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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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441 美人同盟

 パッパラパ――パパパ――――ン♪♪♪♪


 早朝、晴天の空にラッパの音が高らかに響き渡る。

 王国民の誰もが待ちに待った「勇者選考会予選」の開会を知らせるファンファーレだ。

 おれが予選参加手続きをしたあの日から13日、とうとうこの日がやってきてしまったというわけである。


 王都のメインストリートは、いかつい冒険者達の群れでごった返し、異様な興奮と緊張感で騒然としている。一月だというのに、なんだか妙に暑苦しい。

 その日ちょっとだけ早起きをしたおれは、雑踏をすり抜け、メインストリートを足早に進む。同盟を結んだレナリス婦人達と噴水前広場で合流する約束だ。

 

 青銅色の地味なプレートアーマーを身に着けたおれは、どこからどう見ても背景のモブキャラでしかないはずなのだが、すれ違ういかつい冒険者達がどいつもこいつも敵意のこもった目を向けてくる。――というのも、おれの後を追従するのは、三人の肉感的な美女達であったから。


 ――そう、肉感的な美女三人組である。アンディ君達駆け出し三人組ではなかった。

 あの日、アンディ君達を同盟に誘ったおれだったが、それぞれ「えっ、おっさんと同盟? イヤだよ」、「今更ヤマダさんと組んで、僕達に何のメリットが?」、「ププッ、まだレベル32って、ウケルー」と、クソミソに言われて断られてしまった……グ、グギギ……ハァハァ……か、彼等には、他に同盟する相手にあてがあるそうな。


 じゃあ誰だよ美女三人組って? という話だが――紹介しよう。まず一人目は、ショートボブの赤髪と大きなお尻……いや、そんなことよりも彼女の声を聞けば、古参の王都民ならきっと振り返らずにはいられないであろう聞き慣れた声! 美人実況者、キャプティン・アザリンちゃんである!




 ***




 勇者選考会にエントリーしたあの日からおれは、「モガリア教道場」で寝泊まりしつつ、連日「渓谷のダンジョン」に通い詰めて本番に向けての特訓に明け暮れていた。

 ――「渓谷のダンジョン」とは、「モガリア教道場」のほど近く、深い谷底にひっそりと存在する、知る人ぞ知る高レベルダンジョンだったりする。……ちなみに、お気に入りは第9階層。なんと、知る人ぞ知るおっぱいモンスター、ラミアさんとアラクネーさんがワラワラ出没するので、ついつい毎回寄り道してしまう。



「――そういうワケだからナカジマ氏、今日も9階層から頼む」


「ふむ。どうせまた鑑賞だけして先に進むのだろう? 倒さないなら時間の無駄では?」


 いつものように、正面玄関前でナカジマに【空間転移】を依頼するおれ。

 だが、いつもだったらタナカがすかさずおれに加勢して口を挟んでくるはずなのに、今朝はそれがない。


 ――はて? タナカのやつ、まだ厨房かな便所かな? とか思って周囲を見渡せば、ちょうど正面玄関を出てくる太っちょの姿があった。……な、なぬぅ~!? なぜか、朝っぱらから美女の腰を馴れ馴れしく抱き寄せていやがる、タナカのやつめ!



「はいはい、二人共ちゅうも~く! 今日から一緒にダンジョンに潜る、アザリンちゃんで~す! はい、拍手~!」


「ど、どうも~、キャプティン・アザリンですぅ~」



「えっ、キャプティン?」


「ああ、『護国祭』の決闘で実況をしていた人か。”今日から一緒に”とは、どういうことだタナ……ムラサメ氏?」


 タナカが連れてきたのは、ベリアス様とおれの決闘の時に実況していた女性アナウンサー、キャプティン・アザリンちゃんだった。

 なんでキャプティンが、「モガリア教道場」に居るんだ? ……あ、そういえば彼女、ここの「伝説の美肌の湯」に興味芯々だったっけ。

 確か、タナカに特別優待券をもらってたかも……って、もしやタナカのヤツ、すでにヤッたのか!? 「アンチエイジング・スペシャルマッサージコース」とやらを、キャプティンにヤりやがったんか!?



