428 宮坂ハジメの喪失
日本から異世界召喚と偽って、おれとナカジマがスキルでてきとうに連れて来た、タナカの旧友ミヤサカ君。中学時代から、彼はアニメのOPやEDでキャラクターが踊っているダンスを完コピするのが特技だったらしい。
中二の文化祭でミヤサカ君は伝説を残した。クラスの底辺だった彼は、勝手に一人で体育館の舞台に上がり、十八番のパラパラダンスを一曲踊りきったという。
その計画に協力し音源を流したのが、彼の唯一の友人であるタナカだったというわけだ。
そんなことをしたところで彼等に対するクラスでの扱いは良くなるどころか還って反感を買い、こっぴどい暴行を受けるまであったが、それでもミヤサカ君とタナカは飛び入りの計画をやり遂げたことで、体育館の舞台を占有していた陽キャ達に一矢報いたようなそんな爽快な気持ちになったそうな。
だからだろうか? 踊る舞台はなくともミヤサカ君は、あれから十数年経った今でもアニメのOPやEDのダンスをチェックし続け、レパートリーを増やし続けていたらしい。
そんな彼が異世界で、旅館「玉月」モガリア教道場支店の宴会場に舞台を得た。
「てかさ、タナカ氏、サンタクロースをいつまで信じてた?」
「はあー、どうだろ? 童貞を失った頃までかなー?」
そんなどうでもいい話などしつつ、おれとタナカは、ふすまの陰から宴会場の様子を窺っていた。……ちっ、そういやタナカは幼少期、コワいおねえさんに布団部屋に連れ込まれて、あれやこれやいろいろやられちゃったとかって言ってたっけ。
え、おれ? おれは最初から信じちゃいないよ、想像上の赤服じーさんなんて。
ブリーフ一丁で『魚の仮面』を装備したミヤサカ君のダンスは、二曲目に突入していた。クールなパラパラからの……ハラハラ? ハレハレ? なんだっけ? やっぱり有名なアニメ関係の曲。一時期、踊ってみた動画とかでよく見かけた割と有名なダンスだ。
宴会場に響き渡る軽妙で楽しげなメロディー。
スマホから流れる音楽がこんなに大音響大迫力で聞こえるのは、演奏担当の人達のスキル【スピーカー】によるところ。
ミヤサカ君の背後で、彼のダンスを模倣して踊るのは同じくパンツ一丁で『ムシャウジサマの仮面』を装備した男達――元パラディン№11のカスパール君、インテリ風メガネのギルバートさん、ここモガリア教道場の経営担当ロッドさん、そしてつい最近インポが治って童貞卒業したばかりの、のっぽメガネことナカジマの四人である。
彼等は、ナカジマを含めて全員、ミヤサカ君のダンスは初見のはずであるが、全くぶれることなく完璧にダンスを模倣している。そんな芸当ムリに決まってる――と、おれも最初はそう思ったが、平均レベル30を超える四人にとって、レベル1でしかないミヤサカ君の動きを見切って同じ動きをすることぐらい容易いことであるらしい。なにしろ、いかにも鈍くさそうなナカジマでも完璧に踊れているのだから、きっとおれにも出来たはずだ。
きっとおれにも出来たはずなのに、おれがメンバーから外されたのは何でだろうか?
