315 『地味すぎるJKの私が異世界に行ったら娼館に売られましたが、覚醒した【娼婦スキル】で成り上がります⑧』
「なあなあ、おれ達、どっか行くの?」
「王都だったら、ナカジマ氏の【空間転移】でぴょーんだよねー?」
「ふむ。どうやら南のダブエスターに向かうらしい。私の【空間転移】は、行ったことない街には飛べないぞ?」
「え!? ラダ様も一緒に歩くんですか? 向こうに到着してから、ナカジマ氏に迎えに来てもらえばいいのに」
「……い、行きます! 皆さんだけでは心配ですから……!」
「もしかしてラダ様、神殿のお仕事をさぼりたいんじゃなーい?」
「でも、日が暮れたら、神殿に【空間転移】するから意味なくないか?」
「……! いいえ、できるだけ神殿には戻りません。基本は、現地で宿をとるか野営とします」
「おれたちは別にいいですけど、ラダ様、着替えとかトイレとかあと、お風呂とかは……?」
「わ、わたくしだって……構いません!」
私の名前は横山千里。でも今は姿を変えて、ネムジア教会の聖女ラダを名乗っています。
他ならぬご本人からの依頼でラダ様に成り代わった私ですが、見た目はごまかせても中身まではそうはいきません。
神殿の方々と言葉を交わす度にバレやしないかとヒヤヒヤしてしまいます。
いえ、ラダ様をよく知る人達からはもう結構怪しまれているようです。
どうやら、いつもの癖で長風呂してしまったのがよくありませんでした。
「あら、ラダ様! 髪を洗ったんですね!? なんて珍しい!」
身の回りの世話をしてくれる女官の方は、「聖女様もお年頃かしら、ウフフ……」とか言いながら去って行きました。
……ラダ様はお風呂が嫌いでした。
といっても、別にラダ様の髪がいつも脂でベトベトだったとういうことではなく、スキル【浄化】だけで済ませることが多かったようです。
さて、こうしてはいられません。
石化前にラダ様と計画したとおり、私は神殿の方達とできるだけ距離をおくため、旅に出ることにしました。
私と同じように異世界から召喚されて来たという、三人の『勇者』達と共に。
背丈が私とほぼ変わらない『草原の勇者』こと、ヤマダ・ハチロウタさん。
長身でメガネをかけている『天空の勇者』こと、ナカジマ・ヒロシさん。
坊主頭で太っている『月光の勇者』こと、タナカ・タケシさん。
重そうな全身鎧を身に着けた、三人とも気のいいおじ……お兄さんです。
ラダ様は彼等をハズレと言っていましたが……ええまあ確かにかっこよくはなですし、清潔感のある見た目とは言い難いのですが、私は元娼婦なので平気です! 慣れてますから。
むしろこの旅路に、おじさんは好都合と思いました。いざとなったら、色仕掛けで口を封じればいいのですから。
よく見ればこの三人、こちらの世界に召喚される直前に私と一緒にラーメン店の行列に並んでいた……え? 早朝からラーメン店?
……違いました。私はあの日、新作の乙女ゲー『モランジェリーク』を買おうと……あれ? 私はともかく、あのおじさん達が乙女ゲー? 別の……エロゲの発売日とでも重なっていたでしょうか?
――そうそう! 確か店舗特典の『女神のギフト』が私はどうしても欲しくって……。
最初に訪れたのは、ニジの街の南に位置する鉱山都市ダブエスター。
この街で私達は、ミスリル鉱石の採掘をめぐる、地元領主と抗夫達を取りまとめる大商人アドラー家とのいざこざの仲裁役を頼まれます。
本来ならば地元ダブエスター神殿の聖女アイダがその役にあたるべき所でしたが、アドラー家はアイダ様のご実家ということで、公平を期すため以前からニジの街のラダ様に出向の要請がきていたようです。
アイダ様とラダ様は同期で結構親しい間柄とのことでしたので、なるべく二人だけにならないように気をつけていたのですが、宿泊したダブエスター神殿のお風呂場でアイダ様と二人っきりになってしまいました。
「ラダが男を三人も連れて歩くとはな。気のせいか少し色っぽくなったんじゃないか?」
そう言って私の胸をもみしだくアイダ様。
――ええっ、そんなっ!? 結構親しいって、そういう感じ~!!?
私は思わず放った【電撃】魔法でアイダ様を失神させると、お風呂場から慌てて逃げ出しました。
二番目に訪れたのは、海に面した水産都市アルザウス。
この街には有名なアルザウスダンジョンがあり、私達はアルザウス神殿を拠点にしてダンジョン攻略を始めます。
そこで出会ったのは、『黒金の勇者』シマムラ・スーザンさん。
私達はとても仲良くなりました。
かっこいい男性三人とパーティを組んでいて、少しだけうらやましいと思ったのはないしょです。
三番目に訪れたのは、王国最大のオークションが開かれる商業都市クルミナ。
タナカさんがどうしてもというので、アルザウスダンジョンで手に入れたレアアイテム「妖精の化石」を換金し、奴隷オークションに参加しました。
手足のないドラゴニュートの美少女姉妹を落札し、タナカさんがスキル【肉体治療】で手足とそれ以外の失われていた全てを再生しました。
「この子達をうちの神殿で預かるんですか? それはまあいいですけど……」
タナカさんは名残惜しそうにしていましたが、身体の弱っていたドラゴニュート姉妹をクルミナ神殿の聖女ユーシーに預けて私達は次の目的地へと旅立ちます。
去り際に聖女ユーシーに聞かれました。
「ラダ、あなたもしかしてネムジア教会から逃げているんですか? それとも――」
――戦っているんですか? と。
初耳です。……ですが、いろいろ腑に落ちます。
ニジの街を旅立ってから何度か命を狙われました。
ですが、まさかそれらがネムジア教会からの刺客だったとは思ってもみませんでした。
……さてはラダ様、私に厄介ごとを押しつけましたね?
