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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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453 『ヒロインの条件~予選二日目、旧帝都モルガーナにて⑤~』

 地下第二階層、雨上がりの湿った街角で長身の美女が昏倒していた。

 額には大きなたんこぶがあり、はしたなく大股開きでノーパンの股間をブザマに晒している。

 マザードラゴンの化身ルイーザの娘達の一人、フォーリンはクリプトン・ランスマスターの不意打ちに倒れた。


 彼女の意識がないことを確認しつつ、ヤマダはおそるおそる近づいて足下にしゃがみ込む。



「もしも~しお嬢さん、起きてますか~? こんなところで寝てると、風邪ひいちゃいますよ~?」


 声を潜めてにじり寄るヤマダ。暗いので、近づかないと細かい部分がよく見えないのだ。

 その顔は、気持ち悪くニヤニヤしていた。


 ドゥロン!! ドゥロロン!! ドコドコドコドコドコ――ドゥロロン!!

 そんな現場に走り寄ってきた、三輪バイクを駆るクリプトンが声を掛ける。



「カーッカッカッカ! 横入ご免! たとえ礼儀知らずと罵られようと、一矢報いずにはいられなかったのである! ――しかし吾輩達はここまで。後のことは、ヤマダ殿にお任せするのであーる!」


「え? あ、ああっとっと、ランスマスターさん? 銀髪リーゼントの――フジマルさんと一緒じゃなかったんですか? てか、その三輪バイクって彼のスキルだったはずじゃ?」


 ニヤニヤ顔を慌てて押し殺し応じるヤマダ。



「フジマル殿なら、ほれここに。――さぁて、我らはこれにてご免なのである!」


「……はぁ?」


 カーッカッカッカ!! と、高笑いを残しつつ、クリプトンはドゥロロン! と三輪バイクのエンジンを吹かして走り去って行った。

 

 それを、頭に「(ハテナ)」を浮かべて見送るヤマダが知る由もないが、瀕死の重傷を負ったはずのクリプトンがそこそこ元気にしているのは彼のスキル【スライムボディ】によるところ。ある程度の傷や欠損であれば、【スライムボディ】の増殖と擬態によって修復することが可能なのだ。


 そしてフジマルは――、

 なんと三輪バイクの中にいた。

 意図したことではなかったが、リンドリンドのドラゴンブレスでフジマルが消失する瞬間に、「トラ子」がフジマルの精神を三輪バイクの中に引っ張り込んだのである。「トラ子」と「フジマル」、二つの精神は三輪バイクの中で合体した! それはまさしく、愛によってもたらされた小さな奇跡であった。


 とはいえ、クリプトンの【スライムボディ】は六分の一体積を減らし、フジマルの肉体は永遠に失われてしまった。

 やられた落とし前だけはつけてやろうと、フジマルとクリプトンは協力し、ドラゴン娘に不意打ちでキツイのを一発おみまいしてやった――というわけである。


 



「やりましたなヤマダはん、結果オーライっちゅうことやね!」


 安全と見るや、小人サイズのロハン・ジャヤコディが12体、物陰からひょこひょこと姿を現し寄ってくる。



「うーん、このお嬢さんが話を聞いてくれるタイプだったらいいんですけどね」


「なるほどな。ほな任しといてください、そんなんワイの得意分野ですやん」


 そう言って、意識のないフォーリンに一斉に群がる小人サイズのロハン・ジャヤコディ12体。彼女の軍服のような服をよってたかって脱がしにかかり、あっという間に豊満な乳房を露わにしてしまう。



