327 宴会ナウ!
宴会ナウ! モガリア教道場、畳の宴会場で祝勝パーティである。
この数週間を生き残れて、おれは今心底ほっとしている。
今回の一件まったく犠牲なしとはいかなかったものの、それでもテスト期間が明けたような開放感がある。テストの結果はこの際置いといて――といった感じだ。
風呂上がり浴衣に着替えたおれと仲間達、思い思いの飲み物で乾杯し、そこそこ美味いタナカの異世界アレンジ会席料理に舌鼓をうつ。……てか、これなんの肉だ?
舞台の上では、ダゴヌウィッチシスターズが肌色多めの新衣装で新曲を歌い踊る! ……てか、日本で流行ってたアイドルソング丸パクリじゃねーか! タナカのヤツめ……まあ日本文化知識チートに関しては、おれもあまり人のこと言えないけどね。
元聖女にしてダゴヌの巫女「慰め」担当デイジーちゃんと武門の名門ボンアトレー家令嬢にして就活女学生「咎め」担当チハヤさんに七人のくノ一エルフさん達が加わって、なんだかユニットとして歌もダンスもクオリティがずいぶん上がったんじゃない? あと、お色気とか――。
……あれ? お色気と言えば、おれイチ推し、「許し」担当ミズキさんはどこ行ったんだろう? 本業の王国近衛師団に戻ったのかな?
ちょっと見ないうちにデイジーちゃんも色々吹っ切れたようで……おっと、あんなはしたなく腰をふっちゃって……ええっ、そんなお下品な動きまで!? おっと、デイジーちゃん? デイジーちゃん!? ……むほっ!! けしからんねまったく!!
思えば今回の騒動に巻き込まれたきっかけって、デイジーちゃんに誘われて参加した怪しいミサだったよな。
……だがしかし、彼女を責めるのは筋違いだろう、お互いにちょっとした誤解があったのだ。怪しいミサをおれが乱交パーティーと勘違いしたばっかりに……フフッ、また一つ恥ずかしい記憶が増えちまった。
でももう忘れるのは勘弁だ。そういう情けない黒歴史もひっくるめて今のおれ……だよな、「ヤマダ」?
畳の宴会場――、おれの左隣にはシーラさま推定4歳が座っている。
さっきまで、料理を運んだり飲み物を注いでまわったり、危なっかしくも微笑ましくお手伝いをがんばっていたが、今は自分の席でおとなしくデザートのプリンをすくっている。
見ていると時折かくんかくんして、必死に眠気と戦っているようだ。
そうだね、よい子は寝る時間だね。
てか……しめしめ、以前お話の続きをしてあげる約束だった『異世界勇者ヤマギワのナイスな大冒険』第四章だけど、実はまだなんにも考えてなかったんだよね。このままシーラさまが寝てくれれば、今日のところはうやむやにできるんじゃね?
最悪、母様作のBL同人小説『アンドリューおじ様と僕』を児童向けにアレンジして語ってごまかすか……? とか一応は考えていた。エッチなシーンは全て相撲か柔軟体操に差し替えて……ムリがあるかな?
おれの右隣は英雄ナタリアちゃん推定???歳、見た目美少女中学生!
風呂上がりの浴衣が着崩れて、なんだか色々肝心な部分が見えそうな……むむむ、もうちょっと……あと少し……!!
舞台上のダゴヌウィッチシスターズも見逃せない感じだが、こっちはこっちで目が離せない……むむむ…………!? イ、イカン、ナタリアちゃんと目が合った……!!
慌てて目を逸らし、デイジーちゃんの方に集中するおれ。
しかし、ナタリアちゃんの視線を感じる……超、見られてる。
謝った方がいいだろうか……? いや、大丈夫だ、ナタリアちゃんとは一緒にお風呂に入ったことだってある。そういうことには無頓着な質だったはず……。
でも、なんかすごい見られてる……。
「ヤマダは、ダンスとか好きなの?」
「ダンスか団子かって言われたらちょっと悩みますけど、ダンスか箪笥ならダンスですねー」
「へー」
おれは一体何を言っているんだ? 異世界語だから意味不明だし。
「えーっと今のは、”ダンス”と”団子”が日本語だと韻を踏んでる感じでして、そのー……」
「じゃあ、次はボクが踊るよ!」
そう言って立ち上がると、ナタリアちゃんは舞台に向かった。
ダゴヌウィッチシスターズの次に、手品を披露する準備をしていたナカジマと少しもめていたが、音楽を担当する楽団メンバーは皆ナタリアちゃんファンのようで――、楽団がナタリアちゃんリクエストの勇壮な曲を奏で始めると、ナカジマは不満そうな顔で舞台袖に引っ込んで行く。
……てか、本物の魔法やスキルのある世界でカードマジックってどうなんだ、ナカジマ?
おれに向かって小さく手を振り、ナタリアちゃんが音楽に合わせてキレのあるステップを刻み出した。
ホント気さくな人だな、英雄なんて呼ばれてるのに。
***
――数時間前、円形闘技場では十歳ほど若返ったショタベリアス様が、往年の美人女優木ノ花ルルさんの若い頃にそっくりな娼婦のルルさんの触手にがっちり囚われて、繰り返し凌辱され続けていた。
それを遠巻きに眺めるおれ達『紳士同盟』と、観客席の老若男女。
これがはたして正しいことなのやら悪いことやら、もう何がなんだかさっぱり意味が判らんのだけど、ともかくルルさんの『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』とやらが一通り済むまで様子を見るとしよう。プロのやることだし、きっと間違いないんじゃね……?
