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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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433 たいいいくすわり

 夕暮れ時、冒険者ギルド前の歩道で体育座りするおれは、ボケッと道行く人達の群れを見送っていた。


 マデリンちゃんが去った後、逃げ出すようにカフェのテラス席を立ったおれだったが、とてもじゃないが「勇者選考会」申込みの行列に並ぶ気にもなれず、ナカジマ、タナカとの待ち合わせ場所であるこの場所でただ時間が経過していくのを待っていた。

 時間だけが、おれのこのすさんだ心を癒やすだろう。



(ケケケ……! セックスはまだかよヤマダー?)


 う、うるせー!

 おれの脳内に、オナモミ妖精のヤツがデリカシーのない言葉を投げかけてくる。

 確かに「お見せできるかもしれんぞ」とは云ったが、そんなおれのよこしまな思惑がこれまで上手くいったためしがあったってのかよ!? ああん!?



(お、おう……そうだナ。ドンマ~イ)


 同情か!? オナモミ妖精のくせに、おれに同情すんのか!? 同情なんてまっぴらだ!! どいつもこいつも、おれを道ばたのウンコみたいに見下しやがって!! 

 ……でも、だけどそんなおれを、初めて好きって言ってくれた……ふぐぅっっ……うおぉぉぉん!! マデリンちゃ~ん、なんで~なんで~なんでな~ん!?



(お、おーけー! わかった。わかったゼ! ヤマダ、お前もう行っちゃえヨ、あの店)


 あの店だぁ?



(なんつったか、「メスネコ」だか「メスイヌ」だったか、とにかくカネさえ払えばどんなブサイクだってセックスができるっていう店にヨ~!)


 ……!! 『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』だな。

 ふうむ、娼館おみせか……。金なら、バイト代が入ったし、ないこともないな。




 

 いいのかな? おれみたいなのが『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』に行っても? 



(ばっか、むしろお前みたいなのが行くんじゃねーの? エロ紳士カンゲイ~って、あのルルって子も言ってたじゃーん?)


 だ、だがおれは……高齢童貞なんだ……。



(ああそうだナ。でも、もうイイだろ? ヤマダはその歳まで自力でよくがんばった! だからもうイイじゃねーか? もう自分をカイホウしちまえヨ! オレサマが許す!)





 夕暮れ時、冒険者ギルド前の歩道で体育座りするおれは、ニヤニヤと道行く人達の群れを見送っている。

 今夜の予定は決まった。ナカジマとタナカは、「ニジの街」と「旅館『玉月』モガリア教会道場支店」へとそれぞれ帰るだろうけど、おれは王都に留まる。

 

 おお、そうだ! ベリアス様から譲り受けた「ジーナス屋敷」が貴族街区にあるじゃないか。そこに泊まると、ナカジマとタナカには言えばいい。


 やっぱ、エロスは偉大だ。エロスだけが、おれのこの荒んだ心を癒やすんだなあ。




 ***




 ――しかし、こんな所で体育座りして、ただ道行く人を眺めているのも飽きてきた。

 なんか臭いし。


 ……意識したら、ますます臭い。なんの臭いだこれ?

 よく見ると、目の前の石畳が妙にしっとりしていた。


 顔を近づけてみたら臭いの元はそこからで間違いなかった。……くっそ、どうやらイヌだかネコだかがマーキングしていったらしい。


 仕方なく、おれは数メートル横移動して座り直した。

 畜生め、腹立たしい。見つけたら、おれの上級魔法の実験台にしてやる……!


 ……いや、さすがにそれは紳士のやることじゃないか。

 そこまで考えて、不意に思いついた。


 暇だし、新しい魔法を試してみようかな? と。





 先ずは、【闇属性付与】からやってみようか。

 エリエス様も言ってたけど、付与系の魔法なら魔力ステータスの極端に低いおれでも多分問題なく使えると思うんだよね。

 

 本来は武器とかに付与して剣撃に魔法効果を上乗せするんだろうけど、こんな場所で剣を抜くのははばかられるし、ここはあれだな。リグレットちゃんとかナタリアちゃんが使ってたみたいに自分の身体に直接付与してみよう。


 早速、右腕に魔法【闇属性付与】発動!!

 ――こ、これは……!?