「……え? な!? ちょ、ちょっと!? ジャヤコディさんの方こそ、何してけつかんねん!?」


「ぐふふ……ええから、ええから!」


 ロハン・ジャヤコディの所業を口では非難するが、内心はワクワクが隠せないヤマダ。握りしめたベージュ色のショーツを手汗でじめっとさせて生唾を飲み込む。





 ちょうどその上空を、どうして飛べているのか不思議なほど造形の狂ったコウモリが一匹飛んでいた。

 見知った顔、ヤマダの姿を見つけてクルリとその場で旋回する。


 が――、フォーリンの裸体ににじり寄る醜悪な姿に、「これはダメだ」と思い直した若いコウモリは、せわしなくそのいびつな羽をはためかせ、何処かへと飛び去って行った。





 その数分後、「はっ!」っと意識を取り戻したフォーリンが最初に気にしたのは、身なりをとりつくろうことだった。胸の隙間を気にして襟元を引き寄せる。

 そしてまた、「はっ!」っと思い出して、スカートの中を確認した。

 ショーツが――ある。奪われたかと思われた下着を履いているのが判ってホッとしつつも首をひねる。さっきのは気のせいだったのか? と、頭のたんこぶをさする。

 

 そんな彼女の様子を背後から見つめる視線に気がつき、フォーリンは慌てて身構える。

 少し離れた場所で、薄汚れた全身甲冑の小男がしゃがんで彼女を見つめていた。ヤマダである。



「あ、お目覚めですか、お嬢さん。ここはひとつ、話し合いでどうでしょう?」


 ヤマダが話しかけると、フォーリンは【ドラゴンブレス】でそれに応じようとした。

 脱がされたはずのショーツが戻っている。ということは、意識を失っている間に履かされたに違いない。目が合って即、最大火力で攻撃! ドラゴンの化身とはいえ乙女なので、そんな反応も致し方ない。



『――んがっ、っつっつ!?』


 しかし、文字通り喉元まで出かかっていた、その怒りの【ドラゴンブレス】が放たれることはなかった。



「まぁまぁ、そんなカッカせんで。せっかちはあきまへんでー?」


 フォーリンのとても近くで聞こえたその声は、ヤマダとは別の男の声だった。

 同時に、心臓が締め付けられるような感覚があって、彼女は出かかったブレスの熱を飲みこんだ。



「あ、あせった~。ほんとうに頼みますよ、ジャヤコディさん……?」


「任しといてやー。ワイ、こういうん得意ですねん」



『……どこですかっ!? この声は、どこ…………え?』


 とても近くで話しているが姿が見えないもう一人の男。ロハン・ジャヤコディの姿を探すフォーリンは、やがて小さな息づかいを感じて戦慄する。


 まさか!? と、自身の服の前をはだけて胸元をのぞき込むと――、

 彼女の豊かな乳房と乳房の間に挟まって、小さな男が張り付いていた。

 分裂した小人サイズのロハン・ジャヤコディが、フォーリンの肌にべったりと癒着して一体化しているのだ。



「エッロいスキルですね、それ。【浸入】っていいましたか? てか、最強ですかジャヤコディさん」


「むっふっふっ、もっと褒めてください! でもまぁ、相手が寝てる時とか気ぃ失のぉとる時やないと、うまいこと【浸入】できひんのですけどね。――ほぅれ、いんぐりもんぐり、いんぐりもんぐり……」


『おホっ!? はヒっ!!?』



「どないでっかー? 内側から乳首いんぐりもんぐりされとる感じはー?」


『ひっ、ひいぃぃぃぃ~いぃぃぃぃぃぃぃ~~~!!』


 その異常な感覚に、長い悲鳴をもらすフォーリンであった。




 ***




 ゴイゴスタ男爵邸、大浴場の乱交会場にゴイゴスタ男爵はいた。

 黄金色の座面にへこみのある奇妙な椅子に全裸で腰掛けて、水タバコを吹かしながら会場の様子を見渡している。

 隣には、マザードラゴンの化身ルイーザと娘達四人も、丈の短い着物一枚だけを身に着けて控えていた。



「いやはやいやはや、遅ればせながら! ワッカ・エレクチアン、只今参上にございます~! 今宵はお招きにあずかりまして誠にありがとうございます! 男爵様、奥方様におかれましてはご機嫌麗しゅう~!」


