311 くちげんか
――名付けて、『超次元虫取り網』!!
おれは、ガリアンソードの切っ先にくっ付けた【超次元三角】を振り回す。一辺およそ60㎝の三角形で、迫り来るベリアス様の鉄拳をキャッチ! キャッチ! キャッチ! 次元の隙間に放り込みまくり!
「そんれ! そんれ! そんれ~!!」
思い出す、チョウチョとかトンボとかむやみやたらに追いかけた少年の日々。
あれってなんだったんだろうな? 本能かな?
『あっ、ああ~っ!!? ヤマダのヤツぅ! ベリアス様の「鉄の拳」が、どんどん消されちゃう~~!!?』
『……アザリン殿は、ベリアス贔屓だな』
『筋肉こそジャスティスなのです! あ……いえ、キャプティンはあくまでも、観客のみなさんの代弁者なのでしてぇ、ナハハ!』
『げぇ、筋肉とかないっちゃ~』
『ふむ、ほんの数年前までベリアスも、聖女エリエス好みの生白いお坊ちゃんだったんだがな? 変われば変わるものだ』
何を人聞きの悪い……! とか言ってアイダ様を睨むエリエス様。
……うちの上司、ショタ好きだったか……。リーフ君、大丈夫かな……?
それはさておき、おれは後ろ向きに空を飛び回りながら『超次元虫取り網』を振るいまくり、八つ全ての鉄拳を次元の隙間に消し切った。
「ちっ、なかなかやるじゃねーか、ヤマダ!!?」
ベリアス様が、追加の浮遊する鉄拳二つを出現させる。
――そうはさせるか!
おれは、ガリアンソードをムチ状に変形させて『超次元虫取り網』の射程を伸ばし、出現したばかりの鉄拳二つを横薙ぎにしてまとめて消し去った。
そのまま接近し、ベリアス様の頭から『超次元虫取り網』を被せにいく!
ちょっとサイズ的に肩幅がはみ出しそうだが、三角形は多少伸縮するから行けるはず。
「ピカピカの大モノ、ゲットだぜー!!」
ガリアンソードを剣に戻し、振りかぶった時だった。
にょきっ――っと、【超次元三角】の内側から金色の腕が伸びた。
……はぁ!!?
二本の金色の腕が【超次元三角】のへりをがっちりと掴み押し広げると、中からピカピカのベリアス様が飛び出して闘技場に着地した。
さっきまで鉄拳を操っていたベリアス様と、たった今【超次元三角】から飛び出してきたベリアス様、同じ顔をした二人のベリアス様が、空中で呆然としているおれを見上げている。
……なにこれ!? 【分身】とか、そういうスキルなのか?
『えええ~~っ!!? なにコレ~~!!? ベリアス様が二人~~~っ!!?』
『エリエス、見えたか!?』
『いいえ……でも、あれは二体共に実体のようですっちゃ』
「やれやれ、やっと出られたぜ。やってくれたな、ヤマダ!?」
初見殺しで次元の隙間に落としたベリアス様は、ずっと向こう側で脱出の機会を待っていたってことか? じゃあ、今まで戦っていたのは?
「……スキルで作った分身とかか? でも、視界の届かない向こう側から遠隔操作って感じでもなかったし、どっちが本物のベリアス様なんです?」
「”どっち”なんてのは的外れだぜ? ヤマダだって、たまには下着ぐらい履き替えるだろ?」
「……?」
「――でだ、俺は時々、寝ぼけてパンツを二枚重ねて履いちまうことがある」
『あ~、キャプティンもスカート短い時はパンツを二枚重ねて履く時ありますね~、お腹を冷やさないように』
『――見えたっちゃ!』
『なにっ!? アザリン殿のパンツ的なものか!?』
『えっ!? ええっ!?』
『ベリアス様のスキルは、【肉体共有】だっちゃ!』
「おっと、見つかっちまったか! 俺って結構高貴な生まれだったりするからよ、出かける時には持たされるんだよ、財布とハンカチと――あと、替えの肉体?」
「か、替えの肉体!? ……でも、あの落下の瞬間に?」
それよ。まあ、見てくれ――と、片方のベリアス様が背中を見せる。
マントの下で気付かなかったが、ピカピカの鎧に大きな穴が開いていた。
穴から、ベリアス様にしては生白い素肌が覗く。
「今朝、出がけにチンピラに絡まれてよ、鎧と身体に大穴開けられちまった。だもんで、最初の俺が次元の穴に落ちるまで、客席で【超回復】してたのさ! もしも【空間収納】にしまいっぱなしだったら、あの落下時点で俺の負けだったよなー? あぶねえ、あぶねえ!」
うそぉ……!?