「し、鎮まれっ……!!」


 おれは、「闇」をまとい荒ぶる右腕を必死で押し留めた。

 道行く人が、なにごとかとこちらを見ている。

 ほっといてくれ、さっさと通り過ぎてくれ。


 あ、危なかった……。右腕に【闇属性付与】をかけた瞬間、おれの心がドス黒い邪悪に支配されて、うっかり人前でポコチンをしごきそうになった。


 ……いや、まだ安心はできない。今も気を抜けば、右腕が勝手にズボンの中へと滑り込もうとしてしまう。

 まさか、【闇属性付与】が心にまで影響するとは思わなかった。もしかすると、おれの魔力抵抗が低すぎるせいかもしれないけど、今のおれはかなり邪悪だと自覚せざるを得ない。ついつい、全く無関係な道行く女の人を見てオナニーしてしまいそうになるほどに邪悪な気分だ。

 おれの右腕よ、鎮まれ! 鎮まりたまえー!!





 ――ふう。少し落ち着いた。

 まだ右腕には「闇」がまとわりつき、びくんびくんと脈打っているが、主導権は理性が握っている。てか、先んじて、左手でポコチンを握っているから、手も足も出まい。

 

 ん? あの娘、カワイイな。しこしこ……。

 おっと、人妻風美女発見! イイ尻しておる。しこしこ……。

 やや!? あのおっぱいは、どうぞ見て下さいって言ってる気がする。しこしこ……。

 え、あれ? 向かいの路地に突っ立ってる白マントの美少女、もしかしてダゴヌウィッチシスターズの「とがめ」担当、悪役令嬢チハヤさんじゃね? しこしこしこしこ……?



 ――うおおっと!? イ、イカンイカン、左手までもが邪悪に呑まれそうだ。

 アブナイ所だった。チハヤさんの白マントの下は全裸かもとか妄想したら、ついついはかどってしまった。


 ぎりり……おれの理性よ保ってくれ! だって今夜は、『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』に行くって決めたじゃないか!

 歯を食いしばり、ポコチンを手放すおれ。幸い、チハヤさんはまだおれの存在に気付いていないっぽい。てか、あんな所で人目を避けるようにして、何やってんだろあの人。



 すぅ……さあ、魔法の検証を続けよう。

 次の魔法は【黒手八丈くろてはちじょう】尻から黒い手が伸びる! とのことだが、尻から?


 まあやってみるさ。魔法【黒手八丈】発動!!

 ――おおっ!? 出た!! 尻の穴の辺りから、黒くて細いにょろにょろした腕と、その先にグローブのような手が付いている。まるで尻尾のようだ。



「な、ぬぉぉっ!?」


 その黒い手が、おれのズボンの中のポコチンを握る。

 ……や、止めれ! この黒い手、『貴婦人の黒マント』からはみ出して道行く人から丸見えなんだよーっ。 







 ふと視線を感じてそちらを見ると、石畳の下から顔を半分だけ覗かせてこっちを見ているネコ耳のシャオさんと目が合った。

  

 ……こんなこと、前にもあったな。

 シャオさんのスキル【亜空間歩行】は、亜空間に身を潜ませることができる。ゾンビになった彼女は、隙あらばおれを亜空間からストーカーしていたんだが――。てか、シャオさんまだおれのそばに居たんだ……、居てくれたんだ。てっきり、マデリンちゃんと一緒にどっか行っちゃったかと、ぐすん……。



「……どうぞ、続けて欲しいっす」


「……シャオさんは、まだおれの監視、続けるの?」



「……ずっと見てるっす」


「……じゃあさ、今度おっぱい見せて」


 し、しまった……!! またも邪悪な心がおれを浸食する。

 違うんだシャオさん! 今のは、【闇属性付与】の魔法のせいで――!



「いいっすよ」


 そう言って、石畳の下でごそごそ始めるシャオさん。……え、もしかして脱いでる?



「ま、まってシャオさん、今じゃなくってさ」


「……?」



「えーっと二年? 二年たったらさ、ど、どうかおれとセックスしてください」 


「……やぶさかじゃないっす」


 そう言って、シャオさんは石畳の下に顔を埋めた。

 ちょっと照れているようにも見えた。





 ……よ、よし。よし! よし! 邪悪なおれ、よくやった! 役に立つじゃないか、魔法【闇属性付与】! ……だが、魔法【黒手八丈】は、おれのポコチンを勝手にしこしこするのを止めろ!


 ちなみに、「二年後」としたのは、確かシャオさんが今年十四歳になるからだ。二年後なら、ギリセーフなんじゃないかと、おれ的に。ゾンビだから年齢とかあんまり意味ないかもだけど、シャオさん見た目は元々オトナだしね。





 ん? ……待てよ。シャオさんに見られてるってことは、『ハニー・ハート・メスイヌ王都本店』とか行ってもいいのかおれ? 

