324 『ヒロインの条件~王都円形闘技場にて⑤~』
――じょろろろろろ~~~……。
貴賓席の東側、放尿する聖女グレイスの痴態に、暴徒と化した観客達も迎え討つパラディン五名もしばし呆気にとられていた。
――ザッッ、ザシュ!!
そんな間隙を突いて突然、パラディン№9エルマの両腕が肩の付け根部分で切断されて落ちた。
スキル【ドラゴンフィールド】で形作った巨大な腕も、転がった両腕からゆがんで消える。
「う、ぐあっ……!!? き……、キミは……カスパール……なのか……!?」
全裸の観客達の中から歩み出たその男は、元パラディン№11カスパール・メッシュの姿をしていた。
「エルマさん……!!」
「エルマ、下がれ!!」
――ばしゅん!! ばしゅん!! ばしゅん!!
他のパラディン達から一斉に魔法攻撃が放たれるが、男の手前、透明な障壁に阻まれる。
「スキル【透明障壁】か、なかなか使えるスキルじゃねーか?」
「……貴様、さてはベリアスだな!? その姿は……カスパールをどうした!!?」
「今朝方ちょっとやり合ってな。死体を修復、回収したのは気まぐれだったが、思わぬ所で役に立ったぜ」
スキル【肉体共有】――。カスパールの死体を操るベリアスは、エルマの問いかけに答えた。
「ぐっ、よくも……!!」
『さあ、皆の者、生意気なドラゴニュートを好きにしていいんだぜ!!?』
――ヒャッハーーー!!!!
ベリアスの【王令】を受けて、成り行きを見守っていた観客達が一斉に両腕を失ったエルマに殺到する。
青いオーラ【ドラゴンフィールド】で身体を覆い身を守るが、防戦一方となるエルマ。
「マルク、エルマを救出に行ってくれ!!」
パラディン№6ランポウの指示で、№10マルクはスキル【天使の翼】で空へと舞い上がる。
ベリアスを飛び越えて、もみくちゃにされるエルマの下へ急ぐ。
――ごっっ!!
しかし、ベリアスの【浮遊鉄拳】に、上空から打ち落とされるマルク。
「行かせるかよ! さて、邪魔なあんた達にはこれをくれてやるぜ?」
カスパールの姿をしたベリアスは、両手を床に着いてクラウチングスタートの構えをとる。
「――草原流奥義! ショウワ刈りススキ!!」
――シュリィィン!!
――――シュリィィン!!
――――――シュリィィン!!
ホバークラフトの様に床上すれすれを滑走するスキル【疾走】で加速したベリアスは、パラディン達とのすれ違いざまにスキル【透明障壁】を剣の様に閃かせた!
――ガィィン!!
№8、№7のパラディンが次々と切り伏せられる中、最後に残った№6ランポウが、ベリアスの【透明障壁】を魔法【土壁】で受け止めた。
そして至近距離から、【光線】の魔法を撃つ!
――シュビビーーー!!
発射直前、ベリアスはランポウの腕を跳ね上げ、魔法は空へと逸れた。
「ちっ……」
「さすが№6だぜ、王都では最強なんだってな?」
「なめんなよ?」
ランポウは、ベリアスの腕を掴み動きを封じる!
回復魔法で持ち直した№10マルクが、ベリアスの背後を狙う。
手刀に光魔法を付与し、スキル【天使の翼】で加速した!
――ざしゅっっ!!
ベリアスの背中を、マルクの手刀が貫いたかのように見えた……がしかし、実際に貫かれていたのはランポウだった。
スキル【位置交換】で、ベリアスは自身とランポウの位置を一瞬で交換していた。
「ぐふっっ……!?」
「しまった……!!」
「惜しかったな?」
――ぼ! ぼん!!
同士討ちで重なり合ったランポウとマルクに向けて、ベリアスは魔法【火球】を放つ。
「……!!」
「うわぁぁぁっ!!!!」
火だるまになったパラディン二人は観客席から円形闘技場に落ちて、土の上を転がる。
踵を返したカスパール……の姿をしたベリアスの目の前に、聖女グレイスに腰を打ち付ける国王マグナスの姿があった。
――へこ! へこ! へこ!
目が合うが、お構いなしに行為を続ける国王マグナス……の姿に化けたシャオ。
思わず丸出しの股間が熱くなるベリアスだったが、その脳裏になぜか大司教ユーシーの姿が思い浮かぶ。
はて? セリオラを追い詰めるためだけに持ち出した「大司教ユーシーの純潔」の件、本人にはまったくと言っていいほど興味なかったはずなのだが……と、首をかしげるベリアスだったが、この身体のせいか……と思い至る。
どうやらこの身体、カスパールの死体にこびりついた想いに引っ張られているらしい――と、そう考えたベリアスだったが、一度芽生えたその衝動は消えるどころか強まるばかりだった。
大司教ユーシーの純潔が欲しい……!! と、貴賓席に向かってベリアスは【疾走】した。
勢いよく貴賓席に飛び込んだベリアス。他の聖女には目もくれずに、大司教ユーシーを探すが見当たらない。
スキル【認識阻害】を【脳力解放】で強化したユーシーは、見ようとすればするほどに視界に入らないのだ。
「大司教!! 大司教ユーシーはどこだっ……!!?」
「……え? カスパール君?」
と、思わずつぶやいた大司教ユーシーの声をベリアスは聞き逃さなかった。
声を頼りに腕を伸ばし、視界に写らない彼女を掴んだ。
掴んでしまえば【認識阻害】も無意味だ。ユーシーの身体を強引に抱き寄せるベリアス。
「ちょっ……何を!!? カスパール君じゃないんですか!!? きゃっ、触らないでください!! ……だ、誰です!!?」
「俺はベリアスだぜ、大司教様よ? この身体はもう死んでるはずなんだが、あんたのことを犯したいってビンビンになってるぜ!!」
「カスパール君が死んだ!? そ、それはどういうことですか!? まさか、ジーナス殿下の復讐を……!?」
「ほほう、なかなかいい肉付きをしていやがる。……感度も良さそうだ」
「あっ……いやっ!! 止めてください!! ベリアス様は決闘に負けたのですから、わたくしをどうこうするのはルール違反じゃないですか!!
