309 純潔を賭ける
『みなさんお待ちかね~!! 予定入れ替わりまして本日二回戦「王者ベリアスv.s.勇者見習いヤマダ」の決闘のお時間ですぅ~~~!!』
――ぶるぉぉぉぉ!!!!
実況者キャプティン・アザリンの宣言に、一斉に沸き立つ円形闘技場の客達。
……ひぇぇぇ、甲子園でマウンドに立ったらこんな気分だろうか?
いや、甲子園なら命の危険はないか。フラッシュモブでプロポーズしてフラれるとか、ネット小説書いてることを職場に知られるとかの方が近いかな? 最悪死ぬし。
『――さて、ヤマダの罪状なんですが、キャプティンの所にはなんの情報も来ておりませ~ん!! 解説のアイダ様、ヤマダって人はいったいなにをやらかしたのですか~!?』
『ふむ、先ずはそこからだな。実のところ、ヤマダは罪人ではない!』
『ええ~っ!?』
いいぞアイダ様! そこの所ちゃんとしておいてくれないと、生き残ったとしても肩身が狭い。
『ヤマダは、邪教徒の一味と疑われて我らネムジア教会に拘束されただけで、王国の法に触れたわけではないのだ。そしてその疑いも既に晴れている』
『えええ~っ!? だったら、なんであの人あそこに居るんですか~!?』
……それな。
キャプティンの言うあそことは、罪人が引っ張り出される黒軍コーナーである。
おれは元枢機卿ウナルぴょんと同じように、罪人用のゲートをくぐって闘技場に引っ張り出された。
『ネムジア教会は、この決闘に「大司教の衣を賭ける」と公式に発表している。要するに、先の王位簒奪事件に関与した教会の責任をとって大司教は職を辞すべきと考える者達に対して、あのヤマダが一人それに反対しているということ……らしい』
『……えーっと、大司教様がどうしても辞めたくないとおっしゃっているとか?』
『そこら辺がこの騒動のわけの分からない所だ。大司教本人は辞める気満々なのだが、普通に辞めてもらっては面白くないというのがやつらの考えだ』
……キャプティンが「はあ?」という顔をして首をひねる。
きっと意味が判らないのだ。おれだって未だによく解っていない。
てか、アイダ様、説明ヘタクソか!? メガネのくせに……!
もう一人の解説役、うちの上司エリエス様が口を開く。
『この決闘は不祥事を起こした我々ネムジア教会から国民の皆様への「娯楽の提供」と取ってもらって差し支えないっちゃ! ご迷惑をおかけした王都のお兄ちゃん達への、ささやかなサービスだっちゃ!』
『な、なるほど~、そう考えると解りやいような気もしますねぇ~? そうしますと~、噂に聞いた「純潔を賭ける」という話も……?』
『もちろん、サービスだっちゃ!!』
――ぶるぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!
観客席が沸き立つ。
王様も「よっしゃ!」とガッツポーズだ。
うちの上司エリエス様ときたら、人ごとだと思って気楽に言ってくれる……!
『ま、じ、か~~~!!? まじなのか~!? そこのところ、貴賓席のセリオラ様とグレイスにゃんはいかに~!? 本当に本当によろしいので~~~!!?』
『ネムジア教会のためにベリアス様が命を賭けて戦うというのなら、わたくしもまた賭けるべきものを――、純潔を賭けましょう!』
『あの事件で失われたネムジア教会の信頼と誇りを取り戻すためなら、否応もありません。純潔を賭けます! ……あと、「にゃん」は止めなさい?』
『ぐ~~~っど!! 対する~大司教様はいかに~~!!?』
『……ワタ、ワタクシは……ヤマダさんが勝つって……信じてますかラ~~!!』
――純潔を賭けま~~~す!! と、ユーシーさんの言葉が終わるや否や――ぶるぉおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!! と、円形闘技場が揺れる!
「……だとしてもだ、ヤマダが戦う理由にはならんな。戦いたければ自分達で戦えばいい」
その歓声に紛れて、アイダ様がつぶやく。
「わたくしのためには戦ってくださらないでしょうね? あの方を手なずけられなかったのは、痛恨の極みです」
と、エリエス様。
……言われてみれば、おれがちょっとやる気出してるのってユーシーさんのためかな?
