303 『はぐれパラディン純情派⑤』
「仕方ねぇ、あんたを叩きのめして、無理にでも王都まで送ってもらうぜ!!?」
ベリアスがスキル【浮遊鉄拳】を発動した。
巨大な鉄の拳が二つ出現し、ベリアスの両肩の上でカスパールに狙いを定める。
金色のオーラが鉄の拳にまとわり付くと、次々とカスパールに向かって射出された!
カスパールが設置した不可視の壁【透明障壁】がパリンパリンとガラスでも割るように簡単に突破されていく!
設置した全ての【透明障壁】を抜けて迫る鉄の拳を、カスパールは剣でたたき落とそうとするが、剣の方が弾かれる!
やむなく、カスパールはスキル【疾走】で、谷底を逃げ回る。
背後の地面に繰り返し突き刺さる鉄の拳を、【疾走】のスピードで辛うじて避けていく!
追いついてきた鉄の拳を剣で払おうとしてバランスを崩した隙に、次の拳がカスパールに向かって突き刺さる!
その瞬間、スキル【位置交換】で、カスパールとベリアスの位置が入れ替わった!
カスパールに突き刺さるはずだった鉄の拳は、入れ代わったベリアスの身体を貫いた……かのように見えたが!?
「今のを受け止めたのか? 戦闘の天才とは聞いていたけど……」
カスパールが苦々しくつぶやく。
ベリアスの身体を貫いたかに見えた鉄の拳は、金色のオーラで作りだした腕に受け止められていた。
「俺は天才じゃねえよ? 『天才』の、タダの息子だ。今の攻撃だって予想してたわけじゃねぇ、たまたま持ってたスキル【超反射】で、たまたま反応できたってだけだ」
そういうの天才って言うんじゃないの? と思ったが、カスパールは黙って痛んだ剣を取り替え、仕切り直す。
「――ああでも、このスキルは特別かもな? 【王の領域】、このスキルが俺を絶対王者たらしめる!」
鉄の拳を受け止めた、金色のオーラの腕。【マジックコーティング】や【ドラゴンフィールド】とも違う。それらの上位互換。
カスパールはクロソックス家に来たベリアスが金色のオーラ【王の領域】を見せてから、その対策に日々を費やしてきたとも言える。
新スキル【影狩】の効果は、仮想敵の「ドラゴン種」相手には十分使えることが検証済みであるが、ベリアスの【王の領域】に果たして通じるのか? ここからが本番だと、カスパールは気を引き締める。
「ふん、ベリアス君らしい、偉そうな名前のスキルだ」
「だよな? 王者たる俺にふさわしい」
「君さ、友達少ないだろ?」
「……王者ってのは、孤高で孤独なのさ。で……でもまあ、あんたがどうしてもって言うなら……!?」
――ドコン!!!! という激しい音と閃光が、べリアスの言いかけた言葉を打ち消す!
カスパールが会話の隙をついて放った「ドラコン種」にさえ有効な魔法【爆発】だった。
天高く立ち上った爆煙が晴れると、地面には深く巨大なクレーターが残る。
クレーターの向こう側に、金色のオーラを全身からほとばしらせたべリアスが立っていた。
「チッ、避けられたか」
「……だましやがって、ゆるさねぇぞ!!」
いやいや、だましちゃいないだろ? と言いたいカスパールだったが、実はそうとも言い切れない。
スキル【影狩】は、初見殺しのようなスキルだ。途中でタネがわれてしまっては、対処されてしまわれかねない。
まだ、もう少しの間、気づいてくれるなよ――と、願わずにはいられないカスパールだった。
ベリアスの背後に浮かぶ巨大な鉄の拳が、四つに増えていた。
金色のオーラをまとわせて、次々と打ち出される!
スキル【疾走】で、谷底を、絶壁を滑るように走り攻撃をかわすカスパール。
しかし、次第に追い詰められたカスパールは、スキル【透明障壁】を足場にして高く跳んだ!
跳んだカスパールを追って、鉄の拳が襲いかかる!
空中では回避できないと思われたが、スキル【位置交換】でベリアスと場所を一瞬で交換する!
空中に現れたベリアスに向かって殺到していた鉄の拳が、衝突の直前でピタリと静止していた。
読まれていたか――と、苦渋の色をにじませるカスパール。
元々ベリアスが居た場所に入れ替わりで出現したカスパールだったが、その左右には既に五つ目と六つ目の鉄の拳が配置されていた。
両サイドから鉄の拳がカスパールを襲う!
スキル【透明障壁】を足場にして再度上へと跳び回避した!
そこへ、更に二対の鉄の拳が打ち込まれる!
――スキル【位置交換】は? ベリアスを見れば、頭上に鉄の拳を下向きに待機させ、場所を入れ替わった瞬間にカスパールの頭を潰さんと準備をしていた。
【位置交換】は無理だと判断したカスパールは、迫り来る二対の鉄拳をさばききる決意を固める。
ガリガリッ!! ――と、カスパールは一撃目の鉄拳を剣の腹で辛うじて逸らす。――が、剣がポッキリと折れた。
二撃目は……仕方がない、左腕で受ける! そう決心し、カスパールは受ける瞬間、スキル【穴熊囲い】で防御力を上げた。
それでも、相応のダメージは覚悟しなければならないだろう。
パキン――と、腕の骨の折れる音を聞いた。
そのままカスパールは、身体ごと弾き飛ばされて地面に叩きつけられる! 即死は免れたが、背中をしたたかに打ち、しばらく息が止まる。
動けないカスパールに、上空から更に二対の鉄の拳が追い打ちをかけた!
ガガン! ガガガン!! と、大岩を削る音が谷底に響く。
カスパールが倒れていた場所には、巨大な大岩があった。
それは、カスパールが王都から谷底に【位置交換】した時に使った大岩だった。
「なっ!? あいつ、逃げたのか……!?」
谷底に一人残されたベリアスは、この後どうしたものかと途方に暮れる。
大岩と【位置交換】したカスパールは、ジーナスの屋敷のリビングに戻っていた。
高級そうなソファーにぐったりと身を沈める。
「ごふっ、がふっ……ちくしょう……!」
血を吐いたカスパールは、自らに魔法【中回復】を使用する。
左腕の骨折を含めて、身体の傷がみるみるうちに癒えていく。
――まだやれるか? と、自分に問いかけるカスパール。
ふと見ると、リビングの絨毯の上で、二人のメイドエルフが全裸のまま寄り添い、突然現れたカスパールを警戒し震えていた。
少し迷ったカスパールだったが結局、二人のメイドエルフにも魔法【中回復】をかける。
カスパールが切った二人の足の傷が癒えていく。
ベリアスを怒らせるためだけに二人を凌辱した。
しかし、ベリアスは思ったよりも冷静だった。
もっと、直情的でキレやすいタイプだと思っていたが、言動とは裏腹に一歩引いた受け身な戦い方をする。カスパールとしてはあてが外れたと言わざるを得ない。
「許してくれとは言わないけど、……ごめんね」
そして、カスパールはもう一度、谷底へとスキル【位置交換】で跳んだ。




