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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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432 あきらめないで、夢を

 ――いや、一旦落ち着こう。


 今年から一般公募によって行われることになった「勇者選考会」。およそ一万人規模の選考会で十名の【勇者】が選出される。

 王国認定の【勇者】といえば、国から2千万Gの年金がもらえたり、一流どころへの就職や婿養子も引く手あまただったり、講演会の講師とかスポンサー収入とかで食うに困らなかったりと、とにかく誰もが憧れる称号だったりするのは割とみんなが知るところである。

 ただまあもちろん、何十年かおきに現れる超強い【魔王】と率先して戦い王国を守るという義務が課せられるし、あと「へっ、【勇者】だと? 俺様の方が強ぇんじゃね?」みたいなアレな人が頻繁に絡んできたりするので、相応に強くないとお話にならない。


 参加者およそ一万人を先ずは予選で三百人にまで絞り込むらしいのだが、その予選を免除されていきなり決勝トーナメントに進めるしかるべきすじからの推薦者が二十名いる。予選で強い人同士が潰しあったりしないようにとの配慮なのだそうな。

 そんなわけだから、――是非とも欲しい予選免除の推薦状! となるのが【勇者】を狙う参加者にとってのあたりまえだったりする。


 タナカとナカジマは、モルガーナ公爵様たちからまんまと推薦状を手に入れたそうな。

 じゃあおれは? って話だけど、おれが推薦状をもらえるとしたら、専属契約をしているネムジア教会からってことになるだろう。


 ネムジア教会から推薦できるのは四名までとのこと。

 長身メガネの聖女アイダ様が告げた四名の推薦者は?

 

 1人目は、『氷柱の勇者』ヘルガさん。

 まあ妥当なところだ。だって凄い強いし。彼女の『石化ニラミ』みたいなスキルはどうやって対処すればいいのかさっぱり解らない。トーナメントで会ってしまったら棄権するしかないだろう。  

 

 さて2人目に、名門貴族ボンアトレー家令嬢のチハヤさんだ。

 私のケツについて来な! ぺちーん! でお馴染み、ダゴヌウィッチシスターズの「とがめ」担当、悪役令嬢チハヤさん。「聖女会議」の時にちょっとやりあったりした感じ実力はまだまだって感じだったけど、あの時はおれが力比べで押し負けたってことになってるから、彼女の方が高く評価されるのはまあ致し方ないのかな。


 続いて3人目は、レベル56の超人エドヴァルト・マイネリーベ! ――って誰だ?

 なんか知らない人でた。しかし、レベル56!? 確かにすごい。確かに凄いが、???(さんけた)歳のナタリアちゃんよりレベル高いって、どういうこと?

 そういえば、聖女メリルの兄者とか言ってたか? 聖女メリルって、エリエス様の一個上の席に座ってたボブカットで素朴な感じの――なんていうか、乙女ゲーのヒロインみたいな感じの子だったか?


 ……で、4人目が元パラディン№6のランポウさん? ――ちょっと、ちょっとちょっとーっ!? これが落ち着いていられようか? 今朝になってパラディンを辞めただぁ!? とぼけた顔して何してくれてんだ、ランポウさんよ!! おれが推薦枠からもれたのって、あんたのせいなんじゃないの!?





「実はそうでもない」


 アイダ様がおれの心を見透かしたように言った。

 ぐぬぬ、顔に出てたか?

 

 エリエス様が続ける。



「おそらくヤマダ様は、ランポウ・バルザックが突然『勇者選考会』への参加を申し出たせいで推薦枠からもれたと思っておられるかもしれませんが、実のところそうでもないのです」


「え? それは……なんで?」



「分からんか? まあ、言ってみれば単純な話だ。諜報を得意とするパラディン№8ロハン・ジャヤコディから、ヤマダがモガリア教会と関係が深いという情報がもたらされた。私やエリエス、ユーシーにとっては今更な話だが、他の関係者にとっては看過できない問題だろう」


「仮にネムジア教会とモガリア教会が再び武力衝突するようなことになった場合、ヤマダ様はモガリア教会側に付くだろうと言われてしまえば、でしょうね――としか、わたくしたちには返す言葉がありません」