「ミヤサカ君さ、キレッキレだね。こんなわけのわからない状況で大したもんだ」
「思い出すなー伝説の文化祭。ハジメチンのダンスがこのまま埋もれてしまうのはホントもったいないなって、ぼくは常々思ってたんだよねー」
「オルフェさんも言ってたけど、普通に頼んでも普通に引き受けてくれたんじゃね? あんな小芝居しなくても」
「たぶんねー。だけどさー、十年以上会ってない昔の友達から急に連絡あったらさ、先ずは”ねずみ講”とか”宗教”の勧誘を疑うよねー?」
一理ある。さてはタナカのやつ、勧誘されたことあるな? ……おれもある。
てか、ここって「モガリア教会道場」だし、そのまんまずばり”宗教”の勧誘なんだけどな。
さて、肝心のお客さんの反応はどうかというと、モルガーナ公爵様達四人のお婆ちゃんは完全に沈黙した。もちろん、いい意味で。
パンツ一丁、男達五人のキレッキレのダンス、多彩で耳に残る異世界の音楽も相まって、目と耳の肥えたお婆ちゃん達もさすがに度肝を抜かれたみたいだ。ミヤサカ君がお客様をダンスで黙らせたと言っても過言ではないだろう。
無表情を崩さない眼帯のエルフメイドさんでさえも、とんがった耳がピクピクとリズムを刻んでいるのをおれは見逃さない。げへへ、身体は正直じゃねーか? ってやつだ。
「いいねー! お客さん、完全にミヤサカ君のダンスに引き込まれてね? てか、パンイチ組体操じゃこうはいかなかったかもな」
「まだまだ、畳みかけるよー! 搬入、手伝ってねヤマダさん」
搬入? ああ、さっきミヤサカ君を攫ってくるついでに、日本のスーパーで買ってきた30%オフのお刺身パックな。半額シールを待ってたおばちゃんに凄い目で睨まれたけど、全部買い占めてやったぜ。
つまり、日本で買ってきたお刺身を器にいい感じに盛りつけて完成ってわけだ。こすいぞ【料理人】タナカ!
――って、ええぇぇぇぇっ!? 何やってんだタナカーっ!?
厨房でおれが見たのは、でかいまな板の上に仰向けに寝た全裸の美男子二人! 黒髪エルフのオルフェさんと王子様風イケメンのアンソニーである。その素肌を器代わりに、美しく盛り付けられたお刺身! 大根を千切りにしたツマで、こんもり股間を覆い隠している。言ってみれば、「女体盛り」ならぬ「男体盛り」だった。
確かに、貧乏旅館の美人女将が金持ちのおっさんに追い詰められて「女体盛り」でサービス! とか、エロ漫画とかではよくあるシチュエーションだけど……、相手が女性客なら「男体盛り」ってワケか?
そこまでするかタナカ!? おそろしいやつ!!
しかし、オルフェさんはともかく、アンソニーのやつ、よくこんな役を引き受けたもんだ。
その辺のことタナカに聞いてみたが、「教団で一番のイケメンって言ったら、やっぱしアンソニーくんだよね~」とか言って口説いたら、あっさり引き受けたらしい。ちょろいぞアンソニー! というのも、最近はスキル【女体化】でアンソニー嬢として活躍する場面が多く、本人的に危機感を抱いていたらしい。ちょっとナルシストっぽい彼であるが、どうやらタイプの違うイケメン、カスパール君を一方的にライバル視しているようで、この役がカスパール君に行くことだけは我慢ならなかったらしいとのこと。
……てか、カスパール君は頼まれてもやらんと思うが?
おれとタナカで、でかいまな板ごとオルフェさんとアンソニーを宴会場に運び込む。
「男体盛り」とか近くで見たらさぞかしグロかろうと思いきや、オルフェさんやアンソニーぐらいの美形がやると、なんだかちょっと艶めかしい。
妙な気分になりそうで、慌てて目を逸らすおれ。こ、こりゃあかん、あかんでぇ!
……まあそんなことはともかくとして、モルガーナ公爵様達の反応はどんな感じかな?
