310 初見殺し
『ベリアス様の、八つの「鉄の拳」が次々と発射されるぅ~~~!! おおっと、ヤマダ避ける!! 避ける!! 避ける~!!』
『ほう、ヤマダのやつ、上手く避ける』
『ヤマダ様はスキル【危機感知】と【認識阻害】で避けるのが得意なんだっちゃ!』
おれとベリアス様の戦いを実況するのはキャプティン・アザリン。
そして、解説は長身メガネのアイダ様とうちの上司エリエス様だ。
てか、おれのスキルみんなにばらすなよ……!!
エリエス様はスキル【鑑定】を持っている。どうせなら、ベリアス様のスキルを一通り言ってくれてもいいんだぜ? スキル【共感覚】で、こっそり頼もうかな……?
『おい、聖女エリエス、ヤマダは罪人じゃないんだからスキルを読み上げるのはいかがなものか?』
『やっちゃったっちゃ!』
……!? いや、腹黒いエリエス様にしてはうかつ過ぎる。
もしかしてなんかの布石か? ドジっ子キャラを盛ってみました……とかだったらずっこけるけど?
――あぶねっ!! 八つの鉄拳がどこまでもおれを追い詰める……!
逃げ場を失ったおれは、地面を蹴った!
――スキル【飛翔】!! 新スキルのお披露目だ!!
『おおっと!? ヤマダ、飛んだ~~~!!? 背中から光の羽根を生やし、まるでハエの様に空を舞う~~~!!』
……確かに昆虫っぽい羽根だけどさ、よりによってハエかよ!?
『スキル【飛翔】だっちゃ! どうやら最近憶えたらしいっちゃ!』
『ヤマダのやつ、どこまで行く気だ!?』
『八つの「鉄の拳」を引き連れて、ヤマダが天高く飛ぶ~~~!! どんどん小さくなって~、元々小さいヤマダが豆粒のようだ~~~!!』
……元々小さい言うな!
おれは猛スピードで上昇し、分厚い雪雲の中に突入する。
思った通り、八つの鉄拳は、ベリアス様の視界の外ではおれを捕捉できないようだ。
おれは雪雲の中に鉄拳を置き去りにし、今度は一気に下降する。耳が痛いけど、今はがまんだ。
――シュバ!! シュバ!! シュバ!!
ベリアス様の頭上で、ガリアンソードを三回ふるう!!
スキル【超次元三角】――、次元の外へ開く三角の窓……!!
ベリアス様の足下、周囲の地面を三角形に切り取った!!
「――なっ!!? なんじゃこりゃぁぁぁ!!?」
ぽっかり開いた次元の穴に、ベリアス様が落下する。
苦し紛れに伸ばした金色のオーラで形作った腕が、三角形のへりを掴んだ。
おれは、金色の腕が掴んだその部分を小さめな三角に切り取る。
……その次元の穴の向こう側がどんな感じで、人が生きられる場所なのかも試してないから解らないけど。
ベリアス様が完全に穴に落ちたところを見計らい、おれは三角形の一辺を切ってそれを閉じた。
……よし。勝った!!
『――えっっ!!?』
『――えっっ!!?』
『――えっっ!!?』
――ええ~~~っっ!!!!?
たぶん一回しか使えない初見殺しの技だ。
次元の外へ落っことしてしまえば、【王の領域】とか関係ないだろ?
てか、実況のキャプティンは、早いところおれの勝利を宣言してくれねーかな?
『な、なにコレ~!!? いったい何が起こったのか~!!? ベリアス様、消失ぅ~~~!!? ヤマダっ……ヤマダのやつ、ベリアス様に何しやがった、コンニャロ~~~ッ!!!!?』
『バカな……!? ヤマダのやつ、空間を斬ったのか!? 失われた伝説のスキル【次元切断】だとでも……!?』
『……いいえ。ヤマダ様のあのスキルは【超次元三角】、「三角形の図形を描きその内側に次元の穴を発生させる」といったもののようです。伝説にある、「どんな防御も意味をなさない絶対の斬撃」といったような危険過ぎるスキルではなさそうです……ちゃ』
――ちょっとエリエス様!? おれのスキル、言うなって!!
