302 『はぐれパラディン純情派④』
王都の『護国祭』は年末に四日間行われる祭事である。
そのまま年をまたぎ、新年を祝う祭りに移行して更に四日間続く。
『護国祭』では毎年、重犯罪者の刑の執行が行われる。
本来はその囚人に直接被害を被った者やその親族達の心を慰めるための催しであったが、昨今では過激な殺戮ショーとして刑の執行方法に様々な趣向が凝らされ、娯楽に飢えた王都の人々を熱狂させる祭りの主要イベントとなっていた。
人気の刑の執行方法の一つに「決闘」がある。
生き残った囚人には恩赦や減刑が認められるという条件で、勝利する見込みのない命賭けの戦いを強いる。
今年の『護国祭』一日目に企画された、「ベリアス対ヤマダ」の決闘もその一つであると思われていた。
なにしろベリアスは、王の甥にしてレベル48、王都でも最強と言われる戦士である。
その実力は、聖地ネムノスで国境を守護する上位パラディンにも匹敵するのではないかと言われる剛の者だ。
そんなベリアスと、憐れな囚人が勝てる見込みのない戦いを強いられるのだと誰もが思った。
しかし、決闘数日前になって、王都に出所不明の未確認情報が流れる。
囚人のヤマダとは、異世界から来た勇者見習いであり、ネムジア教会の大司教ユーシーの婚約者であるという。
そして人々は、更に驚くべき情報を耳にする。
「ベリアス対ヤマダ」の決闘の敗者は、勝者に婚約者の純潔をその場で奪われるという。
「決闘」とはいえ刑の執行である。事情を知らない王都の人々にとって、敗者となるのは囚人であるヤマダ以外にあり得ない。
ヤマダの婚約者と噂される大司教ユーシーが、観客の目の前で純潔を奪われる!?
ある者は耳を疑い、ある者は歓喜した。
そのことを裏付けるように、ネムジア教会から公式に「決闘に大司教の衣を賭ける」との発表があり、その情報は数日の内に王国中へ知れ渡ることとなった。
とあるユーシー信者であるババール君(22歳)も、噂を聞きつけ、『護国祭』一日目の「ベリアス対ヤマダ」の決闘を見るために遥々、商業都市クルミナから仕事を休んで駆けつけた一人である。
「いやぁ、いい席を取ろうと思って二日前にコロシアム前に並んだんですが、まさかもうこんなに並んでいるなんて! 王都住みの人がうらやましいです。えっ? この本ですか!? これは、僕らの聖書とも呼ぶべきアマミヤ先生の名著『くそプリ……」
新聞社のインタビューに答える彼は、興奮を抑えきれないようにまくし立てたという。
そんな誰もがベリアスの勝利を信じて疑わないコロシアム前の行列の中にあってごく一部の者達だけが、ヤマダの勝利を信じる……とまではとても言えないが、ワンチャンあったら儲けものぐらいの期待を抱いて並んでいた。
異世界オタク、ヒゲのアルゴンとモミアゲのカーターそしてもう一人は、神殿騎士フォルケンの三人組である。
「ヤマダってやつは、結構やるんですかね?」
神殿騎士フォルケンの問いかけに、アルゴンもカーターも首をひねる。
「さて……、吾輩、ヤマダ殿が強いという印象は正直ないのであるが……?」
「で、ござるな。地下牢では確かに聖女セリオラ様やグレイス様に一歩も退かない勇者のごとき振る舞いでござったが、まさか本当に異世界からの転移者であったとは……」
「異世界からの転移者ヤマダか……、勝って欲しいぜ……」
神殿騎士フォルケンは、先日のダゴヌ教徒討伐に参加していた「俺の身体は剣よりも硬い」でおなじみの血気盛んな若者だ。……いや、だった。
彼は「ダゴヌウィッチシスターズ」のミズキに敗れ、四肢を失い大迷宮内を一晩中這いずりまわった挙げ句、ゴブリンに囲まれ尻を犯されている所をカーター達ダゴヌ教徒に救われた。四肢は再接続され身体の傷は癒えたが、心に大きな傷を残し今だ職場復帰できていない状況である。
数日で見る影もなくやつれてしまった神殿騎士フォルケンの下宿を、アルゴンとカーターは度々訪れ元気づけた。
次第に心を開いた彼が二人に語った言葉。
「あの夜俺は大迷宮を這いずりながら考えていた……俺は死ねない……このままでは死んでも死にきれない……おれはグレイス様が好きだ! 奥さんにしたいタイプじゃないが、それとこれとは話が別だ! 俺は見たい……グレイス様の豊満なおっぱいの先っちょや、太ももの奥の奥まで一目見るまでは……俺は絶対に死ねない! ……なんならちょっと触りたい! できれば入れたり出したり自由にしたい! 死ぬもんか! 絶対に死ぬもんか!! ……ってね」
「……であるか」
「拙者の兄嫁に対する言い尽くせない思いと通じるものがあり、感銘を受けることしきりでござるよ」
ファルケンの魂から絞り出された真実の言葉は、アルゴンとカーターの心を強く打ち、三人はよりいっそう濃い友情を分かち合った。
「――な、なんだとぉ!!?」
クロソックス男爵は激高した。
彼がそのことを知ったのは、『護国祭』前日のことだった。
