314 『地味すぎるJKの私が異世界に行ったら娼館に売られましたが、覚醒した【娼婦スキル】で成り上がります⑦』
「わあ、すごい沢山のスキルですね? 【精飲】! 【肛姦】! 【噴乳】!? ……あらあらまあまあ!」
「……それは、その……」
「――【技能因子吸収】! なるほど、これで集めたんですね? それにしても、こんなにも凄いスキルを沢山持っているのに、なぜまだ娼婦を続けているのですか? いえいえ、エッチなことが好き過ぎてというなら、何も言うことはないのですがー?」
「そ、それは違います! ……いえ、たぶん違うと思うんです。けど私……どうしていいか判らなくて……」
「娼婦を辞める方法なら正攻法でも裏技でも、いくらでもあると思いますが……もしや、目的とかそういうことでしょうか? 何になりたいとか何処へ行きたいとか?」
「私、世間知らずで……、臆病で……、バカで……」
「あーはいはい、おっぱいしか取り柄がないと!」
「そ、それは……、あんまりです」
「ごめんなさい、別に妬んでるわけじゃないんですよ? さて、だったらどうです? いっそ、全くの別人に生まれ変わるとか? レベルやスキル、もちろん記憶も引き継いで新たな人生にチャレンジしてみるなんていかがです?」
「……!?」
「おやー、興味がありそうですね? ……新しい人生はたとえば、『皆に慕われ尊敬される美しい聖女様』なんてどうです?」
「……そんなことが可能なんですか?」
「ええ。やり方は、わたくしがお教えしますよ? わたくしの言うとおりにすれば、望みは叶えられるでしょう」
「……貴方は、いったい……?」
「――わたくしは『魔王』、とでも言っておきましょうか?」
私の名前は横山千里。娼館ではセンと名乗っています。
ブルボーン伯爵様の保養所で蛇神『ムシャウジサマ』と対決したあの品評会の夜から一ヶ月が過ぎました。
スキルで適当にお客様をあしらいながら、表向きは今まで通り娼婦の仕事を続けています。
そんなある日、私は奇妙な夢を見ました。
仮面で顔を隠した黒髪の若い女性に、全くの別人への生まれ変わりを薦められる夢です。
どうせ夢の中という安心もあり私がうなずくと、彼女は妙に具体的な方法を指示してきます。
そして彼女は、自身を『魔王』と名乗りました。
目が覚めた時、私の心は決まっていました。
『魔王』といえば悪者に違いありませんしその言葉を信じるなんてとても危険なことのように思いましたが、こんな場所でただ年を取っていくよりは『魔王』にすがってでも今の生活を変えたいと、その時の私は思ったのです。
『魔王』は、私のスキルのことを私よりもよく知っていました。
スキル【眷属召喚】眷属を呼び出す――という蛇神『ムシャウジサマ』の魔石から得たスキルがあります。
『ムシャウジサマ』のスキルなので、ミミズの様な紐状の「虫」を大量に呼び出すスキルなのだろうと、取得したものの一度も試さなかったスキルだったのですが……、『魔王』の指示はまずはこのスキルを使う所から始まっていたのです。
私は恐る恐るそのスキル、【眷属召喚】を使用しました。
――ぼたぼたぼた……!! と、目の前に開いた空間の裂け目から、大量の紐状の「虫」がトコロテンの様にあふれ出ます。
あわわ……やっぱりです! 案の定です! 気色悪いです!!
私は息をのみ、必死で悲鳴をこらえました。
部屋の床にこんもりと積み重なった大量の「虫」が、やがてひとかたまりになって人型を形作ります。
それは、美しい裸の女性となって、私の前にひざまづきました。
「お召しにより参上しましたー、ルルでーす! 姫さま、なんなりとー」
「……虫女?」
「違います! 断じて違いますよ!? 私は淫魔のルルですからー!」
「そ、そう? なら私に【変化】できる?」
私のスキル【鑑定眼】で見たところ、ルルの種族は『虫女』でしたが、そのステータスには私の所有するいくつかの「淫魔スキル」と「娼婦スキル」があったのです。
その内の一つ【変化】を使って、彼女は私に変身しました。
私より少し背が高く、お尻も引き締まっているように見えましたが、概ね大丈夫そうです。
「その姿で、私の代わりに働いて欲しいんですけど? ……娼婦として」
「得意です! 任せてください」
すごすごと切り出したのですが、ルルはあっさりと引き受けてくれました。
少しやる気に溢れすぎていて、かえって不安になるほどです。
しばらくは無茶をしないように、【視覚共有】で見張る必要があるかもしれません。
それから二週間が経ち、ルルも仕事の作法を憶えた頃、遂に私は娼館で宛がわれた自分の部屋を出て行く決心をしました。
この二週間、私は『魔王』と話し、必要な知識を得ました。
私が今夜『聖女』となり、明日から『聖女』として振る舞うために必要な知識です。
その夜はあいにくの嵐でしたが、いつもは賑やかな表通りの人通りも少なくて好都合でした。
私は、部屋の窓を開け放つと、吹き込んでくる雨の中に身を乗り出しました。
フード付きのローブが、強風にはためきます。