「モガリア教に改宗した彼女を、ぼく達は教団をあげてバックアップすることにしたんです! ね~アザリンちゃ~ん?」


「は、はい~! 教祖様のねちっこい全身マッサージのおかげで〜二十代のお肌がよみがえったんですぅ! これならキャプティン、まだまだあの子なんかに負けないって思えましたからーっ! むっふっふっ……!」


「……ママ、マッサージ……だと? 全身マッサージだとぉ? 言われてみれば、なんだかお肌も声もあの時より若々しいような?」


「ふーむ。マスコミ関係者か、なるほど。考えたな教祖ムラサメ。――しかしだからといって、私達とダンジョンに潜ってどうすると?」


 大きなイベント事では決まって司会や実況者を勤めてきたキャプティン・アザリンちゃんは、王都で知らない人がいないほどの有名人であった。


 そんな人気絶頂を極めた彼女であっても、年齢を重ねるごとにその勢いに陰りが差し始め、今回とうとう、えある「第一回勇者選考会」実況者の座を同じ事務所の後輩に奪われてしまったのだという。


 そのことに酷くショックを受けたキャプティンは、タナカのヤツと悪魔の契約を交わしてしまったらしい。



「つまりアザリンちゃんはね、勇者選考会の予選に自らエントリーして身体を張った突撃潜入取材をしてしまおうってわけさー! ぼくはそんな心意気に打たれてね、ひと肌脱ぐことに決めたってわけなのさー!」


「事務所のお偉いさん達に、キャプティンがまだまだヤレるってとこ見せつけてやりますぅ! そのためだったら、この蘇った二十代の素肌を見せつけることもいといません! むしろ見せつけたいっ!」


「突撃潜入取材ね……てか、まさかおれにカメラ役やらせようとしてる? 無茶言うなよ、そんなヒマねぇよ」


「いやまて、ヤマダさん、カメラマン役なら適任がいるんじゃないのか?」




 ***




 ――てなことが一週間前にあって、それからキャプティンとは一緒に「渓谷のダンジョン」で特訓した仲だったりする。

 陽キャっぽい見た目とは裏腹に、彼女の魔法適性は「闇」と「草」とのこと。なんと、おれと同じである。ちょっと親近感が湧いてしまうが……だがキャプティン、おれは忘れてないからな? 決闘の時、アンタが終始ベリアス様贔屓だったこと。

 思い出したら、また悲しくなってきた……ぐすん。

 

 あーそうそう、カメラマン役はおれの公認ストーカーのシャオさんがやることになった。異世界「日本」製の小型ハンディカメラで、なるべくキャプティンや美女だけを狙って撮影するようにとお願いしてある。

 なんだかんだといつもお世話になりますシャオさん……あとでまた、甘い物でも差し入れしとこうか。





 さて、美女三人組の残り二人についてだが――本名は不明、エロ時代劇のくノ一(くのいち)っぽい装い、目元を【偽装】効果付きの「ムシャウジサマの仮面」で隠したそれぞれ金髪と銀髪の美女達。仮に、ムシャウジガール・ゴールド様とムシャウジガール・シルバー様とでも呼ぶことにしようか? 顔は隠しても、その肉感的なボディと滲み出るフェロモンは隠しようもない。……ついでに言わせて貰えば、底意地の悪さも隠しきれていない。




 ***




 三日前のこと――。

 その日も、宴会場の舞台ではデイジーちゃん率いる「ダゴヌウィッチシスターズ」が瑞々しい歌とダンスとお尻を酔客達の前で披露していた。

 旅館「玉月」モガリア道場支店という拠点と、異世界「日本」のアイドルからタナカがパクった名曲の数々と更には、宮坂ハジメチンというダンスの指導者を得て、彼女達のパフォーマンスは宴会芸の枠を超え、今やエンターテインメントとして高いレベルに昇華されつつある。


 そんな華々しい彼女達の活躍を、ふすまの陰から複雑な目で見守る金髪と銀髪の美女二人。



「あのいつもおどおどしていたデイジーが、あんなに堂々とお乳を揺らして生尻を見せつけて……」


 悔しそうに爪を噛むセリオ……ゴールド様(仮)。



「スキル【神託】を持つわたくし達が、大部屋の一般信者扱いなんて屈辱です。聞けば、デイジーは既に個室を持つ教団の幹部扱いだとか」


 ――と、眉根を寄せるグレ……シルバー様(仮)。

 訳あってモガリア道場に逃げ込んだ彼女達二人であるが、まだ改宗もせず、かといって宿泊料金を払うでもなく、ちょっとしたお手伝いだけで日々の糧を得ているほぼ居候いそうろう状態であった。