誰も彼に伝えることができなかった、愛娘ユーシーの純潔が決闘で賭けの対象となっているという情報をこのタイミングであえてもたらしたのは、他ならぬ聖女グレイスだった。
「ひぃぃ、そんな、わたくしに怒鳴られましても……、わたくしだってこんなハレンチなことには巻き込まれたくなかったのですが、国王陛下の思し召しとあらば致し方なく、ヨヨヨ……」
「――!! 国王だと!? あいつの差し金なのか!? くそ、よくも……!!」
そう言い残し去って行くクロソックス男爵を見送る聖女グレイス。ペロリと舌を出す。
物陰で様子をうかがっていた聖女セリオラが姿を現す。
「お上手でしたよ、グレイス様。あの様子なら、間違いなくやらかしますね」
「羽根虫め、親子共々破滅すればいい」
その日、クロソックス男爵は王に激しく詰め寄ったことにより投獄された。
一部王国民の異様な盛り上がりとともに日々は流れ、遂に『護国祭』当日を迎える。
***
その朝、王弟ジーナスの屋敷のリビングでは、メイドのエルフが凌辱されていた。
二人の内一人は既に事を終えて素っ裸のまま床に転がされている。逃げ出さないよう、両足首がパックリと切り裂かれていた。
「てめえ、ひとんちでナニやってやがる!!?」
リビングに現れたベリアスは、部屋の中の惨状を一目見て怒りを爆発させる。
そんな怒りもどこ吹く風とばかりにメイドエルフをなぶり続けるカスパール。
「おはようベリアス君、僕のこと知ってるかい? ちょっと待ってよ、もうすぐ終わるから」
「てめぇもしや、親父を殺したパラディン№11の……」
「ふっ、ふっ……そう、それ。元パラディン№11……カス……カスパール……メッシュ……ふぉっ、おっ、おっ……!!」
「なに、躊躇なく中出ししてんだよ!!!?」
ベリアスが金色のオーラをまとった腕を振り上げ前に出る……!
そのベリアスめがけて、カスパールは腕の中でぐったりしている全裸のエルフメイドを無造作に投げつけた!
腕にまとったオーラを払い、エルフメイドをいたわる様に受け止めるベリアス。
――が、次の瞬間、エルフメイドとカスパールの位置が入れ替わった。カスパールのスキル【位置交換】である。
そのまま、ベリアスの腕を掴んだカスパールは、もう一度スキル【位置交換】を使用する。
ベリアスの強烈な一撃を受けて距離をとるカスパール。スキル【穴熊囲い】で防御力を底上げしていなければ、攻撃を受けた腕が折れていたかもしれない。
「くそっ、してやられたか! ――どこだここは!!?」
怒りの声を上げるベリアス。
ベリアスとカスパールの対峙する場所は、王都から馬車で一日の距離にある名も無き渓谷の底に移っていた。
カスパールのスキル【位置交換】で、あらかじめマークしてあった谷底の大岩と場所を入れ替わったのだ。今頃は、王都の屋敷のリビングに大岩が出現しているはずである。
「そんなこと、教えてやるわけないだろ?」
「ふざけやがって! 俺をここに置いて逃げ出すってわけか!? ヤマダに頼まれたのか!?」
ベリアスは、視界に入った「境界の山脈」の近さから、今居る場所が王都から相当離れた場所であると知った。
「ヤマダだって? ああそうか。ベリアス君がこのまま不戦敗になれば、キミのフィアンセはみんなの前でヤマダに犯されるんだっけ? いっつもユーシー様の足を引っ張るクソ聖女が、いい気味だね!」
「ばーか、あの女がそんなタマかよ。どうせ、なんだかんだなんくせつけて勝負をうやむやにするに決まってるぜ! せっかく、一回戦は俺が勝って、大司教の腐れ――を――して、セリオラを追い詰める計画が台無しになっちまう……」
スキル【疾走】で距離を一気に詰めて強烈な突きを放つ、カスパール。
がいぃぃん! と、ベリアスの腕に発生した金色のオーラが攻撃を弾く。
「ユーシー様の汚れなき――を――するだってぇ!!? 調子づいてんじゃないよぉぉぉっ!!!?」
そのまま、スキル【疾走】で距離をとったカスパールは、離れた場所から加速し再度ベリアスに切りつける。
スキル【虚剣】の効果で、一撃は二撃、二撃は四撃に同時攻撃が発生する。同時に放たれる虚像の攻撃に殺傷能力は無いが、攻撃が増えるほどに虚像を見分けるのは難しい。
ベリアスは、虚実全ての攻撃を金色のオーラが作りだした巨大な腕でガードする。
がっいぃぃぃん!! 連撃を繰り返していたカスパールの剣が、折れて飛んだ。
やむなく、カスパールは再度【疾走】で距離をとる。
「俺と勝負がしてぇのかい? 俺が勝ったら、素直に王都まで送ってくれるんだろうな?」
「ユーシー様を侮辱する者は僕の敵さ! ……送ってやるよ、あの世にね!!」
カスパールは、折れた剣を捨てると、【空間収納】から新しい剣を取り出して装備した。
「仕方ねぇ、あんたを叩きのめして、無理にでも王都まで送ってもらうぜ!!?」