 浮き輪のような髪型の中年男、エレクチアン司祭がフンドシ一丁の姿で現れて、男爵の前にひざまづいた。

 その背後で、肌が透けるほど薄い着物を身に着けた美少女四人が司祭に倣って両膝を着く。

 彼女達は、ガンガンズガン団のノノ、セリカ、アンネローゼの三人と、もう一人は、チハヤ・ボンアトレー。四人とも、後ろ手に手枷をはめられており、虚ろな目線はキョロキョロと定まらない。



「おお! お待ちしていましたぞ、エレクチアン司祭様! なかなかお見えにならないので、迎えを出そうかと思っていたところでありましたわい!」


『おや、今回はずいぶんと若い子を連れてきましたねぇ? ワラワに対する当てつけかしら?』

  

 男爵とルイーザ夫人が、常連客のエレクチアン司祭を迎える。



「いやはや、出がけに勇者選考会参加者と思しき血気盛んな若者達に絡まれまして、軽く説教などいたしておりました、はい。まあその甲斐あって、パーティメンバーの娘達は、ウッフッフッ……こうして償いの業に従事したいと御前に同道いたした次第にございます、はい。いずれ劣らずなかなか見目の良い娘達にございますれば、何とぞ彼女らのあがないに男爵様のお情けをいただければと――あいや、もちろん奥方様の美貌には全くぜんぜん及ぶべくもありませぬが、はい~」


「ほっほ~う! なんと、勇者選考会参加者とは! さすがエレクチアン司祭様、今宵の宴にふさわしいスパイスの効いた趣向であることか! ――ふむぅ。さては司祭様、今宵は何か企みがおありですかな? む、もしや、我が娘達いずれかの相手をご所望か?」


『あら、それはよいですねぇ。確か、ディスペナは今回が初参加でしょう? やはり初めてのお相手は、司祭様のような経験豊富な方が望ましいのではありませんこと? ねぇ?』


 背後に控えるルイーザの娘達四人が、ゴイゴスタ男爵の言葉に同時にビクッと身を固くし、続くルイーザ夫人の言葉にディスペナ以外の三人はあからさまにホッと緊張をとく。

 名指しされた四女ディスペナだけは、落ち着きを失い顔を青ざめさせた。ドラゴンの化身とはいえ乙女である。初めての相手が浮き輪頭の中年男など、想像するだけで身の毛がよだつ思いであった。



「いやはやいやはや、ディスペナ殿に我がエレクチアン流の密技みつぎはまだちとお早いのかと。頭がバカになってしまいかねませぬゆえ


「おっとと、そうであった! そうであった! 司祭様は、モガリアの聖女をダメにしてしまった過去がおありでしたな。スキル【絶倫】、【教導】、【超振動】に【フェロモン原液】でしたかな」


『まあ! 素敵ですこと! 少し加減してはいただけませんの?』



「いやはやなんとも、未熟な生臭坊主(ゆえ)、ついつい辛抱たまらず濃ゆい原液を垂れ流してしまうのです。――なれば今宵こそは、奥方様にこのエレクチアンめの密技、お試しいただければと、はい~」


「なんと! 我が愛娘を袖にしておいて、我が最愛の妻の相手を願い出るとは、こしゃくな司祭様め! 貴方ほどのお方が、経験値目当てとも思えませぬが」


 冗談めかして男爵が言った。

 最強種マザードラゴンの化身ルイーザをセックスで屈服せしめれば大量の経験値が手に入ることは周知の事実であった。S級冒険者、竜騎士ビュート・サラマンドラが少年時代に、ルイーザから性の手ほどきを受けたという逸話は、知る人ぞ知る事実である。

 だが、ネムジア教会から左遷扱いされているとはいえ、副業の派遣業で成功しつつある40歳過ぎのエレクチアン司祭が、今更大量の経験値を欲するとは考えにくい。



「いかにも! いかにも! 全ては、奥方様への煮えたぎる愛と獣欲がため! どうか今宵こそはこのエレクチアンめのお相手を! なにとぞ! なにとぞ~!」


「う、うむぅ、獣欲とな……」


 これまで、乱交パーティーで妻ルイーザの相手が誰であってもさほど気にしなかったゴイゴスタ男爵であったが、エレクチアン司祭だけは「なんか嫌だな」と思ってしまうのだった。