「ですが……、王都に帰ったとしてもわたくしは、母様や伯母様達に監禁されて――いえ、あの人達のこと、きっともうどこかの変態貴族へ嫁がせる準備を進めている可能性だって……」


「わたくしも同じようなものです。はぁ……あの日、衆目の前であのような失態……痴態を晒してしまったのですから、次の大司教となる夢はついえてしまいました。この期に及んでは、別の生き方を模索するよりありませんでしょう……?」


 うっ……お、おぇぇぇぇっ!! と、突然えずきだすゴールド様。何か思いだしたくない記憶を思い出してしまったらしい。

 慌ててその背をさするシルバー様。「やっちゃったわ」という顔をしている。



 ハァハァハァハァ……と、ところで――と、話題を変えるゴールド様。



「――若返りスキルのことは何か判りましたか?」


「死んだ前教祖タナカという男がそれらしきスキルを所持していたとだけ」



「死んだ? それでは、先日のモルガーナ公爵夫人達の変貌ぶりが説明できません。明らかに二、三十歳は若返っていたでしょう?」


「そう、そこなのです。わたくし考えたのですが、死者のスキルを使う何らかの秘密があるのではないかなと。例えば、『人形の勇者』イノハラは死者を人形のように操ると云いますし、墓守のハイポメサス家には死者の霊を呼び出し対話するすべがあったはずです。――なんでも、とある貴族家当主が自らの【空間収納】に財産のほとんどを所持したまま急死してしまいましたが、ハイポメサス家が死んだ当主の霊と遺族との対話をとりもち、遺族は無事に財産を相続することができたとか」



「なるほど、この教団にも同じようなスキルを所持する者がいるというわけですね? そうなると、やはり秘密の全てを知るのは教祖ムラサメとかいう男でしょうか。……なんとかなりませんか? お得意でしょう、色仕掛け」


「……気が乗りません。さすがにキモチワルくて」



「ええっ、それは意外です。てっきり、ああゆうブヨブヨしたのがタイプなのかと」


「ご、ご冗談を! あのブタ教祖には以前、温泉コンパニオンをやらないかと誘われたことがあるのです。この高貴なわたくしに向かって――!! 下手に近づいて同じ話を蒸し返されても不快ですし、今回は貴方にお譲りしますわ」



「わ、わたくしだってご免です! だいたい、わたくしまだ二十代ですし、若返りのスキルが欲しくてたまらないのは、どこぞのアラサー聖女様ではありませんこと?」


「なっ、なっ、なっ!? 言いましたね!? 言ってはならないことを言いましたね!? この、ビチグソ聖女がーっ!!」

 

 ビ、ビ、ビチぐっ……お、おぇぇぇぇっ!! などといった金銀美女二人のやりとりを、廊下の隅になにげなく置かれたスーザン人形が見ていた。





「ふむ、なるほどな。あの二人が王都に帰らずコソコソやっている理由がこれか」

 

「高慢ちきな二人だけどさ、たいした仕事もせずにここに居座るのは、いよいよ肩身が狭くなってきたみたい。ぼくとしてはさー、色仕掛けばっちこーいって感じだったんだけどね~」


「……で、どうするの? さすがに追い出すのは気の毒っていうか、なんていうか……」


 ナカジマ、タナカ、おれは「次元の隙間」から、スキル【超次元三角】でスーザン人形に開いた小さい三角窓を通して金銀美女二人――要するに、聖女セリオラ様と聖女グレイス様の様子をこっそり窺っている。



「やれやれ、ヤマダさんは相変わらず美女に甘いな。先日の決闘騒ぎはあの二人の差し金だったというじゃないか」


「まあまあ、ナカジマ氏。さて、そんな美女大好きなヤマダさんに朗報で~す! セリオラ様とグレイス様には、勇者選考会の予選にエントリーしてもらうことにしました~!」


「はあ? ……なんで?」




 ***




 ――というわけで、目元を【偽装】効果付きの「ムシャウジサマの仮面」で隠したムシャウジガール・ゴールド様とムシャウジガール・シルバー様がおれとキャプティンの後を追従する。