「さてな? 今の俺は、そのなんだ……元パラディンのカスパールだぜ!?」
「ああっ……、そんな……うっ、止めてっ! お願い……!!」
レベル40越えの大司教ユーシーであるが、身体能力はかなり低い。
屈強な男に全裸で羽交い締めにされて身体の敏感な部分をまさぐられては、もはやその純潔は風前の灯火と言えた。
――その時、突然周囲の音が消えて、聖女セリオラの叫び声が円形闘技場に響いた。
『いやだっ!!!!? うそっ!!!!? うっ……うそっっ!!!!? ダメダメダメダメダメダメダメ~~~~~~!!!!』
何者かに、尻穴へ強力な下剤をねじ込まれたセリオラ。
しばし押し寄せる便意と孤独な戦いを繰り広げていた……が、抵抗は長く続かずセリオラの肛門は決壊の時を迎えようとしていた。
そんな切羽詰まった状況を押し退け抗おうとする「ダメ!」という強い気持ちが、彼女のスキル【独壇場】をその意思に反して誤作動させてしまう……!
――ぶりっ!!!! ぶりぶりぶりぶりっ……ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅ~~~~~~!!!!
セリオラの湿った排泄音が、静まりかえった円形闘技場に鳴り響く!
彼女の背後に忍び寄っていた国王マグナス……の姿に化けた聖女マデリンだったが、飛沫を避けて慌てて飛び退く!
大司教ユーシーの身体を夢中でまさぐっていたカスパール……の姿をしたベリアスも、思わず手を止める。
東側観客席で凌辱されていたメイドエルフのルカとハナだったが、腰を振るのも忘れて息をのむ。
西側観客席で戦闘中だった『紳士同盟』の面々も、何事かと振り返った。
会場に居る者全ての視線と意識を欲しいままにする、それは正に聖女セリオラの【独壇場】!
「あーっ、あのひと、うんちしたー!!」
静寂に包まれたままの会場で、幼女の無邪気な声が聖女セリオラの身に起きた直視できない現実を指摘する。
***
「……と、とんでもないシーンが撮れてしまったでござる……」
「吾輩達は、踏み込んではいけない世界の扉を開けてしまったのかもしれないのである……」
西側観客席のカーターとアルゴンは、呆然と手にべったりと付いた白い粘液をぬぐった。
アルゴンのスキル【遠視鏡】で、聖女セリオラの脱糞シーンを至近距離で鑑賞した。
そして、カーターのスキル【録画水晶】6個の内、最後の1個にそのシーンの一部始終を録画することに成功してしまった。
その5分間の映像を収めた水晶は、持っているだけで身に危険が及びかねない危険な工芸品と化したと言える。
それを今後どう扱うべきかと、二人はしばし頭を悩ませる。
後日、その水晶は『本の勇者』アマミヤの手に渡る。
複製されたそれはアマミヤの持つ販売経路で密かに取引され、カーターとアルゴンに莫大な利益をもたらすことになる。
また、その道の人達の間で『くそプリ・ユーシー』に並ぶ名著として語り継がれることになる薄い本『ブリブリぶりっ子・セリオラ』の元ネタがその映像であることは知る人ぞ知る事実である。
***
『お……おお~っと~!! セリオラ様、脱糞~~~!!!! 脱糞だ~~~っっ!!!!』
思い出した様に実況のキャプティン・アザリンが解説する。
『……うむ。そう言ってやるな。さすがに気の毒だ』
『同じ聖女として……女として、同情を禁じ得ません……だっちゃ』
聖女セリオラとは敵対関係にある聖女アイダと聖女エリエスも、この時ばかりは同情的な論調だった。
『……はっ! 私としたことが、つい……。配慮に欠ける発言があったことを、お詫びするのですぅ~』
『いや、どのみち手遅れか……!?』
『会場で暴れているお兄ちゃん達に警告です。対炎熱魔法防御を推奨するっちゃ!』
聖女セリオラは、明らかに錯乱していた。
涙を流しながら何事かぶつぶつとつぶやき、頭上に掲げた両腕に膨大な魔力を集め始める。
彼女は錯乱しながら考えていた、全てを焼き払う上級魔法で何もかもなかったことにしてしまえ――と。