『うふふっ、構いませんわ。司祭様の密技とやら、興味深いですこと』


「お……おおおおおっ!! とくと!! とくとご堪能あれ、我が密技!!」


 これまで何度かのパーティーで、ルイーザを狙っていたエレクチアン司祭。屈強な男達に押し負けて、いつもは周囲で見ていることしかできなかった。

 だが今宵こそは、思いを遂げることができそうだと歓喜に震える。


 しかしその時、「ちょっと待ったぁ!!」と声を上げる者がいた。

 引き締まった身体にフンドシ一丁の男が歩み出る。



「ちょっと待ってくれよ! 奥方様のお相手は是非俺にやらせてくださいよ、男爵様?」


 旧帝都モルガーナのギルドマスター、サザビー・ダモクレスであった。

 背後には先程まで、ギャンブル会場の舞台で格闘し観客を熱狂させていた小さいビキニ姿の美女二人が付き従う。



「これはこれは、ギルドマスター御一行もご到着ですな。――しかしダモクレス殿まで我が妻にご執心とは、なんだか妬けてしまいますのう。はてさて」


『あら、サザビー君、大丈夫なのかしら~? その後……、ナニはお元気になりまして?』


「前回のことはホンっトに……つーか、前回の失態を取り戻してぇんですよ奥方様、男の小せぇプライドってやつなんす。そこんところ、どうか汲んでやってください……!」

 


「いやはやダモクレス殿、今宵奥方様のお相手は、このエレクチアンめが全力の密技をもって努めさせていただきますれば、はいぃ。どうか今回ばかりはご遠慮いただきたい。ねぇ、男爵様?」


 ルイーザの相手を誰がするかで、エレクチアン司祭とサザビーが譲らない状況。選択は、ゴイゴスタ男爵の判断に委ねられた。

 とはいえ内心男爵はホッとしている。なぜなら比べるべくもない。妻ルイーザの相手は誰でも良いが、エレクチアン司祭だけはなんとなく嫌だったのだ。



「男のプライドですか。ダモクレス殿、さては何か秘策がおありかな?」


「今宵は、二刀流でお相手したい」


『まあ!』

「な、なんですと!?」


 サザビーの股間、フンドシの左右からこぼれ出た、にょっきりとそそり立つ二本の男根!

 それは、蛇の魔物ナーガの魔石を体内に移植して得た種族特性であった。



「まさか、ダモクレス殿ほどのお方がそこまでなさるとは……! エレクチアン司祭様、今宵はどうか我に免じて――。ああそうそう、代わりといってはなんですが、四人の娘達にお相手をさせましょう。四女ディスペナは今回が初参加なので、密技とやらはほどほどに、この場の作法など、バカにならない程度に手ほどき願いませぬかな?」


「ぐぬぅ……いやはや、男爵様がそうおっしゃるならば、是非ともお任せくださいませ」


 愕然とするルイーザの娘達。

 しかし四人がかりならば、どうにかやり過ごせるのではと希望を抱くディスペナ。三人の姉達がきっと何とかしてくれるはずと顔色を窺うが、どうも顔色が冴えない姉達なのであった。





『では旦那様、ワラワも愉しんで参りますね』


 そう言って、ルイーザは丈の短い着物を脱ぎ捨てて見事なプロポーションを衆目に晒した。 

 サザビーが彼女の手を取り、湯船へと誘う。

 お湯には、”中毒性のある粉薬”がほどよく溶けている。前回の失態を取り戻す為ならば、彼は、魔物の魔石を体内に移植することも、薬に頼ることも厭わない。

 ――そうすりゃ、この身体の震えだって止まるはずさ。

 サザビーの指先は、まだ小刻みに震えていた。



「ところで司祭様、そこの娘達の【教導】はお済みですかな? 我の身体を洗って欲しいのですが?」


「いやはや、なにぶん即席なもので実践がまだまだでして、はい。多少たどたどしいのはご愛敬ということでご勘弁を――ほうれほれ、男爵様がご所望であるぞ~? ノノが右腕と右脚を、セリカが左腕と左脚を、アンネローゼはお背中を、チハヤは前を”洗い”なさ~い! さあさ、おわかりですね~? 気持ちイイですよ~、気持ちよ~くなっちゃいなさ~い?」


