326 わんぱくでもいい、健全に育って欲しい
おれの中の「もう一人のヤマダ」は消えた。
同時に、忘れていた全ての記憶が戻ってくる。
……なるほどな。あの後『魔族領』で、おれ達にそんなことがあったのか。
でもまあ、そのことは後だ。まだベリアス様との戦いは終わっていない。
空から円形闘技場を見下ろすおれ。
ベリアス様の【神域】の効果が解除されて、全裸だった観客達に服が戻っている。
これで、暴れてる連中も理性を取り戻してくれるといいんだけど。
さてと、ベリアス様の方はどうかな? とりあえず、攻撃無効状態は解除されたはずだ。
「ヤマダー!! 俺の【神域/何も持たずに産まれただろう?】を斬りやがるとは、なんてでたらめな野郎だ!!」
「勝負はもうついたでしょう!? 駄々をこねるのもいい加減にしてくださいよ!!」
「決闘の勝敗にケチ付ける気はねーさ!! でもよ、俺の『NTR大作戦』はまだまだ終わらねーってことよ!!」
「いやいや、うんこ漏らしたセリオラ様に、あれ以上なんかするのはさすがに気の毒なんですけど!!?」
「さっきのは傑作だったよな、いつもお高くとまったセリオラがいいザマだったぜ!! ところで今の俺は、どういうわけか大司教ユーシーにぞっこんでよー!!」
「な……んだと!? ……ユ、ユーシーさんはああ見えて、もうすぐ三十路なんだけど!? ベリアス様よりずいぶん年上なんじゃないかな!?」
「大司教のデカ尻が大勢の観客どもにもみくちゃにされてるところを想像するとよー、俺はたまらねえ気分になっちまうってわけよ!!」
「……!!? こ、このっ……脳壊れ野郎がっっ!!」
おれは、ベリアス様に向かって飛んだ。
もうちょっと痛めつけてやる必要があるらしい。
「無駄だヤマダ!! あんたが何回切り裂こうと、俺はその度に【神域】を張り直すだけだぜ!!?」
――!! いい加減にしてくれ、シーラさまがおしっこ行きたいって言ってるでしょうが! あと、おれだってなんだかんだ忘れないうちに一人になりたい!
そんなおれの願いは届くはずも無く、ベリアス様は【神域/何も持たずに産まれただろう?】を再度発動しようと手を掲げる。
なんとか接近しようとするが、左右二対の【浮遊鉄拳】が目の前を飛び回り、おれの行く手を阻む。
間に合わない……!! と思ったその時、ベリアス様の身体に「アンカー付きの鎖」が巻き付いた!
あれは確か、ラダさまの鎧のやつ……!!
「な!? ……なんじゃこりゃ!!? 俺の【神域】が……使えねぇ!!?」
「実体があるならこっちのもの、――【Zフィールド】! この対魔王鎧の周囲では【魔界】も【神域】も禁止・無効化されるのです。もちろん、その鎖も効果範囲に含まれますよ?」
「なにぃ!? てっきり人形かなにかなのかと思ってたが、不格好な鎧だ――ふぎゃっっ!!?」
赤い鎧のラダさまが、鎖で拘束したベリアス様を思いっきりぶん殴った!!
その一発で、痩せっぽっちのベリアス様は瀕死のダメージを負う。
おれの周りを飛び回っていた【浮遊鉄拳】も、コントロールを失い地面に突き刺さって止まった。
「見てくれよりも中身でしょう? 紳士たる者。今の一発はこの会場の女性陣一同からです、甘んじてお受けなさい」
フォローを頼んでおいてよかった。……シビれるぜラダさま!
「……げふっっ……紳士だと……? くそ食らえ……! 俺は……野蛮でワイルドな男に……なりたくて……」
「ワイルド? 貴方はせいぜい、わんぱく小僧といったところですね。――さて、ナカジマ・ブラック、ムラサメ・イエロー、来てください!」
ラダさまことレッド・リーダーの呼びかけに、観客席に居たナカジマとタナカが【空間転移】でやって来る。
「ちょっとリーダー、ぼくはブルーってことになったでしょー!?」
まだ言ってるのか、タナカ。お前はイエローでいいだろ? 太っちょなんだし。
「――!? ナカジマさん……、あんたが……なんで……?」
「……やあ、実は私も異世界人でね。ヤマダさんとはまあ、そこそこ長い付き合いなんだ」
どうやら、ベリアス様とナカジマは顔見知りらしい。
それにしてもナカジマのやつ、長い付き合いとは……よく言う。
「そしたらムラサメ・イエロー、やーっておしまい!」
ブルーだって言ってるのに……とかぶつぶつ言いながら、タナカが両手を交差しスキルを発動する。
タナカのスキル【肉体治療】、――神々しい光が瀕死のベリアス様の身体を包み込み、あっという間に傷を完治させる!
……!? いや、それだけじゃなかった。
もう一つのタナカのスキル【状態異常治療】が、ベリアス様の身体をみるみるうちに若返らせていく! 「スキルの欠片」を大量摂取する前の最も健康だった少年時代へと……!!
あっという間に、見た目12~13歳ぐらいだろうか? おれよりも背の低い、ピカピカのショタベリアス様のできあがりー!!
「なっ……、なんじゃこりゃ~~~!!!!?」
ショタベリアス様の縮んだ身体から、巻き付いていた鎖がはらりと落ちる。
着ていた服もぶかぶかだ。
「わんぱく小僧には、お似合いの姿ですね? そのピカピカな身体で、一から健全な心を育んでください」
「ばかな!!? 俺に何をしやがった!!? げっ……レベル5だと!!? スキルも無くなってる……、【疫病耐性】と【毒耐性】しか残ってねえ……!!?」
どうやら、おれ達を苦しめた厄介なスキルは全て消えたらしい。
だけどまてよ……これ、人前でやって良かったのか?
