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ずっこけ3紳士! はじめての異世界生活~でもなんかループしてね?(ネタばれ)~  作者: 犬者ラッシィ
第十一章 3紳士、無双したり成り上がったり、ずっこけたりする
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426 タナカの太うで繁盛記

 ――ヤマダさん!

 誰かがおれを呼んでいる。


 ――ヤマダさん!!

 あんだよ、うっせーな。



「ちょっとヤマダさん! 寝てる場合じゃないって!」


「ああおあっ、え?」


 めずらしくイラついた様子でおれを呼び起こしたのは、太った身体を割烹着かっぽうぎで包んだタナカだった。

 厨房の隅っこでちょっと休憩していたおれは、どうやらそのまま眠ってしまっていたらしい。



「こんな時に怠けないでよー! ぼくの話、聞いてた!?」


「え、いや……何だっけ?」


 もーぅ! と、タナカがブースカ言っている。

 そんなブースカ言われたところで、朝から働きづめで疲れちゃったんだから仕方ないじゃないか! 悠々自適の自由時間労働が、おれたち冒険者の特権だったはずでしょーよ? こんな長時間労働は、労基案件だっつーの!



「大丈夫だ、話は私が聞いていた。――さあ、ヤマダさん出かけるぞ?」


「私も行こう。きっとその方が手っ取り早いと思うし」


 のっぽのナカジマと長身のプリメイラさんが左右からおれの腕を掴んで無理矢理立たせると――次の瞬間、ナカジマのスキル【空間転移】で見知らぬ場所へと一瞬で移動させられていた。




 ***




 昨日の夕方頃、おれ、タナカ、ナカジマの三人組、シーラさま、ロッドさんの姉弟とオルフェさんは「ニジの街」から「モガリア教道場」へと帰還した。


 そしたら、とんでもないことになっていた。


 落ち目のモガリア教会のため、資金獲得と信者勧誘を狙ってタナカが始めた温泉旅館業――その名も旅館「玉月」モガリア教道場支店!

 

 先日の、おれとベリアス様の決闘からの全裸騒動のおり、円形闘技場に集まった観客およそ一万人の前で、タナカがやらかしたスキル【状態異常治療】によるベリアス様の若返りショタ化。

 老化さえも癒やす【状態異常治療】なんていう伝説級チートスキルの存在が世に広まればトラブルの素である。

 そこでタナカは、若返りはあくまでもここ、旅館「玉月」モガリア教道場支店「伝説の美肌の湯」の効能【老化防止】なのだと言い切った。

 ――タナカにしては悪くないアイデアじゃね? と、その時はおれも思ったりしたのだが、まさかこんな事になるなんて……!


 電話とかメールとか通信環境の整わない異世界では事前に予約を入れるなんてこともままならず――結果的に、大勢の客が一斉に押しかけてしまった。

 満員御礼……ぐらいならよかったが、それを大きく上回る人数の客が大晦日おおみそか頃から次から次へと団体さんでやって来て、敷地内で順番待ちのキャンプまで始まってるし、正門の前には馬車の行列ができている。

 旅館までの道中、狭い山道では行きと帰りの馬車がすれ違えずに大渋滞や客同士のトラブルも頻発しているようだ。


 冬空の下、敷地内でキャンプしている客にも「伝説の美肌の湯」を利用できるようにしてはいるが、混雑防止のため時間制限を設けたためクレームも多い。

 そもそも本当は、温泉の湯に若返りの効果などないのだから長く浸かったところでどうなるものでもないのだが、なかなかそうも言えないわけで。


 それでもタナカやロッドさんの留守中、アサギさんやプリメイラさん、くノ一(くのいち)エルフさん達が中心になり、デイジーちゃんやカスパール君、住み込みの信者達も総出でどうにかこうにか温泉旅館を切り盛りしてくれていたようだ。

 ちなみに、温泉利用者の入れ替え担当はグレイス様とセリオラ様で、クレーム対応担当は主にインテリメガネのギルバートさんと女体化アンソニー嬢だったりする。


 そんなてんてこまいの「モガリア教道場」に帰ってきてしまったばっかりに、タナカは昨日から厨房に籠もって調理にかかりきり。おれとナカジマも、なんだかんだと手伝わされて今日に至るというわけだ。

  

 まあそれでも正月休みは今日でおしまいだし、明日以降はもうちょっと空いてくるんじゃないかと見込んでいる。

 そんな忙しい一日がめまぐるしく過ぎて、ゴールが見え始めた夕暮れ時のこと。



 ――ギャオオオオオオォォォン!!!!