 邪悪なおれが、「いいじゃん! むしろ興奮するじゃん!」とか考えてしまうが、まてまて。たった今、「ど、どうかおれとセックスしてください」とか言った舌の根も乾かぬうちに、娼館おみせでセックスするってどうなの? ……いや、だが、それとこれとは……ぐぬぬ。


 てか、【闇属性付与】の効果時間が長い。さっきから、どうしても心が邪悪な方へと傾きがちだ。

 とりあえず、重要なことは魔法効果が消えてから考えた方がよさそうだ。




 ***




 ――てか、遅っ!! 

 冬の陽は短い。だいぶ薄暗くなった冒険者ギルド前の歩道で、おれはまだ体育座りで道行く人々の営みを見送り続けている。

 「勇者選考会」の参加申込みで行列に並んだナカジマとタナカ。ヤツらとの待ち合わせなのだが、思ってた以上に時間がかかっているようだ。携帯もスマホもないこっちの世界では、今どんな感じか聞くこともできないから待つことしかできない。


 ……いや、別にギルドの建物内で待ったっていいのか。さっきはちょっと、「勇者選考会」参加者と思しき凶悪な顔した冒険者達で満席だったから、こんな所に座ってるわけだが。 

 ちょっと中の様子をのぞいてみようかな――?





「ほげぇぇぇぇ!!!!」


 冒険者ギルドの正面扉から突然、兎耳ウサミミの太った男が奇声を上げて飛び出してきたので、おれは慌てて身をかわした。



「失せやがれ、ゴキブリ野郎!! ――っと、ワリぃな、おっさん。当たんなかったよなー?」 


 ウサミミ男を蹴っ飛ばしたらしい銀髪リーゼント男と目が合ってしまい思わず目を伏せる。ふえぇ……やっぱ、おれにはまだ早かったんだ、王都の冒険者ギルドなんて。


 ざわ……ざわ……。

 ギルド内は、ちょっと前に覗いた時よりも少し不穏な状況だった。

 何人かのギラギラした冒険者達が正面受付カウンターに集まって、ギルドのお偉いさんらしき尖ったヒゲの中年男性に何やら興奮した様子で詰め寄っている。



「カッカッカッ!! 聞きましたぞ!! なんでも『勇者選考会』の予選免除枠があるとのこと。ギルド推薦枠があるならば、それはこの吾輩、『流星の貴公子(シューティングスター)』クリプトン・ランスマスター!! 『流星の貴公子(シューティングスター)』クリプトン・ランスマスターにこそふさわしいのではないですかな!?」


「待ちなー! 貴族のお坊ちゃんの出る幕じゃねぇだろうが!? ギルドが推薦すべきはー、A級冒険者『チーム銀狼ぎんろう』ヘッドのオレが順当な所だろうさ!」


「順当ですってぇん? 最近A級に上がったばかりのひよっ子が、大きくでたわねぇん? S級が欠けて推薦枠が空いたっていうならぁん、A級トップパーティのウチ、『デリカテッセン』に一声あっていいんじゃないのぉん?」


「そもそも、S級が二人も欠けたというのは信憑性のある情報なのかい? にわかには信じ難いのだが――おーっと、本当に推薦枠があるというなら僕も名乗りを上げておくよ。A級パーティ『メスシリンダー』は、ギルドへの貢献度ではどこにも負けていないと自負しているのでね」


「ドクター、そのことなら俺のスキル【冒険者図鑑】で確認済みですよ。俺としては、推薦枠なんてことよりも、そのS級の死体の行方がどこに行ったかを知りたいってことなんですよ。『コレクター』の名にかけて、是非とも手に入れたい。誰か心当たりはないですかね? 金なら充分用意するつもりなんで」



