328 宴会の余興
――てなわけで今は、畳の宴会場で踊るナタリアちゃんを鑑賞しているというわけだ。
それにしてもすげえな、ナタリアちゃんのダンス。
飛んだり光ったり分身したり――あと、浴衣がはだけてほぼ全裸だったり……ウホッ、たまらん!!
楽曲の終了に合わせてナタリアちゃんが決めポーズでダンスを締めくくると、宴会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
おれの隣でウトウトしていたシーラさまも、びくん! と飛び起きてなにごとかとキョロキョロしている。
「どうだった、ボクのダンス? エロかった!?」
「エロか……あ、いや、お綺麗でしたよ、お風呂の精霊って感じで」
おれの右隣に意気揚々と戻って来たナタリアちゃんに感想を聞かれたので、無難な返答をしたつもりだが――。
お風呂の精霊? とつぶやき首をひねるナタリアちゃん。……間違ったかな、おれ?
「3ば~ん、グレイスにゃん! クスクス……おしっこを飲みま~しゅ!!」
続いて、大ジョッキ片手に舞台に上がったのは聖女グレイス様だ。
既に相当酔っ払ってる。そして、芸風が非常にマニアックだ。
得意のカードマジックを披露しようと順番待ちをしていたナカジマも、あれと関わるのはさすがに避けたらしい。
実は、円形闘技場で醜態を晒してしまったグレイス様とセリオラ様、ショタベリアス様の三人、それからメイドエルフさん二人――確か、ルカさんとハナさんだっけ? も、ちゃっかりこの宴会に参加していたりする。
膝を抱えて酒をあおりメソメソしているセリオラ様。……人前で派手に湿ったウンコを漏らしてしまったのだから無理もない。
一方、ルルさんにたっぷり搾り取られたショタベリアス様だったが、思ったよりも元気そうだ。失ったエネルギーを補給するかの様に、セリオラ様の料理にまで手を伸ばしている。……若さって最強だな。
「美味いなこれ、なんの肉だ!? つーか、しばらく王都には戻れないし、当分ここに滞在しようぜ!!」
「実はベリアス様、私達あまり持ち合わせが……」
「私も……」
「えっ……そ、そうか。そういや俺も、【空間収納】が消えちまってすっからかんだった。……しょうがねえ、俺達も働くか? ……グレイス様みたいによ」
「「えっ!!?」」
舞台の上では、グレイス様がスカートをたくし上げ大ジョッキを股の間に挟んでいた。
その後どうするのか、想像に難くない。
……そろそろ誰か止めてやれよ(おれは知らん)。
「おい! なんでお前みたいなガキんちょが酒飲んでるんだよ、あたまバカになるぞ!?」
「うるせぇ、俺はガキじゃねぇ!! ……って、そう言うあんたは、なんで生きてるんだよ!? 死んでただろうが!?」
はあ!? どう見たってガキだろ? とか言ってショタベリアス様に絡みだしたのは元パラディン№11、カスパール君だ。……そう。カスパール君は、ベリアス様が十歳ほど若返ってショタベリアス様になった件を見ていない。なにしろ、ついさっきまで死んでいたのだから。
「……でも言われてみれば、僕は確かベリアスのやつに卑怯な手を使われて死んだはず……なんで生きてるんだっけ?」
「おい! 別に卑怯な手なんて使ってねーだろ!? あんたのスキル【影狩】とかの方がよっぽど小賢しいっつーの!!」
「なんだと!? なんでお前みたいなガキんちょにそんなこと……ってお前、よく見ると小憎らしい顔してるな? すごくぶん殴りたくなる顔だ」
「……!! い、言っとくけど、俺は今レベル5だからな? 簡単に死んじまうからな!?」
そう言って、メイドエルフさん達の陰に隠れるショタベリアス様。
……誰だよ、あいつら隣同士の席にしたやつは?
まあそれはそうと、死んだはずのカスパール君がなぜ生きているのかということだけど……要するに、毎度おなじみタナカのチートスキルがやりやがった! レベル16で手に入れた新しいスキルとのこと。
【魂の回帰】――さまよう魂をあるべき場所に返す! というそのスキルは、当初アンデッドモンスターに対する特効スキルなんじゃね? と思われ実際そういう効果もあったそうだが、死んだばかりの死体を【肉体治療】で修復した上で使用すると、魂を肉体に戻し蘇生させることができることが判ったそうな。
シャオさんが死んだ時に、「ファンタジーなこの世界でも、死んでしまった人間は蘇りませーん、ゲームじゃないんだから」とかタイターさんが訳知り顔で言っていたが、こうなっては赤っ恥である。
ああ、タイターさんを煽ってやりたい! 「死んだ人だってゲームみたいに蘇りまーす(ニヤニヤ)!」と煽ってやりたい!
ところで、おれはシーラさまの手を取り席を立った。
さっきから眠そうに目をこすってるし、舞台の上ではちびっ子の教育によろしくなさそうな余興が始まっちゃってるしな。……てかグレイス様、結局誰も止めてやんなかったのか……むごい。
宴会場を離れて廊下に出ると、追ってきた女性に声をかけられた。
紫色のマントを着けた眉毛の女戦士ちゃんこと、プリメイラさんである。女神モガリアの生まれ変わりという役回りで今や、モガリア教徒達の精神的な支柱となっている彼女であるが、失った眉毛と髪の毛はついに戻らなかったようだ。
「ヤマダ、シーラ様は私の方で預かりますよ」
「ヤマダは、ねないのー?」
「……プリン食ったらおれも寝るよ。――じゃあお願いします、プリメイラさん……じゃなくて、メイプルさんでしたっけ?」
「行こうシーラ様? おやすみなさい、ヤマダ」
「ヤマダ、おやすみー」
「おやすみ。寝る前に歯ぁ磨けよー?」
シーラさま達と別れた後、ついでにトイレに寄ってから宴会場に引き返すとふすまの前に、トランプをしゃかしゃかやっているナカジマが突っ立て居た。
「なにやってんのナカジマさん、余興は?」
「……ああ、今はリーダーが、ネムジア教の聖女様達のモノマネをやってる」
その時ふすまの向こうで、どっと笑いが起きる。
どうやら、結構うけているらしい。
「へー。それで、ナカジマさんの手品は?」
「うむ、よくよく考えたら、本物の魔法やスキルのある世界でカードマジックってどうなんだ? と思ってな」
お、おう。そこに気付いたか。
「……じゃあそうだな、三人でアニメソングでも歌うか? 別に何かしろとも言われてないけどさ」
おれの、「駅員さんのモノマネ」も異世界じゃ意味不明だろうしな。
「そのことなんだが、二人で打ち合わせがしたい。ちょっと、表まで付き合ってもらっていいか?」
「……別に、いいけど」
おれとナカジマは連れだって、月明かりのまぶしい冬の庭に出る。
……ナカジマめ、まさかこんなに早く仕掛けてくるとは思わなかった。
さて、どうしたものか……。




