325 心の賢者タイム
――スキル【危機感知】反応!?
脱糞を晒してぶちキレたセリオラ様が、腹いせに観客全てを巻き込む大規模な魔法をぶっ放そうとしている……!!
掲げた両手に集まっていく魔力が、太陽のごとき巨大な火の玉を形成していく。
おいおい……それ、ダメなヤツじゃね?
「残念紳士のヤマダさん、あれは上級魔法【プロミネンス】! 人に向けて撃ったらダメなヤツです! 止めてください!」
ラダさまの声を背中に聞きながら、おれは貴賓席に向かって飛んでいた!
てか、誰のナニが残念だ……!!
――ん!? んん!!?
セリオラ様に向かって飛び立ったおれだったが、そのすぐ隣――全裸のユーシーさんが目に入る。
あれれ、【認識阻害】はどうしたよ!? てか、ユーシーさんに背後から抱きついて腰のモノを擦り付けてるのは、まさか――!?
「――カスパール君!? て、てめえ、おれのユーシーさんに何してやがる!!? 死んだんじゃなかったんかい!!?」
――ギリリィィン!!
おれの『ガリアンソード』を、カスパール君のスキル【透明障壁】三枚重ねが受け止める!!
……ちっ、そう来るとおもったぜ!
スキル【勇気百倍】!! 輝け勇気、モチモチの剣!!
その時、おれの中の「もう一人のヤマダ」が、『あ……』と小さな声を上げるのを聞いた。……?
――しゅっぱ!! ――っぱん!!
輝く『ガリアンソード』が、【透明障壁】ごとカスパール君の腕といきり立った股間のモノを切断する……!!
「ほ、ぎゃっ……!!?」
カスパール君はユーシーさんをその場に残し、焦げたランポウさんとスキル【位置交換】で入れ替わった。
……くそっ、どこに飛んだ!?
「ヤマダさ~ん、あいつはカスパール君じゃありません! ベリアス様の【肉体共有】なのです~ぐすん、ずずっ……」
ちっ……そういうことかよ。よくもおれのユーシーさんを泣かしたな、ベリアス様め!!
NTRごっこなら、ウンコ臭いセリオラ様をモミモミしろよ…………ん? ――あ!! セリオラ様!!?
――【危機感知】超~反応!! やばい、セリオラ様の上級魔法が放たれる……!!
――ッッタターーーン!!!!
強烈な閃光と音の衝撃!!!!
思わず、お互い全裸であることも忘れて抱き合うユーシーさんとおれ。
ええ心地や~~~、死んじゃったのかな、おれ……?
……いや、今のは【電撃】の魔法か!?
見れば、縮れた髪のセリオラ様が立ったまま白目をむいている。
最前列の席から、ナタリアちゃんが人差し指をこちらに向けていた。
なるほど、ナタリアちゃんが撃った魔法だったか。ナイスですー!
(ヤマダ、シーラさまがおしっこしたいってさ)
あーはいはい。
ナタリアちゃんから、スキル【共感覚】で頭の中に直接声が届く。
確かに、下痢気味のセリオラ様だけの問題じゃない。誰だってトイレには行く。
この世界そのものをなんとかしないと、第二第三の惨劇が生まれかねないのだ。
このベリアス様の【神域】、おれの勇気モチモチの剣で斬れるだろうか?
……なあ?
…………あれ? もう一人のヤマダさん……?
………………え!? まさか、ウソだろ!!?
そういえば、さっきなんか言いかけてたような……確か「たぶん、次か……その次の【勇気百倍】で――」とか…………【勇気百倍】で何がどうした!?
(ケケケ……! 「勇者のオーラ」を使うほど、「もう一人のヤマダ」は薄くなる~! さっきの【勇気百倍】で一体どこまで思い出したよ、ヤマダ~!?)
まじか……。
オナモミ妖精に指摘されて、おれの脳内に「ラダさまに告ったシーン」が鮮明に浮かび上がる。
イタタ……心がイタイ……。
いや、そんなことより、「もう一人のヤマダ」は……!!?
『……オーケー! まだ居るよ』
――うぉい! 焦らせるなよ! ……いや、スマン。遠慮も躊躇もなく【勇気百倍】を使っちまった。
『ユーシーさんのピンチだ、仕方ないさ。……とはいえ、「ラダさまに告ったシーン」まで思い出したとなると……、おれは次でオサラバだな』
……スマン。
『違うぜ? おれがさっき言いたかったのは、「たぶん、次か、その次の【勇気百倍】で消えるから――、なんかかっこいい見せ場を用意してくれ」って話さ。燃える展開ってやつ?』
……まあ、判らんでもない。
さっきうっかり、観客席に取り残された全裸のおばちゃん集団を助けるために【勇気百倍】モチモチの剣を使いそうになってたよ、あぶね。――おばちゃん集団がどうなってもいいとは言わないが……いや、正直どうなったところで、おれのせいじゃなよな?