 あ、ホントだ。とても単純な話過ぎて納得しかない。タハハ……。

 ネムジア教会とモガリア教会は表向き和解したことになってるけど、根底の部分で敵対関係にあることは変わりないのだ。

 そもそも、女神様同士が仲悪いみたいだしね。


 はあ……、でもまあこの期に及んではしょうがないか。

 これまでどっちつかずにネムジア教会とモガリア教会を行ったり来たりしていたおれ、社会人としてよろしくなかったと反省しかない。

 ユーシーさんもあんな感じだし、ここらですっきりきっぱりネムジア教会とは縁を切るべきかもしれない。

 そもそも「勇者認定」とか「勇者選考会」とか、ホントのところ気が進まなかったし、【勇者】の称号なんかいらんわ。



「しかしだ、ヤマダを排除すべきと考えるヤツらがいる一方で、お前がこれまで成したことを評価しネムジア教会に引き留めようとする者が、少なくとも四人はいることを伝えたかった」


「ここにあるのは”魔法スキルの欠片”。わたくしたちが、ヤマダ様を援助するために用意した物です。貴方様のこと、きっと『ネムジア教会とは縁を切ろう』だとか『【勇者】の称号なんていらね』とか思っていることでしょう。ですが、そこをなんとか、ヤマダ様には自力で予選を突破していただき【勇者】の称号を得ていただきたいのです」


 ぎくぅ! な、なにを言うやら、エリエス様。「ネムジア教会とは縁を切ろう」だとか「【勇者】の称号なんていらね」とか思ってるわけが……、何でバレたんだろ?

 しかしまあさっきから気になってた、机の上に並べられた四つの”スキルの欠片”は、そういうことだったか。見た目だけじゃ区別つかないが、どうやら四つとも”魔法スキルの欠片”らしい。



「……その四人というのは?」


「我ら二人に、ユーシーとマデリンに決まってるだろ」


「今、王都には『勇者選考会』の参加者が続々とつめかけ”魔法スキルの欠片”は品薄状態。そんな中からヤマダ様の適正、闇属性とくさ属性の魔法から四人が各々選んだのです。ぶっちゃけ、横流し――みたいなものです。わたくしとアイダ様は、魔力ステータスが極端に低いヤマダ様でもギリギリ使えそうな付与系の魔法を選びましたが……」



「ユーシーとマデリンが選んだのは中級攻撃魔法だ。ヤマダが使いこなせるかどうかは私の知ったことじゃない。――おっと、高く売れそうだとか思ったか? 残念だが、”魔法スキルの欠片”は転売禁止だ。お前がこれらを受け取る気があるなら、今この場で使ってみせろ」


 ぎくぅ! な、なにを言うやら、アイダ様。あはは、「高く売れそうだ」なんて思ってるわけが……エスパーかよ、二人とも。


 おれは内心の動揺を隠しつつ、机の上に並んだ四つの”魔法スキルの欠片”を見た。

 色とりどり……といっても、どれも暗寒色系で、舐めたら抹茶味とか青汁味とかしそうな四つの小石。いかにも闇属性と草属性らしい――てか、闇はともかく草属性ってなんだよ!? ポケモソかよ!?



「あの……、草属性というのは?」


「主に状態異常系の魔法だ。雷や氷よりもレアな属性だぞ、よかったな」


「高火力は望めませんが、対人戦にはおあつらえ向きかもしれません」


 四つの”魔法スキルの欠片”内二つは中級攻撃魔法らしい。見てもどれがそうなのかおれにはさっぱり判らんけど、けっこう貴重で高価な物だろう。いつかナカジマが、「中級魔法の値段は初級の十倍ぐらいする」って言ってた気がする。

 

 だとしたら、二つでサラリーマン時代のおれの年収を軽く超えそう。そう考えると、ネムジア教会が完全におれを見限ったというわけではなさそうだ。少なくとも四人……まあ、ユーシーさんはあんな感じだけど、おれにまだうっすら期待してくれてる人たちがいるらしい。



「……ちなみに、魔力ステータスの低いおれが中級攻撃魔法を使ったらどんな感じになりますかね?」


「さてな、殺傷力は見込めんと思った方が賢明だろうか――?」


「おそらくは、広範囲嫌がらせ魔法のようなことになるのではないかと。過去に、どこかの貴族が試して恥をかいた――と、記録で読みました」


 嫌がらせとは、なんともおれらしい。人に向けて撃ってはいけない殺戮魔法とかよりも、よっぽど使えそうだ。恥をかくのも慣れている。



「とりあえず、予選にエントリーしてみることにします。結果、決勝トーナメントまで進めなくても――これ、弁償しろとか言わないでくださいよ」


 そう一言断って、おれはエリエス様とアイダ様に見守られながら、四つの”魔法スキルの欠片”を一個ずつ飲み込んでいった。







 >名前 山田 八郎太

 >称号 とっ手付きサーフボードnew!