……えーっとそう。これはきっと、エロでやらかしたベリアス様にとって必要な罰なのだ。
そして同時に、少年時代に健康を損なった挙げ句、性癖をこじらせてしまった彼を矯正するための荒療治でもあったかもしれない。……知らんけど。
『な、なんということでしょう~!! 少年ベリアス様の純潔が~、謎の美女に奪われてしまった~~~!! ベリアス様のあんな切なそうな顔を見ていると、なんだかキャプティンのお股……あっ! いいえ、キャプティンまで切なくなってきちゃいますぅ~~~!!!!』
『おい……大丈夫なのかあれは? ベリアスのやつ、泣いてるじゃないか……?』
『うふふっ……アイダ様ったらおぼこいですこと! いい歳して、処女ですか? 5回や6回は、あの年頃の少年にとっては序の口なのですよ? ハア、ハア、ハア……!!』
実況は止めてさしあげろ、さすがに気の毒だし……!
てか、エリエス様はキャラ崩壊してるけど、いいの?
『おっと~!? それは聞き捨てならないですねぇ~、アイダ様は処女なんですか~~~!!?』
『しょ……!? 悪いか!!? 聖女なんだから当たり前だろうが!! そ、そんなことより、聖女エリエスはあの赤い鎧の人物に心当たりがあるんじゃないのか?』
『じゅるり……え? ええ、そうだったっちゃ! あの鎧、色こそ違いますが、あれこそは対魔王鎧として名高い伝説の「銀のセラフィム」に違いないっちゃ! そして、その「銀のセラフィム」を装備できるのは…………!!?』
――ジャララーーー!! がこん!!
エリエス様が、赤い鎧の中身に言及しようとした時、実況席にアンカー付きの鎖が打ち込まれる。
そして、アンカーで固定された鎖を巻き取る勢いで、実況席に突撃するレッド・リーダーことラダさま。エリエス様が使っていた拡声魔道具を奪い取った。
『私は「紳士同盟」のレッド・リーダー、いらぬ詮索は無用に願います!!』
「……あなたは、『魔族領』で消息を絶ったと聞きましたが、こんな所で何をやっているのですか!?」
「わたくしが戻れば大司教の座が遠のくかも知れませんよ、エリエス様? こちらにも事情があるのです。ここはお互いのために――」
観客には聞こえない声で、言葉を交わすエリエス様とレッド・リーダー。
やがて、言いたいことを飲み込み小さく舌打ちするエリエス様。
しかし、アイダ様が口を挟む。
「おい、まてまて! 聞こえたぞ!? 『魔族領』で消息を絶っただと!? つまりお前は……」
「いいえ。どうやら、わたくしの気のせいだったようですっちゃ」
「……!? くっ、まあいい。だったら、さっきのあのマルハメ・イエローとかいう男が使ったスキルはなんだ!? あのスキルはもしや、『若返り』の……!?」
ラダさまが正体を隠すことについてはなんとなく空気を読んでくれたアイダ様だったが、お客さんの見守る前でうっかり披露してしまったタナカのチートスキル【状態異常治療】の方に関しては何らかの説明がない限りこの場を治められないぞ!? という大人の事情を訴えかけてくる。
……おら、知らね。
ラダさまは、「わたくしも知らね」とばかりに、持っていた拡声魔道具を当のマルハメ・イエローことタナカに投げつけた。
おっとっと……と、キャッチするタナカ。
さて、どうする……!?
『セレブな淑女の皆様歓迎~! 旅館『玉月』モガリア教道場支店、年末年始も営業中~!』
……!! アホか!? ルルさんのマネじゃねーか!!
旅館『玉月』ってなんだよ!? 確かに、モガリア教道場の温泉はいい温泉だけども……。
タナカの宣伝は続く。
『――旅館「玉月」名物、異世界風会席料理と「伝説の美肌の湯」!! 効能は~? 疲労回復、冷え性、神経痛……そして~老化防止!!』
お!? おお、なるほど! あくまでも温泉の効能と言い張るか。
ちょっと……いや、かなり無理がある気もするが、観客席のセレブな淑女達がざわついているぞ……!! いい食いつきだ!!
『――今なら先着100名の淑女の皆様に限り、「アンチエイジング・スペシャルマッサージコース」を特別価格でご提供しちゃいま~す!! 皆様お誘い合わせのうえお出かけくださ~い!!』
『はい!! はい!! はい!! はい!! 「アンチエイジング・スペシャルマッサージコース」というのはつまり、そういうことなんですね!!? そういうことなんですよね!!?』
実況のキャプティンが引くほど食いついてきたぞ。
まだ若いだろうに……いや、案外行ってるのか?
『はっはっはっ、そんなキャプティンには、特別優待券を差し上げましょう。はっはっはっ!』
『やった~~~!!』
とか、凄い喜んでいるキャプティンだけど……さてはタナカめ、自分でマッサージするつもりだな? だまされないで、キャプティン……!!
「ヤマダさん、そろそろ頃合いだ。モガリア教道場まで跳ぶぞ?」
――トブ? ああ、ナカジマの【空間転移】で跳ぶってか。
でもちょっと待ってくれ、一応ユーシーさんに声をかけてから――
――って、な!?
気がつくとおれ達は一瞬でモガリア教道場に戻ってきていた。
ナカジマめ、ちょっとは気を遣えよ! 空気読まないやつめ。