……あと語尾! キツイなら止めればいい。
おれの願いもむなしく、エリエス様は続ける。
『――伝説のスキルといえば、ヤマダ様のステータスに見逃せない奇妙な記述が……【世界……』
『待て!! 様子がおかしいぞ!!?』
スキル【危機感知】反応!?
アイダ様の声より先に、おれは回避行動に入っていた。
――ドゴゴォォォン!!!!
空から降ってきた「巨大な鉄拳」が闘技場の地面を激しく叩いた!
あれは、さっきアビススパイダーを一撃で潰して見せた攻撃に違いない。
舞い上がった土砂と雪煙が晴れると、そこにはピカピカのベリアス様が何事もなかったかのように立っていた。
「俺の、『死んだふり攻撃』を避けたのはあんたが初めてだぜ、ヤマダ!!」
……!? うそだろ!? どうやって出てきたんだよ、次元の向こう側から!?
てか、エリエスさまは、ベリアス様のスキルを早く読み上げろよ!
『ベリアスさまぁ~ん!! 大ふっか~~~つ!! ハラハラさせちゃっても~う!! ちゅっ! ちゅっ!』
――ぶるぉぉぉぉ!!!!
くっそ、キャプティンも観客も敵か……!
『ベリアスのやつ、どうやって出てきた!? 確かに、次元の穴に落ちたはず?』
『……判らない。あの方のスキルは【王の領域】と【浮遊鉄拳】以外は、【威圧】【統率】【反射】【並列思考】【グループリーダー】【自然回復】と、どれもありふれたものばかり……だっちゃ』
――え? え? 早いよエリエス様、もう一回言って……!
「ふはははは!! ぼけっとすんなよ、ヤマダ!! 死んじまうぞ!!?」
――ぎゅん!! ぎゅん!! ぎゅん!! ぎゅん!!
――ぎゅん!! ぎゅん!! ぎゅん!! ぎゅん!!
地面に突き立った「巨大な鉄拳」が八つに分裂し、オーガの拳大の鉄拳となっておれに射出される!!
『数が合わんな? 魔物由来のスキルが混じっている。ベリアスがレベル48ならば、あと一つか二つ、レベルアップで自然取得したスキルを持っているはずだ。見えないのか?』
『……だっちゃ。時折、現れては消える。もう少しで見えそうなのに……』
次々と襲い来る八つの鉄拳を、するすると最低限の動きで回避するおれ。
スキル【危機感知】と【認識阻害】のおかげだ。
このまま避け続けたとしてベリアス様は、そのうち疲れて隙を見せたりしてくれるだろうか?
……いや、どう考えても疲れて集中を切らすのはおれが先か。
かと言って、おれの攻撃は【王の領域】を貫けない。
……ああ、うん。【勇気百倍】な?
あれは、まあ……、最後の手段だ。
さっき聞いた限りのスキル構成で、ベリアス様が次元の向こう側から戻って来られた意味が判らない。残り一つか二つ、どんなスキルを隠しているのやら……?
どうにかもう一度ベリアス様をあっちに放り込んで、エリエス様の【鑑定】に期待したいところ。
「うーらぁ!!」
――!!? 八つの鉄拳を避けるのにいっぱいいっぱいのところに持ってきて、ベリアス様からの直接攻撃まで追加で来る! 攻防一体の金色のオーラ【王の領域】で形作ったでかいパンチだ……!
たまらずおれは、もう一度空へと逃げる。
……飛べるって素晴らしい!!
さて、おれの新スキル【超次元三角】だけど、検証したところ結構応用の利くスキルだった。
おれは、八つの鉄拳を引き連れて飛びながら、ガリアンソードの切っ先に指で触れた。
――【超次元三角】!! ガリアンソードの切っ先を頂点にして、なるべく大きな三角形を指で描く!
そうすることで、できあがった穴あき三角形をガリアンソードにくっ付けたまま振り回すことができるのだ!
おれは空中で振り返ると、後ろ向きで飛びながら、追ってくる八つの鉄拳に向かってガリアンソードを振りまくった!
――ひゅん!
――ひゅん!
切っ先にくっ付いた【超次元三角】で、鉄拳を次元の狭間へキャッチ! あーんど、キャッチ!
……名付けて、『超次元虫取り網』!!