クルミナから更に東、国境を越え海を渡り隣国ランマ王国を四番目に訪れました。
国土の大部分を砂に覆われたこの国も、ネムジア教を信仰しています。
というのも、水不足に悩むこの国では、水魔法が重宝されたからです。
ですが、貧しい庶民までには高価な魔法は行き渡らず、ほとんどの人々は大オアシスの水に頼って生活しているのです。
その大オアシスにいつしか巨大な天魚という怪物が棲み着き人々を悩ませていました。
私達はその怪物退治を引き受けます。
ドラゴンさえ飲み込むという天魚に苦戦する三人の勇者でしたが、どうにかオアシスから追い払うことに成功しました。
年末の『聖女会議』に参加するため王都を訪れた私達。
ランマ王国で手に入れた天魚の素材で新しい武器の作成を依頼します。
ヤマダさんは『ガリアンソード』という奇妙な仕掛けのある剣を、ナカジマさんは【光線】の魔法が出る『熱光線銃』を、タナカさんは電撃をまとわせる『痺れステッキ』をそれぞれ注文します。
私も、形のいいメイスを一本、こっそり注文しました。
この会議で私は、ニジの街の神殿から王都の中央神殿に異動になりました。
少しほっとしましたが、後任の聖女エリエス様に引き継ぎを行わなければならないようで、一度ニジの街神殿に顔を出すように言われました。
次の訪れたのは王都の東、学術都市ミース。
私はラダ様の弟ギネス君とばったり出会ってしまい、請われるままミース魔導学院に入学することになってしまいました。
ヤマダさん達三人は年齢的にキツかったので、私のスキル【特効メイク】で見た目だけ若返ってもらいます。
タナカさん、ナカジマさんとは別々のクラスになってしまい、交友関係が変わってヤマダさんとも別行動することが増えていきました。
クラス対抗戦やら学院内の派閥争いで私達は敵対したり仲直りしたりして……、なつかしい学生時代を思い出し、結果的には凄く楽しかったように思います。
白状しますと、この頃から私は少しずつ、ヤマダさんを意識するようになっていたのです。
学院でスクールライフを楽しんでいた私達に、吸血鬼騒動の噂が耳に入ります。
夏の長期休暇を利用して、私達はミースから北に位置する噂の現場、城塞都市キタカルを訪れました。
噂を聞き集まってくる名のある冒険者や腕自慢の傭兵達。
そして、『氷柱の勇者』ヘルガ・ロンメルさん、『灰の勇者』キネ・リュウジさん、『黒金の勇者』シマムラ・スーザンさんのパーティもこの街に集結します。
街に押し寄せるアンデッドの群れと、ドラゴンゾンビを皆で力を合わせて退治しました。
しかし結局、吸血鬼出現の話はうやむやになってしまいました。
……なんだったのでしょう?
気がつけば、ラダ様と入れ替わってから六年が過ぎ去り、私達は旅の終わりを感じていました。
年末の『聖女会議』で、クルミナ神殿の聖女ユーシーが次の大司教を引き継ぐことに決まりました。
年齢的には聖女グレイスが筆頭候補でしたが、『勇者』を三人連れた私も実は有力候補だったと聞かされました。
――あなたがふらふらしているから……と、聖女ユーシーから恨みがましく言われました。
一方、聖女ユーシーを亡き者にしようと企んだ聖女グレイスは、最強の勇者と噂される『鏡の勇者』ネノイ・ソウイチさんを暗殺者として差し向けます。
そのことにスキル【危機感知】でいち早く気付いたヤマダさんは、人知れず最強の勇者と対決し、どうにか退けることに成功したのです。
いよいよ、私は自分の心にうそがつけなくなっていました。
ヤマダさんに対する特別な思いが、元娼婦の身体をうずかせます。
ですが、今の私はニセモノの私なのです。
私達が最後に訪れたのは、王都の北、境界の山脈のふもとから山頂まで続く大神殿にして国境の砦、聖地ネムノス。
左右を神獣サンノウマサルと神獣シッペイタロウの神域に挟まれて、山頂部では幅わずか60mが人間に許された領域なのです。
それは、月の美しい夜でした――。
「ラダ様!! す、好きだ!! おれと……、けけけ結婚してくれ……!!」
その夜、いろいろ思い詰めてしまったヤマダさんが、とうとう私に告白しました。
……いいえ、結婚を申し込みました。
――なんで!?
――なんでそうなるんですか!!?
どうせなら、一回やらせてくれ!! とかの方がまだましでした。
私は、逃げ出しました。
とても嬉しかったのですが、一目散に逃げました。
国境の門を超えて、『魔族領』へと――。
なぜなら、私はニセモノの聖女で、……元、娼婦なのですから……。




