313 『ヒロインの条件~王都円形闘技場にて②~』
チンチコール侯爵とその取り巻きが去りぽっかり空いた最前列に一人座っていたヘルガでしたが、その隣にもう一人派手な容貌の美女がやって来て腰掛けました。
「セン姫さまー、いい席がとれましたねー?」
「今は『氷柱の勇者』ヘルガ・ロンメルだから、その名前で呼ばないで……あなたのその姿は?」
ヘルガのスキル【鑑定眼】ですぐに眷属の淫魔ルルであると判りましたが、半年前に別れた時とは見た目が全くの別人に変わっていたのです。
「昔のイガなんとかっていう勇者が作った裸婦像を参考にしたんですよー? なんでも、異世界の女優さんだそうで、名前が私と同じルルだったし。セン姫さま、知ってますかー?」
「ルル? もしかして、木ノ花ルルの若い頃かな? そういえば面影あるかも」
――綺麗ね。と率直な感想を漏らすヘルガでしたが、彼女の知るその女優は確か七十近い高齢だったように思い出されます。
ところで――と、視線は闘技場で奮闘するヤマダを追いかけながら、ヘルガはルルに問いかけます。
「王都の娼館はどう?」
「それが、結構レベル高くて、私のテクニックでもなかなか……。淫魔より凄い人族が、知る限り四人はいるんですよー? もう怖いです人族」
「くれぐれも、正体、バレないようにね?」
「それなんですけどー、王都では結構普通に働いてるんですよね、淫魔も魔族もー?」
「え!? ……そうなの?」
「もちろんみんな【隷属】されてるんでしょうけど。私、人族のふり続ける意味あるのかなーって、思ったりー?」
半年前までルルはニジの街の娼館『夢幻館』でセンの姿に【変化】し身代わりとなって働いていましたが、本物の『氷柱の勇者』ヘルガ・ロンメルと鉢合わせになってしまい、うっかり返り討ちにして命を奪ってしまうという騒動を起こしていました。
「……【隷属】、されたいの? いいじゃない、王都で五番目なんでしょ? ……それに、目立ちすぎれば疎まれ叩かれる、こっちの世界だってきっと同じ」
「うーん、エロに関してだけは種族としての矜持が……」
「すみませーん、ここ空いてますか?」
ヘルガとルルの会話に割り込んできたのは、灰色で重そうな鎧を身に着けた女戦士でした。顔はタマネギの様な兜に隠されて見えませんでしたし、体つきも分厚い装甲の下でしたが、その声で女性であると知れました。
一瞬ヘルガは、チンチコール侯爵の関係者が引き返してきたのかと思いましたが、彼女の手がかわいらしい幼女と繋がれているのを見て、そうではなさそうだと警戒を解きました。
「ええ、よかったら……?」
「やった! シーラさま、みんなを呼んで?」
重鎧の女戦士――ラダ様は、手を繋いだ幼女――シーラ様に、座れる場所が見つかったことを他のみんなにも知らせるように告げました。
うれしそうにうなずいたシーラ様は、階段席の上の方でキョロキョロしているナカジマ達に呼びかけます。
「ナカジマ~、タナカ~、ナタリアちゃ~ん! こっち、こっち~!!」
ナカジマ・ヒロシが悩んだ末に思いついたヤマダに対する埋め合わせの手段は、スキル【空間転移】で応援を連れてくることでした。
おさないシーラ様の声援は、ヤマダのささくれだった心を癒やすに違いありませんし、タナカのスキル【肉体治療】があれば大ケガを負ったとしても一瞬で治してしまうでしょう。
いよいよ命が危ない時には、ラダ様や英雄ナタリアが決闘に乱入して救ってくれることも期待できそうです。
「あれ、キミはえっと、誰だっけ……?」
「……お久しぶりです、ナタリア姉……ナタリア様。ヘルガ・ロンメル……『氷柱の勇者』と呼ばれています」
ヘルガは、思わず「ナタリア姉様」と呼びそうになり慌てて言い直しました。
あれだけお世話になったにもかかわらず、ある日挨拶もせず姿を消し、今もまた【変化】で姿を偽っていることが、酷くうしろめたかったのです。
『――さて、陛下、ベリアス様のあのスキルは、反則でしょうか?』
『うむ、3P、4P、大いに結構……!!』
――ぶるぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!
聖女セリオラの問いかけに王様がそう答えると、観客席が一斉に沸き立ちました。
鎧姿のラダ様に抱っこされたシーラ様、推定四歳が問いかけます。
「ねーねー、ラダさまー、3ぴー4ぴーってなにー?」
「わたくしもあまり詳しくはないのですが、エッチなことを三人でするのが3Pで、四人でするのが4Pと聞いたことがありますね」
まったく躊躇なくラダ様が答えます。
「えー! あのピカピカのひととヤマダが3ぴーなのー?」
「違います違います、ヤマダ様は泣きながらシコシコして見てるだけの役です! どうやら、あっちに座っている大司教ユーシー様とピカピカの人が3Pするみたいですね? ふふっ、なんだかがぜん面白くなってきましたよー?」
「相変わらず本物のラダさまは下品だね、さすがのボクもちょっと引いてしまうよ。ヘルガもそう思わない?」
「……え!? 本物……? その鎧の方は、聖女ラダ様なんですか……!?」
「ちょっとちょっと、ナカジマ氏ー、そっちの美女、木ノ花ルルに似てない!?」
「なるほど、若い頃の木ノ花ルルにうり二つだな」
「ぼく好きだったなー、『混浴温泉美女連続殺人事件』シリーズ!」
「う、うむ……。私も少年の頃、こっそり見たな」
「ねーねー、ラダさまー、だったらピカピカのひとが5にんになったら6ぴー?」
「うーん、6Pか輪姦か、微妙なところですねー? わたくしもあまり詳しくはないのですが」
「リンカンね。ボクも若い時はよくされたよリンカン。最高記録は35人だっけな?」
「「ふぇ~、36ぴー!?」」
シーラ様とラダ様が揃って感嘆の声をもらします。
そして、「負けた……」とルルが小さくつぶやくのをタナカとナカジマは聞き逃しませんでした。
それはともかく、闘技場ではピカピカのベリアスが追加で三人現れて五人に増えていました。
王様の許可が下りたことで、スキルの使用を躊躇わなくなくなったようです。
『なんとぉ~!! ベリアス様が5人になった~~!! 5対1の様相ではありますが、卑怯ではありません!! 陛下のお墨付きがあるのですから、まったくぜんぜん卑怯ではないのです~~!!』
『――見えたっちゃ!』
『なにっ!? アザリン殿の卑怯な肉体が露わに!?』
『えっ!? ええっ!?』
『ベリアス様のもう一つのスキルは【進化】!! 効果は自身のスキルを進化させる、だっちゃ!!』
『そういうことか、ベリアスめ!! 一見平凡なスキルも【進化】させれば……【反射】は【超反射】に、【自然回復】は【超回復】に……そして、【並列思考】は――』
「――【多重思考】に【進化】するってわけだ!! もっとも、俺の頭じゃあ五列思考が精一杯だけどな!!」
ベリアスの大きな声が、闘技場に響きました。
そして、ヤマダの「ひぇぇ~」という小さな悲鳴が聞こえたような気がしました。