 エレクチアン司祭のスキル【教導】は、触れた相手に自身の知識や考えを一方的に教え込むことができる。このスキルと”中毒性のある粉薬”の効果を組み合わせることによって、他者を簡易な催眠状態におとしいれることができるのだ。




 ***




 ギャンブル会場――。

 その中央に設けられた舞台の上では、少女たちの静かで熾烈な争いが繰り広げられていた。

 彼女達が囲むのはマージャン卓。ただし、敗者が点棒の代わりに失うものはドレス、ブラ、ショーツの三点。

 すなわち、脱衣マージャンである。


 開始から数局が終わり、舞台上の少女達は8名から5名に数を減らしていた。

 身に着けた三点を失った少女の末路は悲惨である。舞台下に設置されたローション風呂に落とされて、盛りのついたゴブリン十体によってたかって凌辱を受けることになる。

 だがその末路こそが、この悪趣味な見世物の最大の見どころなのだ。


 5名の少女の内、点数の高い白いドレスの少女が一旦抜け、黒色、青色、水色、黄色の4人が卓を囲む。

 卓を囲んだ4人の内三人、黒色少女以外は既にドレスの一点を失い、下着姿となっていた。

 黄色い下着のキャサリンもその一人である。


 もしも次にふりこんだり、一気に三千点以上を失ってブラを剝ぎ取られれば、こんな見晴らしのいい舞台の上で最近やっと膨らみ始めた乳房を晒すことになってしまう――。そんなのはごめんだと、キャサリンは守りの姿勢を貫く。

 それは相対する他の三人も同様で、慎重な打ち回しを続けていた。




 ――初めは少しの違和感だった。

 黒い少女以外は三人ともが同じように追い詰められた下着姿のはずなのに、青い少女だけは、なぜか捨て牌に迷いがない。

 まるで他人の待ちが分かっているかのようだった。キャサリンとて捨て牌からある程度の危険牌を推測してはいるが、彼女の迷いのなさは果たしてそれだけなのだろうか……? キャサリンはその様子に疑念を抱きながらも、確信には至らず局は流れた。

 ブーブーと会場からはブーイングが巻き起こり、決着に焦れる観客たちが彼女たちの消極的プレイを非難する。


 なんて身勝手な奴らだと憤慨するキャサリン。彼女の目に、舞台袖でいきり立った下半身をズボンから放り出し自慰行為にふける醜い酔っぱらい男の姿が映った。

 目を逸らそうにもそいつは、キャサリンから見て雀卓を挟んだ斜め向かいの舞台下に陣取って、視界の片隅にどうしても入り込んできてしまう。



(ちょ……こっち見ないでよ! 青色のでか尻でも見てこいたらいいんだわ!)


 キャサリンは、くじけそうになる心を必死に奮い立たせ、目の前の雀卓に集中しようとする。

 丁度その時だった、キャサリンの右手側卓の青い少女が、なぜか顔を赤らめて背後の酔っ払いを振り返った。



(え? どういうこと? なんで青色は振り返ったんですの? 生チンチンが気になったから? ……でも、そこに生チンチン露出おじさんがいるなんて、ふつう気づかないわよね? わたくしが、見てたから? わたくしの視線を追って? わたくし……そんなに見てたかしら? ……み、見てないわよね?)