『え!!? ええ~~~っ!!? ベリアス様がちっちゃくなっちゃった~~~!!?』
『あの太った男がやったのか!? まさか、「若返りのスキル」だとでも……!?』
『美少年……悪くないっちゃ……いやしかし……悪くないっちゃ……』
……ほら見たことか、実況席のキャプティン達が早速食いついてきたし。
――ざわ……ざわわ……。
まだ騒然としている観客席に新たなざわめきが広がる、「若返りのスキル」に興味芯々といったところか。
……おら、知らね。
『わ、若返りのスキルぅ~~~!!!!? そんなスキルがあるんですかぁ!!? 欲しい~~~!! キャプティンの今一番欲しいスキルですぅ~~~!!』
『……うむ。実在するなら、失われた五大スキルにも並ぶ伝説級スキルと言えるかもしれん。何者だ……確か、マルハメ・イエローと言っていたか?』
『マルハメ・イエロー、どこかで見たような……? いえそれよりも、あのずんぐりむっくりした鎧、わたくし凄い見覚えがあるっちゃ……!』
『おおっと~!? エリエス様もしかして、あの方達をご存じなんですか~!?』
『あれは、ヤマダさんのパーティ「紳士同盟」だっちゃ! そして、あの対魔王鎧を装備できるのは、わたくしの知る限りただ一人――』
――カカッ!! ピシャーン!!!!
ちょうどその時、強烈な雷光と雷鳴が立て続けに天地を走り、エリエス様の続く言葉をかき消した。
どうやら、観客席で未だ暴れ続けていた諦めの悪い連中に、ナタリアちゃんがやや強めの落雷魔法を放ったらしい。……始めからやってよそれ。
『う、うっそ~~~!!? あれって、もしかして~~~!!?』
『ナタリア殿だ~~~!!!! 英雄、ナタリア殿が来てくれた~~~!!!! 今のは、ナタリア殿の上級魔法【雷舞】!! しゅっっご~~~い!!!! ナマ【雷舞】しゅっっご~~~い!!!!』
キャプティンの反応はともかく、アイダ様のあのはしゃぎっぷりときたら……。
さっきまで「……うむ」とか言ってたのにな。
――ぶ……、ぶるぉぉおぉぉぉ!!!!
観客の声援に、片手を挙げて応えるナタリアちゃん。英雄の風格って感じだね。
おっと、ガチ勢がもう一人!
ナタリアちゃんに駆け寄ろうとして護衛の兵士に止められる王様。……王の風格はどうした?
(ヤマダ……!)
おっと、ナタリアちゃんからスキル【共感覚】で呼びかけだ。
――はいはい、こちらヤマダ。ナイス雷撃です、ナタリアさん!
(シーラさまがおしっこ漏らした……!)
……おう。
まあ、目の前に雷が落ちたら、ちびっ子はちびるよね。
「くっ……、英雄ナタリアにも届きえたはずの俺のレベル48……返せ!! 返しやがれ!!」
「む~り~」
詰め寄るショタベリアス様レベル5をタナカ・イエローが適当にあしらう。
ちょっと前に流行った妖怪アニメの影響で、キッズ達がこぞってマネして全国のお父さんお母さんをイラつかせたフレーズ「む~り~」。タナカがやると、これまた殊更にムカつく。
案の定、ぶちギレたショタベリアス様はタナカにつかみかかろうとするが、その小さい身体を背中から抱き留めるオリエンタルな美女――往年の美人女優木ノ花ルルの若い頃にそっくりのルルさんである。
「――ちょ、な、何しやがる!? 離せ!! 離しやがれ!!」
「サービス、サービスぅ!」
ちょっと前に流行った汎用人型決戦兵器アニメの影響で、かつてその道を通ったオタク達であればついついニヤリとしてしまうフレーズ「サービス、サービスぅ!」。どうやら現役の娼婦であるらしいルルさんが言うと、そのまんまの意味になってしまうけど……?
「や、止めろ!! うっ……そ、そこは……ああっ……!?」
「おやおや~? ベリアスくん、乳首が感じるんですか~? えいっ、えいっ!」
「そ、そんなことは、ねえっ……あっ……ああっ……!!」
「あらあら、こんなにこわばっちゃって、敏感ですね~? ちょめ、ちょめ!」
「……あっ! ……あっ!」
「まあ! ベリアスくんのベリアスくんったら、こんなになっちゃって~! わるい子ですね~? わるい子にはルルのとっておき~『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』でオシオキよ~ん?」
……どうやら、そのまんまの意味だったよ。
「あぁ……あああぁ、ダメだ……止め…………止めないでっっ……!!」
ご、ごくり……。
ルルさんの『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』、なんてすさまじい……!!
あんなの、おれだったらひとたまりもない。
てか、ショタベリアス様が正直うらやましい、ルルさんの『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』!! 具体的な描写は避けるが、とにかくすさまじいルルさんの『大奥ひとり大回転だいじょぶだぁコース』……!!
ショタベリアス様の若い身体をスーパーテクニックで好き勝手蹂躙するプロのルルさん。
およそ一万人の観客が見まもる中、めくるめく快楽に溺れ繰り返し絶頂するすショタベリアス様だった。
誰か止めてやれよー(おれは知らん)。