『そうそう。その点、惚れた女を救うためってのは、かなりいいセン行ってたと思うぜー?』
おい、惚れた女とか言うなよ、恥ずかしい! ユーシーさんは、まだそういうんじゃねーよ、性欲だよ性欲!!
『おれは「もう一人のヤマダ」だぜ? 隠し事とか無意味だろ? ……まあそれはおいといて、幸か不幸かさっきので消えなかったおれには、どうやら最期にもう1ターンあるんだよな』
…………。
『おいおい、迷うなよヤマダ。シーラさまがお漏らししちゃうぞ? この【神域】をぶった斬るんだろ? そういうの待ってた! 実に燃える展開じゃねーの!!?』
…………できるかな?
『できるさ』
おれは、スキル【飛翔】で空に舞い上がる。
ドーム状に円形闘技場を囲った【神域】の壁に向かって飛ぶ!
空から見下ろせば、観客席のあっちこっちで小競り合いが続いている。
(ラダさま、タナカ、ナカジマ、フォローよろしく!!)
おれは、西側観客席で戦っている『紳士同盟』の面々に向かってスキル【共感覚】で声をかけた。
闘技場の真ん中でおれを見上げている、実体のない痩せたベリアス様と目が合った。
やれるもんならやってみな! と、不適な笑みを浮かべている。
……こんちくしょう! その股間のいきり立ったモノ、縮み上がらせてやるぜ!!
「いくぜ、もう一人のヤマダ!! スキル【勇気百倍】!!」
『いこう、もう一人のおれ!! スキル【勇気百倍】!!』
――!! そうか、持ってたのか……。
おれの『ガリアンソード』が、今までにないまばゆい輝きを放つ!
――100倍×100倍って、えーと……1、10……い、いちまん倍!!?
息を吸ってはくような、できて当たり前、絶対にいける!! という確かな自信が湧き上がる!!
おれの『ガリアンソード』は、長大な光の剣となった。
こいつなら、なんだって斬れる!!
『……ひとつ、頼みがある。ラダさま……ニセモノのラダさまのことさ』
ああ、判ってる。「石化」といえば、ホンモノのラダさまを「石化」して入れ替わったニセモノのラダさまだよな。
つまり、『氷柱の勇者』ヘルガさんが、おれが告ったあのラダさまってことで間違いないよな?
『そういうこと。たまたま同じようなスキルを持ってるってことも有り得なくはないけど……』
おれが以前会った『氷柱の勇者』はあんな人じゃなかった。もっと生意気で感じの悪い……美少年だった。男の娘ってやつだな。
ところが、さっき見たとおり、ヘルガさんは紛う事なき女の子だ。
『ああ。いいもの見せてもらったぜ! 心の賢者タイムだ』
……本当は、素顔のあの人に会いたかったんじゃねーの?
『おれはあの時、てっきりフラれたもんだとばっかり思ってたんだけど、どうもそうじゃなかったらしい。だって、わざわざまた、別の女の子になって会いに来てくれたんだからさ。これって、脈有りってことだろ!? おれはもうそれだけで、凄い満たされてる! セックスなんてどうでもいい……なんて言ったらウソになるけど、今のおれ身体無いしな? だから――』
――だから?
『あの人が、例えば凄いブスだったり、実は男だったりしてもいいのさ。素顔を隠すのはなにか理由があるんだろう。どうしたって、殴りたくなるようなブスとかガチムチのおっさんとか、おれだってさすがにキツイ。だったら、おれはあのヘルガさんの美しい姿が中の人ってことにしておきたい』
……確かに、そうだな。
『……そんなわけだから、ヘルガさんのこと、よろしく頼む』
ああ判った。具体的にどうすればいいのかさっぱりだけど、できるだけ今の関係を大切にするよ。
『さすがはおれだ、ありがとう。……さて、そろそろいく。――あばよ……!』
……こっちこそ、ありがとう。――あばよ!
――ズッッパーーーーーーン!!!!
光の剣は、当たり前のように【神域】の壁を切り裂いた!!
ついでに、空を覆っていた雪雲もすっぱり切れて、青空から暖かな日差しが円形闘技場に差し込む。
さっきまで全裸だったのに、おれはいつの間にか服を着ていた。黒マントが風にはためく。
……あいつは?
(いったよ、ケケケ……)
オナモミ妖精は少し寂しそうに笑った。