 あの日タナカはセリオラ様とグレイス様を呼び出して告げた、「そろそろ王都に帰ってもらえますか~?」と。

 しかし「ううっ、それは……困ります」と金銀美女二人。


 そこでタナカは妥協案を提示した。「二人共さ、勇者選考会の予選にエントリーしてよ。――いやいや、勇者になれとまでは言わないけどさー、最低でも予選は突破してもらって……そうだな~、ヤマダさんよりもいい成績を残してよ」と。

 「ヤマダよりもいい成績を残せたら?」と、かなり乗り気の金銀美女二人。


 「個室を用意しますよ」とタナカ。それは、モガリア教会に幹部待遇で迎えますという意味に他ならない。

 少し考え込む金銀美女二人。悪くない話だが、もう一声欲しい。といったところか?


 「……先日、モルガーナ公爵夫人御一行が――」と言いかけた言葉を遮るようにタナカが続けた。

 「あ~そうそう。『伝説の美肌の湯』についてですけど、個室持ちの幹部だけが入れる専用の浴室があるとだけ――」と、何か秘密があるけど幹部にしか話せないよ的な言い回しで匂わせる。

 かしこい金銀美女二人は、それだけで納得したらしい。おれだったら「はー?」となるところだが、まあそれはいいか。


 当然ながら、おれより下の成績ならばセリオラ様とグレイス様はここ、旅館「玉月」モガリア教道場支店を出て行くことになる。「――もしくは、ここで接待コンパニオンとして働いていただければ大歓迎ですよ、二人共~? もちろん、個室も用意しますし~(にちゃり)」とタナカ。早い話が、ここに残りたいなら、お客に性的なサービスをする嬢になれとタナカは言っている。


 ……と、ここまでタナカとロッドさんが金銀美女二人に接待コンパニオンになってもらう為に考えたシナリオらしい。今の所、計画通りに事は運んでいる。だけど、そうまでして二人はここに残ろうとするだろうか? てか、もしかしておれ、二人に予選の間中足を引っ張られ続けるって可能性ないか?

 


『頼んだよヤマダさん! くれぐれも、セリオラ様とグレイス様が決勝トーナメントに進出するなんてことがないようにね。いい塩梅のところで脱落してもらって尚且つ、もう日の当たる場所ではやっていけないってくらい充分にはずかしめたうえで、二人がこの先も旅館「玉月」でいつまでも自堕落で享楽的に性接待をヤッてけるように――』


 ……とかなんとか、難しいことを簡単そうに言ってやがったが、タナカのやつめ。







 噴水前広場で、小柄な美人さんが手を振っている。レナリス婦人がおれのプレートアーマーを見つけてくれたらしい。


 おれも軽く手を上げて小走りで近づいていく。


 ここだけ切り取るとまるで恋人との待ち合わせみたいだが、当然ながらレナリス婦人の隣には旦那のスプリングさんが一緒である。相変わらず顔面包帯だらけで、まるでミイラ男だ。そんな怪しい見た目に反して、彼は礼儀正しくペコリと頭を下げる。もしかしたら彼の前世は日本人だったのかもしれない。


 慌てておれも、ペコリと会釈を返す。


 はて? 夫妻の隣にもう一人、日雇い労働者っぽい男が立っている。いや、日雇い労働者が悪いとは言っていない、その日暮らしという点では冒険者だって似たようなもんだと思う。

 だが彼は、冒険者風というよりは圧倒的に日雇い労働者風だった。

 彼の視線は最初から、おれの後ろをついてくる美女三人組にくぎ付けで、だらしなく鼻の下を伸ばす顔面は実にサルっぽい。きっと彼の前世はサルだったのかもしれない。


 お待たせしましたか? と、おれ。

 いえいえ時間どおりです。と、レナリス婦人。

 一通り社会人として最低限の挨拶を交わしていると、突然サルっぽい彼が素っ頓狂な声を上げた。



「ありゃりゃりゃりゃ? もしかしてそっちのカノジョ、キャプティン・アザリンじゃぁねぇですかい?」


 無遠慮と言えなくもないが、まあ仕方ないか。有名人だしな。おれは挨拶もそこそこにして、美女三人組を紹介することにする。



「こちら、おれの方で同盟にお誘いした三人で、有名実況者のキャプティン・アザリンさんと、ムシャウジガールのゴールド様とシルバー様です」


「あ、はぃ! キャプティン・アザリンですぅ~!」

「あ、ゴールドです」

「……シルバー?」



「あら素敵な方たちばかり! 皆様、わたくし達の同盟に加わってくださるということでよろしいのですか?」


「勝手に連れてきてしまいましたが、大丈夫でしたでしょうか?」

 

 もちろん大歓迎です! と、レナリス婦人。

 ついでに、ひゃっほぉぉぉぉい!! と、小躍りして喜ぶサルっぽい彼。――で、あんたは誰だよ?