「なっ……、なんだいこりゃあ!!? 食いもんを粗末にするんじゃあないよ!! ――ぬうぅ!!? あ……あんた、オルフェかい!!? 世界の管理人たるオリジンエルフのアンタが――な、なんてザマだい!!?」
「ホ!!? ホホォォウ!! オルフェ様ざますぅ!!? ホンモノのオルフェ様ざますぅ!!? おおおぉぉぉおおお……なんと、なんと美しひぃぃ!! ありがたざますぅ!! ありがたざますぅぅぅ~!!」
「ぶふふぅ~! わだしゃ、こっぢの金髪坊やにも見覚えがあるのだワさ~! 坊や、テュホン・ツキオカ画伯の連作『男爵令息Aの屈辱』シリーズのモデルAだワいね? ぶひひっ、とぼけたって無駄だワよ? なるほどね、坊やならこんな仕事も慣れたもんだろうさね!」
「あらまあ、知ってるわぁ! 王立美術館の『男爵令息Aの屈辱』シリーズね! そーう、貴方がモデルAなのねぇ……イヤラシイわぁ!」
「はっ、テュホン画伯の『男爵令息Aの屈辱』シリーズはあたしでも知ってるよ!! へぇ、あんたが男爵令息Aなのかい、こりゃ驚いたねぇ!!」
「……オルフェ様に、モデルAまで……異世界……麗人の素肌を器にした料理……こ、これは……もしや……、もしやざます!?」
「ぶふふぅ~っ! 『抵抗するA』、『晒されるA』、『責められるA』、『屈服するA』の4部作! わだしゃ、中でも3作目の『責められるA』が大好きなのぶひひ~っ!!」
「あらあら、ミモザさんたらイヤラシイわぁ。作品が発表された当時話題になったのよ、あのモデルAはどこの家のご令息かしらって。でも結局、貴族が娼婦に産ませた認知されてない庶子だったというスキャンダルだったのだわぁ」
「やれやれ、どうでもいいことばかりよく覚えてるねぇ。ミモザ、エマ、淑女があんまりがっつくんじゃないよ! ――? クルエラ、なんか知ってるのかい!?」
「……かつて、時の皇帝マーチン1世がグランギニョル領に立ち寄った折、領主ノリミズ侯爵は皇国への叛意を悟られまいと、歓待の料理を供する際、愛する妻の素肌を器代わりにしてもてなしたという逸話が残っているざます! それは、賓客に対し最大級の敬意をあらわす異世界の料理『女体盛り』というざます!」
「ぶふ~っ! 『女体盛り』ね~、聞いたことあるだワよ! ぶひひっ、だったらこれは『男体盛り』とでもいうのだワ~!」
「あらあらまあまあ! 憎き皇帝に愛する妻が食べ散らかされる姿を、ノリミズ侯爵はどんな気持ちで見守ったのかしら? イヤラシイわぁ!」
「これが客に対する最大級の敬意ってかい!? 異世界のやつらはなんもかんもイカレてんねぇ!! それで、どうやって食うんだい!?」
「スキル【記憶】参照ざます! ――帝国歴55年2月3日、グランギニョル領の夕餉の晩餐の件、領主ノリミズは妻ヨーコを全裸にてまな板の上に寝かせ、素肌に鮮魚の切り身を美しく並べた。陛下はこれをたいそう喜ばれ、夫妻を褒め称えた。と、あるざます。――中略、先ず乳房の上の赤い切り身を箸で摘み、小皿の醤油とワサビに浸した後、ヨーコ夫人の乳首をビロンビロンと6度もてあそんだ後にそれを口に運ばれる。たいへん美味であるとおっしゃりご満悦であった。と、あるざます」
「ぶふ~っ、皇帝マーチン1世に倣うのがマナーだワいな、ちょうど乳首も四つあるのだワ」
「あらまあ! わたくし、お箸はちょっと苦手かしら? いやん、間違って違う物を摘まんでしまわないかしら?」
とか言いつつ、四人のお婆ちゃん達は各々器用に箸を使って、オルフェさんとアーサーの乳首の上のお刺身を摘まみ上げる。こっちの世界でお箸の使用は一般的でないが、王族や高位の貴族ほど上手に箸を使うらしい。
――ビロンビロン、ビロンビロン、ビロンビロン、ビロンビロン、ビロンビロン、ビロンビロン! マナーに則り、わさび醤油に浸したお刺身を6度ビロンビロンしてから口に運ぶお婆ちゃん達。満面の笑みである。