 停車する馬車もまばらになった正面玄関前の敷地に、乗客用キャビンを背中に背負った巨大なドラゴンが舞い降りた。




 ***




「つまりおれ等は、あのでかいドラゴンのエサを捕りに来たってこと?」


「そういうことだな。まったく、ペットのエサぐらい自分達で用意してきてほしいものだが」


 おれとナカジマ、ツルツル頭のプリメイラさん……おっと、今はメイプルさんだっけ? とにかく即席の三人組パーティは、どことも知れないダンジョンの中にいた。

 

 ナカジマの【空間転移】で、このフロアに直行で連れてこられたのになぜダンジョンと判るのかというと、例によって天井や壁が青白くぼんやり光っているし、さっきからひっきりなしに魔物が、主にオークが襲ってくるので疑いようもない。


 まあ今更、二、三体のオークにびびるおれではないが、さすがに五、六体いっぺんに来られるときついので、その時だけはナカジマやメイプルさんに手伝ってもらったり、スキル【遅滞】を使ったりしてサクサクと倒していく。


 

「面倒をかけてすまないな。しかしあのお方、モルガーナ公爵は、このご時世にモガリア教会を未だに信仰し続ける最後の高位貴族なのだ。年間の寄進額も半端ない」


「公爵!? 公爵ってかなり偉いんじゃなかったっけ?」


「む、モルガーナだと? もしや――」



「ナカジマ殿はご存じか。旧帝都「モルガーナ」、王国で唯一ネムジア神殿のない街。そこを治めるのが、ラケシス・モリ・モルガーナ公爵。かつて皇帝に嫁いだ、国王陛下の姉君であらせられる」


「はぁー、滅んだ帝国の都に住み続けてる皇帝の元奥さんで、王様のお姉さん? おまけに、あのでかいドラゴンを馬車代わりに乗り回すとか……怖っ!」


「うむ……。年齢は七十歳前後ということになるはずだが、怒らせてはいけないタイプなのは間違いなかろうな」


 なるほどね、タナカが妙にプリプリしてたのも、そういうことなのかな? とか考えつつ、おれは『ガリアンソード』を振り回しせっせとオークをなぎ払う。

 倒したオークは、ナカジマが片っ端から【アイテムボックス】に収納していく。

 

 てか、やたらエンカウント率高いなこのダンジョン? とか思っていたけど、どうやらメイプルさんが魔物を惹きつける何らかのスキルを使っているらしい。「手っ取り早い」とはそういうことか。


 およそ20分ぐらいで、おれ達はオーク三十八体を捕らえ、来たとき同様にナカジマの【空間転移】で「モガリア教道場」に帰還した。





 戻ってみると、タナカとロッドさん、アサギさんまで集まって何やら難しい顔をしていた。

 どうやら早速、難しいお客さんが難しいことを言ってきたらしい。


 宴会場の舞台では「ダゴヌウィッチシスターズwith(ウィズ)くノ一エルフさんズ」の歌と踊りが繰り広げられている。

 それを眺める四人のお婆ちゃん達を、ふすまの陰からそっと窺うおれ達。


 四人の内、山賊の女頭領みたいなでかいお婆ちゃんが、モルガーナ公爵様で間違いなさそう。

 三角メガネの痩せたお婆ちゃん、おさげ髪の太ったお婆ちゃん、白髪で呪いの人形みたいなお婆ちゃんは公爵様のご友人。三人とも、皇帝の元妻だった人達らしい。

 

 彼女達の背後には眼帯のエルフメイドさんが一人控えているけど――あわわ、片目で凄いこっちにらんでる! どうやら護衛でもあるようだ。



「それで、モルガーナ公爵様はなんて?」


「それが、姉さんに……モガリアの聖女シーラ様に会わせろと――。会わせろって言われても、まいっちゃうなぁ」


 いつも脳天気な感じのロッドさんも、今回ばかりは本当にまいっている様子。

 ネムジア教会に捕まり過酷な牢獄生活で精神を病み幼児退行してしまったシーラ様は、タナカのスキル【状態異常治療】で肉体も若返り、推定四歳のシーラさまになってしまっている。



「ふむ、熱心なモガリア教信者がシーラ様の帰還を知れば、会わせろと言ってくるのもうなずける。しかし、今のシーラさまを会わせたところで、幼女となったあの姿をどう説明したものか」

