン!!

 ゴトウは【電流金網】を避けようとせず、強烈な体当たりをかました。

 一撃で【電流金網】の鉄骨がゆがむ。




 ***




 マイは半狂乱だった。

 アンディの腕に爪が食い込むほどしがみつき、知らないうちに涙を流していた。


 化け物のような男が追いかけてくる。

 逃げても逃げても追いかけてくる。

 まるで悪夢のような現実の光景。


 アンディを追いかけて、アンディと幸せな家庭を築くために、そんな甘い気持ちで冒険者になったことを、マイは今初めて悔いていた。


 そして今、追跡者ゴトウが【電流金網】を引き千切るようにマイの眼前に迫る。


 ふと気が遠くなったマイは思わず、大切なスィートホーム「窓のないレンガの家」をゴトウの眼前に投げつけるように出現させた。


 スキル【携帯ハウス】――本来ならば平らな開けた場所に設置することが望ましいが、そうでない場所に無理矢理放り出せないこともない、内部に持ち込んだ家具などは酷い有様になるだろうが。


 通路を塞ぐように出現した「窓のないレンガの家」は、ゴトウがまだ踏んでいなかった【爆裂炎上床】をまとめて爆発させた。





 【水田地帯】+(【足枷】×9基)+【電流金網】+「ゴトウの体当たり」+【携帯ハウス】+(【爆裂炎上床】×たくさん) 


 =床が……抜けた……!!



 アンディ達は慌てて飛び退き落下を免れるが、ゴトウはぽっかり開いた巨大な穴に落下していった。

 普通の人間ならただでは済まない高さだが、ゴトウは普通とは言い難い。

 だが、直ぐに上がってこられる高さでもないだろう。



「やったぞ! ざまーみろ、化け物め!!」

「も~う、やだー! なんだよアイツ~なんだよアイツ~!」

「世の中には、おっかない人が居るね……」


「みんな気を抜かないで、確かもう一人追っ手が……」



「ゴトウー、へいきかーい!?」


 穴の縁から、下の階層に呼びかけるミチシゲ。





「……してやられた。ここから登るのは無理そうだ」


 穴の底からゴトウが応じる。

 やがて暗闇の中に【浮灯うきあかり】が一つ灯った。



 シマムラ・スーザンはそっと『リスピーナの短剣』を抜き、魔力を込める。

 【マジックコーティング】の光の刀身を伸長させれば、その場からミチシゲを貫けるはずである。



「おっと、不意打ちかよ? そうはいかないね。全員、僕の【蛇眼じゃがん】を食らいな!」


 ミチシゲのスキル【金縛かなしばり】が、アンディ達とスーザンの身体の自由を奪う。



「う、ぐ……な、……だこれ……?」


「だから【蛇眼】だって。さてと、男どもには興味ないし排除排除……あっと、君たち、クスリ袋の入ったかばん、知ってるよね?」



「ス……【スキル封印】……、ヤツの【じゃがん】……!!」



「――な!? 【スキル封印】って言ったのかい!? ……君、なかなかチートなスキル持ってるじゃない? ちょっと焦っちゃったよ」


 アンディの【スキル封印】は不発だった。

 それもそのはず。ミチシゲが使ったスキルは【金縛】であり、【蛇眼】ではなかった。【蛇眼】は、ミチシゲが勝手に言っているだけだ。



「マイ、ヤツのスキルは……何だ……!?」


「おっと、【鑑定】持ちがいたか。そうはさせない」


「ええっ……!? むぐぅ……」


 ミチシゲは、【金縛】で動けないマイの両目を手で塞ぐと、そのままくちびるを奪った。

 舌を絡ませを唾液をジュルジュルと流し込む。


 ミチシゲのスキル【発情唾液はつじょうだえき】――その効果は、キスした異性に性的な興奮をもたらす。

 次第に抵抗が鈍くなっていくマイ。


 ミチシゲは懐から取り出した『黒縁のメガネ』を装備すると、ようやくマイの唇から離れた。

 透明な唾液が糸を引く。



「あっ……はぁ……はぁ……」

「おい、マイ! しっかりしろ! ヤツのステータスを見ろ!!」



「……えっ!? え、えっと……レベル310、スズキイチ……ええっ!?」


「ステータスを【偽装ぎそう】している? きっとあのメガネの効果じゃないかな……?」



「正解ー。さて、次は僕達をさんざん引っ張り回してくれた鎧のお姉さんの素顔を見ちゃおうかなー?」


 ミチシゲはスーザンに近づき、その顔を覆った『クラムボンの鎧(頭部)』に手をかける。



「スーザン様、今だ!」


 ジェフは【金縛】を受けた後直ぐに、自分たちの足下に【パワースポット】を設置していた。

 スキル【パワースポット】――自然治癒力を高め、状態異常からの回復を早める。


 スーザンはまだ自由に動くことはできなかったが、抜いたまま握っていた『リスピーナの短剣』の切っ先をミチシゲに向けて、魔力を流し込む程度のことはできた。

 

 スルスルと伸長した【マジックコーティング】の赤い光の刀身が、ミチシゲの顔面をかすめる。



「あぶねっ!?」


 ミチシゲのステータスを【偽装】していた、『黒縁のメガネ』が光の刀身に弾かれて飛んだ。



「み、見えた! スキル【金縛かなしばり】……だと思う……!!」

「でかしたマイ、【スキル封印】――ヤツの【金縛】だ!!」


 ミチシゲのスキル【金縛】が無効化され、アンディ達に身体の自由が戻る。



「く、くそっ、やりやがったな!?」


 ――ボン!! ボン!! ボン!!

 ミチシゲは後ろに飛んで距離をとり、魔法【火球】を連続で放った。

 

 アンディ達をかばい、スーザンの『黒い許嫁の盾』が全ての魔法を受け止める。


 そのスーザンを押しのけるように前に出たアンディは、足を肩幅に開いて体を半身に、左手は腰に置き、右手のショートソードをミチシゲの目の高さに掲げる。



「俺が、守る!!」


 ショートソード切り上げ! からの、肘打ち! しゃがんで半円を描く足払い! 激しく踏み込みトドメの正拳突き! ――と繋がる四連コンボが、ミチシゲにキレイにヒットした。









「がふっ……よ、よくもこの僕に……」


 トドメを入れたはずのミチシゲがふらりと立ち上がる。

 レベル差が、ミチシゲの命を辛うじて繋ぎ止めていた。


 アンディ達は、まだ気付いていない。

 ミチシゲは、全員を範囲魔法のターゲットに捉えた。



「……え?」


 ふらつく足が、床に開いた大穴の縁を踏み崩した。



「あああぁぁ~~~っ!!!!」


 絶叫にアンディ達が振り返ると、ミチシゲが大穴へと落下していく瞬間だった。

 




 アンディ達は、大穴から下層の暗闇を覗き込みしばらく待ったが、二度と【浮灯うきあかり】が灯ることはなかった。

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