 >レベル 26

 >HP 1353/1353

 >MP 2494/2494

 >スキル 【危機感知】一定範囲の危険を感知する

 >    【空間記憶再生】空間に残存する記憶映像を投影する

 >    【環境適応】環境に適応する

 >    【勇気百倍】勇気を百倍にする

 >    【自然回復】傷を少しずつ癒やす

 >    【超次元三角】次元の外へ開く三角の窓(3MP~)


 >    【劣化】触れた物を劣化させる

 >    【遅滞】一定範囲内の対象の動きを遅らせる

 >    【暗視】夜目がきく

 >    【疫病耐性】疫病を予防する

      

 >妖精スキル 【共感覚】思いが伝わる

 >      【浮遊】浮き上がる

 >      【認識阻害】認識を阻害する

 >      【飛翔】空を飛ぶ

 >     ×【世界創造ワールドクリエイト】世界を創造する

(アップデート中あと811,202件 残り16年と2ヶ月……)


 >魔法スキル 【身体強化】全ステータスと全耐性が微上昇(24MP)

 >      【闇属性付与】闇属性魔法を付与する(33MP)new!

 >      【黒手八丈くろてはちじょう】尻から黒い手が伸びる(140MP)new!

 >      【クロキヒトミ】魔女のウィンク 光さえ飲み込む暗黒(1960MP)new!

 >      【浸草心裏しんそうしんり】真相は藪の中 記憶の迷宮に沈む(750MP)new!


 >装備 ベーシアの紳士用ブリーフ【防御+2】、【抗菌】

 >   ベーシアの白Tシャツ【防御+2】、【抗菌】

 >   ベーシアの靴下【防御+2】、【抗菌】

 >   ベーシアのニット帽【防御+3】

 >   ベーシアの作業着【防御+6】

 >   ベーシアの厚手のカーゴパンツ【防御+6】

 >   貴婦人の黒マント【防御+8】、【魔法耐性(小)】、【防臭】

 >   ガリアンソード【攻撃+70】、【可変伸縮(4MP)】、【回転(8MP)】

 >   メケメケ皮ブーツ【防御+10】、【防水】、【防臭】

 >   熊撃退スプレー ホルスター付き(1)









 エリエス様にステータスを【鑑定】されて、新たな魔法スキル四つ【闇属性付与】、【黒手八丈くろてはちじょう】、【クロキヒトミ】、【浸草心裏しんそうしんり】が確かに増えているのを確認された後、おれは会議室から追い出された。さっさと「勇者選考会」の参加申込みをしてこいといったところだろう。


 おれとしては、取得した四つの魔法についていくつか質問したいこともあったのだけど、「そんなこと知るか、ステータスに書いてあるとおりだろ! ……マデリンのヤツめ」とのことで、取りつくしまもないアイダ様。……マデリンのヤツめ?



 なんだか少し腑に落ちないおれだったが、それでも明るい内に「勇者選考会」の参加申込みを済ませてしまおうとか思って歩き出す。

 新しい魔法も気になるところだけど、検証はナカジマとタナカが一緒の時の方が安心安全だろう。


 てか、結局また面倒な事になってしまったな……とか思いながら中央神殿の無駄に広い廊下を行くおれ。

 そんなおれを、正面玄関ホールで待ち構えていた巨乳でモジャモジャ頭の少女が「こっちこっち、こっちです!」と嬉しそうに手を振る。ぴょんぴょん飛び跳ねる度に巨乳がぷるんぷるんと弾む。――あのおっぱいは……あの少女は、おれの婚約者の一人、聖女マデリンちゃんである。



「ヤマダさんはヤマダさんですか? それともそれとも、ヤマなんとかさんですか?」


 ……はあ?




 ***




 王都商業区画にあるおしゃれなカフェのテラス席で、おれとマデリンちゃんは向き合って座っている。

 いつか約束した「甘い物でもごちそうする」を、それとなく彼女の方から催促されてしまった甲斐性無しおれ。「勇者選考会」の申込みとか誰かとの待ち合わせとか全部ほっぽって、最優先でここまでやって来た。


 若い女の子とのデートだなんて、こんな健全かつ胸躍るイベントは未だかつてあっただろうか? いや、ない。



「ヤマダさんヤマダさん、はい、あーん!」


「あーん」


 もぎゅっと、おれの口内に押し込まれるアップルパイの欠片。

 美味しいですか? と聞かれるが、欠片がでか過ぎて、「もごご」と応えるおれ。


 こっちも負けじと、チェリーパイの欠片をマデリンちゃんの口に押し込む。

 ああ、愉しい……! デートって愉しい!  