「――まあ、不味くはないかねぇ。酒によく合うよ!! ……で、他の場所はどうやって食うんだい? ほれ、股間とかさ?」
「同日、グランギニョル領、領主ノリミズの日記からざます! ――吾輩は、妻ヨーコの女陰を押し開き、どうぞお使いくださいと皇帝陛下にお薦めする。陛下はたいそう乗り気だったが近衛隊長ダルタニアンが押し止める。陛下のために用意した料理だと食い下がったが、陛下の料理ならば先ずは毒見をするべきとダルタニアンは不敵に笑い、毒見役の男に毒見を命じる。吾輩は、屈辱に耐えるふりをしつつ、内心の興奮を抑えるのに必死であった。愛する者が目の前で恥ずかしめられる昂ぶり! このエロチシズムをなんと言い表すべきだろうか! とのことざます」
「ぶふふ~っ! グランギニョルの当主は代々変態ばかりだワいね」
「あらまあ、イヤラシイわぁ。最近では”寝取られ趣味”とか”寝取らせ趣味”とか言われる性癖かしら? ノリミズ侯爵は最先端のエロチシズムを追求していらしたのだわぁ」
「くははっ!! せっかくのもてなしだ、使わせてもらっちゃどうだいクルエラ!? あんたが憧れてたオルフェ様のおちんちんだぜ!?」
「そ、そんな人前でなんて、ハレンチざます! 恥ずかしいざます! ……とはいえ、せっかくのおもてなしざますから、この場は皇帝マーチン1世の逸話に倣って、代役にお毒見を頼みたいざます!」
「ぶふふぅ~! さすがはクルエラ姉さん、お腐れなのだワ~! 狙いは”やおい穴”だわね!? オリジンエルフといえば”やおい穴”だもの!! ――ええ、ええ、判ってるだワよアマネ? 貴方もすました顔をして実は興奮しているのでしょう!?」
「まあまあ、まあまあ! いいわぁアマネさん、貴方の太いので、オルフェ様をイヤラシく蹂躙するがいいわぁ!」
そんなこんなで、お毒味役に指名された眼帯のエルフメイドさん。ずっとお婆ちゃん達の背後に控えていた彼女はアマネさんというらしい。
てか、アマネさんって女性だよね? クール系美人の。なんか、オルフェさんの”やおい穴”を狙ってるみたいな声が聞こえたけど、男の娘じゃないよね?
「ははっ、私のごとき下賤のエルフにオリジンを犯す機会をいただけましたこと、ありがたき幸せにございます」
とか言いつつ、さっさと下着を脱ぎ捨て、スカートをたくし上げるアマネさん。――黒か。
宴会場のふすまの陰で、なんとかスカートを覗き込めないかと体勢を低くするおれとタナカ。
ぐぬぅ、ここからでは太ももまでが限界か…………いや、いやいや、見えたぞツルツルだ! やったぜ!! やっぱり無いじゃないか、焦らせやがって――って、あれえぇぇぇぇぇぇ!!? ……有る。
直前まで確かにスジ一本だったアマネさんのツルツルの丘に、ニョキニョキとグロテスクな男根が生えてくる! てか太っと! まるでゴーヤだ。
オルフェさんはオリジンエルフという特別なエルフで”ふたなり”なのだと、いつかタナカが自慢げに語っていた――けど、アマネさんのあれは、どうもそういうあれとは違うっぽい。
「そんなぁー、あれはスキル【フタナリ】ってやつだよ~! まずいよ、まずいよー! オルフェさんの”やおい穴”は、ぼく専用の”やおい穴”なのに~!」
今さら慌てだすタナカだが、気の毒なのはオルフェさんの方である。
だいたい、パートナーを「男体盛り」にしてお客様に出すなど正気の沙汰じゃない。タナカはいろいろ反省した方がいい。
それでは失礼して――と、横たわるオルフェさんに覆いかぶさるアマネさん。ニタリと不敵に笑い、四人のお婆ちゃん達が見守る前でメリメリとゴーヤ的なイチモツをねじ込んでいく。
うへぇ、あれはさすがにキツそうだ。「うぐぅ」とくぐもったうめき声をもらすオルフェさん。ごくり……かわいそうだけど、なんだか妙にエロっぽい……って、こりゃあかん、あかんでぇ!