しっかし、ベリアス様に深手を負わせるチンピラって、なにモン!?
「――ヤツのせいで遅刻したけど、結果的に助かったぜ! 元パラディン№11の……」
「ええっ!? カスパール君と、戦ったんですか!? 今朝!?」
「そうそう、そいつだ。親父を殺した犯人だよな? だけども、あの親父がそう簡単にくたばるとは……」
「それで、カスパール君は?」
「ああ、そっちはきっちり息の根を止めておいた。言っておくけど、仕掛けてきたのはあっちだぜ?」
「……でしょうね」
そういえば、暗殺するとか言ってたっけ、カスパール君。
このこと、ユーシーさんやドロシーちゃんに伝えるの、きっついな。
『ちょっとまて、ベリアス!! お前は、そのスキル【肉体共有】と【並列思考】を使って、あらかじめ複製した二つの肉体を同時に操っているということで間違いないか!!?』
実況席からアイダ様が問いかける。
……まあそういうことだよね。
さっきアビススパイダーの死体がウナルぴょんに噛みついたのも、ベリアス様がそのスキルで操ったというわけだ。
「な、なんだよアイダ様!? なんか文句でもあるのか!?」
『大ありだ! 貴様、一対一の決闘に二人がかりとは、高貴な生まれが聞いてあきれる!! そんな卑怯なマネまでして、ユーシーの貧相な身体が抱きたいか!!?』
「ええっ!? 卑怯……なのか?」
おお、さすがはアイダ様! いいぞ、ベリアス様をやり込めろ!!
――ざわ……言われてみれば……ざわわ……。
――ざわ……卑怯かも……ざわわ……。
しめしめ、観客もざわついているぞ。
ちなみにおれ的には、【物理吸収】とか【スキル封印】とかのチートスキルに比べたらぜんぜん卑怯って感じしないけどな? 黙っとこ。
『あ~あれ? あれれ~? そう言われるとキャプティンもそんな気がしてきましたよ~? ベリアス様は、大司教様とそうまでしてエッチなことがしたいんですかねぇ~!?』
『きっと、二人がかりで前後からするに違いないっちゃ!』
――ざわ……前後から……ざわわ……。
――ざわ……二穴挿し……ざわわ……。
「う、ぐ……違っ……」
あ、ベリアス様が泣きそうだ。
いいぞ~、もう一押し!
『お待ちください!!』
ここで声を上げたのは、貴賓席の聖女セリオラ様だった。
なぜか周囲の音が消え、セリオラ様の発する声だけが円形闘技場に響き渡る。
『――ベリアス様が肉体を二つ使うのは、両手に剣を持つようなものです!! 両手に剣を持ったからといって、優れた技量が無ければこけおどしに過ぎません!! ベリアス様のスキル【肉体共有】と【並列思考】なくしてはただの精巧な肉人形に過ぎないそれを武器として携え決闘におもむくのは決して卑怯なことではないのです!! ましてや……』
不気味なほど静まりかえる異世界ピープル。
……なんだこれ?
『……大司教様は、もう三十路でいらっしゃいますよ?』
――どっ!! と、会場が沸く。
とんでもないセクハラ発言であるが、会場のお兄ちゃん達の心はがっちり掴んだようだ。
隣で、オーバー30のグレイスにゃんが凄い目で睨んでいるけど、セリオラ様はどこ吹く風である。
「セリオラ様のスキル【独壇場】――発声発音する時、自分以外の周囲の音を強制的に小さく絞ってしまう……ですっちゃ」
「あの女らしい、口喧嘩では負け無しだな」
セリオラ様の【独壇場】は続く。
『――さて、陛下、ベリアス様のあのスキルは、反則でしょうか?』
『うむ、3P、4P、大いに結構……!!』
そう答える王様は、どこかおかしい。
いや、もともとああいう人なのかもしれないけど……。
――ぶるぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!
くそっ、会場のお兄ちゃん達もすっかり3P、4Pを期待する空気だ。
客観的に、そんなに面白いもんじゃないと思うけどね?
……だって邪魔じゃん? 男の身体で遮られて。