「聖女エリエス、君はなぜこちらにいる? 分の悪い賭けだと思うが?」
「信頼できる筋の【分析】では、七割近い確率でヤマダ様の勝利と」
……まじか!?
観客とベリアス様には聞こえなかっただろうけど、おれとキャプティンは聞き逃さなかったぞ!?
信頼できる筋って、タイターさんだよね?
タイターさんの【分析】では、70%おれの勝ちってか!?
なんだかいけそうな気がしてきた……!!
『ぐ~~~っど!! ぐ~~~っど!! 盛り上がって参りました~!! それではっ、白軍、黒軍準備はよろしいでしょうか~!!?』
白軍ベリアス様の両肩の上、空中に「巨大な鉄の拳」が出現する。
さっきアビススパイダーを潰した鉄拳よりは小さいが、オーガの拳ほどはありそうだ。
あれで殴られたら、ちょっとただでは済まないだろう。
そして黒軍のおれは、腰のガリアンソードを抜いてゆっくりと前に出た。
『――本日二回戦!! 「王者ベリアスv.s.勇者見習いヤマダ」!! ……レディ~ィ! ファイッッ!!』
――ぶるぉぉぉぉ!!!!
は、始まっちまった……絞り出せ、勇気……!!
「スキル【浮遊鉄拳】、行くぜ!? ヤマダ!!」
ベリアス様の左右の鉄拳が射出される! さながら、ロケットパンチである。
だが、おれにはスキル【危機感知】と【認識阻害】があるので、避けるのは容易い。
徐々にスピードを上げて距離を詰めると、ガリアンソードのギミックを作動させた!
刃が細かく分解し数珠繋ぎに連なってムチ状に変形する! ――その射程は6.6m!
――ガリィィィン!!
おれの攻撃は、ベリアス様の金色のオーラに弾かれた。
一番の問題は、あのスキルだ――【王の領域】というらしい。
アイダ様によると、【ドラゴンフィールド】の上位互換のようなスキルとのこと。
一旦距離をとる。
「おいヤマダ、約束を憶えているか!?」
実況と歓声の中、おれだけに聞こえる声でベリアス様が話しかけてくる。
彼の言う約束とは、「NTR大作戦」のことだよね……?
ベリアス様は自分の婚約者であるセリオラ様をなんとかして他人に寝取られたい、脳の壊れた性癖の人だった。……その寝取り男に選ばれてしまったのがおれ。
お互いのパートナーを賭けて決闘をしようぜ!? と、ベリアス様に持ちかけられたのが、この騒動の発端だったような気がしている。
いやいや、そんな賭けが成立するはずがないっしょ? ベリアス様がいくら乗り気だからって、セリオラ様がそんな賭けに乗ってくるはずがないと、おれはそう思っていたのだけれど……。
「――俺達の計画どおり、セリオラを賭けのテーブルに引っ張りあげてやったぜ? ついでにグレイス様まで付いてきて俺としてはウハウハだっつーの!!」
――お、俺達!? いやいや、おれは全く乗り気じゃなかったし!?
いやまあ、単純にこのままベリアス様がおれにわざと負けて、おれが勝者としてセリオラ様とグレイス様を苦も無くどうこうできるってシナリオなら、おれにとってただおいしだけの話だったわけだが……。
「――このまま俺がわざと負けても、セリオラはなんだかんだ理由を付けて約束を守らないだろう? だから、最初は俺が勝ち、俺が大司教様の純潔をいただく! そのあとすぐ再戦して、俺がわざと負ける。その時こそ、セリオラは言い逃れできずに……」
「えっと、ベリアス様、その話なんですけど、やっぱりなかったことで」
「……!? そりゃあ、どういうことだい?」
「ユーシーさんの純潔は、あんたにやれないってことですよ?」
「……セリオラとやりたくねーのかい?」
「どっちかっていうと、垂れた乳やだらしないケツの方がおれの好みでして」
「……俺は当初の予定どおり、この初戦は勝ちにいくぜ? そっち次第で、うっかり殺しちまうかも?」
「ベリアス様、年上をあんまりなめるなよ?」
次の瞬間、ベリアス様の身体を金色のオーラ【王の領域】が包み込む。
【浮遊鉄拳】が、追加で四つ。計八つの鉄拳がおれに狙いを定めた。
ちょっと言い過ぎたかな? ドキドキ……。




