297 ヤマダ、新しい扉の前に立つ
久しぶりにベッドの上で目覚めた。
昨日の夜、おれは大迷宮からクロソックス家へ帰還し、風呂と夕食をいただくと早々と寝てしまった。
ステータスのHPは満タンだったが、やはり目に見えない疲労は溜まっていたようだ。
さて、ベリアス様との決闘の期日は明日だし、今日の所はおしっこして二度寝だな。
……と、起き上がろうとしたが身体が動かない。
――ええっ!? なにこれ!? 金縛り?
もしかして、レディQさんか?
正直、最近禁欲的な生活が続いていたから、素敵なお尻で発射してしまうかもしれない。
まいったな……わくわく。
さあ、お尻のオバケかもーん……!
うつ伏せのおれは、トランクス一丁で手足を縛られていた。
手のひらサイズの小人が、視界の隅を横切る。
「ありがとー、【キジムナー】達ー。帰っていいよ~」
「ぷくく……」
うつ伏せのまま首だけひねって見上げると、おれを見下ろす美少女が二人。
ドロシーちゃんとモランシーちゃんの姉妹だ。
「お……おはようござます……?」
「おはよー、ヤマダさん、よく眠れた~?」
「ぷくく……朝だち~?」
おれは、好奇心旺盛なモランシーちゃんの追求をはぐらかしつつ問いかける。
「これはいったい、どういう趣向で……?」
「ヤマダさんには聞きたいことがあるし~?」
ドロシーちゃんは昨夜、おれが帰ってきたにもかかわらずカスパール君が一緒じゃなかったことを不審に思い、姉のユーシーさんやご両親を問い詰めたが詳しい説明を得られなかったそうな。
……なるほど。ユーシーさんは、カスパール君が王弟ジーナス殺害犯として指名手配されたことを妹達に話してないのか。
それで、押しに弱そうなおれをターゲットにしたわけね……。
なお、おれを縛り上げたのは、ドロシーちゃんのスキル【キジムナー】で召喚した小人達の仕事だった。
そして、「うんしょ、うんしょ」とおれの手足をエビ反りに吊し上げるモランシーちゃん。……案外力持ちだね。
てか、すごい視線を感じる。トランクスの隙間を覗きこまないでモランシーちゃん……!
――ユ、ユーシーさん助けてー! 教育に悪いよ、これ絶対教育に悪いよー!
「あ、おねえちゃんならもう出かけたしー? 王様に呼ばれたんだって~」
「泣こうが喚こうが、ムダムダ~?」
仕方がないのでおれは、カスパール君に大迷宮に置き去りにされた話をする。
その後のことは、知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。
ユーシーさんが言わなかった話を、おれからするのは気が引ける。
……あれ? まてよ。おれがカスパール君指名手配の話をユーシーさんに聞いた時、モランシーちゃん居たよね? 例のスキル【どこにでもいたりいなかったり】だっけ? 40階層の休憩所に居たり居なかったりしたよね? 全裸で。
おれが苦しい体勢から首をひねりモランシーちゃんを見ると、彼女はニタリと笑った。
……なるほど、モランシーちゃんも気を遣って、秘密にしているってことか。
できた子だ……ただ、おれをノリノリでエビ反り緊縛するのはどうかと思うが。
「ふーん。……その後、ヤマダさんはどうしたの?」
ドロシーちゃんの尋問は続く。
おそらくは、その後おれがどうなったとか全く興味なさそうだが、こうして縛り上げた手前引くに引けないといったところだろうか?
まあ、こちらとしても隠し事をしている負い目もあるし、せいぜい語って聞かせてあげようか。
……おや? 殺人事件目撃から犯人達との追いかけっこのハラハラストーリーに、二人共けっこう引き込まれてるんじゃね?
そして、『黒金の勇者』シマムラさんと再会のくだり。
……エッチなシーンは、適当にごまかすか。
「……あ、……『ウソ』!」
……!?
不意にモランシーちゃんがつぶやく。おれのごまかしを即座に『ウソ』と指摘してきた。
まさか、スキルか……!?
「ヤマダさん、モランシーに『ウソ』は効かないしー」
「ぷくく……スキル【真偽眼】」
そう言って、モランシーちゃんがおれのトランクスに触れる。
……な!?
「ちょ、ちょっと、モランシー!? なにやってるの!!?」
「おしおき~?」
「や、止めて、モランシーちゃん! トランクスに触れるのは止めなさい!」
「モランシー止めなし! そんなの掴んだら、ばっちいし!!」
「ぷくく……、それも『ウソ』」
い、いかん……。スキル【真偽眼】で、バレバレだ……!
……? てか、なんでドロシーちゃんまでうろたえてるんだ?
おっふ……、そうこうされているうちに、トランクスの中のモノが……!