「じゃあルル、後はお願いね? もし何かあったら、報告してね?」
「お任せください! きっと、この店のナンバーワンになってご覧に入れます」
……それはどうだろう? と思いましたが、せっかくのやる気に水を差すのもなんなので、私は何も言わずに窓から飛び出しました。
結局私は、自分で行き先を決めることはできませんでした。
ただ夢で会った『魔王』を名乗る女性に導かれるまま、私はネムジア教会の神殿に向かって歩き出したのです。
時折稲光が空を焦がす嵐の夜、私はネムジア神殿の扉を押し開きました。
わずかな灯りに照らされた礼拝堂で、白い神官服の美しい女性が振り返って私を迎えます。
「……ネムジア神殿へようこそ。こんな嵐の夜に、どうされました?」
彼女は、ニジの街の聖女ラダ様。この街の……いいえ、王国中の人々に慕われ敬われるネムジア教会十二人の聖女の一人。美しく気高い純潔の乙女。
「――さあ、わたくしでよろしければ、お話をうかがいますよ?」
無言で立ち尽くしたまま動かない私に、聖女ラダ様がやさしく語りかけます。
今夜私は、『魔王』にそそのかされるままに、彼女の人生の全てを奪いにやって来ました。
目深に被ったフードで隠した私の顔は、既に聖女ラダ様の顔に【変化】を終えています。
後は目の前のラダ様を、私のスキル【石化眼】で石化して隠してしまえば入れ替わり完了です。
その隠し場所さえも『魔王』から指示されていますので、その行程を一つ一つ操り人形のようにこなしていけばいいのです。
――と、思ったのですが……、
「……って、聖女ラダ様、あなたが『魔王』だったんですね?」
「……!? ち、違います! イヤデスワー、何をおっしゃるやら、イヤデスワー、ホントにマッタク!」
――と、あからさまに動揺する聖女ラダ様。
夢に現れた『魔王』は仮面を付けていましたが、こうして向かい合って話してみると髪型や声でバレバレです。
「…………」
「……よくぞ見破りましたね、セン様……いいえ、チサト様? さすがは、異世界の勇者」
「センでけっこうです。『勇者』ってなんです? まだ、『魔王』ごっこを続けるんですか?」
「わたくしはスキル【魔界/夢で逢えたら】を持っているので、あながち『魔王』候補といえなくもないのです。そして、異世界から呼ばれたセン様、あなたは本来『勇者』として称えられるべき人なのです」
「……!? でも、私はただの……」
「あなたに謝らなければならないことがあります」
ラダ様は、私が元の世界から全裸で森の中に召喚された時、保護することができなかったことを謝罪しました。
男性三人の異世界人を保護し、まさか四人目の私が近くにいたとは思わなかったとのことです。
今更そんなことを言われてもどうにもならないし、別にラダ様のせいでならず者に凌辱され娼館に売られたとも思いません。
「まさか、そのことに負い目を感じて……!?」
「いやいや、まさか! そんなわけないじゃないですか! セン様を保護できなかったのは、わたくしのせいじゃありませんしー」
ええ~っ!? まあその通りだとは思いますけど、じゃあさっきの謝罪はなんだったんでしょう?
ラダ様が言葉を続けます。
「――わたくしは元パラディンでして、本当はもっとこう拳で語り合いたい感じの女なんですよ? たまたま取得してしまったスキル【神託】を見込まれて『聖女』に選ばれたりして、一時期は『大司教』を目指そうかなーとか思ったりもしたんですけど、やっぱりなんか違うなーって」
「はぁ……」
「ここだけの話、わたくしが保護した三人の異世界人、実はハズレでして……いえ、実力は申し分ないのです。ですが……要するに、ルックスとか根性がアレでして……。少なくとも逆ハーレムという感じではないんですよねー、少なくとも」
「…………」
「そこでわたくしは考えたのです、次の異世界召喚に賭けてみようかと!」
「――次!?」
「わたくしの【神託】によると、次の異世界召喚が七年後に発生する予定です。しかし残念、七年後のわたくしは三〇歳になってしまうのです! つまり――、もうお解りですね?」
どうやら、ラダ様は自らを石化し七年後まで今の若さを維持したいということのようです。
……本当でしょうか? そこまでして次の異世界召喚を待つ必要があるでしょうか?
ラダ様であれば、異世界人にこだわらなければ、素敵な人を選び放題じゃないかと思うのですが?
まるで、私にどうしても「聖女ラダ様」役をやらせたいような……?
「本気で言ってるんですか?」
「もちろんです。――ああ、そうそう、七年後の石化解除は気にしなくていいですよ? わたくしは、夢を渡ることができますので。――さてセン様、そんな打算あってのことですが、『皆に慕われ尊敬される美しい聖女様』を、どうか引き受けてもらえませんか?」
ラダ様は不思議な人です。
なにしろ、自分のことを「皆に慕われ尊敬される美しい聖女様」と言ってしまうのですから、かなり変わっています。
もしかしたら、この方は本当に『魔王』なのかもしれないと思いつつも、今夜から私は聖女ラダ様として生きることを決めたのです。