「あ、こちらは、冒険者のブーマー様です。なんでもステータスに【勇者】を持つのだそうですよ」


「まっ、そういうことだからよ、おっさん! 勇者ブーマー様に万事まかせときなって! アザリンちゃんも、そっちのムチムチガールズも、よろしくな――って、ありゃりゃりゃりゃ!? えっと待てよ……金髪のゴールドちゃんていったっけ? なーんかどっかで……待てよ……もしかして……」


「な、なんです!? ジロジロとぶしつけなっ!」



「あーいやすまねぇ、すまねぇ。もしかしたら、この俺、勇者ブーマー様の運命の女神様なんじゃねぇかと思ってよ、へっへっへっ……!」

 

 ほほう。サル顔勇者ブーマーめ、さっそくゴールド様に目を付けるとは侮れん。てか、初対面のおれをおっさん呼ばわりとは、つくづくぶしつけなやつめ。……同じ歳ぐらいだよね……?


 ん? 包帯まみれの旦那さんが、レナリス婦人の耳元で何事かささやいている。



「――え? はい。――あ、はい、確かにそうですね。――ヤマダ様、夫は34歳、ブーマー様は35歳だそうです。どうやらヤマダ様が一番年上のようですし、同盟のリーダーをお願いしてはどうかと夫が申しておりますが、いかがでしょう?」


 いやいやいや無理じゃね? 万年平社員のおれにリーダーとか無理じゃね? いや、『紳士同盟』では一応リーダーってことになってたけど、ちょっと留守にした隙にラダ様がリーダーになってたみたいだし。そもそも今回の同盟は、いずれは敵同士になることが確定しているデリケートな関係性であるからして、レナリス婦人のカリスマ性なくして同盟は立ちいかないのではないのかと思うんだが?


 丁重にお断りしようと口を開きかけたその時、背後から「待て!」と威圧的な声が上がる。

 振り返ると、なんだか見覚えのある四人の少年少女の姿があった。声を上げたのはその内の一人、一番高そうな鎧を身に着けた彼に違いない。



「リーダーは初めから俺に決まっている! 王族であるこの俺、オウガス・タカス・モガリアの上に立とうなどと! ヤマダとやら、身分をわきまえよ!」


「不敬であるぞ平民、ひかえおろう!」

「イヤですわ~、なんだか平民臭くって。ちょっとそこのあなた、それ以上近づかないでくださる?」

「ちょ、ちょっとみんな、そんなこと言ったら悪いよ……!」


 ……こいつら、ジーナス屋敷で脱衣マージャンやってたミース魔導学院三年生の不良どもじゃねーか! 冬休みで王都に遊びに来てるのかと思いきや、まさか勇者選考会への出場が目的だったとは恐れ入る。

 まあ身分が高いのは間違いない、王族だしな。だけど、勇者選考会でお貴族様ムーブとかかまされると、余計な敵を増やしそうで心配なんだが?



「恐れながら殿下、勇者選考会で身分のことをどうこう言うのは意味のないことでございますよ?」


 優しくオウガス君をたしなめるレナリス婦人。



「ふん! チェスチェック家令嬢ともあろう貴方が妙なことを言う。貴族たる我らの威光は、愚鈍な平民どもを導くためにあるのだと知らぬわけでもあるまい」


「だとしても、ヤマダ様が冒険者として重ねた経験は何事にも代えがたき宝物、亀の甲より年の劫とも云いますし。――ですからどうでしょう? リーダーはオウガス殿下、サブリーダーをヤマダ様としては?」


「ふむ……まあ、婦人がそこまで言うならば。ヤマダとやら、我が腹心ギース・エジェクタ共々、サブリーダーを命じる! 年の功とやらで、リーダーの俺をよく補佐するがよかろう!」


 ギース君が片膝をついて「ハハッ!」とかやっているので、おれも真似して、「へへー」とやっておいた。


 なぜかサブリーダーにされてしまったけど、リーダー以外ならなんでもいいか。

 ともかくこれで、予選のバトルロワイアルで共闘する同盟メンバーがそろったってことでいいのだろうか?