 見ていたかもしれないが、青い少女が気にするほど堂々と見ていた覚えはない。

 だとすれば、彼女はなんらかのスキルを所持しているのかもしれない。

 例えば、「別視点で雀卓を見渡せる」とか「他人の視界を覗ける」とか――とにかく、青色には待ち牌がバレバレってことで間違いなさそうだとキャサリンは推測する。


 そこから先、キャサリンは視線を手牌から逸らし、盲牌――牌の模様を指先の感覚で読み取るテクニックを使い始める。


 チッと、青い少女が小さい舌打ちをこぼした。

 はたしてキャサリンの読みは正しく、彼女のスキルは【視覚共有】他人の視界を覗ける――であった。



(どうやら正解だったようね)


 ――と、ほくそ笑むキャサリンであったが、視線を上げたことで、黒い少女と目が合った。どうやら彼女は、キャサリンよりも早く青い少女のスキルを看破していたらしい。


 やっと気づいたの? と言わんばかりの黒い笑みに、歯噛みするキャサリンであった。



 青い少女のスキルをめぐり静かな攻防を繰り広げる黒い少女とキャサリン。

 そんな攻防から取り残された形の水色の少女は、実力的に他の三人に数歩及ばなかった。

 立て続けに捨て牌をロン上がりされて、水色の少女は次なる犠牲者となり――、



「い……いやっーーー!!」


 奈落の底、ゴブリンが待つローションプールへと落ちていった。





 水色の少女に代わり、強運の白い少女がキャサリンの正面卓につく。

 しかしその時はまだ、運など浮き沈みのある曖昧なものだとキャサリンは思っていた。最初の一局で、彼女が早々にツモ上がりするまでは。



「あ、ツモですー。メンタンピン三色ドラドラぁ」


 白い少女、彼女を勝利させるために、不可解な力が働いていると確かに感じた。

 3千点を超える減点により、審判役の豚鼻マスクが、白い少女以外の三人に脱衣を命じる。


 黒い少女は、その黒いドレスをさっさと脱ぎ捨て下着姿となった。

 堂々と、黒いブラからこぼれそうなほど豊かな胸をはる。


 既に下着姿の青い少女と黄色いキャサリンは、ブラを失うことになってしまった。


 黒い少女がニヤリと不敵に笑う。

 

 キャサリンは再び歯噛みした。黒い少女の狙いが読めたからだ。

 この次にまた、白い少女が高得点でツモ上がりすれば、青い少女とキャサリンが同時に敗退してゲーム終了となってしまう。

 黒い少女自身もブラを失うが、その程度は覚悟の上であろう。

 このままではローションプール落ちは免れない。



(今ですの? 今、スキル【サルの手】を使うべき?)


 キャサリンは、暗闇の中から差し伸べられる毛むくじゃらの獣の手を幻視した。

 その手をとれば、どんな突拍子もない願いもかなうだろう。しかし、その対価は自分自身かもしれないのだ。





 不意に、ウィリアムとジャンケンをしている記憶がキャサリンの脳裏に蘇る。


 勝った方が負けた方になんでも命令できる。そんな他愛もない賭けだった。


 14歳だったキャサリンは、スキル【サルの手】を使い、ウィリアムにあえて勝ちを譲った。



「キャス……な、何でもって言ったよ……ね?」


「ええ、言ったわよ。あーあ、負けちゃうなんてつまんない! ウィルに肩を揉ませたかったのに! こってるのよ、肩」



「あ、え……、じゃあ、僕も揉んでもらおうかな……」


「……どこを?」



「え? か、肩に決まってるじゃない!? 僕の肩だよ。な何言ってるのさ」


 キャサリンは何度も考えた、もしもあの時、怖じ気づいて「肩を揉ませたかったのに!」なんて言わなければ、ウィリアムはどんなことを命令しただろう? と。

 また、いつか本人に聞いてみたいとも考えていた。今度こそ、スキルなんかに頼らずに。




 

(……まだよ。まだわたくしにはやれることがあるもの……!)