「――でもさー、【フタナリ】の美人が挿しつ挿されつって、ムフフ……なんかいいよね~!」
ダメだこいつ。タナカは一度、ゴブリンにでも犯された方がいい。
「ぶふふ~っ! 据え膳食わぬは女の恥なのだワ~!!」
突然立ち上がったのは、太っちょでお下げ髪のミモザ様だった。モデルAことアンソニーの股間を覆い隠していた大根の千切りをまとめてわしづかみにして口に頬ばるお婆ちゃん。
アンソニーの縮こまったAが衆目に晒された!
「おおっ、やんのかいミモザ!! さすが後宮一の肉食系と謳われた女だねえ!! モデルAを壊すんじゃないよ!!」
「きいぃぃ、マナー違反ざます!! まだそっちの膳は毒味が済んでいないざます!! ハレンチざますよミモザさん!!」
「あらまあステキ! これがホンモノの『晒されるA』なのね、イヤラシイわぁ!」
その時誰かが叫んだ。
最初何を言っているのか解らなかったが、日本語で『ちょっち待ったーっ!!』と叫んだのは舞台上のミヤサカ君だった。
今まさにアンソニーに覆い被さろうとしていたミモザ様を、アニメキャラクターよろしくビシッと指差すミヤサカ君。バックダンサーの四人も同時にビシッと指差す。
何事かとあっけにとられるお婆ちゃん達。そんなことはお構いなしに腰を振り続けるアマネさん。
舞台の上から飛び降りたミヤサカ君は、ミモザ様へと走り寄る。
……おいおい、何をする気だよミヤサカ君!? ご機嫌で踊ってたじゃない? 頼むから、話をこじらせないで欲しいんですけど?
『そのヒトから離れろ妖怪ババァ!! お、俺のヒロインに手を出すなっ!!』
あーはいはい。
どうやらアンソニー嬢(♀)の貞操がピンチと思ったミヤサカ君は、居ても立っても居られず飛び出してしまったようだ。舞台の上からだと、縮こまったアンソニー(♂)のAはよく見えなかったらしい。
……うーん、すぐそこでオルフェさん(♂)が、アマネさん(♀)のゴーヤ的なモノを出し入れされてるから無理もないのかな?