 ひい、ふう、みぃ……11人! ――それと実はもう一人、いずこかからかシャオさんが異世界「日本」製のハンディカメラで、おれたちの活躍を撮影中のはずである。後で運営から難癖を付けられても困るので、念のためシャオさんも参加費を払って予選にエントリーしてもらっている。


 あとついでに、もう一匹。

 おれは片目を閉じて呼びかける――あーあー、オナモミ君? オナモミ妖精君? そっちはどうだい? 万事、抜かりないだろうね?



(ケケケ……! わかってるって! 女の乳とか尻とかフトモモとかを撮ればいいんだろー? オレサマたちにまかせとけって!)


 実態を得たオナモミ妖精にはカメラマンのシャオさんに引っ付いてもらっている。理屈はよくわからないが、オナモミ妖精とおれの間には何らかの繋がりが残っているようで、離れていてもスキル【共感覚】で話したり視覚を共有したりできる。そこで、放っておくと、おればっかり撮影してしまいがちなシャオさんに引っ付いて、オナモミ妖精にはシャオさんへの指示出しをしてもらっているというわけだ。……頼んだぜ相棒!



 ん? おっと、包帯まみれの旦那さんが、またレナリス婦人の耳元で何事かささやいている。



「――え? あ、はい。分かりました。――皆さん、そろそろ予選のルール説明が始まるみたいですので、式典会場の近くまで移動しましょう! ――あ、よろしいですね殿下?」


「うむ! 皆のもの俺に従え! ……で、ギース、式典会場とやらはどっちだ?」


 するとまた、旦那さんがレナリス婦人の耳元でささやき、「式典会場は、円形闘技場ですよ殿下」と婦人が伝える。スプリングさん、自分で言えよ……。





 ぞろぞろと移動を開始するおれ達。



「なあなあサブリーダー、スプリングの旦那ってなんか怪しくねぇか? ブーマー様の勇者の勘が言ってんのよ、キヲツケロってさ!」


「さあ、怪我で上手く話せないのかもよ」


 お前も相当胡散臭いけどな! という言葉を飲み込んで、サルっぽい勇者ブーマーに応じるおれ。



「それはそうとサブリーダー、あのムチムチガールズのゴールド様とシルバー様ってもしかしてよぉ……」


 ムシャウジガールズな? しかし、早くも気づかれてしまったか。まあいつもと違う恰好してるから判りにくいけど、仮面で目元を隠してるだけだからな。本人達はあれでバレないと思ってるらしいから、勇者ブーマーには、気づかないふりを続けてあげるようにと言い含めておこうか。





「ちょっといいか、サブリーダー」


 勇者ブーマーと、こそこそ話している最中に、突然肩を掴まれてビクッとするおれ。

 振り返るとそこには、真っ黒な全身鎧を身に着けた女が立っていた。


 ――えっ? クラムボン? その真っ黒い鎧は、「クラムボンの鎧」じゃね? てことはシマムラさん?


 彼女は続ける。



「突然で恐縮だが、その同盟とやらに私も加えてはもらえないだろうか?」


「あら! あなた様はもしや、『黒鉄の勇者』スーザン・シマムラ様でいらっしゃいますか?」


 おれ達のやり取りを耳ざとく聞いていたレナリス婦人が問いかける。

 だが違う。声もボディラインもシマムラさんとは別人だ。



「『黒鉄』? 人違いだ。わけあって顔は見せられないが――」


 よく見ると、胸パーツの真ん中に装飾されている宝石の色が違う。前に見たときは確か赤色だったけど、今は緑色だ。もしかすると全く別の鎧なのかもしれない。



「えっと、どちら様ですか?」


「――我が名はリスピーナ、リスピーナ・アスキッス。剣には多少おぼえがある」


 見覚えのある真っ黒い鎧をまとった彼女は、なんだかいつかどこかで聞いたような名前を名乗った。

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