316 キンキンキンキン!!
「ラダ様!! す、好きだ!! おれと……、けけけ結婚してくれ……!!」
(おれとっ、けけけけけけっこんしてくれ!! ギャハハハハハ……!!)
『て、てめえ、笑うんじゃねぇ!! ……ぐすん、ちくしょう……』
――? ……んん? なんか騒々しいな?
オナモミ妖精ともう一人のおれが、あっちでなんか盛り上がってるっぽい。
『おっ! 気がついたか、ヤマダ?』
……あれ? なんか目の前が暗いんだが、どうなってんだこれ?
『そりゃ、お前がうつ伏せにぶっ倒れてるからだろ?』
ああ、なんだそうか。地面とキッスってやつだな。
えっと、確かおれはベリアス様と戦ってたはずだけど……、いいのを食らって意識が飛んでたってわけか?
それで、おれってばどのくらい気を失ってたかな?
『だいたい、一年ぐらいだな』
ぶほっ! ……おいおい、いくらなんでもそんなわけあるかよ!?
(ケケケ……! いや、だいたいそのぐらいだぜ~!? おかげで、ヤマダが生まれてからラダ様にフラれるまでの記憶の一部始終、たっぷり見させてもらったぜ~!)
『退屈なシーンやキツイシーンは早送りしたけどな』
……え、ウソだろ!?
じゃあおれはもうあの決闘に負けて、ユーシーさんは五人のベリアス様にぐるんぐるん輪姦されて……ことによると、ことによるともう赤ちゃんが産まれちゃったりなんかして……!!?
ふ、ぐぉぉお……!! 思ってたより結構ショックでけぇ!! ぬぐぉぉお……!!
(ケケケ……!)
『落ち着けよヤマダ、これは「走馬灯モード」だから。……いや「リアル走馬灯」だったりしてな? まあどっちにしろ、外の時間は進んでねーよ?』
――ぅおい! 焦らせるなよ!! 脳が壊れるとこだったじゃねぇか!!
『走馬灯モード』――要するにおれは今、止まった時間の中で思考だけを巡らせている状態だ。
身体はピクリとも動かないが、自分に何が起こったのか直前の記憶をたどることはできる。
えっーと……?
***
『――さて、陛下、ベリアス様のあのスキルは、反則でしょうか?』
『うむ、3P、4P、大いに結構……!!』
――ぶるぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!
聖女セリオラの問いかけに王様がそう答えると、観客席が一斉に沸き立つ。
くそっ、どいつもこいつも人ごとだと思って……!
「王の許しも出たようだし――」「――出し惜しみはもうなしだぜ!!」
――!!? 二人のベリアス様が口々にそう言うと、更に三体のベリアス様が現れ、計五体のベリアス様にぐるりと囲まれるおれ。
いや、さすがにこれはないだろ!?
予備の身体を四体持ち歩くとか、いくらいいとこのおぼっちゃんでも過保護過ぎるだろベリアス様よ!?
『なんとぉ~!! ベリアス様が5人になった~~!! 5対1の様相ではありますが、卑怯ではありません!! 陛下のお墨付きがあるのですから、まったくぜんぜん卑怯ではないのです~~!!』
『――見えたっちゃ!』
『なにっ!? アザリン殿の卑怯な肉体が露わに!?』
『えっ!? ええっ!?』
『ベリアス様のもう一つのスキルは【進化】!! 効果は自身のスキルを進化させる、だっちゃ!!』
『そういうことか、ベリアスめ!! 一見平凡なスキルも【進化】させれば……【反射】は【超反射】に、【自然回復】は【超回復】に……そして、【並列思考】は――』
「――【多重思考】に【進化】するってわけだ!! もっとも、俺の頭じゃあ五列思考が精一杯だけどな!!」
おれを取り囲んでいたベリアス様。その内三人が剣を抜き斬りかかってくる。
残り二人は後衛として、内一人が【光線】魔法を撃ち、もう一人はおそらくスキルで浮遊する鉄拳を操っている。
「ひ、ひぇぇ~~~!!」
たちまち追い詰められたおれは、スキル【飛翔】で空へと逃げる。
すると、各種魔法の集中砲火にさらされるおれ。
スキル【認識阻害】のおかげで狙うほどおれを逸れるが、こんな適当な弾幕だとうっかり当たりかねない。
――【超次元三角】!! 空中で足下に三角を描き、魔法攻撃を次元の隙間へと受け流す!
その三角の穴を避けて向かってくる鉄拳を、身をひねってかわす!
――あぶなっ! 足下の三角からはみ出したおれを、魔法【火球】や【石礫】がかすめていく!
いつの間にか、おれの目の前に金色の手の平があった。
ベリアス様のスキル【王の領域】で作りだした巨大な金色の手の平が、ハエでも払う様に叩きつけられる!!
――ガリガリッッ!!
おれは、『ガリアンソード』で受け流すが、勢いを殺しきれず空中でバランスを崩す。
その瞬間を狙って打ち込まれた鉄拳がすぐそこに……!?
――【超次元三角】!! 間に合った!!