ハジメチン、後先考えずに突っ走るとこあるから――とタナカ。そういえば、ミヤサカ君は文化祭でやらかしてる人だった。
しかし哀しいかな、今のアンソニーは【女体化】を解除した男の姿だ。ミヤサカ君はそろそろ現実を直視してしまうだろう。
『――い、いいっ!? ちんこ!? なんでちんこ!? えっ!? えっ!? でもさっきは確かに女……も、もしかして彼女のご兄弟……ですか……?』
「ぶふぅ? 今アンタ、わだしに『ばばぁ』って言ったワいな?」
あちゃー。
勢いあまってお客さんに「妖怪ババァ」とか言ってしまったミヤサカ君。
日本語だったしセーフかな? と思いきや――、残念! こっちの世界の王族や上位貴族は教養として日本語をちょっとかじってたりするので、時々通じてしまうことがあるのだ。ひゃー。
「ははん!! アタシ達に向かって『ばばぁ』たぁ言ってくれるねぇ!? なかなかイカしたダンスを踊るんで褒めてやろうかと思えば、ヤレヤレだ!!」
「平民風情が許されざる暴言ざます! わたくし達への不敬、死罪は免れないざます!」
「おやまあそうねぇ、死罪は免れないわぁ」
「ぶふふ~ぅ! 貴族に対する不敬罪で死刑、そこは確定だワね。だけどそれだけじゃ済まされないのだワ~! なぜなら『ばばぁ』という言葉は、この世の全ての女性に対する許されざる侮辱なのだから、ただの死刑程度であがなえる大罪ではないのだワ~! でしょう、ラケシス姉様?」
ミモザ様がパチンと指を鳴らすと、畳の床からニョロニョロ生えてきた【蔓草】がミヤサカ君の身体に絡みついた! レベル1の彼ではたいした抵抗もできず大の字に拘束されてしまう。
『うええっ!? ちょ、ちょっち待って!? なにこれ、魔法!? スキル!?』
「そうさねぇ、この男によって貶められた全ての女性の尊厳と名誉をどうやって取り戻すべきかねぇ!?」
「致し方ないざます! 全ての女性を代表し、わたくし達がヤるべき事をヤるざます! すなわち、『陵辱刑』ざます!!」
「あらまあそうねぇ、全ての女性の代表として『陵辱刑』、わたくしがんばるわぁ」
ん? んん? どういうことだ? ミヤサカ君の死刑は決定なのか? 「妖怪ババァ」って言ったばっかりに? てか、全ての女性の尊厳と名誉? 「陵辱刑」? なんかこのお婆ちゃん達、真面目に相手するのがアホらしくなってくるんだが……、どうしよう?
宴会場の空気が、世界が変わる。
そんな気配をなんとなく感じておれとタナカは、ふすまの陰から後に大きく飛び退いた。
モルガーナ公爵様が、再びスキル【神域/アタシがアイツでアイツがアタシで】を使ったようだ。宴会場は異界に飲まれ、その中では否応もなく女性が男性に、男性が女性に性転換されてしまう。
慌てて避けたけど、【神域】の範囲は宴会場の中だけ、ふすまの外にははみ出していないらしい。
モルガーナ公爵様達四人のお婆ちゃんは脂ぎったお爺ちゃんに大変身!
眼帯エルフメイドのアマネさんはクールなイケメンに、オルフェさんとアーサーは美女になった。違和感なし!
舞台上に取り残されていたバックダンサー四人もパンツ一丁、おっぱい丸出しの女性に変身! 『ムシャウジサマの仮面』を着けているので、美人かどうかは判らない。
演奏担当の人達も、本日二回目の性転換でアタフタしている。
『ちょ、ちょっちぃ!? ちょっち、なにコレ~!? なんか……なんだか俺ってば、アンニュイな気分なんだからねっ……!!』
とか、まだまだ余裕のありそうなミヤサカ君。おっぱいがふくらみ、ブリーフ一丁のお尻も丸みを増した。顔が『魚の仮面』で隠れているせいで、【蔓草】で拘束されている姿はちょっとエロっぽい。
彼は異世界語が判らない。だから、この後訪れるであろう過酷な運命をまだ知らないのだ。
「ぶふふふ~っ!! 最初はわだしから執行するのだワいな~!!」
『――へ!?』
大胆に着ていた服を脱ぎ捨てた太っちょでお下げ髪のミモザお爺ちゃんは、ミヤサカ君の初々しいおっぱいを背後から揉みしだき、ブリーフを一気に引きずり下ろした!
宴会場に響き渡る、『にょへえぇぇぇぇぇ!!?』というミヤサカ君の痛ましい絶叫――!
ああ憐れ! ミヤサカ君は、四人のお爺ちゃん達に代わる代わる犯されてしまうのだった。
後で聞いた話だが、実はミヤサカ君は童貞だったらしい。
ウキウキで異世界召喚されたばかりだというのに、その日のうちに童貞のまま処女を失ってしまったミヤサカ君。そんな彼の絶望と悲しみはいかばかりであっただろうか?