「はむはむ……ヤマダひゃん、ヤマダひゃん魔法スキルは受け取ってもらえましたか?」


「もごもご……ああうん、もらったよ。マデリンちゃんも選んでくれたって聞いたけど」



「ヤマダさん予選免除の推薦もらえなくってかわいそうだったし、うーんといいヤツ選んでおきましたからー!」


「いやぁ、おれ、魔法苦手なのに、なんか悪いね」



「エリエス様とかアイダ様が中級までにしておきなさいとかケチケチしたこと言うんで、わたしがこっそり二つ上級魔法にすり替えておきました~えへへ」


「そ、そうかー……ありがとうマデリンちゃん」


 やっぱりか……。中級魔法にしては消費MPが無茶過ぎると思ったんだよな、【クロキヒトミ】と【浸草心裏しんそうしんり】。たしか、中級魔法の更に十倍の値段するって聞いたけど上級魔法、あわわ……。さっき、おれのステータスを確認した後、エリエス様とアイダ様が妙に焦ってたのもうなずける。





「でも良かったです、ヤマダさんとこうしてカフェでお茶する夢がかなって! あなたの夢をあきらめるなよ、熱く輝く瞳が好きなの――ですよね?」


「あはは……」


 どうやら、おれがかつてマデリンちゃんに語った言葉らしい。例によって、日本のヒットソングからのパクリである。


 それはともかく、おれとカフェでお茶するのが夢だって? なんてイイ子だマデリンちゃん! ホントにイイ子に育ってくれた! 育ったといえば、おっぱいも育ったよね……ごくり。


 好感度MAXの女子が目の前にいるぞヤマダ。

 どうするんだヤマダ? 今日、できるんじゃね? セックス。


 おい、聞いてるか、オナモミ妖精? 今日こそお見せできるかもしれんぞ、セックスってやつをな。

 ……えっと、こんな時なんて言えばいいんだ? 

 

 ちょっと休憩してかない? ――は、なんか違うか?

 エッチしよっか? ――は、ないな。品性が感じられない。

 抱かせろ! とか、やらせてくれ! ――は、キモっ!! おれ、キモっ!!


 やっぱし、「どうかおれとセックスしてください」って真正面からお願いするのがおれらしいいんじゃなかろうか?


 ああ、なんだかドキドキしてきた。光れ、おれの勇気――スキル【勇気百倍】!!

 




 あの、マデリンちゃん、どうかおれと――とか言いかけた時、先に口を開いたのはマデリンちゃんの方だった。



「でもでも良かったです、ヤマダさんと最後に素敵な思い出ができて」


「へ? 最後?」



「えっと、すごくすごく言いにくいんですけど、私、ヤマダさんとの婚約はなかったことにしたいと思うんです!」


「……ん? …………んん!?」


 ちょ、ちょっと待って、マデリンちゃん!? 好感度MAXじゃなかったんかい!?

 こここ婚約破棄ぃ!? おれ、なんかしたっけ……いや、そもそも婚約者が何人もいる時点でイカンのは分かってるけど。

 やっぱ、そこへもってきて、ナタリアちゃんが更に増えたりしたせいか!? 思い当たることばかりで、引き止めることもできん。



「実は、別に好きな人ができたんです! 本当はヤマダさんのことも大好きですけど、そっちの人の方がもっともっと大好きなんです! ……だから、ヤマダさんとはこれっきりなんです! 本当に本当にゴメンナサイ! ゴメンナサイ! ゴメンナサーイ! どうかどうか、ヤマダさんは大司教様とかとお幸せに! さようならヤマダさん! さようならー!」


 似てる誰かを愛せますからー!! とか大きい声で言いながら去って行くマデリンちゃんの後ろ姿を、ただ呆然と見送ることしかできないおれ。


 ああ……、なんでおれはテラス席なんかに座ったんだろう?

 オープンカフェは光化学スモッグとかで滅べばいい。

 

 うう、なんか寒い。スキル【環境適応】があるのに、凍えそうに寒い。





 こうして、おれとマデリンちゃんは別れた。

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