鉄拳を、異次元の隙間に受け流す!! あぶねぇ……。
空中はむしろ危ないと判断したおれは、円形闘技場の端っこの方に壁を背にして着地する。――と同時に、左腕を基点にして三角形を描き【超次元三角】を盾として固定した。
『5人のベリアス様の怒濤の攻撃に、ヤマダが追い詰められて行く~~!!』
『……やはり、これは卑怯なんじゃないか!? アザリン殿は、そうは思わんか!?』
アイダ様……案外やさしい。泣きそうになる。
それに対して、『いえ、ぜんぜん?』と応じる実況のキャプティン・アザリンは鬼か!?
『5人のべリアス様、同じ魔法は一つとして無かったっちゃ。おそらくは、そういうことだっちゃ……!』
……え? 今のもしかしてエリエス様のヒントか?
どういう意味だ? 確かに、五人のベリアス様はそれぞれ違う魔法を撃ってきた。
【光線】が撃てるなら、【火球】や【石礫】よりも使い勝手良さそうなもんだけど……?
おれの前には三人の剣を構えたベリアス様が距離を詰めてくる。
後衛のベリアス様から魔法の射線が通らないように、前衛のベリアス様を盾にするように立ち回る。
おれは正面のベリアス様に斬りかかると見せかけて、視線を残したまま右横のもう一人のベリアス様へ向かって『ガリアンソード』を伸長させる!!
「うぐぉ!!?」
――刺さった!?
フェイントが功を奏し、右横のベリアス様の腹筋を貫いた!
――続いてギミック発動、『回転』!!
ぎゅるるる!!!! と、『ガリアンソード』の刃が回転し、傷口を広げる!!
まず、一人!!
伸長した『ガリアンソード』を元に戻し、正面のベリアス様からの攻撃をかわしつつ、フェイントでもう一人のベリアス様の首を貫く!!
「ぐぇっ!!?」
――二人!!
やはりそうか。どうやら、【王の領域】を持っているのは正面のベリアス様一人だけらしい。
『いや~ん!!? ベリアス様が2人もやられちゃった~~~!!? なんで!!? どうして~!?』
『ふふっ、なるほどそういうことか! 5人のベリアスはスキルを分割して所持している! もちろん魔法も。どうりで、ベリアスにしてはスキルが少なすぎると思ったのだ。あいつが、【疫病耐性】も【毒耐性】も持っていないのは明らかに不自然!』
『せっかくわたくしが遠回しにコメントしたというのに、台無しだっちゃ! ですが、要するにそういうこと。レベルが多少高かろうと、【王の領域】や【超反射】の無いベリアス様では、ヤマダ様の敵ではありません……っちゃ!!』
ありがとぅ、エリエス様! さすが、うちの上司!
「ちっ、言ってくれるぜ!!」
おれは正面のベリアス様を牽制しつつ、後衛のベリアス様へと『ガリアンソード』を伸ばす!!
――三人!!
残るは二人。
おれはスキル【飛翔】でもう一度空へ飛ぶ。
後衛のベリアス様からの鉄拳攻撃を左腕に固定した【超次元三角】の盾で受け流しながら、前衛のベリアス様の頭上で、ムチ状に変形させた『ガリアンソード』を三回振るう!
眼下のベリアス様を取り囲む様に地面に描かれた三角形、ぽっかりと異次元へ穴が開く! ――スキル【超次元三角】!!
しかし、二度目ともなると上手くはいかない。ベリアス様は、素早くその場から飛び退く。
もしかして今のが、スキル【超反射】だろうか?
前衛のベリアス様が飛び退いた隙に、おれは後衛のベリアス様の頭を割った。
――これで、四人!!
「やっと、掴まえたぜ!!」
――!!? 四人目を倒し一旦距離をとろうとしたおれだったが、左足を金色のオーラで形作った腕にがっちりと掴まれていた。
残ったベリアス様のスキル【王の領域】だ。
マズい、油断した……!!
動きの止まったおれに向かって左右二対の鉄拳が迫る。
――くそっ、仕方ないか。
スキル【勇気百倍】! 勇気モリモリの剣!! おれは『ガリアンソード』に「勇者のオーラ」をまとわせると、左足を掴んだ金色のオーラの腕を切断し脱出した……!
――ガリイィィン!!!!
右の鉄拳を避けきれずに、『ガリアンソード』で受け流す。
……よし! 次も……「うぐぇっ!!!!」
メキメキっ!!!!
おれは、左の鉄拳を空中でまともに食らって、自分の身体の中でいくつかの骨の砕ける音を聞いた。
そのまま地面に叩きつけられて、意識が飛ぶ――。
***
『――そこでおれがスキル【空間記憶再生】を使用して、「走馬灯モード」に入ったってわけさ!』
そ、そうか。助かったぜ。
……しかし、まじか。腕の骨、折れてるじゃん。
利き手が使えないのは、キツいな……。
(ケケケ……! もったいぶるからじゃねーの!?)
…………なにがだよ?
『スキル【勇気百倍】、使えよ? おれに気を遣ってる場合じゃねーだろ?』
あんたはおれの忘れた記憶だろ? 気なんか遣うかよ。
現に、さっきだって使ったし。
『ならいいさ。出し惜しみして、死んじまったら元も子もないからな』
(ケケケ……! 「勇者のオーラ」を使うほど、もう一人のヤマダは薄くなる! そろそろ、全部消えるんじゃね!? ケケケ……!)