 豚鼻マスクに「さっさと脱げ」と急かされて我に返るキャサリン。

 意を決し、席を立つ。



「豚鼻マスクの人、先に下を脱いでも差し支えありませんわよね?」


 そう言って、進行役の返答も待たずにキャサリンは黄色いショーツを脱ぎ捨てる。

 小さな美しい尻と股間の薄いかげりが衆目に晒された。


 客たちから大きな歓声が上がり、例えルール違反だったとしても、進行役が今更ダメだとは言えない空気になっていた。


 キャサリンはすまし顔で席に着いたが、耳は真っ赤に上気し、足は小刻みに震えていた。





「フフッ……、よっぽどみっともないおっぱいなんでしょうね」


 黒い少女が、薄ら笑いを浮かべながら言った。

 これ見よがしに寄せ上げた胸が、黒いブラの中で窮屈そうにしている。




「別に……、わたくしの家の守り神が、尻好きというだけのことですわ」


「フッ、神頼みですか。それもいいわね。でも、あなたのその貧相な尻に、どれほどの価値があるかしら?」



「あら、尻や胸の価値なんてそれぞれですわ。多少大きくても、ブツブツがあったり垂れていたら台無しですもの」


「……そうね。きっとあなた大人気よ、そっちの酔っ払いとか下のゴブリンとかにね」


 牌をかき混ぜながら睨みあう黒い少女とキャサリン。

 ついさっきまでは同じ境遇の者同士と思っていたキャサリンであったが今は違う。

 黒と白の少女達は、倒すべき敵であった。

 

 なぜなら――、



「ところでわたくし、垂れ乳の価値なんか分かりませんが、物品でしたら多少【目利き】ができますの。――例えばそう、黒と白の貴方と貴方、どうして二人だけ安物の首輪を付けているのかしら?」


「黙らせて!」


 キャサリンは、黒と白の少女達が付けている首輪が『隷属の首輪』ではないことを見破り指摘した。舞台に上げられたのは8名の奴隷少女――のはずであったが、初めから2人だけが例外だったのだ。


 そして即座に、黒い少女はキャサリンの口止めを指示した。

 豚鼻マスクがそれに従い「黙れ」と命じると、『隷属の首輪』の効果によって、何も話せなくなってしまうキャサリン。

 

 運営側としては、プレイヤーであるはずの黒と白の少女が隷属されていないことを客たちに知られるわけにはいかない。それでは、公平なギャンブルが成立しなくなってしまう。

 つまり黒と白の少女達は、本当は運営側の人間なのだった。



「……今の、どういう……?」


「貴方も黙って」

 

 経緯を見守っていた青い少女が口を開くが、彼女もまた黒い少女の指示で即座に口を封じられてしまう。


 沈黙するキャサリンと青い少女。


 雀卓の下、二人の足に、黒い少女のつま先が何気なく触れた。



「……!?」

「……!?」


 すると二人の頭の中に直接、黒い少女の声が響く。

 


『……まったく、急遽開催だからって、よくわからない子を連れてくるからこんなことになるのよ。まさか、黄色が【目利き】なんてスキルを持ってるなんてね。――ああ、コレ? コレは私のスキルよ。触れた相手とないしょ話をするだけのスキル。ああっと、手を止めないで、そのまま山を積みながら聞きなさい』


 一見、静かに次局の準備を続ける少女達。しかし、彼女達の頭の中では黒い少女の独白が続いていた。



『――お察しのとおり、私達は運営側の雇われなの。この手のイベントを仕切る大クラン「マーラーブランケ」のメンバー、私がリオで、そっちはコッコよ。よろしくね、お嬢ちゃん達』


「……!!」

「……!!」



『――でね、この脱衣マージャンだけどね、いい? これは興行なのよ。貴方たちがローションプールに落ちるっていう見世物なの。てゆうか、落ちてくれないと脱衣マージャンの意味がないから、わざわざ私達が参加して勝敗をコントロールしてるってワケね。あくまでも、”脱衣”がメインで”マージャン”は添え物なのよ。――フフッ、その証拠に、だれも雀卓なんて見ちゃいないわ。そもそも、こんな舞台の上じゃ客から見えっこありませんものね。