「ど、どうか皆さん落ち着いてください! S級冒険者の件は、ギルドでもまだ確認中の段階でして――」

「ぶえっっくっしょん!! ……ちくしょうめ――あっと、すまねぇ、続けてくんな、ぐずずっ……」


「――え、ええと、『勇者選考会』の予選免除枠に関しては、冒険者ギルドからの推薦者四名は既に決定されておりましてですね……」





「やれやれひどい目にあいましたわ、王都でも指折りのA級冒険者達ともなるとガードが固くてあきまへんな」


 ギルドの入り口で立ちすくむおれの肩越しに、ウサミミ男が妙になれなれしく話しかけてくる。

 てか、なんか異世界語なまってね? この人。


 いぶかしむおれを気にした風もなく、勝手に話し続けるウサミミ男。



「――ことの発端は、あの分厚い本を持ちよる学者っぽい青年、コレクター・ルイはんが、死んだS級冒険者の死体を買い取りたいとか窓口で言い出しましてん。そういう趣味のお人なんでっしゃろな。まあそれだけやったら都会の冒険者ギルドにはありがちの、『変態が変態チックな依頼を持ち込みよったで!』ってだけの取るに足らん日常の一コマやったんやけんど、その話を周りで聞いとった誰かが言いましてん、『S級が減る言うたら、ギルドの予選免除枠が余るんとちゃうん?』とかなんとか――そいでまあ、ギルドのあっちゃこっちゃで大騒ぎってわけですねん。なにしろ、今ここに集まっとる連中はどいつもこいつもついさっき『勇者選考会』の参加申し込みを済ましてきたもんばっかでっしゃろ? あのクソ長い行列を体感しちょると、予選を勝ち抜くんがどんだけ難儀なことなんやと身に染みとってんな」


 はあ――と、あいまいにうなずくおれ。どうやら、ネムジア教会が予選免除枠を4枠持っていたように、冒険者ギルドにも何枠か予選免除枠があるってことらしい。――で、その推薦を受けられるのはS級冒険者の中から選出ってことになっていたようだけど、S級冒険者が二人死んだとかで推薦枠が余るんじゃないかと誰かが言い出して大騒ぎになっているということのようだ。


 ウサミミ男は更に続ける。



「――せやかて、S級の代わりに選ばれるんがそんな低レベルなはずがあらへん。身の程を知っとるモンからだんだんと大人しゅうなって、今、ギルドマスターに詰め寄ってるあの連中が自他共に認める実力者たちってわけやね。


 ――ほな最初に、A級上位パーティ、『チーム銀狼』のリーダー、フジマル! さっき、ワイを蹴っ飛ばした銀髪をリーゼントに硬めとる若僧やね。タイマンで負けたことあらへん言うて、実際とにかく強いでっせ。こっそり見とったワイに気づく勘の良さもあって、あっちゅう間にチームをA級まで急成長させた若手の星ですねん。


 ――そんで、あっちの豊満な美女はベテランA級パーティ『デリカテッセン』のリーダー、ミス・ティリア・ドミニクはん! エルフなのにあのボインは反則でっしゃろ? ウワサによると、魔族の血が混じっとるんやなかろうかって、それも淫魔インマの血やないんかって、ふひひ……興味深いでっしゃろ?

 

 ――続いて、”ドクター”ってよばれとった逆三角形の筋肉オヤジ、やっぱしA級パーティ『メスシリンダー』に所属する冒険者ドクター・ラバトリー! ドクターいうても”医者”やなくって”博士”の方やね。『薬草学』に通じとって、自作のポーションやらをギルドにおろしたりしとるんやて。貢献度が高いとか言っとったんはそのことやね。あんお人は、王立学院の副学院長でもある立派なお人なんやけど特殊な趣味をお持ちでしてな、『コレクター』はんに負けじ劣らじの変態先生ですねん。


 ――最後にあの、くしゃみしとったお人なんやけど、王都外で活動しとるお人らしくってあまり情報がありまへんねん。グランD・バックって名前だけは判っとるんやけど、あの犬耳は天然モノでっしゃろ? 背中にかついどる四本の剣は業物わざものやし、おそらく傭兵くずれやないかと思いまっさ。とにかくまあ強者の気配をワイはびんびんに感じ取りま――と、まあそんなところですねんけど、いかがでっしゃろ?」


「でっしゃろ? と言われても……てか、そういう貴方はどちら様でしたっけ?」



「アイタタ、こらまた失敬! ワイの名前はロハン・ジャヤコディといいま。こう見えて、パラディン№8ですねん」


「ああ、どうも、ヤマダです……って、パラディン№8? ロハン・ジャヤコディ? なんだかごく最近、そのお名前お聞きしたような……」



「あー聞いとりましたかー、そうです。ヤマダはんがモガリア教会とズブズブの関係でっせと告げ口したんはワイの仕業です。どうか怒らんといてくださいよ? あくまでも、ネムジア教会にとって良かれと思ってのことですねん」