 

「そーぉなんですよ、ナカジマさん! なのでぼかぁ言ってやりましたよ、ええ! 『姉さんは、勇者ヤマダに嫁いでいきました。今頃は異世界ニッポンでラブラブハネムーンです』ってね!」


 おお、さすがはロッドさん! あんな山賊の女頭領みたいな公爵様に、ちゃんと対応できてエライ! おれだったら迫力に負けて、本当のことをベラベラ喋ってしまったかも。

 

 素直に賞賛の拍手を贈るおれ――だったが、「まあ、それですめばよかったんですけどねー」と、ロッドさん。

 どうやら、それだけで話は終わらなかったらしい。





「異世界の勇者と結婚ん!? ふざけるんじゃないよロッドぼう? アタシゃそんな話、許可した憶えないねぇ!?」

「ホホッ、教団が大変な時にハネムーンざます? いい気なもんざますねぇ?」

「ぶふぅ~、さっさと呼び戻しな~! あと~、さっさとディナーにするのだワ~!」

「あれまあ、異世界ニッポン? 月の向こうにあるという? 蜜月みつげつってことね、イヤラシイわぁ」


「それでいつ戻るんだい!? ――何年先かも分らないだぁ!!? アタシらをめてんのかい!? ――だいたいアサギがついていながら……って、あんた誰だい? ――娘ぇ? アサギにあんたみたいなでかい娘がいるなんて聞いてないが」

「養女……にしては、若い頃のあの子にそっくり過ぎざますねぇ?」

「ぶふふぅ~、お察しなさいな~! 戦後、アサギがどれだけ長く王国の捕虜として過ごしていたか~。その時どんな目にあわされたかなんて想像に難くないだワさ~!」

「おやまあ、くっコロねぇ? イヤラシイわぁ。やっぱりセックスが若さの秘訣なのかしらアサギさん?」


「エマ、そのコはアサギの娘だとさ! ――ったく、胸くそ悪い! 男が支配する国なんざぁ一度滅ぶべきだねぇ! ロッド坊、だいたいその勇者ヤマダってのはどういう男なんだい!? あんたが教祖にすえようとしてたタナカとかいう異世界人とはまた別の男かい!?」

「ホホッ、タナカは『降臨祭』で死んだと聞いたざます。そんな得体の知れない男などを教祖にしようとするから争いに巻き込まれるざましょ? ――オホホッ、やはりモガリア教会を率いるのはシーラ様こそがふさわしいざます!」

「ぶふぅ? メイプル~? 女神の生まれ変わりですって~? ぶふふぅ~、ロッド君の彼女かしら~?」

「あれまあ、イヤラシイわぁ。なら、教会はロッド君と彼女さんに任せておけば安心ね? シーラ様は異教徒に囚われて何年も苦労されたのだもの、いい加減、好きな人と幸せになったらいいわぁ」


「……ふんっ、まあロッド坊の選んだ女なら、会うだけは会ってやるよ! ――ん? 何を照れてるんだい、あんたももういい歳だろう、シャキッとしな! ――それにしても……ヤマダだかタナカだか知らないが、異世界人に、それも男にモガリア教会を好き勝手されるのは気にくわないねぇ?」

「おおかた旅館業なんていうのも異世界人の入れ知恵で始めたことざましょ? シーラ様がお幸せならば結婚は良しとするざます! しかしぃ、この神聖なモガリア教道場で商売など簡単に許せる話じゃないざます、わたくし達の断りもなしに!」

「ぶふぅ~、まあ~クルエラねえさんはそういうけどね~、わだしは教会の為になるなら商売もいいと思うワ~! そうでもしないと、いよいよ教会の経営がたちいかなくなってきているのは、誰の目にも明らかなのだワさ~!」

「あらやだ、ミモザさんたら! ”たちいかなくなってきている”だなんて、イヤラシイわぁ」


「だとしてもだ、女神モガリア様の名をおとしめるような商売など以ての外だねぇ!? ましてや『美肌の湯』とかいう詐欺まがいのサービスをうたっておると、アタシらの耳にまで聞こえてきているのだがねぇ!?」

「そもそもこの旅館業、採算は取れているざますか!? 一時的に客を集めたとしても、異世界人の考えたサービスなどで客は本当に満足していると言えるざますか!?」

「ぶふぅ~、男がひねり出したクソみたいなサービスなら、即刻やめちまいな~! ぶふうぅ、ディナーはまだかい? あんまり客を待たせるんじゃないだワよ~!」

「あらあら、みんなして! ”男がモロだしサービス”とか、イヤラシイわぁ」





 ――といった感じで、モルガーナ公爵様を始めとした四人のお婆ちゃん達に矢継ぎ早に詰め寄られてまいっちゃったと、ロッドさんは語る。……うむ。要するにどういうこと?