 ですけどね、真剣勝負だと思ってるお客さんもいるのよ。そうじゃないと、ギャンブルにならないし――それに、儲からないでしょ? 私達運営がね。

 さて、それじゃあ、ゲームを続けましょ? とはいえ、黙ったままじゃゲームにならないわね。ルールを決めるわ。……そうね、ゲームの進行を妨げたりギャンブルが成立しなくなるような発言を禁ずるわ。

 ああ、そうそう、これまでどおりスキルの使用は認めるけど、運営側への暴力行為や敵対行為は禁止よ。あくまでも、ゲームに勝つために使用するスキルなら、敵対行為に含まないことにするわ。せいぜい盛り上げて頂戴』


 運営側に都合のいいルールを一方的に定める黒い少女リオ。

 同じ内容を進行役の豚鼻マスクから命令された後、やっと発言を許される青い少女とキャサリン。



「……垂れ乳」


 開口一番にキャサリンがつぶやいた。ゲームの進行さえ妨げなければ、今のところ発言に制限はない。

 眉間をヒクヒクと痙攣させるリオだったが、やがて「ふん」と鼻で笑って受け流す。



「あなたのスキル【目利き】って、役牌とかドラが見分けられたりするのかしら? フッ、だとしても、コッコのスキル【豪運】はどうにもならないわ。私がこの子をコントロールしてなかったら、とっくに決着はついていたのだもの」


「わたしー、点数の計算とかまだよくわかんなくってー、なんとなくアガっちゃうとリオちゃんまで巻き込んじゃうからー」


 黒い下着のリオと白いドレスのコッコには、勝利を確信した者の余裕があった、

 ――その時には、まだ。





 そしてそれは第二局、中盤のこと――。

 キャサリンはリーチした次の手番、何かを乞い願うように、左腕を天井へ高く掲げた。

 その所作はどこか厳かで、まるで神聖な宗教儀式のようであった。



「どうやら勘違いがあるみたいなので訂正しておきますけど、わたくしの【目利き】はスキルではありませんのよ? 商人の娘として培った技能にはほかなりませんけど。

 ――というわけで、こっちがわたくしのとっておき、スキル【サルの手】ですわ! 神獣サンノウマサルの加護のもと、どんな突拍子もない願いだって叶う。万能のスキル……!」


「万能!? スキル【サルの手】ですって……!? ……ウソよ! ウソばっかり! そんな都合のいいスキルなんて、この世にありっこないわ!」


 ざわ……ざわわ……とギャンブル会場がざわめく。

 客達の視線を追えば、高い天井に黒い雲がむくむくと発生していた。



「ええ。リオ様の言うとおり、曖昧な願いを勝手に解釈してくれるほど都合のいいスキルじゃありません。万能とはいえ、何を願うかは重要ですわ。――ですので、そちらのコッコ様のスキルが【豪運】だと知れて、大変助かりました。そうです、あなたが言ったんですよリオ様、スキル【豪運】はどうにもならないとか、なんとか」


「ウソ……まさか、コッコの【豪運】を封じるつもり!? だ、だとしても、今更だわ! だってもう、コッコはテンパってますもの!」


 天井の黒雲の中から、巨大な獣の手が出現する。キャサリンが掲げている左手に触れようとして、ゆっくりと毛むくじゃらの腕が伸びてくる。


 一般人がその光景を目撃すれば、恐怖してパニックになっていたかもしれない。だが、この会場に集まった客達は誰もがフダツキであったから、警戒しつつもそこまで慌てることもなく、ただ固唾を飲んで成り行きを見守っていた。



「……ツモ! リーチ、ツモ、ドラ3で満貫です!」


「え? ……なっ!?」


 左腕を掲げたままのキャサリンが、突然アガリを宣言した。

 右手で器用にツモ牌を加え、できあがった手牌を晒す。

 

 掲げていた腕をゆっくり下ろしそのまま口元に左手の甲を添えると――、

 

 高らかに笑った。



「おーほっほっほ!! おおーっほっほっほ!! 運気逆転! 【豪運】は裏返る! 子の二人は2千点、親のリオ様は4千点の負担でしてよ!?」

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