「そのジャヤコディさんがこんなところで何を? おれになんか用ですか?」



「良かれと思ってのことだったのに、大司教様や聖女アイダ様から御不興をかってしまいましてん。ほんでもって、ヤマダはんが『勇者選考会』の予選を突破できるように陰ながら支援するようにともうしつかりましてん」


「あ、そうなんだ」


 まさかネムジア教会がおれにそこまでしてくれるとは思わなかった。ちょっとうれしい。

 できれば、こんな怪しいおっさんじゃなくて、ウサミミ美少女とかだったらもっとよかったペコ。


 

「ワイはパラディンとはいえ、戦闘が得意なタイプやないもんで、主に情報収集やかく乱といった間接的なサポートでヤマダはんの予選突破のお役にたてたらと考え取りまっさ。どうぞ、よろしゅうお願いします」


「え、いえ、こちらこそよろしくお願いします」


 ジャヤコディさんが仰々しく帽子を取って頭を下げた。……あ、ウサミミは帽子の飾りだったようだ。



「――とまあ、そんなわけで、ヤマダはんが予選で警戒するべきライバルが、あそこにいるA級冒険者たちというわけですねん。死んだS級冒険者というのも気になるところですけんど……」


「いや、先ずは予選を突破しないと話になんないでしょうから。てか、あの派手派手な全身鎧の人は? なんか『流星の貴公子(シューティングスター)』とかって」



「ああ、あのお人はクリプトン・ランスマスターはん。自分で『流星の貴公子(シューティングスター)』とか名乗っとりますが、ただ派手で押しの強いC級冒険者ですねん。見た目に実力が伴わない、ちょっと痛々しいお人なんでっせ。ほれ、皆が生暖かい目でみとりますでっしゃろ?」


 そ、そうか……あのメンバーに交じって一歩も引かないとは、ある意味すごい人って気もする。

 ……てかランスマスターって、もしかして異世界オタク仲間、ヒゲのアルゴンさんのご家族かな? ちょっと似てる気もするし。





 結局、おれはその場できびすを返した。ギルドの中で待つのは止めておこう。

 そういえば、ネムジア教会と冒険者ギルドってライバル関係みたいな間柄だったっけ。別に、おれの外見的にネムジア教会っぽい要素はないと思うけど、まあ念のためだ。「ニジの街」のギルドでそんなこと気にしたことなかったけどな。


 ギルド前の歩道の隅っこ、元の位置に戻っておれはまた体育座りする。

 よかったら隣りどうです? その辺、イヌのオシッコみたいな臭いするけど――とか思いつつ促すおれに、さっさと背を向けるジャヤコディさん。



「また何か情報が入ったらお知らせに来ますんで、ほな――」


「あ、はい……ありがとうございました」



「――あーっと、そういえばヤマダはんは、チハヤ・ボンアトレー嬢はご存じでしゃろか?」


 去り際、ジャヤコディさんが脈絡もなく聞いてきた。

 そういえばチハヤさん、さっき見たっけ――? 思い出して、通りを挟んだ向かいの路地に目をやれば、白マントのチハヤさんがそわそわした様子でまだそこに突っ立っていた。チラチラとこっちを見ては目を逸らし、どうやら彼女もおれらの存在に気付いたらしい。


 軽く会釈するおれ。……チハヤさんは、ぷいと顔を背ける。



「……まあ、知ってますけど、親しいわけじゃないですよ? 多分、すごい嫌われてるんじゃないかと」


「そうでっかそうでっか、そらおもろそうや。いやぁ、実はワイ、チハヤちゃんのサポートも頼まれてますねん。本戦トーナメントが始まるまでに、どうにかこうにかあの子をレベル40までに仕込まなあきまへん」



「仕込む?」


「レベル40ともなると1レベル上げるにも一朝一夕ではいかなくなりますやろ? 大迷宮の深層にもったって数ヶ月はかかりますわ。そこをどうにか本戦トーナメントに間に合わすようワイが手を尽くしとるっちゅうわけですねん」



「そんなウマいやり方が……」


 ……あ、もしかして、ダゴヌウィッチシスターズお得意の【エナジーアブソーブ】か? 触れた相手の経験値を吸い取って自分のものにしてしまう、ぶっ壊れスキル。――嫌だぞ、おれは。吸われるときどんな感じかちょっと興味がないこともないけど、人にあげられるほどおれの経験値は余っていない。



「レベルアップは、なにも戦闘を繰り返すことだけが手立てってわけやあらへん。初体験、結婚、出産、親しいお人との死別といった、特別なイベントごとでも経験値が入ってレベルアップすることは、ある程度歳くったオトナなら誰だって知っとることでっしゃろ?」