「要するに公爵様達の次なる要求は……、全力で接待してみせな! クソみたいなサービスしかできないなら旅館業なんて止めちまいなよ! ってことみたいだね。まいっちゃうなー」







「舐めてんのかい!!?」


 宴会場からモルガーナ公爵様のドスの効いた声が聞こえてきた。

 舞台上のダンスと演奏がピタリと止まる。


 おっと、さっそくなんかクレームらしい。



「アタシらが、女の尻を観て悦ぶとでも思ったのかい!?」

「許されざる性的搾取ざます!」

「ぶふぅ~、踊るなら男が踊るべきだワさ~!」

「あらまあ、ステキ。性的に許されざる男の尻なのだわぁ」


 公爵様に続いて、三角メガネのクルエラ様、太っちょのミモザ様、白髪のエマ様がたたみかけてくる。

 舞台上で立ちすくむデイジーちゃんが、あわあわしていて、哀れでカワイイな。





「ふぅむ、言われてみればもっともな話だ。女性客に対して、お色気増し増しのダゴヌウィッチシスターズは、還って嫌悪の対象にも成り得たというわけか」


「かといって、男の尻ってな……おれ等、パンイチで組体操くみたいそうでもする?」


 おれ、ナカジマ、タナカ、ロッドさん、カスパール君、ギルバートさん、男アンソニー、それからオルフェさんもイケメン枠で是非に。



「ぼくはまだ厨房から離れられないから無理だよー。あと、アンソニーくんとオルフェさんには、ぼくの方の手伝いをお願いしたいから除いてよ」


「むう、私も舞台に上がるのか? だとしても五人、せめてあと一人いないとピラミッドができんぞ」


 おれ、ナカジマ氏、ロッドさん、カスパール君、ギルバートさんで――確かに五人だ。3-2-1のピラミッドを組むなら、どうしてももう一人欲しい。



「どうしよう、『ニジの街』まで行ってフラニーさんの奴隷美少年でも借りてこようか?」


「てゆーかさー、組体操でが持つのー?」


「ふむぅ、確かに。――私のカードマジックでは……ダメか……?」



「……仕方ない。パンツ、脱ぐか?」


 とか、おれが悲痛な覚悟を決めた時だった。

 グァハハハハ!! と、宴会場から野太い男の笑い声が聞こえてきた。


 ――え、誰だ?



「スキル【神域/アタシがアンタでアンタがアタシで】さぁね! モジモジしてないで、さっさと踊んなよ! その姿なら、アタシらも愉しめるってもんさ!!」


 げげっ!? あの、まんま山賊の親分みたいなおっさんは、もしかしてモルガーナ公爵様なのか?

 てか、宴会場の中の女性が全員男になっている!? 三角メガネのクルエラ様、おさげ髪のミモザ様、白髪のエマ様も全員脂ぎったお爺ちゃんになってるし、護衛の眼帯メイドさん、舞台上のデイジーちゃんやくノ一エルフさん達もすらっとしたイケメンになっておるー!?



「見ろ、楽団の男達は皆女性になっている。どうやら、モルガーナ公爵のスキル効果に違いない」


 ナカジマの言うとおり、モルガーナ公爵が使ったのは性別を逆転するスキルらしい。【神域】とは恐れ入るが。


 山賊の親分みたいなモルガーナ公爵に急かされて楽団が演奏を再会すると、おずおずとイケメン・デイジーちゃん達も踊り出す。

 女性用のきわどい衣装から、意外に大きいデイジーちゃんのオチンチンがこぼれ出てしまいそうでヒヤヒヤする。


 でも、おかげさまで作戦を練る時間ができた。

 今の内に、組み体操のメンバーあと一人、誰かいなかったっけ?



「それならぼく、ちょっと思いついたことあるから、ヤマダさんとナカジマ氏にまたおつかい頼みたいんだけど?」


 タナカのやつめ、後できっちりバイト代請求してやるからな。

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