「待って、モランシーちゃん! 判った話す! 包み隠さず話すから、手を放して!」
「モランシー! お仕置きなら、ほら、洗濯バサミがあるし! 手を放しなさい!!」
「……それも『ウソ』。でも、だったら続けない方がお仕置きかもしれないから止めるね」
……うっ、確かに。ちょっとがっかりしているおれがいる。
おれは、シマムラさんに手を貸す代わりにそのワガママボディを自由にできる取引をしたこと話した。
ふと見ると、顔を赤くしているのはドローシーちゃんの方だった。見た目ギャルっぽいのにウブな反応、ごっつぁんです。
「――てなわけで、おれは大迷宮深層の『黒い霧』を払ったんです。きっと今後は、大迷宮の60階層より下層の探索も進むんじゃないかな?」
おれはクライマックスを語り終えて、美少女姉妹の反応を待つ。
お客さん、ここ、拍手する所だよ? なんなら、ご褒美になんかしてくれてもいいんだよ? 具体的には、トランクスの中のモノを……げひょんげひょん!
しばしの沈黙の後、ドロシーちゃんが口を開く。
「……それで?」
「は?」
「触手に捕まったアンディ君は、どうなったし!?」
「ああ、えっと、アンディ君はからくも……」
「――『ウソ』!」
おれがアンディ君の名誉のために隠そうとした真実さえ、モランシーちゃんの【真偽眼】からは逃れられない。
即座に、ドロシーちゃんがおれの右乳首を洗濯バサミで挟む。
……ぐ、痛い。だが、こればっかりはアンディ君の名誉のために言えないのだ。
おれの左乳首も洗濯バサミで挟まれた。
――勝機! この時を待っていた。
スキル【共感覚】! 左乳首の感覚をドロシーちゃんと共有する……!
「にぎゃゃぁぁぁぁぁぁ~~~~っっ!!!?」
と、嫌がらせのように叫んで膝をつくドロシーちゃん。
叫び方がユーシーさんそっくりだ。やっぱ姉妹だね。
なにが起きたか判らないモランシーちゃんは、姉の突然の狂乱に唖然としている。
「くっ……くっ……」
「ドロシーちゃん、大丈夫~!? ヤマダさんに何かされた~?」
姉を気遣うモランシーちゃんはおれに向き直ると、乳首の洗濯バサミを無造作にむしり取った。
「っ痛ぅ……」
「ほぎゃぁぁっ!!!?」
「……!?」
ふっふっふっ。スキル【共感覚】の効果は継続中だぜ?
「ほあっ!!?」
「ほぎゃっっ!!!!?」
「ゃあんん!!?」
モランシーちゃんが繰り返し洗濯バサミを付けたり取ったりするものだから、おれの乳首とドロシーちゃんの乳首が大変だ。
「い……いい加減にしなさいよ、モランシー!!」
「ぷくく……『ウソ』ばっかり」
「『ウソ』じゃないし!! ヤマダ~、よくもやったな~!!?」
「お、おれじゃないし……?」
「……『ウソ』」
顔を真っ赤にして震えているドロシーちゃんは、おれのトランクスを一瞬でずり下げた! ぽろん。
……!? ら、らめ~~~~!!
「――憐れA君は、おれが少し目を離した隙に、お尻の穴を深々と太い触手に貫かれてしまったのです……」
すまんA君。卑劣な拷問に屈してしまったおれを許してくれ。
一応、名前は匿名のA君にしておいたけど、今更だよね。
おれは続きを語る。
おれとA君は他の仲間達と合流した後、遂に64階層に下り立った。
そして同時に、全員が一つずつレベルアップした。
>名前 山田 八郎太
>称号 王都の大迷宮最深階層到達記録保持者new!
>レベル 23→24
>HP 1200/1200(+78)
>MP 1970/2200(+143)
>スキル 【危機感知】一定範囲の危険を感知する
【空間記憶再生】空間に残存する記憶映像を投影する
【環境適応】環境に適応する
【勇気百倍】勇気を百倍にする
【自然回復】傷を少しずつ癒やす
【超次元三角】次元の外へ開く三角の窓(3MP~)new!
>妖精スキル 【共感覚】思いが伝わる
【浮遊】浮き上がる
【認識阻害】認識を阻害する
×【世界創造】世界を創造する
【飛翔】空を飛ぶnew!
>魔法スキル 魔法【身体強化】全ステータスと全耐性が微上昇(24MP)
>装備 ネムジア神官生協トランクス【防御+5】、【防臭】
神殿騎士の僧衣【防御+12】
貴婦人の黒マント【防御+8】、【魔法耐性(小)】、【防臭】
ガリアンソード【攻撃+70】、【可変伸縮(4MP)】、【回転(8MP)】
メケメケ皮ブーツ【防御+10】、【防水】、【防臭】