「……!」


 確かに。ナカジマもハジメチンも、初体験で一気にレベルアップしたらしい。レベル50越えのナタリアちゃんでさえ、異世界日本への旅行でレベルが一個上がったって言ってたもんな。

 てか、おれ自身、よく解らないタイミングでのレベルアップを何回か経験している。



「無知にして無垢むく。汚れを知らんチハヤお嬢ちゃんに、特別な体験をぎょうさんしてもろて、ふひひ……、ワイ好みに仕込んどるちゅうわけですねん。――まぁ、ついでにレベルアップもできることやし、お互い持ちつ持たれつちゅうやつやないかな?」


「……!!」


 なんてヤツだ、ロハン・ジャヤコディ! ドス汚れたオトナが若い子を騙して……くそっ、うらやましい!

 しかし、王立学院生のチハヤさんが、初体験でレベルアップ! なんていかにも女学生が好きそうな情報を知らないなんてありえるのか? ……いや、ありえるのか。学院の友人たちも、チハヤさんにはそういう色っぽい話題をふりにくかったのかもしれない、お嬢様だし性格キツそうだし。



「ところでヤマダはん、大っきな声では言えんのやけど――、チハヤちゃんのあの白マントの下、実は全裸ですねん」


「ええっ!?」


 ――ほな。と言い残し、チハヤさんの待つ通り向かいの路地へと歩き去るジャヤコディさん。


 ぐぬぬ……、チハヤさんの白マントの下、まさかそんなことになっていたとは……! 言われて見れば、なんだか妙にモジモジしているようにも見えてくる。くそっ、おれに風属性魔法の適性があれば、ペロンとめくってやるものを……!





 ――ん?

 ジャヤコディさんがチハヤさんの耳元で何事かささやいたのをきっかけに、言い争いを始める二人。


 やがてチハヤさんが折れたのか、小さくうなずく。

 その時チラリとおれの方を見たが、すぐに目を逸らし背中を向けた。


 ――え?

 背中を向けたチハヤさんが、白マントをゆっくりとたくし上げる!?

 

 彼女の白くて長い脚が、健康的なフトモモが徐々に露わになっていく。



 ――キタ!! キタコレ!! 

 ――もうちょっと!! もうちょっとだ、がんばれチハヤさん!!





 ちょうどナニか重要な部分が見えかけたような気がしたその時、カラーンコローンと王都に日没を知らせる中央神殿の鐘の音が響いた。


 その音にビクッと反応したチハヤさんは、途中までたくし上げていた白マントをさっと元に戻して、ジャヤコディさんに綺麗なアッパーカットを食らわせた。


 こちらに向き直ったチハヤさんがおれをニラみつける。いつの間にか手に、なんらかの魔法を撃つ準備が整えられている。

 ――【危機感知】反応! ヤバイ、こんな街中で、おそらくは【火球】の魔法をおれに向かって撃つ気かよ!?

 

 だがしかし、手を掲げたそのポーズ、白マントの隙間から、片方のおっぱいとかが見えそうだ。

 ……そんなことを考えたからだろうか? おれの尻穴の辺りで待機状態だった「黒い手」が反応した。魔法【黒手八丈くろてはちじょう】、三十分以上前に発動した魔法だったが、実はまだ消えていなかった。


 通りを歩く人々の足下をスルスルと通り抜けた尻尾のような「黒い手」は、一瞬でチハヤさんの足下までたどり着くと、彼女の白マントを一気に頭上までまくり上げた!


 ――ああ、全裸だ……!

 あせったチハヤさんの手から、【火球】の魔法はあらぬ方向へと放たれた。

 少し遅れて「ぎゃあぁぁ!?」と声を上げたせいで、通行人の注目を集めてしまうチハヤさん。

 痴女だ! 痴女がいるぞー!!





 ……いい加減にしておこうか、そろそろチハヤさんが泣き出しそうだ。鎮まれー、邪悪なおれよ! 鎮まりたまえー!


 どうにか制御を取り戻した「黒い手」がチハヤさんの白マントを手放すと、彼女は路地の奥へと逃げ去って行った。


 その後を追うジャヤコディさんがおれの方へ振り返り、親指を立ててニタリと笑う。

 どうやらおれは、彼の「仕込み」とやらに利用されたみたいだ。でもまあ、チハヤさんの全裸も見れたし、持ちつ持たれつってやつだよな? しこしこしこしこ……?

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